「例え話があるんだけどさ」
セイウンスカイは合同練習の休憩中、ディオスにそう話しかけた。
「……どうしたの?」
ディオスは不思議そうにセイウンスカイを見る。
「えーっとね……。たとえば私が大逃げやるとするじゃん」
「うん」
「でも大逃げしてるのは序盤だけで、実はローペースで走ってるってやつ」
「あー、この前やってたね。キングちゃんが引っかかってた」
ディオスの言葉にセイウンスカイは苦笑いを浮かべる。
「あれね。実はちょっとやるのが怖いなー、って思ってるんだ」
セイウンスカイは頬を掻いた。その言葉にディオスはまた不思議そうに、首を傾げる。
「なんで?」
セイウンスカイはその質問に対して少し考えると、答えを口にする。
「……相手怒らせちゃわないかなー。って。ほら、キングちゃん。卑怯なの嫌いそうだし」
その言葉を聞くと、ディオスはセイウンスカイの頬をつまむ。あくまでつまむだけだったが、冗談っぽく叱られてるのはセイウンスカイには伝わった。
「な、なんだよう」
セイウンスカイは不服そうな声を上げる。しかし、ディオスは不思議そうな顔のまま、口を開く。
そして、こう言う。
「そーゆーのも含めて、レースでしょ。だから悔しそうにはしても、キングちゃんは本気で怒らないよ」
その言葉にセイウンスカイは驚いたような顔をする。
「むしろ、手を抜いた方が本気で怒るかもね」
とは、ディオスの談だ。
彼女は続ける。
「それにさ。単純に身体能力だけの戦いってわけじゃないんだしさ。私達のレースって」
確かに、それはセイウンスカイにもわかっていた事だった。
けれど、それでもなお不安になるのだ。
自分の走りが誰かを怒らせてしまうのではないかと。
だが、そんなセイウンスカイの心を読んだように、ディオスは言葉を紡ぐ。
セイウンスカイの不安を取り払うかのように。
あるいは、諭すかのように。
「君は君らしく走ればいいんだよ」
ディオスはそう言って笑った。セイウンスカイもまた釣られるようにして笑う。
「なにそれ」
くだらないけれど、これからもずっと続いていくであろう日常の一コマ。
たぶん、トレセン学園にいっても。大人になっても、いつまでも続くだろう光景。
セイウンスカイはこのくだらないやり取りが好きだった。
「つーか、練習試合一つ一つにそんな怒っててもな。案外、オレみたいにすぐ忘れるかも」
「そんな適当な~。……ま、ディオスちゃんらしいけどね」
いつか、終わりが来るかもしれないからこそ、尊いモノなのだと思うから。
「そんな事よりさ。今度、クリスマスだろ。二人でさ。どっかいかない?
「え~、なんでそんな」
「いーだろ。去年はこっちが独断で選んだから、二人でお互いの髪飾り品定めしたりさ。そういうのやってみたいんだよ」
「えー、キングちゃんと一緒じゃなくていいの~?」
だから、セイウンスカイは笑う。この夢が覚めてしまうまで精一杯。
セイウンスカイは目を覚ます。寝起き特有の気怠い感覚の中で、ぼんやりとした思考の中。
「……」
セイウンスカイは布団から身を起こすと、大きく伸びをする。それから、部屋のカーテンを開けると窓の外を眺めた。空はまだ暗い。けれど、もうすぐ朝焼けが始まる頃合いだろう。
セイウンスカイはあくびをしながら、鏡を見る。
セイウンスカイは鏡を通して、自分の姿を改めて確認する。
作者のあとがき:
読者とキャラクターには本当にすまない決断をしたと思っている。
版権キャラとオリキャラが恋仲紛いの状態になるなんて、それは作者の自慰であって、逃避であって、本編であそこまでやってしまった手前では卑怯でしか思えなくなったから、このような形で〆とさせていただく。
本文の卑怯者云々はセイウンスカイに対してではなく、都合の良い妄想に耽た作者への罵倒という意図でしかない。
私に公式キャラとオリキャラをそっち方面で絡ませて悦に入る資格はない。