マスター、ラヴィーニョのゴールによりFC・バルチャが一点を返した状況。ラヴィーニョの驚異的な実力は当然として、それと同格かそれ以上のノエル・ノアの存在も大きい。更に新世代のトップ、ミヒャエル・カイザーと姫宮依桜も決して無視できる実力では無い。
怪物達がしのぎを削りあうこの局面で……飢えた“王”はひっそりと牙を剥いていた。
バスタード・ミュンヘンのキックオフで試合がリスタートされた。カイザーからネス、そしてグリムという黄金ルートでボールが流れていく。
「相変わらずボクは無視ね……! もう慣れたけど!」
依桜にパスが来ない状況は変わらない、しかしそれならそれでやるべきことは簡単だ。カイザーがシュートまで持っていけばそれを奪うことを狙う、バルチャがボールを奪えばそれを更に奪ってカウンター。このどちらかを依桜は狙っている。
「……出せネス」
「はいカイザー!」
ゴール前、抜け出したカイザーへネスからのパスが出された。DF陣の裏を抜け出すオフ・ザ・ボールとそれに合わせる完璧なパス。絶好のゴールチャンスだ。
「甘ぇよ青薔薇タトゥ男……!」
「……!?」
「うぇ……!? クソゴリラ……!」
しかしネスからのパスがカイザーに到達する前、馬狼がそれをカットした。予想していなかった展開にカイザーは多少驚き、ネスはあからさまに動揺している。だが馬狼はそんなことは気にせず、自陣ゴール前から一気に攻め上がっていく。
「やるじゃん
「黙れおぼっちゃま……!」
馬狼の行く手を阻みながら玲王は考察する。馬狼は王様気質な性格な上、攻撃力に特化した選手だ。一見試合の中で一際目立つ存在だが、彼の本質はそこでは無い。フィールドに自身よりも目立つ光の存在がいてこそ真価を発揮する言わば闇の存在。表立って暴れてくれる分には対処しやすいが、無警戒の際に不意を突かれると一気に崩されるジョーカーだ。
「独走
「てめぇ……害鳥野郎……!」
「ナイス烏」
玲王と馬狼の一騎打ちの隙をつき烏がボールをカットする。そして前を走る依桜をチラリと見た。烏は冷静に今の状況を分析する。カイザーと依桜、どちらに付くのが確実に自分が生き残れる選択か。
(普通に考えればカイザーに付くのが合理的やけど……)
このバスタード・ミュンヘンは既にカイザーを王に据えたチームとして確立している。他の選手もカイザーをフィニッシャーとして動いている以上、そこに入り込むのが一番わかりやすく、かつ合理的だ。しかし烏の頭には別の考えもあった。
「ま、たまには賭け事も悪くないかもなぁ」
カイザーに付くのが合理的、それはそうだ。だが烏はブルーロックで何度も見てきた、姫宮依桜というエゴイストの可能性を。今やカイザーと同等にまで強くなった彼に賭けるのもまた、悪くない。もしも成功した時にはメリットも大きい。賭け事はあまり好かない性分だが、今回限りは別だと。
「行けや女王」
「……! いいね、後でチューしてあげる♪」
「いらんわ……! はよ決めてこいや」
烏からのパスを受け取った依桜はゴールを見据える。距離は多少あるが、十分狙える位置だ。相手ディフェンスも間に合っていない、絶好のチャンス。
「クソお邪魔しますpart2」
「……!? バカイザー!」
「マジか!?」
しかし、またしても味方のはずのカイザーが妨害をしてきた。これには依桜だけでなく烏も唖然としている。妨害というかもはや敵チームのディフェンスの様な立ち回りだ。
「依桜……お前はこうやって身体をぶつけられれば簡単に死ぬ。クソ貧弱だなクソ売女」
「うっざ……!」
確かにカイザーの言う通り依桜の明確な弱点は直接の接触。サッカー選手としてはかなり身長の低い部類、しかも細身の身体にチャージをかけられれば簡単に崩されてしまう。しかしそんなことは承知の上、そうならないように依桜は立ち回っているが、味方の妨害までは気にしていられない。
「一生潰し合ってろバカコンビ!」
「チッ……!」
カイザーのチャージで弾かれたボールを雷市が拾い、それを前線へと放り込む。ボールを受け取ったのはラヴィーニョ、今度は彼のターンのようだ。
「俺のステージ第二幕、スタート♪」
「うぐッ……!」
ネスをもあっさりと抜き去り、ラヴィーニョは二点目を決めるべくバスタード・ミュンヘンゴールへと突き進む。しかしそれを許さない存在がいた、彼と対になる存在と言えるもう一人のマスターだ。
「残念ながら終幕だラヴィ。ステージの後片付け忘れんなよ」
「……!
しかしラヴィーニョの猛攻をノアが強引に身体をぶつけることで防いだ。再びこぼれ球、近くの選手がボールを確保しようと集まる中、いち早くたどり着いたのは馬狼だった。
「マジか……アイツもうここまで!?」
「中央突破警戒しろ!」
バスタード・ミュンヘンのDF陣が馬狼を取り囲む。ラヴィーニョがノアに止められている今、馬狼さえ封じればバルチャの攻撃は機能しないも同然。故にバルチャの選手達は馬狼が密集地帯から抜けられるようにパスを求め並走する。
「馬狼、こっち出せ!」
「……!」
そのサポートは馬狼にも見えている。しかし彼はそれを無視し、あえて敵DFが密集している所へと突っ込んで行った。その行動に敵味方問わず全員が困惑した。
「は……!? おま、なんでそっちに……!?」
「パス出せ馬狼! こっち使えばビッグチャンスだろ!」
「うるせぇ……! 大人しく見てろコバエ共!」
バルチャの選手達がなおも声をかけるが、それすら一蹴し馬狼はバスタード・ミュンヘンに突っ込んで行く。左SBのジャックスをかわし、次にビルケンシュトックを抜き去りにかかる。
「おいツンツン
「黙ってろラヴィーニョ! お前言ったよな!? 俺が井の中の蛙だってよ!」
ディフェンスに囲まれながらも馬狼はラヴィーニョの問いかけに叫び返した。いくら馬狼でもバスタード・ミュンヘンを単独突破するのは無謀の極み、そんなことは彼自身もわかっている。
「実際その通りだ……! 俺は潔に負けたあの時、己の非力さを痛い程思い知った……! 小せぇ世界の中でイキがってるだけの負け犬だと思い知らされた……!」
「ぐっ……!」
ビルケンシュトックをかわすと、今度はネスが突っ込んできた。パスをカットされてムカついているのか、かなり強い当たり方だ。
「だが……! だからこそ這い上がれた……! 心臓が握り潰されるくらいの逆境でなきゃ俺は進化できないと学習できた……!」
「クソ暴走……!」
馬狼は止まらない。ネスと、追いついてきた右SBのンジャイに挟まれながらもボールをキープし続けている。
「ラヴィーニョ! 俺はお前のサッカーが気に入らねぇ! 凄い奴のモノマネでいい? それをミックスして
「……!!」
「いいか!! 俺は俺の生き様を他者には縛らせねぇ……!! 俺は俺のまま……!! 足掻いて足掻いて……!! 世界一の
馬狼がついに、ネス達をも掻い潜りバスタード・ミュンヘンのDFを一人で突破してしまった。あとはキーパーと一対一、誰もがゴールを確信したその瞬間、馬狼は進路を右にずらし何かに向けて突進して行った。
「馬狼……! お前……!?」
「……!? あは♪」
「行くぞクソ
ディフェンスのために全速力で自身へと戻っていた依桜。しかし馬狼がそのままゴールへと向かっていれば間に合わなかったはずだ。だが馬狼は自ら依桜の元へと駆け抜けていく。
「自分から来てくれるんだ!! そうこなくっちゃ!!」
「ここにはてめぇしかいねぇだろ!! 俺を絶望させてくれる宿敵は!!」
馬狼と依桜がマッチアップする。依桜が抜かれれば失点は必至、逆に奪えばカウンターでゴールを狙えるボーダーライン。それを理解し、この局面において自身を最も成長させてくれるであろう対決を馬狼は選んだのだ。
「根性は認めるけど、その程度じゃボクは抜けないよ!!」
「クッッ……!!」
二人の対決、試合の行く末を左右するバトルは依桜が優勢だった。馬狼がどれだけチョップフェイントやあらゆるテクニックを駆使しても、依桜の圧倒的反応速度と眼には通用しない。どのコースに抜けても追いつかれる。ボールを奪われていないだけ御の字だろう。
「クソノロマだなクソゴリラ……!」
「バカイザー!?」
「チッ……!!」
男と男の真剣勝負、そこにカイザーが割り込んできた。サッカーの試合においては当然のことだが、先程から邪魔ばかりされている依桜はフラストレーションを貯めていた。カイザーが弾いたボールは無造作に宙を舞い、誰かの元へと落ちていく。
「来たな……天まで俺の味方か♪」
「やべぇ! ラヴィーニョに!?」
よりにもよってそのボールはラヴィーニョの元へと舞い降りた。神に愛されているかのような幸運だ。
「お前は行かせねぇつってんだろラヴィ」
「ストーカーかてめぇ……!」
しかしラヴィーニョにはノアがついている。ボールを持ったラヴィーニョだが、ノアに阻まれ先に進めない。距離を置いての1on1ならともかく、ノアの鋼の肉体をぶつけられてはさすがの彼でも自由ではいられないのだ。
「いいじゃんマスター、ボクのために止めといて!」
「……!?」
「ほう……この俺を利用するか」
ノアがラヴィーニョを止めている隙に依桜がボールを奪いに来る。ノアのお零れというのが不満ではあるが、先程の借りを返すつもりだ。この体勢、さすがのラヴィーニョもノアを背負いつつ依桜をかわすのは至難の業。
「ホラよ、決めてみろ
「……!?」
「ラヴィーニョが馬狼にパス!?」
しかし依桜の足がボールに届く寸前、ラヴィーニョはボールを浮かせ馬狼にパスを出した。今まで自分が決めることに執着していた彼が、この試合初めて誰かのためにアシストをしたのだ。
「どういうつもりだてめぇ……?」
「見てみたくなったのよ! 無茶苦茶なクソガキ理論押し通すお前の行く末をな!」
「……!? ……チッ……!」
相変わらず上から目線のラヴィーニョに馬狼はイラつくが、今はそんなことをしている場合ではない。パスを受け取った馬狼にカイザーとネスが速攻で距離を詰めてきていたからだ。
「止めるぞネス」
「はいカイザー!」
カイザーとネスが馬狼のパスコースを塞いだ。そもそもまだ馬狼の射程圏内に入っていない上に、ドリブルで抜こうにも彼ら二人を同時に相手するのは難しい。かなり絶望的な状況だ。
「上等だ……やってやるよ青薔薇奴隷共が……!」
「無理筋だろクソゴリラ」
しかし馬狼は臆することなく突っ込んでいく。カイザーの当たりを受け体勢を崩されるが、それでも馬狼はゴールを狙い澄ました。
「クッ……!!」
「……!!?」
「おい! ファウルだろ今の!?」
カイザーのタックルでも倒されない馬狼のユニフォームをネスが強引に引っ張り止めようとする。それに対し雷市が声を荒らげるが馬狼がプレーを続行するのでホイッスルは鳴らない。ネスに引っ張られながらも馬狼は足を振り抜き、ゴール右隅を狙いシュートを放った。
「外した!?」
「行け……!!」
だがシュートはゴールのやや右外を捉えていた。このままでは外れてしまう、そう思われたのもつかの間シュートは更に曲がりゴール右隅へと叩き込まれた。今までの馬狼の射程圏外、しかも更に強烈なカーブを加えたシュートをこの土壇場で開発したのだ。
「やるじゃんバロリん……!!」
その進化に依桜も素直に賞賛した。ライバルの成長は彼としても望ましいこと、敵が強ければ強いほどそれに打ち勝った時成長できるというものだ。
「ナイシューキング!!」
「……!! うぜぇ、離れろ野生児!!」
「ハッ……!! 次は俺が決めてやる」
ゴールを決めた馬狼に我牙丸が抱きつくが、当然のように振り払われてしまった。その横で雷市が悪態をつくが、馬狼には聞こえていないようだ。
「よくやったツンツン頭、俺以外のゴールでこんなに燃えんのは久しぶりだぜ」
「……ラヴィーニョ、ここまでの流れは全部お前の思惑通りか?」
「HAHA! さぁな。だが俺は面白ぇもんを見れて満足だ」
それだけ言うとラヴィーニョは自身のポジションに戻って行った。これだけで勝った気はしない、しかしこのネオ・エゴイストリーグが終わるまでに必ず奴を超えてやると馬狼は決意を固めるのだった。
『なお、アレクシス・ネス選手に悪質なファウルによりイエローカードが出されています』
「あえ……!?」
馬狼を止める際にユニフォームを強引に引っ張ったことによりネスにイエローカードが出された。依桜の得点以降、から回っている感覚を自覚しているネスは危機感を覚えた。
「クソ落ち着けネス。まだ同点だ、ラストは俺が決めて勝つ……そうだろ?」
「……! はいカイザー。君の進むべき道は僕が作ります!」
カイザーに発破をかけられ、ネスは再び奮起した。カイザーの決勝点でゴール、その流れを作れれば問題は無い。そしてその未来を生み出すのは自分しかいないと闘志を燃やすのだった。
「流石バロリん、でもボクとの決着はついてないよね?」
「当然だクソ女王。次はお前をぶっ潰して決勝ゴールを決めてやる」
「アハッ♪ 燃える〜!!」
そして依桜と馬狼はお互いに決着を望んだ。勝った方の総取り、決勝点を決めた方が勝つシンプルな戦いだ。各々が決勝点を決めるべく気合を入れる中、ワイルドカードを生き残ったあの男は静かに戦局を見極めていた。
「……インプット完了。うっし、やるか!」
激動の試合の中でカメレオンがひっそり、終幕に向けての準備を完了している。その事にまだ誰も気づいていなかった。