『冴! 冴! 冴!』
『ニッポン! ニッポン! ニッポン!』
溢れんばかりの大歓声、眩いライトの光。これまで試合してきたスタジアムとは明らかに違う規模の数の観客。恐らくほとんどのサッカープレイヤーはこの景色を夢見てボールを蹴っているのだろう。
依桜に対しての声援はない。応援されているのは日本代表、そして糸師冴だけ。新参者、しかも無名の自分を見る者など現時点ではいない。だがそれがどうした、90分後、この大歓声を自分の名前で埋めつくしてやると依桜は臆する事なく逆に意気込みを強くした。
『さぁ注目の一戦、今ホイッスルが鳴らされました!』
キックオフはブルーロックから。凛が潔にボールを預けた瞬間、命運をかけた戦いがついに始まった。
(よし、まずは練習通り……右サイド、この
「お、早速俺の出番?」
そして潔から蜂楽からのパスが通る。攻撃パターンをいくつもシミュレーションしてきたブルーロックイレブンだが、右サイドの攻撃は蜂楽廻を起点にスタートすることになっていた。
「行かせっかよ!」
「んにゃ、行っちゃいます!」
進行方向に立ちはだかってくる閃堂を見た蜂楽はまるで無邪気な子供のように頬を緩めた。スピードを緩めず閃堂を抜きにかかる。
「発射ブーン♪」
「……!? トップスピードのままボールに乗って……!?」
美しいターンで楽々閃堂をかわした。その魅せプレーに観客も驚くが、蜂楽は気にせずゴール目掛けてドリブルする。
「おっと、来るかい坊ちゃん? 」
「またまた行っちゃう……と、見せかけて……!」
(……!? すかさず右サイド、ラインギリギリのパス!)
「OKOK」
ドリブル突破と見せかけたフェイントパスで右サイドにボールを流した。それを機敏な動きで拾った黒名がサイドラインギリギリを駆け抜ける。
「行くよくろなん♪」
「動け惑星……!」
「ああ、速攻で決める」
蜂楽のドリブルで相手のディフェンスラインを崩し、そこで潔を中心とした三角形を形成する。敵側は潔のメタ・ビジョンの動きを補佐する黒名の惑星ムーヴに加え、蜂楽のドリブルも警戒しなければならない。
「匂う……匂うぞ、ワシの裏に抜けようとするその動き」
「黙ってろ
(……!? こやつ、動き出す振りをしてワシの動きを誘い……自らは別のルートへ……!)
潔を止めに来た蛇来の裏抜けを阻止する動きを逆に利用したフェイント。オフ・ザ・ボールの技術を駆使した裏抜けで彼をかわすと、潔はゴール前へ抜け出た。
「出せ、黒名」
「御意御意」
ゴール前、絶妙な位置に黒名からのパスが通る。あとは潔の十八番、ダイレクトシュートを決めるだけだ。
「
「……!?」
「いいアドバイスくれるじゃねぇか、お姫ちゃん」
しかしその刹那、空中で愛空がパスをカット、ボールをクリアした。無警戒の位置からのディフェンスにさすがの潔も驚く。
『おーっとここでオリヴァ・愛空! スーパークリアでチームを救いました!』
『さすが日本代表主将、痺れるねぇ!』
(
「面白れぇな
(やっぱり
メタ・ビジョン自体は恐らく潔固有の能力ではない。凛や氷織、二子も使えるしプロの世界にも使用者はいるだろう。だがメタ・ビジョンという名称は潔が付けたもの。愛空はそれを知ってる、そしてさっきの彼の発言。潔は結論を出すと愛空にメタ・ビジョンを教えたであろう存在に目をやった。
「ったく……余計なことすんじゃねぇよクソ
「べっ!」
依桜の方を見ると彼は舌を出してイタズラっ子のように笑った。しかしこれは厄介だ、よりによって相手ディフェンスの主力が最大限に自分を警戒してるのだから。
「俺の目が黒いうちはゴールはやらねぇよコソ泥ちゃん」
「……言ってろ、すぐに盗んでやるよボンクラ刑事」
黒名のスローインから試合再開。ボールは蜂楽へ、そしてすかさず逆サイドにボールを流した。
「ちゅーす、出番キタコレ」
右サイドの攻撃は愛空に警戒されている。ならば左サイド、乙夜の裏抜けを使った攻撃に切り替えるまでだ。
「イカした髪色してるね、君」
「なんだお前。ツンツン頭のおチビちゃん……ベジータ?」
左サイドを駆ける乙夜についた音留。最初から警戒されていては乙夜の裏抜けは十分に使えない、しかしそこに左サイド、後ろから赤い韋駄天が走り抜ける。
「行けお嬢」
「ナイス乙夜!」
「……!?」
飛んできたパスをダイレクトで流し、千切へと渡す。左サイドの広大なスペースを利用して彼のスピードは加速する。
「行かせねぇよスピードスター!」
「遅せぇんだよオッサン! 自慢のフィジカルも追いつけなきゃ意味ないだろ!」
「……!? 映像で見た時より速ぇ……!」
『なんという加速! 4番、千切豹馬があっという間にペナルティエリア付近まで接近!』
仁王を抜き去りペナルティエリア内を見る。中に陣取るのは凛と凪、そしてそのやや外で潔がパスを待っている。
「一番いい位置にいるのは……お前だ!」
千切からペナルティエリア内に絶妙なセンタリングが入る。そこで待っているのはブルーロックイレブンもう一人のエースストライカー。
「ヤバ……糸師凛フリー!」
「出ろキーパー!」
「おう!」
「ぬりぃぞカス代表共……」
(……!? 俺の頭上をギリ越える……ピンポイントループ……!?)
絶好のチャンス。完璧な位置でボールを受け取った凛にたまらず飛び出るキーパー不角。凛はまるで彼を嘲笑うかのように、美しい放物線を描くループシュートを放った。無人となったゴールにそれを止める者はいないと思われたが……。
「ざーんねん、ボクがいるよりんりん♡」
「姫宮!?」
「チッ……!」
しかしゴールに入る直前、依桜がシュートコースに割り込んでボールを確保した。
「クソ……! カウンター警戒!」
「遅いよ!」
潔が守備陣に警告するのとほぼ同時に依桜が前線にボールを蹴る。その先で待っていたのはこの試合のメイン、糸師冴だった。
「チッ……! 俺が少しでも時間稼ぐ……! お前ら態勢整えろや!」
ハーフウェーライン付近でボールを受け取った冴。対するブルーロック側は烏が対応し少しでも時間を稼ごうとする。千切はまだ戻っていない、自分が抜かれたら守備陣は二子と蟻生、黒名、そしてキーパー我牙丸しかいない。
「最終ライン警戒だ、二子ボーイ」
「はい……!」
(糸師冴の狙いは士道くんへのパス……キャッチしろ、僕の眼と脳で……!)
U-20の2TOPのうち、依桜はまだ自陣から戻れていない。つまりここで士道を止めることが出来ればカウンターを防げる確率はグンと上がる。
「鼓動! 躍動! 俺が駆ける!」
(……! 敵味方関係ないめちゃくちゃな動き……!? いや、視るべきは士道くんの動きじゃなく……糸師冴と士道くんの連動が起こる着地点のみ……!)
士道の動きはフォーメーションや戦術など関係ない独創的なもの。敵味方関係なく自分のゴールのため動く突然変異体と言っていいだろう。それを止めるために重要なのは士道の動きではなく、冴から士道へのパスコースを見極めることだ。
「……」
「くっ……あかん、これ以上足止めできひん……!」
糸師冴の足止めに徹していた烏だが、ついにその牙城が崩された。フリーになった糸師冴が放った高精度なパス、その軌道は士道の方ではなく左サイドに流れていく。
「しゃおら!」
「……! 士道くんは囮!? ……黒名くん!」
「行ってる行ってる」
警戒されている士道を囮にした完璧なパス。ペナルティエリアの内側でボールを受けた閃堂は黒名のプレスが間に合う前にシュートを放った。
「我牙丸くん!」
(右……届け、俺の超反応!)
「な!?」
「ナイスオシャセーブだ!」
横っ飛びで閃堂のシュートを弾いた我牙丸、こぼれ球は蟻生が拾った。今度はブルーロックの反撃、ハーフウェイライン付近で凪がボールを受け取った。
「やっと来た、俺の番」
「行かせないよシロー!」
「……! やっぱ反応早いね、お姫さん」
綺麗なトラップでボールを納めた凪、そこにいち早く依桜がチェックに入る。
「NEW凪誠志郎……初ひろー」
「……!? 自分で来るのねシロー」
今までの凪のプレースタイルとは明らかに違う自分のドリブルを主体にゲームを作るサッカー。依桜相手でもボールを奪われないのは彼の天性の才能ゆえだろう。
「めんどくさいの大事……左と右に2人ずつ、敵は5体……一番いい選択肢は……」
依桜を離した一瞬の隙、浮き気味の優しいパスを右に流す。そこに走り込んでいた潔がボールをキープし、そのままカウンターを加速させる。
「やっぱ潔だね」
「ナイス天才」
ブルーロックイレブンがU-20陣内になだれ込む。さっきまでのサイドを使った攻撃ではなく、凛、潔、凪の三人でトライアングルを作る攻め方だ。
「攻撃パターンの引き出しどんだけあんだよ!」
凪とのワンツーで仁王をかわし、潔に戻ったボールを凛に渡す。サイドが突っ込んできた音留を今度は凛と凪のコンビネーションで翻弄し、ペナルティエリアに侵入したところで凪に綺麗なパスが通った。
「うん、バッチシ。練習通りじゃんね」
「作り甘ぇぜそのフットボール!」
「……うっぜ髭キャプテン」
凪がパスにダイレクトで合わせようとしたところに愛空が割り込み、シュートコースを塞いだ。しかし凪の十八番、トラップを活かせる場面だ。だがそれも愛空は織り込み済みだった。シュートコースを潰しながらも重心を残し、凪のトラップによるフェイントを警戒する。
(浮かせるトラップだろ! それは映像で学習済み! スーパープレーはさせねぇ!)
「残念、今は俺の時間じゃないか」
「横に……!」
「持ってけ
「読み通り……!」
二段式フェイクボレー、愛空の警戒した神業をチラつかせて彼の意識をこちらに向け、横を抜ける潔にラストパスを送る。
(コイツ……俺が
「まずは1点目、見ろ世界」
俺が──潔世一だ!!
GOAL!!
潔世一のダイレクトシュートがゴールに突き刺さり、誰もが予想していなかった先取点が決まった。一瞬の静寂の後、スタジアムを大歓声が包んだ。
『い、潔世一のダイレクトシュートが決まり……
『聞いたことないけど……潔世一、無名の選手だよね?』
『予想外の展開にスタジアムには驚きと歓声が入り交じり、異様な空気が流れています!』
「しゃぁぁ!!」
「ナイス潔!」
戸惑う実況席、スタジアムに見守られる中ガッツポーズをする潔に蜂楽、千切、黒名が駆け寄り、押し倒す勢いで抱きついた。
「にゃっは♪ やったね潔、大金星!」
「ヒーローヒーロー!」
「……おう!」
ブルーロックイレブンが先取点を決めた喜びと自分がヒーローになり損ねたという悔しさをそれぞれ顔に浮かべる中、点を取られたU-20側は動揺を隠せないでいた。
「マジか……まさか先に点を取られるなんて」
「悪ぃみんな、止められなかった」
「いやお前でダメならしょうがねぇだろ、2対1だったしな」
「うん、思ったよりずっと強いなアイツら。正直舐めてた」
まさか先制されるとは思っていなかった。悔しいが、愛空に止められたのならばしょうがない。そういった意見が聞こえる。当の愛空は潔を見て意外にも笑みを浮かべていた、好敵手を見つけたようなそんな顔だ。
「おいおい天才、なんであのヘボにパスしたんだ? 俺に出しときゃ1点だったのによ」
「……今の日本のレベルを確かめただけだ。俺がお前らを選んだのは正しかったと確信するためにな」
「ふーん。で、結果はどうだったん? ん?」
「グラドル結婚小僧に少しでも温情をかけてやった俺が馬鹿だった、それだけだ」
「グラドル……!? クソ……!」
士道と冴の会話。それを傍から聞いていた閃堂は顔を歪める。しかし反論はできない、確かにさっき自分が決めていればカウンターを喰らって失点することはなかった。ぽっと出の高校生に先に点を決められたのは事実だ。
「んじゃ、次は俺の番な♪ 俺にしか出すなよ天才!」
「ちょっとちょっと……! ボクも点決めたいんだけど、さっきからディフェンスしかしてないし……」
「うっせー、お前はずっと守ってろ。なんならポジション変える?」
「絶対嫌!」
言い争う依桜と士道。凛ほどでないにせよ士道と依桜の相性もよくない。それをどうコントロールするのは、糸師冴は何を狙っているのか。今はまだ彼以外誰も知らない。
「その辺にしとけバカ共。言っとくが腑抜けたプレーしたらお前らも見捨てるからな」
「ハッッ! 誰に言ってんだ下まつげ兄。速攻でハットトリックぶち込んでやんよ」
「だね、1点取られたら10点で返すよ」
U-20日本代表VSブルーロックイレブン、双方の運命を賭けた試合は意外な形で幕を開けた。しかしまだ試合は始まったばかり、糸師冴と彼が認めたエゴイスト達の反撃が、今始まろうとしていた。
新英雄大戦 依桜君に選んで欲しい国は?
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ドイツ
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イングランド
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スペイン
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イタリア
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フランス