〖ブルーロックRPG〗実況プレイ   作:マルメロ

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神さまはいない

 

 

 スナッフィーが依桜を封じ、依桜がスナッフィーを食い止める。カイザーもロレンツォ相手に新兵器を完成させようと立ち向かい、そして凪と玲王もお互いを意識しバチバチにやり合っている。フィールドはまさにデュエルの連続だ。

 

 

「ああもう! あのワシみたいな鼻のオッサンウザイんだけど!」

 

「アホ、あのスナッフィーがお前を最大限警戒しとるんや。非凡の極みやろ」

 

「せっかくボクが目立てると思ったのに。……決めた、アイツが出てる間に絶対ゴール決めてやる!」

 

 

 スナッフィーに激しくマークされ、依桜は苛立ちを募らせていた。今の依桜ならスナッフィーがいなければ文字通り無双できてもおかしくないが、やはり1点目を決めた時点でかなり警戒されてしまっているようだ。

 

 

『さぁユーヴァースのコーナーキックチャンス! キッカーは凪誠士郎だぁぁ!!』

 

「へぇ、シローが蹴るんだ……なんか面白そ」

 

 

 コーナーキックのキッカーは意外にも凪。今までの彼なら中央でパスに合わせたプレーをしていたはずだが、彼らの狙いは一体なんなのか。

 

 

「……そこだ」

 

「……!!?」

 

 

 助走をつけた凪がPA目掛けてボールを蹴り込む。ゴール前は大混戦になる中、ボールはそこを越えて逆サイドへと飛んで行った。

 

 

「どこ狙って……!?」

 

「OK拾える」

 

「黒名……!?」

 

 

 逆サイドまで飛んで行ったボールを黒名が確保、そしてそのまま今度はゴール前へと戻した。フィールドが一瞬硬直する中、黒名のクロスはゴール前まで走っている凪へと送られる。

 

 

「うん、この混乱が欲しかった」

 

「コイツ……!?」

 

 

 ゴールラインスレスレでパスをトラップした凪はそのまま反転、シュートモーションに入る。一次選考、斬鉄からのパスをトラップしたシチュエーションに酷似しているが、凪からの黒名からの再び凪という新たな形で再現したのだ。

 

 

「甘々トラップだよシロー!!」

 

「……!? もう……マジで邪魔お姫さん」

 

「ナイス姫宮! セカンド!」

 

 

 凪の反転ボレーシュートを間一髪のところで依桜が弾いた。無造作に転がったボールはゴール前に無防備に置かれている。そこにいち早くたどり着いたのは雪宮だった。

 

 

「ゴールチャンス……!!」

 

「いや、ノーチャンだろ!!」

 

 

 雪宮のシュート。今度はそれを閃堂がダイビングヘッドで阻止した。再び弾かれたボールはPA外まで飛び出し、玲王の足元に落下する。

 

 

「行くぞ反撃(カウンター)……!」

 

 

 敵はコーナーキック直後でカウンターに対応しきれていない。今なら崩す絶好のチャンスだ。それをわかっているからか、玲王は脇目も振らず最短ルートで敵陣を切り崩していく。

 

 

「レオオ! こっち使って!」

 

「君は自由にさせないって言ったっしょ?」

 

「ストーカーマジウザ……!!」

 

 

 このカウンターに反応しパスを求める依桜。しかしスナッフィーのマークは厳しくパスコースを塞がれてしまった。彼をどうにかしない限り、依桜にゴールチャンスはないだろう。

 

 

(姫宮はスナッフィーのせいで動けない。逆に言えばスナッフィーも姫宮のマークで手一杯ってことだ。ロレンツォもカイザーを常に視界に入れてる、つまり……この状況を打破するのに必要なのはアイツらを必要としない第三の矢……!! 今なら俺が決める絶好のチャンス……!!)

 

 

 バスタード・ミュンヘンの二大エース、依桜とカイザーにはそれぞれマンツーマンマークが張り付いている。玲王にとってはかなりの好条件、巧みなドリブルで相手陣営を突破していく。

 

 

「は……!? この動き、ロレンツォのゾンビステップ!?」

 

 

 上半身と下半身の動きが連動せず、相手に読ませないロレンツォのドリブルスタイル。玲王の動きはそのコピーだ。完成度は本物のそれと比べれば落ちるが、玲王自身の能力を考えればかなりのモノになる。

 

 

「行かせん……!」

 

「……」

 

「くっっ……!?」

 

 

 超のプレスをもかわし、玲王はただ一人ゴール前へと抜け出した。あとはイタリアのDF二枚だけ、それさえ切り抜ければシュートが撃てる。

 

 

「シュートコース塞げ!!」

 

「クソ節穴」

 

 

 しかし玲王はシュートコースを塞がれる前に超速で足を振り抜いた。カイザーインパクト×ゾンビステップ、11傑のコピー同士を組み合わせた玲王にしかし出来ない超攻撃だ。

 

 

「危ね……マジギリギリ届いた……!」

 

「凪……!?」

 

「信じてたよ、玲王。お前ならここに来るって」

 

 

 しかし玲王のカイザーインパクトは凪に止められてしまった。凪は玲王がボールを持った時からシュートまでたどり着くと想定して走っていた。玲王の能力を信じていたが故に出来たプレーだ。

 

 

「ナイスブロックです凪くん。行きます速攻」

 

 

 依桜の躍動、スナッフィーの投入、フィールドはかつてないほど荒らされた状況だ。今ならデザイン通りのカウンターができる。ボールを拾った二子はメタビジョンで瞬時にフィールド全体の状況を見極め、最適なルートを選択する。

 

 

 ──だが。

 

「……!? ……は? 雪宮くん……!?」

 

 

 次の瞬間、二子の足元からボールが消えた。なんと味方であるはずの雪宮からボールを奪われてしまったのだ。突然のことに思考が止まり、二子はその場に立ちつくす。

 

 

「ちょ……パターン違反……! てか暴走……!?」

 

「うっせぇよ、この試合は俺がもらう。俺には時間が無いんだ……!」

 

 

 そのまま雪宮はたった一人でバスタード・ミュンヘンゴールへと切り込んでいく。敵味方共にカオスと化したこのフィールド、雪宮のストリートドリブルスタイルとは相性抜群だ。

 

 

「眼鏡対決なら負けん!」

 

「独走かよコイツ……!」

 

 

 斬鉄と閃堂が雪宮の進路を塞いだ。しかし雪宮のパワーとスピードを兼ね備えたドリブルでたちまち抜かれてしまう。

 

 

(俺の狙いは最初(ハナ)から無警戒のカウンター一撃……! この混乱をかいくぐって……俺のゴールを……!)

 

 

 誰にもパスを出さず、一人独走していく雪宮。その脳裏にはこれまでのフラッシュバックが流れていた。目の疾患を患い、一度は絶望の淵にまで追い詰められた過去。しかしその苦しみも全てはこの時のためにあったのだ。

 

 

『先生……俺、この眼のことやっと認めて受け入れられる気がしたんです』

 

 

 ──神さまは乗り越えられない試練は与えないって言うでしょ? だからこれは俺に与えられた……乗り越えられる運命だと思うんです! 

 

 

「おー、暴走ユッキーOK?」

 

「ハッ……! 一人ストライキかい、それは無理があるやろ」

 

「止めてみろ凡烏……!」

 

 

 烏のハンドワークを紙一重のところでかわす。今の雪宮の集中力は普通じゃない、既に4人、そしてビルケンシュトックのスライディングも避けてしまった。これで5人目だ。

 

 

「クソッッ……!!」

 

 

 ──神さまは乗り越えられる試練しか与えない

 

 

「焦ってるのバレバレだじょユッキー♪」

 

「乗るかよその挑発……!」

 

「な……!?」

 

 

 日不見も避け、PAへと迫る。後は前方に七星、そしてキーパーのみ。もう少し持ち込んでシュート、それで全てが報われる。今までの努力が実るのだ。

 

 

 ──神さまは乗り越えられる試練しか与えない……! 

 

 

「楽しそうじゃんユッキー! ボクも交ぜて♪」

 

「来たな姫宮(ラスボス)!!」

 

 

 だが雪宮の前に最後に最大の壁、依桜が立ちはだかった。彼を突破しなければシュートは撃てない。だがこれはチャンスでもある、ここで依桜を倒せば雪宮剣優の名は世界に轟く。世界一のストライカーへの道のりがぐっと近くなる。

 

 

「ずっと狙ってたの? いいねエゴくて!」

 

「ぶち抜く……!」

 

「そーゆーの嫌いじゃないよメガネちゃん!」

 

 

(お前を倒して俺が青い監獄(ブルーロック)のNo.1になる! これまでの苦労も、涙も、全てはこの時のためにあったんだろ!!!)

 

 

 ──神さまは乗り越えられる試練しか与えない……!!! 

 

 

──神さまは乗り越えられる試練しか与えない…………!!!! 

 

 

──神さまは乗り越えられる試練しか与えない…………!!!!! 

 

 

神さまは──―!!! 

 

 

 

 

 

 

 

「トロイよユッキー♪」

 

「……え?」

 

「そんなんじゃ、一生かかってもボクには勝てないね!!」

 

 

 世界が回った。廻る視界と共に訪れるのはジンジンとした膝の痛み。止められた、そう理解するのには数秒がかかった。ボールはいとも容易く奪い取られ、雪宮は転倒してしまったのだ。その後に芽生える感情は絶望。人生を賭けた一世一代の大勝負、それは姫宮依桜によって簡単に打ち砕かれてしまった。

 

 

(……止められた? え……?)

 

 

 自分からボールを奪い、攻める依桜の背中を雪宮は呆然と眺めるしかなかった。地面に座り込み、芝生を握りしめ必死に冷静さを取り戻そうとするが心臓の音がうるさすぎてままならない。

 

 

「今度はボクの暴走タイム♪」

 

「俺とやろうよぉ姫ちゃん」

 

「姫宮さん、お願いします! 俺使ってください!」

 

「……! ナイスにじまる!」

 

 

 だが時間の流れは残酷だ、止まってなどくれるはずもない。ロレンツォとマッチアップした依桜はサポートに入った七星にボールを預け、自らはスナッフィーの裏に抜けるために走る。

 

 

(終わる……? こんな簡単に……俺の人生が……夢が……?)

 

 

 混乱している雪宮を蚊帳の外に、バスタード・ミュンヘンの攻撃が加速する。依桜、七星、そして烏のトライアングルがユーヴァースの守備を崩していく。

 

 

(ふざけんな、終わっていいはずがない……! 才能ある奴だけが報われるなら……この世界は間違ってる……! 潰す……姫宮……!!)

 

 

 無理やり立ち上がった雪宮は歯を食いしばり走る。脇目も振らず一心不乱に、己の人生を守るために。そして何より姫宮依桜を倒すために。

 

 

(雪宮さんが焦ってる気持ち……俺にはわかる気がするっぺ)

 

 

 七星は走りながら思考する。雪宮と七星は年俸ランキング上位23名のボーダーライン、23位と24位に立たされた者達。故に焦る気持ち、現状を打破したいという思いは理解出来た。

 

 

(今の俺は姫宮さんの味方でいるから評価されてるけど……これ以上高い年俸を貰うためにはきっと、それ以外の何かがいるはずだべ……!)

 

 

 現状、七星の評価理由は依桜をアシストしているから。それ以上でもそれ以下でもなく、そこが個人で武器を持つ雪宮との大きな差だろう。上位23人に入りたいのなら、きっとそれだけではダメなのだ。

 

 

(……ッッ! 足が……! 治ったはずなのに、さっきの姫宮さんとのプレーで……!)

 

 

 前回の試合で捻ってしまった足。それ自体は大した怪我でもなく、すぐに復帰出来たのだが先程依桜との連携でついて行こうと無茶をしたせいでまた痛みが強くなってきてしまった。

 

 

(いや……甘えんな俺! 悪いのは実力不足の自分……! 証明しろ、この試合で……七星虹郎の価値を……!)

 

 

 右サイドからフィールド中央を見る。ボールを持った依桜の前にスナッフィーが割って入っている。パスは許す、しかしドリブル突破だけは絶対にさせない守り方だ。

 

 

「抜いてみろよ女王様」

 

「ホントしつこいクソワシ指導者(マスター)!!」

 

 

 総合力ならノエル・ノアすら上回り間違いなく世界一なのがこのスナッフィーだ。今の依桜ですら純粋な1on1では分が悪い。ならば重要なのは依桜をサポートする第三の存在。

 

 

「姫宮さん!」

 

「……!」

 

 

 依桜をサポートするようにサイドから駆け上がる七星。それを見た依桜は彼に向けて強烈なパスを出した。

 

 

「ナイスだべ」

 

「視えてるよ、そのコンビ♪」

 

「……柊さん!?」

 

 

 ワントラップし依桜へのパスコースを作り出す。そのはずだったが、七星の前に読んでいたのか柊が飛び込んできた。トラップしては取られるし、かといってダイレクトでも間に合うかわからない。

 

 

(どうするべ……? 一旦烏さんに下げて…………いや、ここは……!)

 

「……!?」

 

 

 両利きを活かした左ダイレクトパス。と、見せかけて七星は左足をわざと空ぶった。まるで先程の凪のジャグリングショット、それをこの土壇場でトレースしたのだ。左で出すと思われたパスをタイミングをずらし、ゴール前へと供給する。

 

 

(俺が姫宮さんをスナッフィーに勝たせる!! それが俺の存在証明……!!)

 

「マジ最高だよにじまる♡」

 

「……!!?」

 

「抜けた……!!」

 

 

 誰にも予想出来なかったプレー。故に大切なのは一番早く反応すること、それが出来るのはこの場で依桜しかいない。スナッフィーよりも一瞬早く動き出した依桜は遂にスナッフィーの裏を抜け、キーパーと1VS1の状況を生み出した。

 

 

「行け姫宮さん!!」

 

「OK!!」

 

 

 PA内にはギリギリ入っていない。しかし依桜は迷わずシュートモーションに入った。この位置からなら確実に決められる自信があるからだ。後は足を振り抜き、シュートを叩き込むだけ。

 

 

(やらせない……姫宮殺す……! 狩る、潰す……!!)

 

「は……?」

 

「姫宮さん……!!?」

 

 

 ピ──ーッッ!! 

 

 

 追いついてきた雪宮の背後からのスライディングタックル。それに削られた依桜は派手に転倒してしまった。無我夢中だった雪宮は我に返り、ハッとした表情で依桜を見る。

 

 

『背後からの悪質な得点機会の阻止とみなし……雪宮剣優、イエローカード!』

 

「大丈夫か姫宮!!」

 

「痛った……! うん、大丈夫。平気平気」

 

「おい!! アレ一発レッドやろ!! どこ見とんねんポンコツ審判!!」

 

 

 玲王が依桜を心配して駆け寄り、烏はスピーカーに向けて判定への抗議を訴えた。幸い依桜に怪我はなく、玲王の手を借りすぐに起き上がった。

 

 

「おい雪宮! さすがにやりすぎだろ、お前!」

 

「……」

 

「なんや、いつになく余裕なさげやんユッキー」

 

 

 烏の問いにも答えられず、雪宮は呆然と立ち尽くしていた。そんな彼を依桜は削られた怒りもあってか軽く吐き捨てた。

 

 

「ほっときなよ。どうせ結果出せなくて勝手に焦ってるだけでしょ」

 

「……ッ! そうやって自分より下の奴を見下して……! お前みたいに才能あるだけの奴が報われるならこの世界は間違ってる……!」

 

「……は?」

 

 

 雪宮の言葉に依桜の眉間が動く。実際、彼の言うことは検討ハズレだ。依桜が才能だけでなく、類まれなる努力やそれこそ命を捨てる覚悟でここにいることはみなわかっている。しかし、今の周りが見えていない雪宮はそれが理解できなかった。

 

 

「別に弱い奴がどうなろうとどうでもいいし。ボクが興味あるのはボクとやり合える奴かボクに従う下僕だけ……アンタはどっちでもないね、ユッキー。そうやってずっと負け犬みたいに叫んでたら?」

 

「な……!?」

 

 

 興味が無いと吐き捨てられた雪宮は去っていく依桜の背中を見つめることしかできない。相手にすらならないと現No.1からの実質的な死刑宣告。拳を握りしめ、怒りを募らせるしか無かった。

 

 

「ボクが取ったFKだからボクが蹴るよ。文句ないでしょバカイザー?」

 

「……好きにしろ」

 

 

 フリーキックの位置はPAのすぐ外、中央よりやや右側の場所だ。十分に狙える位置。蹴るのは依桜かカイザーになるだろうが、これは依桜が獲得したフリーキックだ。依桜は自分が蹴ると主張し、カイザーも合意した。

 

 

「やっぱり直のシュートは警戒されてんな……どうする女王サマ?」

 

「う〜ん……じゃあさ、こんなのはどう?」

 

 

 依桜と烏が話し合っている中、カイザーは依桜から手柄を横取りすることだけを考えていた。依桜は間違いなく自分で狙ってくる、ならばそれをかっさらうだけだ。

 

 

(あの位置から狙うとしたら壁の上を通して右か、カーブをかけて左か……どっちにしろ、蹴ってからじゃ間に合わねぇ。左か右か、クソ博打(ギャンブル)だがどっちかに賭けて先に走るしかない……シュートを直接叩き込むか、キーパーが弾いたのを押し込むか……)

 

 

 当然依桜がカイザーにパスなどしないだろうし、ゴールのどこを狙うかは考えるだけならできるが結果は蹴った後にしかわからない。だから難しく考えず、勘を頼りに狙うしかない。

 

 

「壁、もうちょっと左です。コース塞がなきゃまたあの無回転の餌食に……」

 

「おう」

 

 

 最低限、コースを絞らなければ先程の無回転シュートを決められる。依桜のカーブシュートの精度はわからないが、最低限は警戒すべき。だがそのコースにはスナッフィーがいる。やはり最重要なのは直線でたたき込める右のルート、そこだけは絶対に狙わせてはならない。

 

 

(……でも、あの加速するシュートも考慮すれば全対応はまず不可能。ある程度は仕方ないと割り切って賭けに出るくらいじゃなきゃ止められない。左はスナッフィーがいるから、僕らは全員で右を警戒……)

 

 

 依桜の得点能力を直で体験してきた二子は警戒心を最大にする。ただ、どれだけ考えようが止められないものは止められない。ある程度は割り切り、自分達で止められることに賭けるしかないだろう。

 

 

 ピ──ーッッ!! 

 

 

(来る! キッカーはやっぱり姫宮くん!!)

 

「ぶっぱなす……なんちゃって♡」

 

「……!? 烏くんにパス!?」

 

「ホラ、決めろや女王サマ」

 

(一旦烏くんに預けてシュート位置をずらした!?)

 

 

 ホイッスルの合図が鳴ると依桜はボールに向けて全速力で走り出した。そして思いっきりシュートを撃つと思わせ、横にいた烏にボールを預ける。そして烏はすぐに依桜にボールを返した。距離にしたら精々1m程度、しかし確実にシュート位置を変えられてしまった。

 

 

(ヤバい……! あそこからなら壁の横を通してゴール隅を狙える……!!)

 

「激ヤバ狙い撃ち➸♡!!」

 

「……!! やっぱり狙ってきた……!!」

 

 

 二子の危惧通り依桜はボールをズラしたことで生じたスペースを狙ってきた。壁の右側を通り、ゴール右上の隅に入るコースだ。

 

 

「いや、触れる……!!」

 

 

 しかし壁に入っている選手も強豪ユーヴァースの正DF。シュートに触れようと身体を反転させ必死に足を伸ばした。ギリギリ触れる、そう思われたが依桜のシュートは普通じゃない。

 

 

「な……!? 加速した……!!?」

 

 

 そう、依桜の代名詞である加速するシュートだ。タダのシュートなら止められていたが、依桜の放ったシュートはギリギリのところで加速し壁の横をすり抜けていく。無理な体勢から反転してのシュートブロックだったため、DFはそのまま地面に倒れ込んだ。

 

 

「クソ安直なクソ(アイデア)なんだよ……!」

 

「カイザー!!?」

 

 

 しかしただ一人、これに対応出来ていた人間がいる。カイザーが依桜のシュートコースに割り込んできたのだ。ギリギリだが、シュートをかっさらって自分のモノにできる。しかし依桜のシュートはもう一段階、奥の手を残している。

 

 

「あぼーん♡」

 

「あ……もう一回加速」

 

「クッッッソがぁ…………!!」

 

 

 カイザーのプレーに一瞬喜びを顕にしたネスだが、依桜のシュートはもう一回加速させることが出来る。それを思い出しシュートの行方を見守るが、懸念通りカイザーの目の前でシュートは加速し彼の追跡を振り切って行った。

 

 

「くっっ……!!」

 

 

 キーパーが横っ飛びで防ごうとするが間に合わず、シュートは無慈悲にもゴール右角へと叩き込まれた。

 

 

GOAL!!! 

 

 

『2ー0!! バスタード・ミュンヘン突き放した!! cute&beauty!! 姫宮依桜がまたしてもスーパーシュートを叩き込んだァァッッ!!』

 

 

「いや……エグいですって」

 

「さっすがぁ♪ もう4億以上は確定でOK?」

 

「ガチでヤバいね……お姫さん、最強じゃん」

 

 

 スナッフィーのいる状況下でこの二点目はあまりにも重い。あとが無くなったユーヴァースにより一層緊張感が漂い始める。

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「カ、カイザー……」

 

 

 カイザーの咆哮がフィールドにこだまする。依桜との約束はゴールの数での勝負、ルール上先に二点を決められた時点でカイザーの敗北は確定してしまったのだ。

 

 

(僕とカイザーが負けた……なのに、なんだろう……この胸の高鳴りは? どこか懐かしくて……身を委ねてしまいたくなる衝動……)

 

「やった2点目! ホラホラ、カメラこっちだよ!」

 

(魔法……あれが……依桜……依桜……依桜……!!)

 

 

 ネスの胸の高鳴りは留まらない。負けて悔しくて、惨めなはずなのに負の感情が湧いてこないのだ。この感情の正体はネス本人にもわからない。ただ今はカメラ目線でゴールパフォーマンスをする依桜を眺めるしか出来なかった。

 

 

(神さまは……俺に試練なんて与えていなかったんだ。だって……神さまはここにいる。姫宮(アイツ)が……このフィールドの神さま)

 

 

 膝から崩れ落ち、雪宮は絶望する。実力の違い、運命力の違い、姫宮依桜と自分とでは格が違ったのだ。勝てると思い上がったのが運の尽き。自分はこのまま消えてなくなる、タダのモブキャラだったのだ。

 

 

「女神さま……」

 

 

 涙を浮かべて雪宮はただ呟いた。それがどういった感情から生まれた言葉なのかは本人にもわからない。だが雪宮の心はへし折られてしまった、それだけは確かだろう。

 

 

「いっっ……!! くそぉ……!」

 

「……! おい七星、大丈夫かお前!」

 

 

 左足を抑えて苦悶の表情を浮かべる七星。斬鉄が心配し駆け寄るが、これは前の試合の時より怪我の具合が悪そうだ。

 

 

「怪我、治ってなかったのか?」

 

「いえ……治ってはいたんですけど。さっきので無理に着地したせいで……!」

 

 

 無理な体勢からのジャグリングショット。本来凪や依桜クラスの身体能力を必要とする技を無理やり使ったのだ、その反動はあまりに大きい。

 

 

「交代だ、七星虹郎」

 

「……!!」

 

「それ以上無理をすれば選手生命に響く。下がれ七星虹郎」

 

「……はい」

 

 

 ノアから交代を命じられ、七星は悔しそうに承諾した。怪我の具合は自分で一番わかっている、ノアの言う通りこれ以上はサッカー人生に多大な影響を及ぼす危険すらある。

 

 

「お前はよく戦った……後は任せろ」

 

「はい……お願いします」

 

 

 斬鉄の肩を借り七星はフィールドを後にした。しかし、依桜が一度スナッフィーを超えられたのは彼の貢献度が高い。それは必ずどこかのクラブチームが評価してくれるだろう。

 

 

「代わりにお前が入れ、清羅刃」

 

「……あい」

 

 

 交代枠は清羅。元々純粋な数値では七星より優秀だったのだ、納得の人選だろう。

 

 

『3分間が経過しました。指導者(マスター)ストライカーは選手交代を行ってください』

 

「……! そうか、だったら交代は俺と……雪宮、君も下がれ」

 

「あ……」

 

「君は自分の感情を優先し勝手な行動を取り、チーム全体に大損害を齎した。懲戒解雇級の大失態だ」

 

 

 スナッフィーの交代宣告に雪宮はもはや涙すら出なかった。もうこの結果を受け入れる、受け入れたことにするしかできなかったのだ。

 

 

「じゃあ準備して西岡、五十嵐」

 

「……はい!」

 

「……!? 来た、南無三!!」

 

 

 両者選手交代し、試合は仕切り直し。バスタード・ミュンヘンの有利は揺るがす、さらに頼みの綱のスナッフィーも退場。絶望的な状況だが、スナッフィーはまだ諦めていない様子だった。

 

 

「作戦は伝えた通りだ。このままストレート負けしたくなかったら死ぬ気で喰らいつけ、ユーヴァース」

 

「OK」

 

「OK、やるやる」

 

「OK南無三!」

 

 

 スナッフィーの声でユーヴァースの士気が上がる。このまま完敗などしていいはずがないし、したくない。死ぬ思いでバスタード・ミュンヘンと戦うのだ。

 

 

「あと一点、どういう決着がお望みや女王サマ?」

 

「そんなの決まってんじゃん! ボクのハットトリックで勝つ! これ一択でしょ♪」

 

「OK、配膳は任せろ」

 

「お膳立てだろ……」

 

 

 バスタード・ミュンヘン側も主にブルーロックの士気が高い。姫宮依桜という絶対的女王をサポートするべく、個々が自らの役割を果たすと改めて決意する。

 

 

 波乱に満ちたこと戦い、どのような決着を迎えるのか……視聴者の熱も最高潮に達していた。

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