活動報告にてネオエゴ開始時点での依桜くんのプロフィールを載せてます。見なくても支障ないですけど見てもらえたらもっと楽しめるかも?本編で載せたプロフィールと変更点あります。
「じゃあ次は……乙夜影汰! 君の理想を教えてくれ!」
「……姫宮に勝ちたい」
イングランドチーム、クリス・プリンスのヒアリングの順番が乙夜に回ってきた。彼は一瞬考えると、普段とは違う落ち着いた口調で言葉を紡いだ。
「
「一応。俺はそう思ってるけど……多分向こうは俺の事なんかもう眼中にねーんだろうな」
どこか悲しげな、そんな印象を受ける声だった。普段の良くも悪くもノリの軽い乙夜らしくない、他の面々にはそんな風に聞こえる。
そもそも乙夜影汰という人間は今までノリで生きてきた。基本的に悩まないし、悩むということは今の自分にはできないというコト。そんなことはやりたくないし、やらなくていい。好きなことだけやって、格好よく人気者になって、女の子と遊んで、ノリで世界一になりたいと思っている。そんなスタンスでもここまで来れたのは彼の才能だろう。
しかし中学3年生の時、人生で初めて壁にぶち当たった。姫宮依桜と瀬名透子、彼らに完全敗北した乙夜は生まれて初めてアイツらに勝ちたいと悩み、努力した。そして3年後、ブルーロックで姫宮依桜と再会した。彼は変わらず強かった、しかしあの頃のようなエゴを失っていた。その理由はすぐにわかった、瀬名透子の死を知らされたからだ。
リベンジする相手を一人失った乙夜だが、姫宮には絶対勝ちたいとブルーロックを生き残ってきた。しかし対Uー20戦に向けたトライアウトでは姫宮が3位、乙夜が6位。その後のUー20戦でも姫宮は覚醒し4点を奪い、守備にも貢献する大活躍。一方の乙夜は1点も取れなかった。リベンジするどころか、更に差をつけられてしまったのだ。
「……なるほど、ワケありみたいだな。わかった、それで具体的にはどーやって勝つイメージだい?」
「イメージ…………わかんねー。俺の武器は裏抜けと狭いとこを抜けるスピードだけど、これをどう鍛えてもアイツに勝てる気がねーし」
「確かに……俺も見たが彼の実力はUー20カテゴリではトップクラスだ。OK、ならデータを取ろう乙夜影汰。君自身と倒すべき姫宮依桜のデータを」
そうしてクリスは乙夜の身体能力のデータ、そして映像から導き出される依桜のデータ全てを把握し乙夜に最適なトレーニングメニューを作成した。彼はそれをタブレットにまとめ、乙夜に示す。
「面白い結果が出たよ影汰。君と姫宮依桜に共通している武器は直線ではなく、敵味方が入り乱れる密集地帯を抜ける俊敏性。この一点においては殆ど互角だという数値が出た」
「……なるほど」
「しかし肝心のゴール前、シュートまで持っていった際の決定力の違いが君達の大きな差だ。姫宮依桜は天才的身体能力と加速するシュートでどんな状況でもゴールを狙えるのに対し、君は良くも悪くも優秀止まり。彼に勝つにはゴール前で使える新たな武器がいる」
クリスの分析を乙夜は真剣な表情で聞く。確かに、敵の裏を抜けた後の決定的な武器を乙夜は持っていない。今までもそれでも通用していたが、世界クラスが相手なら話は別だ。依桜に勝ちたいとなれば、もっと強力な武器がいる。
「そこでだ! 君の隠密性を活かしたシュートを開発するのはどうだろう!」
「……隠密性を活かした?」
「そうだ! 君はニンジャの末裔なんだろ? 日本のシノビのように、敵の見えないところから放つ意識外のシュート。それをマスターしてみよう!」
「あー、りんりんのやってたやつね」
そうして乙夜の目標が定まった。隠密ムーヴを高めるための基礎身体能力の向上トレーニングと並行し、敵味方を利用したステルスシュートをマスターすることだ。
──そして20日後、バスタード・ミュンヘンVSマンシャイン・シティ
『乙夜影汰! スーパーブロックでチームを救いました! さぁ、今度はマンシャイン・シティの反撃か!?』
依桜のシュートをブロックした乙夜が前線にボールを回す。確保したのは時光、さっきと同じように肉弾戦でゴール前までボールを運ぼうとする。
「同じ手は通用しねぇよ筋肉ダルマ!」
「……! モノマネの人!?」
しかし玲王が強引に身体をぶつけて阻止しようとする。彼のフィジカルもワイルドカードで鍛えられかなりの強さのはずだが、それでも時光はビクともしない。
(こいつ……ビクともしねぇ!? マジでどんな肉体してんだよ……!)
「一人じゃ俺には勝てないでしょ?」
「ああ……! だけど生憎、一人じゃねぇんだよこちとら」
「アイアムシンケンジャー!」
「あ!? また足速い眼鏡の人……!」
玲王が足止めし、斬鉄が俊足を生かしサポートに入る。完全にボールを奪うことはできなかったが、時光の突進を食い止めルーズボールにすることに成功した。
「リベンジャーだろバカ斬鉄!」
「玲王……俺、うぃんうぃんできてるか?」
「おう! マジで使えるぜ最速眼鏡!」
攻守に優れた玲王とUー20カテゴリ最速クラスのスピードを持つ斬鉄。一次選考からの付き合いだがそれぞれがブルーロックで進化を遂げた結果、最強クラスのコンビネーションとなっている。
「万能カメレオンと俊足仕事人のオシャコンビか……要警戒だな」
「行くぜ隠密」
ルーズボールを蟻生が拾い、再び前線へと戻した。右サイドには乙夜が最速で裏抜けを狙っている。しかしフィールドで目立っているのは彼ではなく、ど真ん中でパスを受け取ろうとするアギと國神だった。
「狙い通りか、アギ?」
「ああ……完璧だ」
蟻生からのロングパスをトラップした國神。すぐさまアギへと高いパスを送った。PAのやや外、しかし充分狙える位置にアギが走る。
「やらせっかよノッポ野郎……!」
だが当然アギの長身は警戒されている。メンサーがアギに撃たせまいと無理やり身体を入れてきた。これではさすがのアギも自由には飛べないだろう。
「さぁ、出番だジャパニーズニンジャ」
「ちゅーっす」
「……!? アイツ、いつの間に……!?」
アギがヘディングでボールを右に流した。さっきまでそこには誰もいなかったはず、しかしいつの間に乙夜が走り込んでいた。
「抜き足差し足忍び足……ってか?」
「……! 烏……!」
「どんだけコンビ組んでたと思ってんねん。お前の考えはお見通しやアホボケェ」
しかし乙夜の走行ルートに烏が先回りしていた。これではトラップしても1on1の形になってしまう。烏が乙夜のコトを理解しているように、乙夜も烏をわかっている。少なくとも彼と対決するのは自分が不利だと。
「バーカ、今までの俺と一緒にすんなよ」
「……! スルー!?」
故に乙夜はアギからのパスをスルー。そして自らは烏をかわすオフ・ザ・ボールの動き出し。これに意表をつかれた烏はワンテンポ遅れ、乙夜の突破を許してしまう。
「ナイス乙夜くん」
「ボケ筋肉……!?」
乙夜がスルーしたボールを時光が確保、そのままPA内に走る乙夜へとクロスを上げた。だがそこにはメンサーとビルケンシュトックが待ち構えており、GKバッハマンも警戒を強めている。そう簡単には決められないだろう。
(まだ撃たない? ……まだ……まだか……?)
クロスをトラップした乙夜はメンサーとマッチアップしながらシュートコースを探していた。だがやはりシュートコースは限定されている。バッハマンは乙夜の動きを注視し、いつ撃たれてもいいようにしている。
──そしてメンサーの身体で乙夜の動きが見えなくなった僅か一瞬。
「……は?」
バッハマンの横をボールがすり抜け、ゴールネットへと吸い込まれていった。
(なんだ……いつ撃った……!?)
「任務完了。ニンニン」
GOAL!!!
『来たァ! GK全く反応できない! マンシャイン・シティ、乙夜影汰のステルスシュートで
決められたキーパーは唖然とすることしかできない、人間を利用した隠密シュート。その精度と完成度の高さにフィールドの時間が止まった。
「そうだ影汰! それが君の新たな黄金式!
その完成度の高さは思わずクリスも賞賛する程だ。依桜に勝つために乙夜が磨き上げた武器は、間違いなく依桜の喉元へと迫っている。
「……メンサーを壁にして自分の動きを隠した。それに、キーパーの視界からシュートとビルケンシュトックが重なるタイミングを見極めて……確かにあんなの撃たれたら止められっこないな」
「しかもキック精度や速度、裏抜けの技術もぶち上がっとるやんけ。やってくれるやんチャラ忍者」
ドイツのブルーロック組でも頭脳派な玲王や烏も乙夜のゴールを分析してその進化速度に驚いている。そんか彼らをよそに、乙夜は自陣に戻りながら依桜の目の前を通り過ぎた。
「……まだお前に勝てたとか思ってねーから。いつかぶっ潰してやるからNo.1のまま待ってろ姫君」
「……! あは♪ 最高じゃん。いいよ、いつでも潰しに来て。返り討ちにしてやるから!」
乙夜の言葉に依桜はゾクゾクと身体を震わせた。やはり乙夜は強い、そしてそんな彼が自分に挑戦してきている。これ程ワクワクすることもないだろう。
『さぁ! 一点をリードされたバスタード・ミュンヘン! ここから巻き返すか!? それともマンシャイン・シティが圧倒するのか!? 片時も目が離せません!!』
バスタード・ミュンヘンボールで試合が再開された。ネスからサイドのグリム、そしてカイザーという一連の流れはさっきのプレーで警戒されているはずだ。なのでネスはグリムを囮に使い、カイザーとのワンツーで攻め上がっていく。メタ・ビジョンを使えるカイザーと天才的パスセンスを持つネスがいればそれは難しくないはずだ。
「行かせねぇよ皇帝」
「クソ引っ込んでろオレンジ筋肉」
カイザーには國神がマークについた。時光と同等レベルのフィジカルを持つ彼にはさすがのカイザーも競り負ける。故にやるなら肉弾戦ではなく頭脳戦だ。
「いいぞレンスケ、
「チッ……!」
カイザーが國神に気を取られている隙を見て、アギがボールをカットした。そのまま右サイド、乙夜に長いパスを出す。
「忍ぶ忍ぶ」
「同じ手が二度も通用するかいボケェ」
「……! ウザ烏……!」
「接近戦は苦手やろ忍者くん」
ある程度間合いを取られての裏抜け合戦は烏といえど不利。なので身体を入れ、烏の得意分野であるハンドリングを生かせるディフェンスで乙夜を食い止めた。そしてそこに女王がやってくる。
「ホラ、貢物やで女王サマ」
「ナイス烏ちゃん♪」
「ちぇ……」
烏が時間稼ぎをしている間に依桜が突っ込んでくる。Uー20戦の時に日本代表がやっていたのと同じやり方だ。ボールを奪取した依桜はそのまま逆サイドの七星に強烈パスを放った。
「……!?」
「殆どシュートじゃねぇかこのパス……!」
「……ぐっっ…………! どぎついべ……!」
フィールドのど真ん中を横切るシュート並の二段階加速パスがマンシャイン・シティの選手達の間をすり抜け、七星の元に送られた。距離があるとはいえこれをトラップするのは至難の業、七星も足元に収めることが出来ずに弾いてしまった。
「っ……! 行きます姫宮さん……!」
「来てにじまる!」
しかし気合いで左足を伸ばし、なんとかセンターサークル付近に走ってきた依桜にパスを出し、自身を右サイドを駆け上がる。
「バイバイきんに君!」
「くッ……!」
詰めてきた國神を七星にパスを出し、自身は裏に抜けることでかわした。そして七星から戻ってきたボールをトラップし、ワンツーの形を作り出そうとするが──
「ちゅーっす、ヤリ返し」
「げ……! 忍者!?」
それを乙夜にカットされてしまった。彼が弾いたボールは宙を舞って無造作に落ちていく。
「でも、まだギリ届くよ……!」
「ナイスカットだエイタ。後は俺が……!」
「ノッポ赤ちゃん……!」
乙夜がカットしたボールだが、依桜はすぐさま反応し確保に向かう。彼の速度ならギリギリ間に合いそうだが、アギも距離を詰めてきている。
「奪えネス!」
「はいカイザー!」
「バンダナへのパスコース切れ!」
「トラップさせんな!」
しかもネスまで来ている。更にマンシャイン・シティの守備によって七星へのパスコースも遮断されてしまった。これではトラップしたらアギやネスに囲まれるし、かと言ってパスも出せない。
「……♡ ヤバッ……皆ボクに夢中じゃん♪」
(飛びあがった……!?)
この状況でも依桜は笑い、落ちてくるボールに向けてジャンプした。その意図がわからずアギもネスも困惑する。そんな彼らを嘲笑うかの如く、依桜は足を振りかぶる。
(まさか撃つ気か!? ゴールまで50m近くあるぞ……!?)
「もっとメロメロにしてあげる!」
センターサークル付近、距離にして約50mの位置からの空中ボレーシュート。しかも士道のようなドライブ回転がかかっており、シュートはゴール目掛けて落ちていく。こんなシュートは誰も予測していない。当然キーパーも予期していないので前に出ていた。
「クソッッ……! 届け……!」
ボールの落下地点目掛けて後方にジャンプする。必死に手を伸ばすがギリギリ届かない。シュートはゴールの中でワンバンドするとゴールネットを激しく揺さぶった。
GOAL!!!
『…………ス、スーパーゴ──ール!!! 超絶ロングシュートが決まったァァ!! これが
「マジか……」
「バケモンゴールやないかボケ女王が……!」
「ソーシャルオシャタンス!!! なゴールだ」
「姫宮さん! 神っす神! やっべぇ!」
「あは♪ 惚れた?」
「惚れたっす! じょわじょわエグいべ!」
依桜に抱きつく七星、脅威的なゴールに驚く選手達。ブルーロックTVを視聴しているフットボールファン達も思いがけないスーパーゴールに沸いている。依桜は今この瞬間に限れば世界で最も注目されているフットボーラーと言えるだろう。
「これが
「ちぇっ……喰らいついたと思ったらまた引き離しやがって。ムカつく」
依桜のゴールにあのクリス・プリンスでさえ興奮を隠しきれずにいる。そして乙夜はライバルの活躍にエゴを燃やすのだった。
「おひょっ……! 激ヤバ」
「どうしたアギ?」
「いや、今のシュート分析したら鳥肌止まんなくて。だってあんな位置からのシュート、思いついたとしてやらないよ普通。しかも空中で完璧に決めちゃってるし……アレ決められる奴なんて世界中探しても見つかんないでしょ。ヤバッ……ヤババ」
Drと呼ばれる分析屋であり、今まで数多くの選手を分析してきたアギからしても今のシュートは鳥肌モノだ。人間離れした身体能力とシュートセンス、そしてサッカーに全振りした才能がないと到底不可能だ。
(ありえないありえないありえない……あんなゴール!! でも……あれが依桜の魔法?)
「どうしたネス? そんなクソ湿気たツラしてたらハエも寄ってこないぞ?」
「カ、カイザー。でも……あんなゴール決められたら……!」
「慌てんなマヌケ。どんなゴールだろうが1点は1点だ。まだチャンスは2点分あんだぞ。依桜を殺すには十分すぎる条件だろ?」
「……! わかってますカイザー。依桜は僕が封じ込めます……!」
「それでいい、良い子だネス」
カイザーより先に依桜に点を取られ慌てるネス。しかしカイザーは彼を落ち着かせると冷静に諭した。重要なのは経過ではなく結果。最後に生きているのはどちらか……だ。
「さぁ、もっと見てよ
「上等だ……望み通りクソぶち殺してやるよクソビッチ」
乙夜と依桜のゴールで盛り上がりは最高潮に達した。全員が次の英雄になるべくボールを追いかける。目が離せないこの一戦、結末は誰にも予想できない。