「
潔世一の劇的ゴールにより、TEAM・WHITEが1点を返した。しかし得点差はまだ2点、TEAM・RED側からすればそう悲観する状況でもないのだが、しかし彼らの空気は重たかった。
「アイツ……馬狼を喰いやがった……」
「さっきまでとプレーが全然違うぞ。読めん読めん」
潔世一のプレーが明らかに変わった。馬狼照英との連携を狙っていたはずが、いつの間にか彼を喰うプレーに変化している。試合中に思考し、変化する適応能力。恐るべき才能だ。
「でもさっきのパス、少しだけど触れた。次は無いよ」
「……姫宮」
だが彼らにも打つ手が無い訳では無い。依桜が言うように彼だけは潔の覚醒に反応していた。次に同じような攻撃をしてこようが、防ぎ切る自信が依桜にはある。
「もう1点もやらない。勝つのはボク達だ」
「ああ、当然っしょ!」
彼らの闘志は得点されたことでむしろ昂っていた。そんな彼らを見て、潔は冷静に考えていた。自身のゴールを決めたはいいが、それで勝てると思うのはあまりに早計だとわかっているからだ。
(……まだだ、これで良くて
いくら馬狼を喰ったところで、得点差がまだ2点あるのは事実。敵と五分になっても点差が原因で負けるのがオチ。この状況を打開するには、相手を上回らなければならない。
(いや……難しく考えるな。アイツらの中核は間違いなく姫宮……! アイツを喰って上回ることがこの試合における俺の
得点されたTEAM・REDのキックオフで試合再開。玲王がボールを持ち、潔とマッチングする。明らかに空気の変わった潔を警戒し、彼は右サイドを走る黒名にパスを出した。
「お返しだよ、三つ編みチビ助」
「くッ……!」
しかし黒名には凪がピッタリとマークに付いている。ボールを奪われはしないが、パスコースが極端に制限されて上手く攻撃を組み立てられない。
「くろなん! なんでもいいからゴール前にちょうだい!」
「……!」
その時、ゴール前に走る依桜の声が黒名の耳に届いた。練習したパターンとは違うが、依桜が言うなら間違いないと凪が防ぎきれていないコースへとボールを蹴り出す。シュート並に強く、コースもめちゃくちゃなパスだ。
(いやあんなん無理だろ……! 凪の身体に隠れてボールの出だしが見えてない……! いくら身体能力が高くても反応出来ないだろ……!)
玲王のマークに付いてる潔は依桜の動きを分析する。黒名のパスはヤケクソでコースも強さもめちゃくちゃ、仮にどんなパスにも対応出来る能力があったとしてもそもそも反応が出来ない。
「これ以上やらせるかよ! 雑魚
「うわ、邪魔だね
ゴール前、依桜のシュートを防ごうと馬狼が突進してくる。しかし依桜はそれを事前に察知していたのか、ファウル覚悟で身体を当てに来た彼を逆に利用した。タックルで放り出された身体を、右手を馬狼にかけて支えにすることで安定させる。そうして、飛んできたパスにドンピシャのタイミングで足を当てる。
「マジか……エッグイねお姫さん」
ボールはゴール前右下に突き刺さり、ホイッスルが鳴った。潔と凪のペースに傾きつつあった試合を依桜は見事にひっくり返してみせたのだ。黒名が依桜に駆け寄りハイタッチをして、玲王も凪を見ながらガッツポーズをしている。
「やばいよ潔。もう1点取られたらアウトだ…………潔?」
「……なるほど……そーゆーことか」
さすがに焦りが見えてきた凪が潔に作戦を話し合うために声をかけた。しかし潔はブツブツと何かを呟くだけで返答がない。
(
凪の眼に一瞬、潔の周りを囲むパズルが見えた気がした。思えば最初の潔らチームZとの試合、そして成早と馬狼との試合、潔が覚醒する時には同じ気配を感じた。凪は確信する、潔はまた一段進化しているのだと。
(周辺視野だ! アイツは常に首を振って、周辺視野で常人よりも多くの情報を視てる! そこに生まれ持った身体能力や反射神経を組み合わせてるからこそ、あのスーパープレーが生まれてるんだ……!)
ホイッスルで試合が再開。凪が攻め上がろうとする前、馬狼が無理やり凪からボールを奪い取った。
「ちょ……ふざけんなバカ
「黙れクサオ! こいつは俺のボールだ!」
「懲りないね、独走なら大歓迎だよ」
「独りよがり乙だ!」
しかし馬狼の独走はもはやボーナスステージと同義、依桜と玲王の2人によってあっさり奪われた。
(俺には姫宮みたいな能力はない……だけどあの眼の使い方を喰えば勝てる……! 周辺視野でより多くの情報を頭に入れて、反応するんじゃなくて思考を加速させろ! この眼と脳を使って、俺がフィールドの神になる……!)
「ああもうまたかよ、戻るぞ潔! 俺が玲王をマークするから!」
「いや戻るな凪! ゴール前で張ってろ!」
「……潔?」
(玲王はまだ後ろ……姫宮ゴール前走ってるな。黒名は右サイドでバカ
「これで決まりだ、献上献上」
玲王から右サイドの黒名、そして真ん中を走る依桜。先程と同じTEAM・REDの黄金パターンで着実にボールが運ばれる。依桜に馬狼がマークに付くが、やはり彼を止めるには足りなかった。
「……クソが!」
「終わりだよ、さよなら
依桜が放ったシュートはゴール左隅、黒名に引き付けられていたブルーロックマンが取れない位置に吸い込まれる。誰もが試合の終了を確信した、その時だ。ゴール前に影が1つ現れたのは。
「終わらせねぇよ、視えてんだよクソビッチが!」
「え……?」
潔世一だ。依桜のシュートコースを先読みし、ゴール前に突っ込むことで依桜のダイレクトシュートを阻止した。そのさっきまでとは明らかに違う動きに、一瞬フィールドの時間の流れが止まった。
「な……!?」
「アイツいつの間に!?」
勝利を確信していた黒名と玲王は突然の逆転劇に言葉を詰まらせ、凪もまさか潔が止めるとは思っていなかったのか動きを止めた。しかしそんな中、フィールドで一番戸惑っていたのは依桜だった。
「今の動き……まるで透子の……」
ずっと依桜が目指していた亡きパートナーの動き、それはさっきの潔と酷似していた。透子と近いものを潔に感じていた依桜だが、まさかここまで完璧に彼女の動きを再現されるとは夢にも思っていなかった。
「行け凪!」
「しまった……カウンター!」
止まったフィールドの隙をついて、ゴール前から潔が前線の凪にボールを送った。依桜、黒名、玲王は完全に敵ゴール前に集まっていて凪は完璧にフリーな状況だ。そこから間に合うはずもなく、トラップした凪は容赦なくゴールにボールを放り込む。
「いただきます」
当然防がれる訳もなく、TEAM・WHITEが1点を返す展開となった。これで4ー2、依然依桜達が優勢とはいえ、潔の動きが変わったことは警戒しなければならない。
(思った通りだ。周辺視野で逐一フィールドの情報、死角を補足して頭の奥で高速処理し続ける
潔は新しく手に入れた勝利へのピースを思考に入れ、ゴールへのビジョンを模索する。さっきまでの馬狼を喰うプレーをしていた時よりも更に多くのルートが広がってきた。そして確信する、この試合に勝てると。
「さっきのはまぐれ……そうに決まってる……! だってボクがどれだけやってもできなかったんだから、いきなりできるわけない……!」
「……姫宮?」
「……! ううん、なんでもない。行くよくろなん」
「おう」
何かを呟いている依桜に声をかける黒名。それに気づいて平静を装う依桜だが、確実に動揺していた。点を取られたことじゃなく、潔のプレーが透子にそっくりだったことに。
「止めてみなよ潔世一、このワンプレーで終わらせてあげるから」
「
ボールを持って潔に突っ込む依桜を見て凪が驚く。彼の能力は優秀、故にドリブルが弱点とは到底言えないが、少なくとも全員ぶち抜く程の力量はないはずだ。
(ほざいてろクソ
「おらァ!!」
(堕ちた
「な!?」
潔と依桜がマッチングしている背後から、馬狼が潔ごと吹き飛ばす勢いで乱入してきた。それを予知していたように潔が依桜の視界を遮ることで、馬狼にボールを奪わせたのだ。
「ようやく来たぜ! 俺を主役に引き戻す
「だから行かせないっての!」
「チッ……うぜぇ!」
ようやく訪れたチャンスをモノにすべくゴールに突進する馬狼だが、それにも喰らいついてくる依桜にボールを弾かれた。左前に転がったボールを拾ったのは、そこに走り込んでいた潔世一だった。
「な……!?」
(まさか読んでたのか……!? 馬狼が突っ込んでくることも、それを姫宮が弾くことも!? アイツ、それを見越したポジショニングを!?)
玲王は潔に寄せながら戦慄する。仮に全てが潔の読み通りなのだとしたら、彼はもはやこのフィールドの神。自分達の勝てる道理はない。
「クソ……!」
(視えてるぞおぼっちゃまくん。優秀なお前はギリ俺に追いつく……だけど……!)
「パス……!? どんだけ冷静だよコイツ……!」
玲王のスライディングが届くギリギリのところで凪にパスを出す。ゴール前ドンピシャ、凪の能力があれば点を決めるのは簡単だろう。
(すごいな潔……この試合で爆発的に覚醒してる……! お前と組んで俺は……)
「やらせんやらせん」
(うわっ……まぁじで鬱陶しいな
「……!!」
凪のシュートにギリギリで追いつける黒名のスピード。だったらと凪は思考を切り替えた、撃つと見せかけてボールを擦り僅かに宙に上げる超絶トラップ。
「からの……
空中に放り出されたボールを更に蹴り込みゴールに叩き込む。凪の超絶トラップからのスーパーゴールによって、4ー3。着実に差が埋められていた。
「最高だ潔。お前と一緒なら、俺はどこまでも強くなれる」
(クソ……クソ……!! 潔の覚醒に呼応して凪も覚醒したってのか!? 認めねぇ……!! 凪……お前は俺の……!!)
覚醒中の潔と凪。好調な2人を除けばフィールド内は重い空気に潰されそうだった。追いつかれつつあり焦る黒名はまだいい方だ。玲王は潔に呼応し覚醒する凪を見て、嫉妬や焦燥感、そして自己嫌悪が混ざった言い表せない感情に心がグチャグチャになっていた。
(なんでこの俺が……1点も取れずひれ伏してる……!? 俺は
他人を努力を蹴落とし、引きずり堕ろすことを至上の喜びとしサッカーをしていた馬狼にとって、この状況は理解し難い事だ。なぜあのヘタクソに自分が利用され、いいように使われているのか。
(もう殺す……!
故にこの状況は許し難い王政への反逆行為にも等しい。もう手段など選んでいられない、どんな手を使ってもゴールを決めて
(なんで……
依桜の記憶している透子のプレー、そして録画していた試合映像。それを見て2年間必死に練習してもできなかったことを潔は一瞬で理解し、実行した。多分透子と潔は似た才能を持っていたのだろう。それに加えて自分を壊すことを厭わない悪魔的な適応能力。ただ闇雲に再現しようとしてもできない、才能の壁に依桜はぶち当たっていた。
「ダメだよ……ボク以外が透子のプレーをするのは…… 潔世一……絶対許さないから……! ボクが壊して殺る……! アイツのサッカー全部……!」
依桜の顔に試合開始時の余裕はもはや微塵もない。潔世一を否定するために、依桜は潔を殺す気で潰すことを決めた。
6人それぞれの想いがぶつかり合う