『姫宮ガチでヤバくて草。もう世界一コイツでいいだろ』
『可愛くて強いとか反則な!』
『カイザーさん完全終了wwwもう11傑交代待ったナシwww』
『姫宮くんホントに可愛い! 絶対推す!』
試合再開前、依桜はなんとベンチに戻りスマホでエゴサをしていた。姫宮で検索すると自分を絶賛する意見ばかり、これには依桜もご満悦だ。
「おい姫宮依桜。試合が始まるぞ、早くポジションに戻れ」
「はいはい、うるさいなぁウチの
ノアに言われ、依桜は渋々フィールドへと戻っていく。そんな彼にノアは思わず溜息を漏らした。
「若者育成に苦労してんねぇノア。部下の上手い使い方でも教えてやろうか?」
「いらねぇよ。そっちこそ、その若者相手に随分手こずってたようだが?」
「いやぁ彼は凄い逸材だよ。お前が目をかけるのもわかる、数年後には俺らも立場を危ぶめてるかもな」
ワガママプリンセスに手を焼くノアを茶化すスナッフィー。しかし彼も依桜の能力は認めているようで、自身らトッププレイヤーの立場も危ないかもしれないという最大限の評価をしていた。
「余裕そうだなスナッフィー。このままじゃウチにストレート負けすることになりそうだが」
「確かに……単純なぶつかり合いじゃ勝ち目はない。だから
指で頭をつついてアピールする。依桜とまともに戦っては今のユーヴァースに勝ち目はない。だがサッカーは一人が凄ければ勝てるなんてことはありえない。いくら能力のあるストライカーがいたとしても、それを周りが生かせなければ意味は無いのだから。
(
フィールドに戻る依桜をカイザーが睨みつけていた。先に二点を決められ、自身の敗北は確定済み。怒りと悔しさの念を募らせる彼だが、もう一つ別の感情も抱いていた。
(確かにガワだけ見ればそう映るかもしれないが……依桜のゴールのためにクソ雑魚下僕の足がダメになり、クソゴーグルマンは絶望の淵に叩き堕とされた。俺が悪意を持ってやってきたコトを、アイツは……!)
右手で左腕を掴み、メキメキと音が鳴るまで握りしめた。かなりの痛みを伴うはずだが今の彼にはそんなこと気にもならない。
(俺と依桜のどこが同類だ……!! 俺の悪意が……あのクソ親父によって後天的に植え付けられたモノだとしたら、アイツのは……持って産まれた純粋無垢な狂気……!! 才能が違う……モノが違う……!!)
音を鳴らす程に歯を食いしばった。才能の違いを見せつけられたような気がした、こんな屈辱を受けたのは久しぶりだ。
「クソ……
気づけばそう呟いていた。己の手を見ると、小刻みに震えている。止めようと意識しても止まらない。身体が勝手に反応しているのだ。
(……あ? ビビってんのか? 俺が……? 依桜に負け、築き上げてきた地位を失うのが怖いのか? …………いや、違う。あの得体の知れないクソ
震える手を必死に抑えようとするが止まらない。こんな経験、家を出てからは一度もなかった。父親に殴られ、蹴られ、虐げられてきた日々を嫌でも思い出してしまう。ただ決定的に違うのは、依桜に全く悪意がないことだ。理由があるだけマシかもしれない。わからない、というのはそれだけ恐ろしいことなのだ。
「カ、カイザー……」
「…………」
「もう……依桜に先に二点取られた。この時点で、勝負は依桜の……」
恐る恐る、極力カイザーの機嫌を損ねないような言い方でネスが話しかけてくる。カイザーが依桜に負けた、それは紛れもない事実だがストレートに言う訳にもいかない。
「クソ黙れ……わかってんだよ犬ッコロ……! お前は自我を出さず、俺にパスを出してりゃそれでいいんだ……! それしか脳のない思考停止奴隷が……!」
「え……?」
「刺し違えてでも依桜を殺す……! それしかもう……俺に生き残る術はない……!」
悔しさと怒り、そして恐怖。様々な感情でカイザーの情緒はぐちゃぐちゃになっていた。それはネスにも見て取れた。何か言葉を投げかけようとするが、上手く表現出来ず結局黙りこくるしかなかった。
『さぁ先に二点を失い、後がないユーヴァース!! ここから反撃なるか!! それとも姫宮依桜がハットトリックを決めるのか!! 全世界大注目の一戦、再スタートです!!』
バスタード・ミュンヘン Newformation
ユーヴァース Newformation
ホイッスルの音と共に凪が柊にボールを預け試合が再開された。柊はすぐに後方の二子にボールを下げ、ゲームを組み立てる。
「よこせ、クソ前髪」
「
カイザーの素早いプレスに二子は正面から戦うことはせず、左サイドへとボールを流した。
「よろしくです、西岡くん」
「おう」
青森のメッシの異名を持つ西岡。その名に恥じないドリブルで左サイドを抜けていく。
「何が青森のメッシや。名前負けしとんぞボケ」
「くっっ……!!」
だが烏に足止めされ、身動きが取れなくなってしまった。敵の攻撃を遅らせるという点において、烏以上の適任者はブルーロックにいないだろう。西岡は1VS1は不利だと判断し、ドリブルからパスに切り替えた。
「レロレロばぁ!」
「な……!?」
だがそのパスは日不見にカットされてしまった。二枚に割れた舌を出し、日不見は意地悪な顔でほくそ笑む。
「ヤバって顔に出てたよん♪ てことでやっちゃえ清羅!」
「あいよ」
ボールを奪った日不見から右サイドの清羅にパスが渡った。今度はバスタード・ミュンヘンの反撃だ。
「好きにさせっかよチンピラヤンキーズ」
「来いよ白ノッポ。
凪と清羅が身体をぶつけ合う。体格は凪の方が圧倒的に上だが、清羅にはブレイクダンスで培われた倒されても崩れないボディバランスがある。これを依桜に伝授したのも彼だ。
「チビのくせに身体つよ……!」
「チビって言うな、はっ倒すぞ」
対決はほぼ互角。だが清羅は地に這いつくばっても次に繋げるパスを出すことに成功した。地を這うグラウンダーパスは一直線に玲王の元へと向かっていく。
「いいぞダンサー」
「止めるカメレオン……!」
「やってみろガリ勉共」
「くぉ……!? 上手……!」
ユーヴァースのDFを抜け、玲王は右サイドから中央を見る。依桜には黒名がマークについている。が、それでも出す先は決まっているだろう。
(バスタード・ミュンヘンが連動し始めた……! 姫宮くんがカイザーからチームを乗っ取ったことで、個人のぶつかり合いだったチームが女王の元で機能して……でも、こっちにもスナッフィーが考えた新たな策がある……!)
「終わらせろ女王!」
「させません! 黒名くん!」
「わかってる、ついてくついてく」
玲王から依桜へのラストパス。敵陣を抜け、依桜の元へと正確に送り届けられた。
「……! くろなん、ボクのストーカー?」
「ああ、マンマークだ女王」
「あは♪ じゃあ頑張ってついてきて!」
依桜に必死に喰らいつく黒名。しかし単純な速度なら付いていけても、依桜の超反射からの切り返しにはどうしても対応が遅れる。黒名を置き去りにし、依桜は玲王からのパスへと抜け出した。
「クロちゃんナァイス♪」
「げ……!? ロレ公!」
「俺は生贄だ」
だが黒名が作ったほんの少しの隙を突き、ロレンツォが依桜の前に入りパスをカットした。黒名の小回りの効く速さとロレンツォの守備を融合させた対依桜専用ディフェンスだ。
「セカンド!!」
ロレンツォの弾いたボールは左サイドへと飛んでいく。そこに走り込んでいる一人の影、閃堂が死にもの狂いでそのボールに飛びついた。
「視えてんだよ、姫宮んとこから生まれるボールは!!」
「えぇ……なんかキモ」
「うっせぇ! 今度こそ決めろ!」
ギリギリのところで閃堂がクロスを上げた。それに一番早く反応するのはやはり依桜。DF二枚に囲まれるが、空中を飛んでいるボールを狙うのなど朝飯前だ。
「
「……!?」
身を翻し、黒名も手が出せない高所でのオーバーヘッドキックでゴールを狙う。ミートは十分、キーパーの取れないコースを確実に狙える。
「いや南無三!!」
「は……?」
その時、五十嵐が依桜に向かって突っ込んできた。振り下ろされた依桜の足はボールではなく五十嵐の顔面に直撃し、彼の鼻から血を吹き出させる。
『姫宮依桜、ファウル!!』
「ちょ……ハァ!?」
「どうだ!! これが対女王専用
五十嵐のマリーシアによってファウルを取られ、ユーヴァースボールになってしまった。これには依桜も困惑するしかなかった。
「オーバーヘッドはファウル取られやすくて助かるぜ!!」
「そんなにボクに蹴られたいならいくらでも蹴ってあげるけど?」
「やってみろ! お前のヘナチョコキックなんか士道の栗割りに比べりゃ屁でもないぜ!」
蹴られた顔面を手で押さえながら五十嵐は叫ぶ。確かにとんでもなく痛いが、士道のかかと落としよりはマシだと。二人がそんなやり取りをしてる最中、二子がボールをセットしプレーを再開した。
「行きますよ速攻!」
「あ、ヤバ!!」
「チッ……! お前ら、俺が時間稼ぐからはよ戻れや!」
ボールは一気に前線の柊へ。そしてトラップした彼は更に前を走る凪へと長いパスを出した。しかしそれはすぐさまカットされてしまう。
「……!? 青薔薇」
「ネス!」
「は、はぁい!!」
凪へのパスを読み、走っていたカイザーは柊からのパスを完全にカット。それにネスに預けると自身は前線へと全速力で走った。
(今ならロレ公は依桜の方にいる……! 決めれる、僕のパスでカイザーのゴールを!!)
ネスがボールを持って敵陣に切り込む。少々強引ではあるが、彼のドリブルなら奪われずにキープできる。そしてカイザーがゴール前に到達したのを確認すると、カープをかけたパスを供給する。
「抜ける……そこ!」
「いい子だネス」
「だぁー。ミヒャにゃ撃たせないOK?」
「……!? クソ金歯……!!」
DFの裏に抜け出したカイザー。しかしシュートコースにはロレンツォがカバーに入ろうと走ってくる。
(いや、カイザーインパクトならロレ公が来るより一瞬早く撃てる……! カイザーが勝つ……!)
「クソねじ込む……!」
ネスが考える通り、カイザーにパスが届くタイミングとロレンツォのカバーには多少のズレがある。ほんの一瞬だが、カイザーインパクトならロレンツォに邪魔されずに撃ち抜けるだろう。
「行け……!」
(……!? ここで
しかしカイザーが撃ったのは直線ではなく、曲げるタイプのカイザーインパクトだ。だが未完成の技、当然簡単に決まる訳もなくさっきと同様シュートはゴール枠外へと大きく逸れて行った。
「クッ……!!」
「か、カイザー。落ち着いて! 一旦冷静になろう! 今なら依桜の方にマークは集中してる、僕とカイザーなら崩すのは簡単です! だからここは確実に1点取って、次の試合に……!」
「……意味ねぇんだよ」
「へ?」
「新兵器でゴールを奪う……それしかこの恐怖に打ち勝つ方法はねぇ。気休めのゴールなんかクソの価値もねぇんだよ……!!」
ネスの提案も今のカイザーには全く響かない。最早ブルーロックに来たばかりの時のような余裕は彼にはなかった。
「……へぇ」
遠巻きでカイザーのシュートを見ていた依桜は何かを思いついたようで、クスリと笑った。今の一連の流れで何かを掴んだのかもしれない。そして一連のプレーを考察していたのは玲王も同じだ。
(なるほどな……唯一ギリ姫宮についていける黒名がマンツーマンでマークして、少しでも動きを遅らせたらそこをロレンツォが狩る。万が一シュートを撃たれそうになったらイガグリが身体を張ってファウルを貰いに行くって訳か)
ユーヴァースの戦略を玲王は自分なりに分析していた。かなり対依桜に重きを置いた戦術だが、これくらいしないと今の彼は止められないだろう。
(でもこれだとさっきみたく姫宮以外へのマークは薄くなる。カイザーが冷静だったら試合は終わってた……とんだギャンブルかましてきやがったなスナッフィー)
依桜へのマークが厳しい。それは裏を返せば他の選手が動きやすいということだ。今なら、自分のゴールを狙える。
そうこう考えている内に試合は再開されていた。ユーヴァースがゴールキックから今度こそ攻勢に出る。
「そろそろ1点いただいても?」
「ダメに決まっとるやろペテン師が」
中盤、烏と柊のせめぎ合いだ。時間を稼ぎつつ、守備が整うのを待つ烏と一刻も早く得点が欲しい柊。真っ向から対立する二人の肉弾戦は激しさを増していく。
「姫宮一人で手一杯やろお前ら? 攻め手ないのバレとるで」
「確かに
「なんや、冷静かと思ったら意外と熱いやんけ」
柊の発言に烏は意外そうに顔をニヤつかせた。普段はこのような試合、人一番冷めていて冷静さを保っている烏でも今は多少熱くなってしまっている。それは柊も同じなようだ。
「頼むよ天才くん」
「OK」
柊から前線の凪への長いパス。しかし烏が稼いだ時間が功を奏して日不見と清羅が二人がかりでマークにつけている。
「撃たせないよん♪」
「ノッポ潰す」
「うへ、守備でも統率取れてきたカンジ?」
この守備には凪もトラップではなくダイレクトのパスを選択した。右サイドにボールを預けようとするが、そこにバスタード・ミュンヘン一の快速が走ってきた。
「このパス、サンキューカット」
「斬鉄……!?」
このパスを斬鉄がカットした。そのままスピードに乗り、最高速でサイドを駆け抜けていく。
「受け取れ女王!」
「ナ〜イス斬ちゃん!」
「やらせん南無三!」
斬鉄から依桜への高速クロス。しかしシュートを撃ちたいのに五十嵐が迫ってきている。個人能力なら負けるはずもないが、またファウルを取られるのはゴメンだ。
「撃つ……なんちゃって♡」
「はぁ!? オーバーヘッドパス!? なんだそりゃ……!?」
オーバーヘッドシュートと見せかけてのパス。五十嵐はマリーシアを仕掛けるタイミングを失い、そのままパスを許してしまった。
「ナイスだ女王」
「ホラ、レオオワンツー!」
「バーカ、狙えるなら自分で狙うっての!」
ゴール前でパスを受け取った玲王。裏に抜けた依桜がラストパスを要求するが、玲王はそれに引っ張られた敵DFの隙を突いたカーブシュートをゴール隅に叩き込んだ。
「あ!? せっかくのボクからのパス!?」
「お前が女王なら俺は王様だ! 無条件でパス出すと思うなよ!」
依桜の抗議にも玲王ははっきりと言い返した。合理的に依桜にパスを出すべき場面では出すが、当然狙えるならゴールを狙う。玲王もブルーロックのエゴイストだ。
「なら王座はガラ空きだね、玲王」
「凪……!? いつの間に……!!」
だがこのシュートはいつの間にかゴール前まで戻っていた凪によって顔面ブロックされてしまった。さっきまで最前線にいたはずの凪のシュートブロックに玲王は驚愕する。
「お前……さっきから俺の邪魔ばっかしやがって」
「それはお互い様でしょ? 玲王だって俺のこと意識してるクセに」
「いい加減鬱陶しいんだよ……凪」
既に二回、玲王は凪にシュートを防がれていた。逆に凪の決定機を玲王が防いだ場面もあった。両者言っていることは違えど、結論は同じだ。依桜が支配するフィールドで、先にゴールを決めたヤツが勝つのだと。
(凪くんまで守備参加してるから凌げてるけど、これじゃジリ貧……! そのうち崩されるのは明白……一体どうすれば……?)
CFの凪まで身を粉にして守っているからゲームは続いているが、いつ終わるかはまるでわからない。そんな状況に二子は焦り思考を回すが、解決策は何も思い浮かばなかった。
「ッッ……!」
逆転の鍵を握るのはベンチに下がり、涙を堪えながら俯いている雪宮だった。依桜に敗北し、絶望の崖っぷちから転落した彼は試合を上の空で眺めることしかできていない。そんな彼をスナッフィーは神妙な面持ちで気にしていた。
「今は耐えろユーヴァース……目には目を、劇薬には劇薬を。覚醒した女王を引きずり堕ろすには……それに負けないくらいのエゴイストが必要だ」
誰にも聞こえない声量で意味深なことを呟くスナッフィー。守りに特化した今の作戦も計画の内、バスタード・ミュンヘンに勝つためのラストピースの覚醒を彼は待っているのだ。
・おまけ
ユーヴァース所属ブルーロック選手 ステータス
〖凪 誠士郎〗
攻撃力S 95
シュートS 94
ドリブルA 89
パスA 87
守備力B 78
速さA 88
総合評価S 94
〖二子 一輝〗
攻撃力A 82
シュートB 70
ドリブルB 79
パスS 90
守備力S 91
速さB 78
総合評価A 85
〖柊 零次〗
攻撃力A 85
シュートA 86
ドリブルB 76
パスA 87
守備力S 90
速さB 75
総合評価A 84
〖黒名 蘭世〗
攻撃力A 88
シュートB 72
ドリブルA 85
パスA 82
守備力B 71
速さS 95
総合評価A 86
〖雪宮 剣優〗
攻撃力A 89
シュートA 88
ドリブルS 95
パスB 73
守備力B 77
速さS 93
総合評価S 90
〖超 健人〗
攻撃力A 84
シュートA 81
ドリブルB 76
パスB 77
守備力B 73
速さA 85
総合評価A 80
〖五十嵐 栗夢〗
攻撃力B 75
シュートB 72
ドリブルC 67
パスB 70
守備力A 80
速さC 69
総合評価B 73
〖西岡 初〗
攻撃力A 84
シュートB 79
ドリブルA 88
パスB 75
守備力B 71
速さA 82
総合評価A 82