ドイツ“バスタード・ミュンヘン”VSスペイン“FC・バルチャ”
ネオ・エゴイストリーグ記念すべき初戦となる試合が今まさに始まろうとしている。各チームのスタメンは各々ポジションにつき準備をしていた。
「あ、バロリんスタメン! やるじゃん
「……うっせぇな。ぶっ潰しに来てやったぞクソ
相手チームのFWに馬狼がいることに気づいた依桜は声をかけに行く。馬狼は鬱陶しそうに依桜を睨むが、言葉通り眼には確かな闘志が宿っている。
「相変わらずの無愛想だこと。そんなんじゃモテないぞ
「黙れ
「やってみ? ベロベロバー!」
続けて玲王も馬狼に絡みに行く。一次選考と二次選考、何かと縁があった二人だがここで再び相見えるわけだ。
「ん〜と、残りはガガちゃんがキーパーで……あ! ライチん試合始まるよ! なんでベンチにいるの!?」
「…………スタメンに入れなかったんだよ! 言わせんな姫宮!」
依桜はスペイン陣営の選手に目をやるが、CFの馬狼とGK我牙丸以外ブルーロックの選手はいないようだ。ドイツが3人、スペインに2人、やはりスタメンを勝ち取るのは相当難しい。
「おいおい、お友達に気を使ってる場合か依桜? それじゃ横から刺されても気づけないぞ?」
「うるさいな……一々構ってきて。ボクのこと好きなの?」
「冗談はよせ、お前への興味なんて一瞬で消えうせる。俺にとっては全て茶番に過ぎないからな」
カイザーの言葉とほとんど同じタイミングで試合開始のホイッスルが鳴り響いた。カイザーはネスにボールを預け、自身は前線へと駆け抜ける。
「さて……まずはボールを貰わないと始まらないけど……」
依桜も前に走りネスからのパスを要求するが、バスタード・ミュンヘンはカイザーを主軸としたチーム、当然定められたルールがある。それに従いネスは左サイドのグリムへとパスを出した。
「やっぱりそう簡単にパスは貰えないってワケね……!」
やはり依桜にパスは来ない。ならばとまずはボールの動きをよく観察する。ボールを受け取ったグリムはパワー重視の戦車型ドリブルで左サイドをこじ開けると、相手選手のタックルを物ともせずクロスを上げる。
「お手並み拝見だ……それもまた一興」
「おー、やっぱレベル高いなバスタード・ミュンヘン」
右サイドを走る玲王の元にドンピシャのパスが通った。一連のパスワークを見てレベルの高さに感心する彼だが、すぐに思考を目の前の敵に切り替えた。
「ま、俺のレベルは更に上だけどな!」
「……! トラップ上手くなってる! シローみたい!」
逆サイドからのパスを走りながら難なく足元に収めた玲王。まるで凪のように美しいトラップだと驚いた。
「サイド塞げ!」
「ああ、行ってる!」
「スペインねぇ……新しい俺を試すにはちょうどいい相手だ」
スペインのディフェンス二人が玲王の前に立ち塞がる。しかし玲王は怯まず、むしろ楽しげにディフェンスに突っ込んでいく。そしてあっという間に彼らを抜き去ってしまった。
「こいつ……鬼テク……!」
Uー20カテゴリで世界上位と言っても過言ではないチームのディフェンスをも突破する程玲王の能力は高まっている。そして何よりこれまで彼とは違い自分一人で攻め上がるスタイルに切り替わっているのだ。
「エゴイストっぽくなったじゃんレオオ……!」
そのまま玲王はサイドから切り込んでくる。中央にはカイザーと依桜がセンタリングを貰うために集まっている。しかし当然敵ディフェンスはFWの二人を警戒し、例えパスが来ても容易にシュートを撃たせてはくれないだろう。
「お上手な守備配置だコト」
「……! 角度のないとこから強引にシュート!?」
だが玲王はセンタリングをあげず、ほとんど角度のないところからシュートを放った。一見外れたように思われたそのシュートは、美しい弧を絵を描きゴール右端の上に進んでいく。
「いや……ギリ届く!」
「……!」
完全に決まったように見えたが、GK我牙丸が素晴らしい反応でボールに触れ、弾かれたルーズボールはスペインの選手に拾われた。
「こんなもんか? 姫宮や士道のシュートはもっと凄いぞ」
「チッ……! 空気読めよ野生児が」
ボールは一気に前線に送られる。今度はバルチャの反撃だ。
(どうせボールが来ないなら……自分で奪って攻めるまで!)
バルチャの攻撃は依桜にとってのチャンスでもある。味方からパスが来ないなら自分で奪ってカウンターを決めればいい。それを可能にする能力が依桜は確かに持ち合わせている。
「通行止めや
「俺の前に立つんじゃねぇよ害鳥野郎」
ボールを持った馬狼と烏が対峙する。トップクラスの攻撃力を持つ馬狼とハンドリングを活かし彼を止める烏。互角の戦いに一番に割って入ったのは依桜だった。
「はい没収!」
「クッ……!」
さすがの馬狼も烏の相手をしつつ依桜まで警戒するのは不可能。ボールを奪った依桜はフィールドを見渡す。パスコースはある、しかしカイザーは論外としてネスやグリムへボールを渡してもカイザーに繋がるだけだろう。玲王もさっきのプレーで警戒されているのでパスコースがない。単独突破してもいいがこれもリスクのある選択肢だ。
「パスコースないんやろ? こっち使えや非凡姫」
「……! 使えるじゃん烏ちゃん」
「アホか、俺が生き残るためや。勘違いすんなボケが」
ここで烏のフォローが入ってくる。彼のボールキープ能力と依桜の小回りの効く速さを足せばスペインのディフェンスを崩すことも可能だろう。言うなれば潔と黒名の惑星コンビの再現といったところだ。
「なんだこいつ……速い……!」
「クソ……! 止めろ!」
依桜のスピードに翻弄され突破されてしまうスペインのディフェンス陣。あっという間にゴール前にたどり着いた依桜は烏からのラストパスをシュートモーションに入る。
「もらい!」
「クソお邪魔します」
「は!? バカイザー!?」
そのまま足を振りこうとする依桜の前に味方のはずのカイザーが現れた。困惑した依桜だが勢いのまま足を振り抜く。しかしそのシュートはカイザーに弾かれたラインを超えてフィールドの外へと出ていってしまった。
「あーあー、大人しく俺に奪われときゃよかったのに。無駄に撃ったせいでスローインだぞ依桜」
(何こいつ……!? 味方のシュート妨害するとかイカれてるでしょ! 士道でもやんないよそんなこと!)
依桜はカイザーという男を侮っていた。実力はあるがマウント癖が鼻につく程度にしか思っていなかったが、彼は本気で自分を潰しに来ている。味方の妨害などカイザー自身の評価にも少なくない影響を及ぼすはず、しかし彼はそんなこと気にも止めていなかったのだ。完全にイカれてるとしか思えない。
「さすがカイザー、次はどうします?」
「う〜んそうだな。そろそろ勘違いクソ
「了解♪」
バルチャのスローインで試合再開、それをネスがカットした。絶妙なタッチで敵を突破しつつ、カイザーへのパスコースを常に生み出す。そしてそれを警戒する相手の動きを逆に仕留める変則突破。カイザーだけでなく、ネスも間違いなくワールドクラスのプレイヤーだ。
「ネスのシュートコース切れ!」
「サイドの動きも警戒しろ!」
中央のカイザーだけでなく、サイドのグリムや玲王にも当然警戒は向く。だがそこまでがカイザーの術中、一瞬気を取られたディフェンスを見事な裏抜けで振り切った。
(……! あの動き……透子……というか、世一とそっくり……!?)
カイザーの動きを観察していた依桜は気づいた。彼の動きは間違いなくメタ・ビジョンを使っている者の動き、その中でも依桜のかつての相棒である透子や最大のライバル潔に限りなく近い。
「撃たせるか!」
「クソ消えてろクソ雑魚が」
ネスからのパスをダイレクトでシュートしようとしたカイザー。しかし敵ディフェンスのブロックを受け瞬時にトラップへと変換した。咄嗟のプレーにも関わらずかなりのトラップ精度だ。そしてそのままトラップしたボール目掛けて足を振り抜く。
「……はやっっ!!?」
その足は恐るべき速度で振り抜かれた。依桜も我牙丸も、誰にも見えない程高速の足の振りから放たれたシュートは我牙丸ですら全く反応出来ず、ゴールへと叩き込まれる。
「いや……エグいって」
「怪物……だべな」
ベンチの閃堂や七星やその他の選手達、敵味方問わずカイザーの実力に驚愕することしかできなかった。オフ・ザ・ボール、咄嗟の判断力、トラップ、そして何よりシュート力、全てがUー20カテゴリの範囲から逸脱した正真正銘の怪物だ。
(あのシュート、いつ撃ったのか全然見えなかった。性格は終わってるけど実力はホンモノ……このチームで生き残るためには、アイツに勝たないと……!)
「どうした依桜、潔く負けを認めて俺に服従するか? それとも無謀な戦いをまだ続けるか? 俺はどちらでも構わないぞ?」
「さすがカイザー、お見事です!」
依桜の肩に手を置き、ここぞとばかりに煽り倒すカイザー。そしてそれを崇め奉るネス。恐らく彼らは一連のプレーで依桜の心をへし折れたと考えたのだろう。だがそれは浅はかだったとすぐに理解することになる。
「やば……ぶっ殺しがいありすぎ。最高じゃん♡」
「……!?」
謎の寒気を覚えたカイザーが思わず依桜の肩から手を離す。一部しか見えなかったが依桜の表情がカイザーには何故か恐ろしく思えた、こんなことは初めてだ。
「頭が高ぇ、ぶっ潰してやるよ青薔薇が」
バルチャボールで試合がリスタートされる。馬狼を中心に攻撃を組み立てるバルチャの連携はかなり強力。フィニッシャーの馬狼こそ周りにパスを出さないが、それ以外の選手のパスワークはさすがにワールドクラスだ。
「馬狼!」
ゴール前、馬狼にボールが渡る。バスタード・ミュンヘンDFのメンサーとビルケンシュトックがブロックに行くが、馬狼は得意の鋭角ドリブルとチョップフェイントで二人を抜き去った。
「いい心がけだ、俺に服従しろお前ら」
(ゴール右隅を狙う正確なカーブシュート……! やられた……!?)
そして馬狼の十八番、ゴールの隅を狙う正確無比なカーブシュートが放たれた。キーパーも反応こそしたが届かず、ボールはゴールネットへと吸い込まれていく。
「ワンパターンだよバカ
「……クソ
だが間一髪、飛び込んできた依桜がブロックした。まるで飛ぶ虫に反応する猫のような反応速度だ。
「うぉ!? 姫宮さんナイスブロックだべ!」
(こっからどーしようかな……一人で突っ込んでもいいけど、どーせまたカイザーに邪魔されるし)
依桜は一瞬思考する。一人で攻めるにしても、烏や玲王を使うにしてもゴール前でカイザーに妨害される可能性が非常に高い。どうにか彼の届かない場所でシュートを狙いたいが、潔と同等のメタ・ビジョンを使う彼の眼をかいくぐるのは至難の業だろう。
(あ……! そうだ、イイこと思いついちゃった♪)
しかしすぐにとある案を思いつく。迷う暇もなく、依桜はそれを実行するためにフィールドのど真ん中向けてシュート性の加速する強烈パスを放った。
「フィールドのど真ん中を抜けて……!」
「……! あら、僕にパス? 自分でゴールするのを諦めてカイザーのアシスト狙いってことだね!」
「ハッ……いい子だ依桜。俺に下れ」
依桜のパスを受けたネス、そしてカイザーが上機嫌そうに反応する。依桜はそれを気にせずに前線へと全力で駆け上がる。モタモタしていると依桜が着く前にゴールを決められてしまう。
(ばーか、誰がバカイザーなんかの下に付くもんですかっての! ボクの狙いはバカイザーがシュートを撃つその一点だけ!)
ネスを起点に再びカイザーシステムの攻撃が始まる。ネスからグリム、そして中央のカイザー。流れるような美しい連携であっという間にチャンスを作り出した。しかし相手もワールドクラス、一度点を決めているカイザーは当然マークが強くなっている。
「ほらカイザー、ワンツー!」
「いいぞ依桜、俺の手足となり死ぬまで働けクソ
カイザーについたディフェンスを崩すため、全速力で追いついてきた依桜は彼からのパスを受け取り、そしてすぐさまワンツーで返した。これでシュートコースは開けた、あとはカイザーインパクトを決めるだけだ。
「コース塞げ! 絶対撃たせんな!」
「わかってら、こんだけ密集してりゃ無理ゲーだろ!」
「クソ節穴」
カイザーインパクトを警戒し、5人がかりでシュートコースを塞ぐバルチャ。しかしカイザーはそれすら物ともせず、僅かに見えたコースに針の糸を通すかのように精細なシュートを放った。まさかこんな所を狙われるとは思っておらず反応できないディフェンス陣。
「あは♪ キタキタ! ボクのシュートチャンス!」
「……!?」
しかし誰も反応できなかったシュートに唯一喰らいつく影があった。カイザーに下ったと思われていた依桜は影の中からこの一瞬を狙っていたのだ。命の危険を伴って発動する彼だけのスローモーションの世界。依桜の眼ならばカイザーインパクトすら視認できたのだ。
シュートの軌道に割って入り、シュートを強奪してしまったのだ。カイザーインパクトの威力を乗せた二段階加速シュート。まるでアニメや漫画のようなその一撃は我牙丸すら全く反応できない速度でゴールネットへと叩き込まれた。
「ナイスパ〜ス♪ バカイザーちゃん♡」
「……!」
この時、初めてカイザーの顔から笑みが消えた。眉間に皺を寄せて依桜をただ睨んでいる。姫宮依桜の実力はミヒャエル・カイザーにも届き得る、それが証明された瞬間だ。
「……は? いやいやいや、なんですか今の!? カイザーインパクトを無理やり乗っ取ってシュートとか有り得ない!?」
「それが有り得ちゃうんだよね、ボク眼がいいからさ〜」
自身が服従するカイザーのシュートが奪われたためか、ネスが感情に身を任せ突っかかってきた。それを軽く流す依桜だが、それで止まるネスではなかった。
「そもそも……カイザーに服従すると見せかけて土壇場で裏切るとか、自分でシュートまで行けないからカイザーを利用しただけ! ただのハイエナクソクソコソドロプレー! ストライカーの風上にも置けない……! う……!」
「黙れネス、言い訳は見苦しいぞ腰巾着」
止まらないネスを抑えたのはなんとカイザーだった。怒りをぶつけるかのごとくネスの頭を掴み力を込める。痛みに苦しむ彼を気にもとめず、依桜に視線を送る。
「依桜、あくまで俺に逆らう……ということでいいんだな?」
「……てか最初っからボクのこと格下とか思ってたみたいだけどさ、その考え改めた方がいいんじゃない? 逆らうも何も服従する気なんて1ミリもないから」
「そうか……ならここからは殺し合いだ。どちらがこのチームの王かはっきりさせよう」
この時点でカイザーはようやく依桜を格下のピエロではなく対等なライバルと認めたようだ。バスタード・ミュンヘンの王を担うであろう二人がゴールを決め、ネオ・エゴイストリーグ初戦は波乱の展開で幕を開けたのだった。