「猫目ちゃん、ボブヘアちゃんの事が『恋人にしたいくらい好き!』だって言ってたよ」
「…………!?」
何気ない会話のさなか、ディオスの発言にボブヘアーのウマ娘は面を喰らって顔を赤くしている。
(……あー、これはディオスちゃんまた……)
セイウンスカイは乾いた笑いを浮かべながら状況を見守っていた。ディオスが放言をするのはある意味いつもの事だが、心の中に秘めておいたほうがいい事もある……。
……そうは思うのだが、いかんせん恋愛ごとが関わると自分は役立たないという事実がセイウンスカイもそろそろわかっていたので、口出しはしない事に決めてもいる。
「そ、そ、そそ、それってど、どういう~……」
ボブヘアーのウマ娘は狼狽える。だがディオスは特に意識してないのだろう、平然とした様子でその答えを返した。
「え。それくらい好きって話しじゃないの? 女の子同士だし、本当の意味で恋人にしたいって意味じゃないだろうし……あくまで"したいくらい好き"ってだけじゃ」
ディオスは怪訝そうな顔をする。だがそこに踏み込んでいいか悩むのか、何か言いたそうな表情で押し黙ってしまった。
だが、よくよく考えてみればこればっかりは……ディオスを責めるのは酷なものな気もする。
そもそも、猫目とボブヘアーのウマ娘はまだ小学三年生だ。年齢にして9歳児。そんな幼子が同性相手に「恋人」などと発しても、年上からしてみれば重みは無い。
そういう風に考えてしまう事は自然な事だ――とはいえ、同年同士なら話は違うだろう。そんな淡い想いを話題の当人にまでぶつけるのはどうなのだろうとセイウンスカイは思うが。
(やっぱりディオスちゃんはそういうの疎いよねぇ……)
もう少しその辺り機知に富んだ女の子になればセイウンスカイも苦労しないのかもしれないと思いながらも、そんな未来が想像できなかったからスカイはため息を吐く。
「わ、わ、わた……私、は~……」
ボブヘアのウマ娘は混乱しているのか挙動不審になっていたが、モジモジしながらこう呟いた。
「…………私も、それは嬉しい、けれど……」
ボブヘアのウマ娘は俯いた。そればかりか全身がワナワナ震えていて、その目は潤んでいるようにうかがえる。
その様子を、ディオスとセイウンスカイは首を傾げて心配そうに眺めた。
「……大丈夫?」
ディオスはそう問いかけると、当のボブヘアのウマ娘は何かを逡巡しているように見えた。
「……私は、前々から、猫目ちゃんの事を傷つけたりしないか……心配、で~……」
ボブヘアのウマ娘は、不安を吐露する。セイウンスカイには先程のような恋愛うんぬんとは違って、猫目個人に向けられている親愛の情からに思えた。
(……この子も、大変なんだねぇ~)
スカイにとっても、キングやディオスに向ける感情に少し似ているからなんとなく気持ちはわかる。
……だが、彼女らの想いの丈はスカイらよりも幾分複雑なののかもしれない。実際問題、猫目の感情は同性愛に踏み込みかけているのだから。
それをどう取り扱ってよいか心配するボブヘアの気持ちに、スカイは胸中を察する。
ちらりとセイウンスカイはディオスの方を横目で見てみたが、彼女は不思議そうにして首を捻るだけだ。
そんな様子を確認していたら、ディオスは頭を掻きながら口を開いた。
「ま、大丈夫じゃねぇの?」
なんとも頼りない発言だとスカイは思ったが、ディオスは言葉を続けた。
「オレから見たら猫目のヤツは、お前と一緒にいるだけで幸せそーな顔してる。無論、他の事どーでもいいなんて無責任な事もしでかすでもなし――なら、今まで通りでいいんじゃないか」
そう語る姿は、どこか大人の雰囲気を感じさせた。
スカイには、ディオスこそが『無責任ではないか?』と思えてしょうがない部分もあったのだが――彼女は彼女で一つの答えを提示してくれてるわけだと……セイウンスカイはそう思ったのであった。
(…………ある意味、達観してるよね)
そんな思いを抱きながら、そのやり取りを見守っていた。ボブヘアのウマ娘が今度は俯き黙り込む。
「……う、うん。そうだよ。そうだよね~。あはは」
そして顔を上げながら、笑顔で言う。
「確かに私達くらいの学年だと、同性を好きになる子もよくいるけどぉ……それが変な事だってバカにしたら、いけないって私も思うし」
そして一呼吸置いたあとに、ボブヘアのウマ娘は微笑んだ。
「……私も、猫目ちゃんの事が大好きだから~」
そんな彼女の嬉しそうな表情を見て、ようやくスカイも安堵できた。
「やるじゃん。ディオスちゃん」
帰り際、セイウンスカイはディオスの頭をグリグリしながらそう言ってやった。
もっとも、ディオス本人は釈然としていないような表情をしていたが――それでも、スカイの褒め言葉がまんざらでもないと思っているようだ。
「前世込みで考えるとお前らよりは長く生きているからな」
照れ隠しなのか、やや強がりにそんな返事をする。
「はいはい」
そんな反応を見やりつつ、スカイはその腕を引く。
また、ディオスの思わぬ一面を見た気がした。その事に関しては少し嬉しい。ディオスは「おー」と軽い返事をしてから、思いついたように口を開く。
「オレもセイウンスカイの事は恋人にしたいくらい好きだぞ」
そして放たれたその言葉に、スカイは盛大にむせ返した。
「どうした急に」
ディオスにはその意図が伝わっていないようで、そう問いかけてくる。そしてスカイは、自分が赤面するのを自覚した。
(……バカじゃないのー?)
セイウンスカイは、内心でそう呟く。だがセイウンスカイはそれを伝えまいと思い、口を抑えると黙り込むことしかできなかった。
ディオスは、訝しげな眼でスカイを見ている。
「……あー、猫目みたいにやっても上手くいかんか。好意を表現するのは、難しいな……」
一人でそんな事を言った後、ディオスはセイウンスカイの顔を覗き込んだ。
目が合うと、お互い気まずそうな顔をしたあとでスカイは誤魔化すようにそっぽを向いた。
「すまん、変な言葉で怒らせたか」
――今だけは、少し勘違いしていてくれ。とスカイは思った。