ただ仲良くしたいだけだった件について。   作:稗田之蛙

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友人がキングキングとうるさい件について。

「なぁ、この間キングが――」

 二人で遊んでいると、そういう切り口でキングヘイローの事が話題によく出る。

 彼女は見ていて面白い人物だから、話題にしやすいというのも理解は出来る。だが、どうにも落ち着かない気分になった。

(……)

 キングヘイローは人望がある娘だと、セイウンスカイは改めて思う。二人で遊んでいる時にそれを伝えてくるのは喜ぶべきなのだろうか。それとも悲しむべきなのだろうか。

「聞いてくれ、この前キングが叱りつけてきたと思ったら――」

「キングが母親とまーた喧嘩して――」

「キングが疲れているみたいでどうしてやったら――」

 

「……あのさ、ディオスちゃん」

 二人で遊んでいてそういう話題になったのがそろそろ二桁になろうかという時。耐えかねて口を開く。

「この前の喧嘩になりかけた原因、ちゃんと理解してくれてる?」

 さすがに我慢ならないとセイウンスカイは思った。皆といる時ならその話題は話の種にしやすいから歓迎だが、二人っきりの時には頭に鉛を注がれている気分になる。少しくらい反省してほしいと思うのは自然な考えだ。

 そしてディオスの反応といえば――ぽかん、としていた。それからしばらく間があって、ディオスはようやく口を開いた。

「……すまん」

 ディオスはしょんぼりした表情で、体を縮めるように膝を抱えた。大型犬を相手にしているみたいな気分にさせられる。

(……別に、キングちゃんの事は話してもいいんだけどさ……)

 セイウンスカイの方も素直に表現しにくい感情だから、責めづらい。それに、せっかく二人っきりになっているのだから落ち込んでいる彼女を見たくはない。楽しませてあげたい。

(……)

 どうしたものかと悩んだ結果、セイウンスカイは一つ提案した。

「じゃあ、罰としてセイちゃんについていくらか話してみてくださいよ」

「罰って……本人に対して話題にするのか?」

「いーから、ほら」

 促すと、ディオスはしばらく考え込んでいた。嫌々、という素振りでもなく。真剣に考えていてくれているようである。それは何となく嬉しいセイウンスカイである。

 やがてディオスが思いついたとばかりに切り出した。

「一緒に走ってる時にいつも調子を崩されそうになる」

 嘆いた方がいいのだろうか。褒め言葉と受け取っていいのだろうか。

「……なんか貶されている気分」

「あと、サボるのが上手い」

「……褒めてるんだよね?」

「あとは……」

 その後もいくつか言葉を繋げられる。どうもセイウンスカイの事を意識しながら、思い浮かんだものを適当に挙げ連ねているようであった。

 そのどれもこれもが褒めてるのかどうか分からない話題である。

「もー、分かったからっ! もう充分です!!」

 セイウンスカイは顔を両手を前に突き出して叫んだ。これ以上続けられたら横に寝るだけで済まなくなりそうだった。

「……はぁ……」

 セイウンスカイとしては脱力するしかない。指摘している事は事実かもしれないが、それとは別にもっと言うべき事があるのではないだろうか。

(ま、これがディオスちゃんだよねー……)

 ある意味安心するが、しかしこれではあんまりではなかろうか。仲直りした時に本心を吐露したのだから、もうちょっとどうにかならないものかと考え込んでしまう。

 

「……あとは、まぁ、とても美人だと思う。性格も、可愛いとは思う」

 

 ディオスはすごく小さな声で、聞き流してほしそうな態度でそう呟いた。それでもセイウンスカイ耳敏く捉えて、まじまじと相手の顔を見てしまう。

「他には?」

「もう充分ではなかったのか……?」

 そういうやり取りを経て互いに見つめ合う……もとい、睨み合う状態が続いた。沈黙に根負けしたのはディオスの方だった。

「えっと、だな……ああ、髪が、綺麗だと思った。初めて会った時から、手も……自分より白くて。柔らかそうで。だから偶然触れた時に……その……」

 言われて、セイウンスカイは己の手をじっと眺める。指を開いて閉じる動作を繰り返してみる。

 確かに白いかもしれない。釣りが趣味だから日に焼けそうなものだが、日焼けの炎症対策に日焼け止めを塗っていた賜物だろうか。

「触ってみる?」

 試しに右手をディオスに向けて差し出した。それに対してディオスは逡巡した後、首を左右に振った。

「いや……いい……」

 断られたのは少し残念だったが、セイウンスカイにとって自分よりいくばくか体の大きなディオスが、このようにしおらしくなっている様子は見ていて大変愉快だった。

「んー、そうですなぁ~。じゃあ罰としてもうちょっと話を続けてもらいませんと」

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら言ってみると、相手は目に見えて狼狽えた。どうやら罰というのが効いているらしい。

 しばらくまた思案するように視線をさ迷わせた後、おずおずと口を開く。

「えっと……瞳が……青くて綺麗で……その、見つめていて心地よくなる感じで……」

 ディオス以外にも瞳は空色だとよく言われる。セイウンスカイ自身もお爺ちゃんに褒められて以来、かなり気に入っているポイントだ。だが、今回は少しくすぐったい。

(……普段からこういう事もっといってくれればなぁ……)

 そんな事を考えてしまう。まぁ、現在目の前にあるのは普段の言動からは想像出来ないような弱々しい態度。それに、今だけの特等席だ。じっくり楽しませてもらおう。

 

 それからいくらかの言葉を聞き出して、興が乗ったセイウンスカイは先を促すように手のひらを動かして続きを急かした。

「……なぁ、罰ってのはいくら続くんだ? 恥ずかしいんだが……」

 ディオスが気まずそうにしているのを目の前にしていると、スカイは何故か顔がにやけてくるのを感じた。

(……うーん)

 やはり、この反応は新鮮だ。いつもならキングヘイローの話を聞かされる立場だから、たまにはこういうのもいいかもしれない。

(……そういえば……)

 セイウンスカイは去年のクリスマスの事を思い返した。確か、最初に会った時に男だと勘違いして惚れただとか言われたはずだ。

「じゃ、最後にひとめぼれした時の心情について教えてくれますか~?」

 露骨に嫌そうな顔をするアドマイヤディオス。

「……お、乙女の純情を踏みにじりよってからに…………」

「べつにー、いいんですよー? ただ男扱いされた私が乙女扱いされてなかったってだけですしー」

 わざとらしく拗ねるような態度を取ってみると、案の定というべきかすぐに焦り始める。彼女は言葉の駆け引きにおいて臆病が過ぎるのだ。そこが見ててほっとけない部分でもあるのだが。

「……わ、わかった! 話すから!」

 その返事を受けて満足するセイウンスカイであった。そして、期待しながら次の言葉を待つ。

「あぁ……まぁ、えっと、覚えてるのは、麦わら帽子でウマ耳隠してたから、男の子、だと、勘違いして……」

 ごにょごにょと言葉を濁してはいたが、内容の大体は聞こえる。要はその"命を助けてくれた少年"に初恋を抱いてしまったらしい。

 ここまでニヤニヤとしっぱなしだったが、ますます顔が緩むのを感じた。

(……へぇ~、そっかぁ……)

 乙女の純情を踏みにじる、というわけではないが……他人をひとめぼれさせた事実というのは、とりあえず悪い気分はしない。「悪い事をしてしまった」とは思えども。

「……もう、いいだろう。これ以上はもう勘弁してくれ……」

 流石に恥ずかしさに耐えかねたのか、顔を真っ赤にして俯いたままストップをかけてきた。ここで許してやらないとかわいそうな気がしたので、セイウンスカイも追及を止める事にした。

「いやー……ご馳走様でした?」

 からかうように言ってやると、ディオスは恨めしそうに睨んできた。だが、その視線もあまり効果はないようで、しばらくすると溜息と共に力を抜いてしまっていた。

「……分からん……猫目といい、ボブヘアといい、他人の色恋を掘り返して何が面白いんだか……」

「で、今はキングちゃんの事が好きだったり~?」

 

 にやにや笑いながら聞くと、相手は今日一番の顔の顰め方だった。

「……アイツとはそういう関係じゃない。やめてくれ」

 セイウンスカイの事を語っている時とは違い、真剣な言い方だった。たぶん本気でそういう風に見られるのが不快なのだろう。

「あぁ、ごめん。でも――」

 ――だったら、キングちゃんには遠慮しなければよかった。

 

 

「でも、なんだ?」

 言いかけて、そこで言うのをやめてしまった。

「――なんでもない。あはは、ごめんね、ホント」

「いや、いい」

 

 お互いそれ以上追及するでもなく、遊びの方に戻っていくのだった。

 そうしてしばらく遊んでいるうちに夕方になり、その日は解散となった。

 

 

 

*

 

 

 

 セイウンスカイが彼女を見かけた時は「年上のウマ娘」だと思ったものだ。

「ほら、立てる?」

「……うん……」

 同じ学校の子だろう、公園で年下の子達の面倒をしている場面を見かけたのが記憶に残っている。

 その子達に手を差し伸べる彼女の大きな姿はとても頼もしくて――同時にどこか脆さのようなものを感じさせた。

 それが何故か、放っておけなくて……気が付いたら声をかけようとしていた。

 

 ……「前世で一回もレースに勝てなかった」と聞いた今となっては、セイウンスカイにはなんとなく察しがついている。

 期待の新人と見做されるキングヘイローについていけているあの子が、前世ではどのような競争人生を歩んできたのか。どのようにして未勝利で終わったか。

 どれだけの才能があろうが、勝負は時の運と言ってしまえばそこまでなのかもしれないが。自分達が進もうとしている道が、優しいだけの世界でないのもセイウンスカイは知っている。

 

「力を加えると閉じ込めた空気の体積は小さくなり、水は小さくならなくて……」 

 本を読み耽るあまり、トラックが目の前を横切ろうとする事に気づかない彼女の腕を引いたその時ばかりは、その事についてはどうでもよかったのかもしれない。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「だいじょーぶ? 怪我はない?」

 ……ただ、セイウンスカイとしては一人でも多くのウマ娘が何事もなくこの道を歩めたらいいと思った。

 




――本当に、遠慮しなければよかった。
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