ネオ・エゴイストリーグ第三戦、ドイツ〖バスタード・ミュンヘン〗VSイングランド〖マンシャイン・シティ〗の戦い。両チーム、スタメンに選ばれた精鋭達がフィールドに集い、試合開始のホイッスルが鳴らされるのを待っていた。
「ちゅーす、お姫さん。久しぶり」
「オひシャしぶりだな」
「あ、乙夜とありりんスタメン? やるじゃんお二人さん」
イングランドでスタメンに選ばれたブルーロックメンバーは乙夜と蟻生、そして時光と國神の四名だ。彼らはこれが初戦、どれだけ成長しているか未知数ということだ。
「きんに君とみっつーもお久! 元気してた?」
「まぁな。それよりそっちはすごい活躍だな。年俸6000万だっけ?」
「ありがときんに君! ま、ボクならもっと上行けるけどね! みっつーはどう? 少しはネガティブ治った?」
「……」
「あれ? お〜いみっつー!!」
國神の横から顔を出し、時光に声をかける依桜。しかし彼から返事はない。それに首を傾げていると、時光はいきなり持っていたペットボトルに入っている水を一気に飲み干してしまった。突然のことに依桜は思わず驚いた。
「うわ!? なになに、どうしたの!?」
「なんでもないよ姫宮くん。それより、今日はいい試合にしよう」
「え? ……あれ本当にみっつー? …………ねぇきんに君、もしかしてみっつー変な薬でも始めた?」
「いや、あれはただの水だ。まぁ触れないでやってくれ」
水を一気飲みしたと思ったら、時光は何事なかったかのようにとても爽やかな口調で依桜に声をかけてきた。今までのオドオドしていた時光とはあまりにかけ離れているので、依桜は一瞬本人か疑った後、覚せい剤でもキメているのではないかと疑問に思った。失礼な話である。
『さぁ! 全世界のフットボールファン大注目の第三戦! ミヒャエル・カイザーのシュートが炸裂するのか! はたまた姫宮依桜の華麗なプレーが台風の目となるか! 初戦に挑むイングランドの実力の程とは!?』
前回の試合ではなかった実況の声が聞こえてくる。ネオ・エゴイストリーグの全貌が明かされた今、全世界はこのエンターテインメントに熱狂している。
バスタード・ミュンヘン formation
マンシャイン・シティ formation
『ドイツ、バスタード・ミュンヘンVSイングランド、マンシャイン・シティ! kickoffだぁ!!』
ドイツのキックオフで遂に試合がスタートした。カイザーからネス、そしてグリムへとボールが流れていき、カイザー陣営が怒涛の勢いでゴールを狙う。
(とりあえずどうしよっかな……バカイザーからボール奪ってもいいけど)
ひとまずカイザーシステムで先に点を取られるのは避けたい。そのためには相手ディフェンスに期待するのも不安なので、ゴール前で前回のようにシュートを奪おうと依桜は画策した。
「行きますよカイザー」
ネスから縦に一閃、ロング気味のパスが出された。着地地点に一番に辿り着くのはもちろんカイザー。彼の視野なら誰よりも早くフィールドの最適解を導き出せる。
「俺……が舞う」
「……!?」
カイザーへのパスの途中ルート。本来ならば誰も届かない高さのパスを蟻生が頭でカットした。今までの彼だったら届いていないかもしれない。それくらいネスのパスは完璧だったが、今の彼はそれの更に上をいっていた。
〖蟻生十兵衛〗
攻撃力A 83
シュートA 80
ドリブルB 72
パスB 75
守備力S 92
速さB 74
総合評価A 83
「行け、ネガ克服オシャ達磨」
蟻生がカットしたボールは地面にワンバウンドした後、時光の足元に収まった。彼はボールをトラップするとそのまま右サイドを駆け上がっていく。
「行かせない……!」
「数的有利……しかしこれもまた必然」
時光を止めるべくネスとグリムがコースを塞いだ。普通ならばパスを出す場面だが、彼は迷いなく突破を試みる。
「突っ込んできた……!?」
体格のいいグリムはもちろんとして、ネスもバスタード・ミュンヘンの中心選手でありフィジカルもそれなりにある。そんな二人を相手にしてはいくら時光でも厳しいと思われた。
「超加速……! しかも身体クソ強……!?」
「ッッ……!」
しかしなんと時光は加速すると身体をぶつけてきた二人をいとも簡単に薙ぎ倒してしまったのだ。恐ろしい程のパワーとスピード、とても以前のネガティブな彼とは思えなかった。
「通行止めだダンガンマン!!」
「足速い眼鏡の人……!」
右サイドを爆走する時光に今度は斬鉄が迫る。時光の速度も大したものだが、足の速さだけならさすがに斬鉄に分があるだろう。実際、斬鉄はすぐに距離を詰め時光をブロックしようとする。
「ぐッ……!」
「速いだけじゃ俺には勝てないよ?」
だが時光はそれでも止まらない。身体を入れられても倒れない凄まじいフィジカルにより引き離せはしないがボールを奪われることは無い。そんな状況が続き、時光はとうとうバスタード・ミュンヘン側、ペナルティエリアの右端へとたどり着いた。
「そこだね」
身体をぶつけられながらもど真ん中へセンタリングを合わせる。そこに走り込んでいるのは乙夜、國神、そして更に一際目立つ長身の男だ。
「高……!」
「高いか? んじゃ低くいこう」
マンシャイン・シティの中心選手、アギ。その長身は蟻生にも勝るとも劣らない。ビルケンシュトックとの空中戦を難なく制し、彼は時光からのクロスをピンポイントでゴール左隅、地面スレスレのところに頭で叩きつけた。高所ばかり警戒していたGK、バッハマンは反応が遅れ間に合わない。
「高いとか低いとか関係ないし」
「……!?」
ゴールに入ったかと思われたアギのヘディングシュート。しかしそれをゴールラインスレスレのところで依桜が飛び込んで防いだ。シュートを止められたアギは驚愕しつつも興味深そうに依桜を見る。
「はじめまして姫宮依桜。早速だけど分析させてもらうよ
「勝手にどうぞ赤ちゃんノッポ。高い高いしてあげようか?」
アギの言葉を依桜は興味無さそうに軽く流した。確かにアギは脅威ではあるが、それよりも今気になるのは時光の進化だ。能力が向上しているのもそうだが、どうやってあのネガティブな性格を克服したのか。
「いいぞ青志、その感覚を忘れるな。自信さえ持てば君は
時光の進化を促した張本人、世界最高クラスのサッカープレイヤーでありイングランドの指導者、クリス・プリンス。彼は時光を賞賛しながら彼と初めて出会った日のことを思い出す。
──20日前
「ようこそ
他の国と同じように、イングランドに行ったブルーロックメンバー達は指導者であるクリス・プリンスと対面していた。彼の独特のノリに困惑する者や逆に乗っていく者がいる中、まずはクリスによるヒアリングが行われる。
「このマンシャイン・シティでは君達の潜在的身体能力を最大に引き出す『肉体革命』を行うんだが……闇雲に鍛えればいいというものじゃない。選手により筋肉の使い方は様々、だからまずは個別トレーニングを組むためのヒアリングだ。まずは時光青志、君はどんなプレイヤーになりたい?」
「うぇ!? お、俺ぇ!?」
いきなり指名されて慌てふためく時光。突然そんな事を聞かれてもと頭を抱えている。
「いや俺は別に……俺なんかが理想を持つ事自体がおこがましいというか……調子乗ってるって思われちゃうかもだし」
「……おいおい、そんな思考じゃ世界一にはなれないぞ?」
「あ、ごめんなさい! だ、ダメだ……どんどんネガな方に考えちゃう……そもそも世界一なんてちょっとでも夢見ちゃったのが……ああ、せっかくここまで生き残ったのに……!」
「なるほど……素晴らしい筋肉を持っているがその反面極端に自己評価が低い。いや、その自信の無さ故に手に入れた肉体ということか」
時光のあまりのネガティブさにさすがのクリスも少し引いているが、しかしすぐに打開策を見いだした。彼はどこからかペットボトルを取り出すと、それを高々と持ち上げた。
「そんな君にはこれ! プリンスウォーターだ!」
クリスはいきなりペットボトルを放り投げるとユニフォームを脱ぎ、自らの肉体を顕にした。しかも監視カメラ目線でだ。肉体自体はボディビルダーにも劣らない筋骨隆々だが、行動はまるで理解できない。
「……なんで監視カメラ目線なんだ」
「なるほど……オシャだな」
國神など一般常識を持っている者はクリスの行動に戸惑っているが、蟻生はどうやら理解出来ているらしい。しかしオシャ、つくづく便利な言葉だ。
「俺は自らと向き合い! 問いかけ! そして理想を追求することでここまで来た! それを手助けしてくれたのがこのプリンスウォーター! だから時光青志、君もこの水を毎日飲むんだ! そうすれば君は世界一になれる!」
「えぇ!? そんなんで世界一なんてなれる訳……」
「No! このクリス・プリンスが保証する! 自信を持て! 自分を信じろ! そうすればこの鍛え上げられた筋肉が必ず高みへと連れていってくれる! そしてそれを更に強くするのが俺の役目だ! だからまずは、このプリンスウォーターを飲め! いいね!」
「は、はいぃぃ!」
クリスの勢いに思わず返事をしてしまった時光。それから彼は毎日クリスに言われたトレーニングをこなし、プリンスウォーターを飲み続けた。最初は半信半疑だったが毎日続けると段々自信を持てるようになってきた。嘘みたいだがその変わり様は他のブルーロックメンバーが水に薬物でも入れているのではと疑う程だ。
「プリンス……あれ本当にただの水なんスよね?」
そして現在、時光の活躍をベンチで見ていた仁王がクリスに質問した。流石にないと思うが、聞かずにはいられなかった。
「当然! 彼に必要だったのはなんでもいい……俺ならやれるという自信だ。こういう時は案外、非科学的なマジックが役立つからね!」
〖時光青志〗
攻撃力A 88
シュートA 81
ドリブルA 85
パスB 76
守備力S 93
速さS 94
総合評価S 91
「奪えるよアギくん!」
「OKアオシ」
ボールを奪った依桜、しかしまだアギのリーチ圏内だ。ゴール前、奪われれば失点は必至、1on1はリスクが高い。故に依桜は右サイドの下僕へとパスを出す。
「行くよにじまる!」
「はい! どこまでもついて行きます!」
七星を使い右サイドを駆け上がる。相手ディフェンスはこの二人のワンツーについて来れない、しかし七星もかなりギリギリだ。
「速ぇ……!」
「うぐッ……キッツいべ……!」
「ホラ、チンタラしてたら置いてくよ!」
依桜の速さ、そして受け手のことなど考えないシュート並のパスに七星はついて行くだけで精一杯だ。
「やらせっかよ!」
「えァ……!?」
マンシャイン・シティのDFがパスを受けた七星に無理やり身体を入れてきた。ファウル覚悟で強引に行かなければ止められないと思ったのだろう。だが七星は体勢を崩されながらも意地で依桜にパスを繋いだ。
「ぐッ……後は頼みます……!」
「いいじゃん下僕、合格♡」
突っ込んできたDFと一緒に倒れ込んだ七星にウィンクをし、依桜はパスを受け取る。ペナルティエリアのやや外、しかし狙うには十分すぎる距離だ。そのまま足を振り抜こうとするが。
「クッソただいま」
「……! バカイザー!?」
「帰って来てやったぞ依桜。ホラ、こうすりゃクソ台無しだヒョロピン」
直前、カイザーに身体をぶつけられ妨害された。依桜の体格の弱さを利用した強奪行為、前回の試合からカイザーに狙われているポイントだ。
「バ〜カ、いつまでも同じ弱点ぶら下げてるワケないでしょ!」
「……!?」
カイザーに身体をぶつけられた依桜、しかし這いつくばっても両手で地面を軸に身体を支え倒れない。そのままカイザーの勢いを逆に利用し回転、彼を地面に倒れさせると不安定な体勢のままシュートを放った。
(なんだ……!?
「あい、バカイザー終了〜♡」
「チッ……!」
短期間での依桜の成長に驚くカイザー。ここぞとばかりに彼を煽り倒す依桜、そしてベンチで自らの特技と口調をパクられたことにイラついている清羅。そんな彼らが見守るシュートは意外な結末を迎えた。
「ちゅーす」
「……は!? 乙夜……!」
依桜のシュートを乙夜がカットしたのだ。まさか防がれると思っていなかった依桜はシンプルに驚いた。しかも今までの乙夜だったら恐らく間に合っていなかっただろう。彼の身体能力もまた、かなり高まっている。
「惚れた姫君? バキュン」
「……へぇ、成長してるじゃん忍者くん」
手短に依桜に向けて指を銃に模して撃ち抜いた後、乙夜は前線にパスを出し自らも走り出す。今度はマンシャイン・シティのカウンターアタックだ。
「いけ影汰、今度は君の番だ。俺に語った理想を成し遂げてみろ」
〖乙夜影汰〗
攻撃力S 95
シュートS 90
ドリブルA 87
パスB 73
守備力B 77
速さS 96
総合評価S 93
スピード&ラッシュ、イングランドの猛攻は加速していく。乙夜影汰というシャドウストライカーを乗せて。ドイツVSイングランド、その激闘はまだ始まったばかりだ。