「お前にしては珍しく博打的な作戦だな。若者の青さにでもアテられたか?」
「うるせぇよ堅物教師。そっちのチート女王に対抗するにはこれくらいの賭け事は必要だろ?」
対依桜の黒名のマンツーマン、五十嵐のマリーシア。そして雪宮剣優の覚醒を見たノアは意外そうだった。堅実な策を好むはずのスナッフィーがかなり運任せ、というか選手の進化に賭けた策を取ったのだから。
「やっぱ面白いな、
近年成長を続けている日本サッカー。だがW杯優勝となれば未だ実現不可能な妄想と笑われることも少なくないだろう。しかし姫宮依桜は間違いなく世界級の選手へと急成長し、それに呼応するようにブルーロックも進化している。もしかすると……と、スナッフィーは心の中で期待するのだった。
「喜んでる場合じゃねぇぞユーヴァース、まだスコアじゃ負けてるんだ。俺の
「……OK」
「うっし、やるぞオラァ! 南無三!」
「泥臭くても……生き残る」
スナッフィーの言葉にユーヴァースが奮起する。まだ2ー1のビハインド、しかし雪宮の得点によって状況は変わりつつある。勝負を捨てるにはまだ早い。
(……玲王。俺はお前に勝って……伝えなきゃいけないことが山程あるんだ。だから、さっきのアシストなんかじゃ終われない)
この試合、雪宮のアシストや守備での貢献など活躍している凪。しかしゴールという結果はまだ出せていない、依桜や玲王に阻まれてストライカーとしての仕事は果たせていなかった。
(この試合はお姫さんにも、誰にも持っていかせない。ゴールを決めて、勝つのは俺だ……!)
潔に負け、未だ手に入っていない光。この試合に勝てればそれが手に入るかもしれない。そうなって初めて、玲王と腹を割って話せるのかもしない。表情には出さずとも、凪の心は熱く煮えたぎっていた。
『さぁ、バスタード・ミュンヘンの圧倒で決着と思われたこの試合! 雪宮剣優のゴールで再び結果がわからなくなりました! 全世界注目の激闘、試合再開です!』
カイザーからネスにボールが渡り、キックオフで試合が再開された。カイザーのゴールをお膳立てするため、ネスはボールをキープしつつ攻め上がる。
「孤立してるねぇ魔術師さん? 主人へのパスコース見えてる?」
(クッ……! クソポニテ……!)
ネスに対応する柊。彼のマークを剥がしつつ、カイザーにパスを出したいネスだがカイザーはマグヌスに固執しすぎている。今パスを出したところでロレンツォに止められるのがオチだ。
「カイザーへのコースが……見えない」
「ナイストロトロ!」
「あ……!!?」
ネスが停滞している隙に雪宮がボールを奪った。最早ネスとカイザーは使い物にならない、それがこのフィールドの共通認識になりつつある。
「戦犯おネス……!」
「なんやってんねん、ボケコンビ……!」
ユーヴァースのカウンターに対応するため守備を固めるバスタード・ミュンヘン。雪宮が左サイドを豪速ドリブルで攻め上がる。
(俺のドリブルは警戒されてる……けど、この密集はむしろ好都合!)
「チッ……!」
「上手い!?」
清羅とビルケンシュトックを抜き去り、雪宮は左サイドを駆け抜ける。強引にPA付近まで攻め上がり、シュートを狙おうとするが。
「撃たせん……!」
「俺は囮だバカ加速」
「……!!?」
斬鉄が鬼加速で雪宮の進路を塞ごうとするが、雪宮はそれよりも早くシュートを撃った。曲がっていくシュートだが、ボールはゴールを逸れて中央へと向かっていく。
「外した……!?」
「いや、ナイスユッキー」
「な……!? 凪へのパス!?」
シュートかと思われたのは凪へのパスだった。普通ならトラップ不可能なシュートと遜色ない威力と回転。しかし凪はそれを平然とトラップしてしまった。
「ごめん、貰ってくねユッキー」
「後で返せよめんどくさ王子」
「わかりやすいんだよ青春コンビが……!」
「玲王……!?」
「読まれた!?」
トラップしたボールをそのままシュートしようとする凪。しかし一か八か、飛び込んできた玲王によって弾かれてしまった。
(覚醒した雪宮を囮にする……美しい台本すぎてバレバレなんだよ!)
「ナイスや御曹司! 誰か
弾かれたボールは上空に舞いランダムに落ちる。それに最初に触ったのは日不見だった。ヘディングでボールをPA外、清羅の所にパスした。
「あいよ、凡凡烏ちゃん♪」
「行くぜ……!」
ボールを受け取った清羅が右サイドを駆け抜けていく。それを見た依桜も前線へと猛ダッシュしていく。今度はバスタード・ミュンヘンのカウンターチャンスだ。
「しまった……姫宮くん警戒!」
「だぁー。まだ終わらせないOK?」
「ダメダメ、あんまり長くやってたら新鮮味なくなっちゃうし♪」
当然、ユーヴァースの警戒は機能していないカイザーシステムよりも依桜に行く。玲王が下がっていた関係上カウンターに参加しているのはネス、カイザー、閃堂、そして依桜の四人だ。
(清羅くんに一人でゴール前まで持っていくドリブルスキルはない。必ずどこかでパスを出すはず……だとしたら、最重要候補は……)
柊が清羅のチェックに当たる。清羅は優秀な選手だが、蜂楽や雪宮のように一人で突破する武器は持っていない。故に最も警戒すべき依桜へのパスコースを重点的に塞ぐ守り方だ。
(
清羅は
「……そこだ」
「……!?」
「ここで……ネス!?」
全くの想定外、完全に機能不全に陥っていたネスへのパスに敵味方共々困惑する。それはパスを受けたネスも同じで、トラップした後思考停止してしまった。
(どうする……? カイザー、カイザー、カイザ……)
(出せネス! 俺の新兵器で依桜を殺す……!! このクソ勝負に終止符を……!!)
(ダメだ、
カイザーへのパスコースは死んでいる。ロレンツォの警戒がカイザーよりも依桜に向いている今、カイザーインパクトならゴールを奪うのは難しくない。だがカイザーは依桜を殺す、新兵器でゴールを決めることに固執している。それではロレンツォや二子に読まれ、防がれるのがオチだ。
(いつものカイザーならわかってるはずなのに……僕は、どうしたら……!?)
冷静ないつものカイザーならこの状況を分析し、マグヌスを諦めゴールを決めていたはず。しかし今の彼は依桜に負け、自分の立場を守ることに固執している。それではエゴイストだらけのこの場を生き残ることなど出来ない。
「……!!?」
その瞬間、ネスはある感覚を覚えた。かつて魔法を信じ夢見てきた自分。家族にそれを否定されようとも見つけてしまった、サッカーという魔法。それがこのフィールドにも確かに存在していたのだ。初めてサッカーを見つけたあの日の感覚をネスは思い出した。
「魔法……」
思わずそう呟くと同時に、ネスは足を振り抜いていた。ネスの意思ではなく、身体が勝手に動いてしまったのだ。
「あ……!」
「……!? ……♪」
「まっっ……!!」
無意識の内にネスが出したパス。それはカイザーではなく、依桜に向かっていく。我に返ったネスは必死に手を伸ばすが、一度蹴ったボールが止まることは無い。誰も予想していなかったネス→依桜のルートにパスは無情にも進んで行った。
「あだぁ……! ネス坊裏切りぃ?」
「ロレ公……!」
ネスからのカイザーのルートを警戒していたロレンツォが急いで依桜の方へと向かう。ブロックは間に合わない、しかし無理やりにでも飛び込めばシュートを顔面ブロックできる絶妙なタイミングだ。
しかし、ロレンツォ……そしてカイザーにも誤算があった。まずはカイザーインパクト
「……あは♡」
それらの要素が交わりあったことで、誰も予期していなかった化学反応が爆発したのだ。
ネスからのパスを受けた依桜は空気穴の右下を、それもダイレクトで撃ち抜いた。シュートはブロックに入ったロレンツォの真横を抜け、急激に曲がると同時に加速しゴールの右隅に突き刺さった。
GOOOOOAL!!!
『ご……GOAL! GOAL! GOAL! 姫宮依桜のハットトリックで……バスタード・ミュンヘンの完全勝利だァァァァ!!!』
実況の声と同時に、全世界が湧き上がった。その熱気は凄まじく、今世界で一番フットボールが熱い場所はここだと断言出来る程だ。
「イェ〜イ! ボクの勝ち! なんで負けたか明日までに考えといてよね♪」
「スーパーオシャオシャなゴールだ女王!」
「やるな……それでこそ俺のライバル!」
「ハッ……活躍エグすぎて最早ムカついてくるわ」
斬鉄や閃堂に持ち上げられ、依桜は宙を舞った。その状況でもカメラ目線でポーズを忘れないのは、普段からアクロバティックな体勢でシュートを撃っているので慣れているからだろう。
「マ……ジか。やっとこっちの番だと思ってたのに」
「ヤバヤバ……チートチート」
「エグい軌道の加速するカーブシュート……止められないですねあんなの」
「さすが……俺の女神!」
「だぁー。すっごいねぇ、あれなら5億以上確定演出OK?」
ゴールを決められたユーヴァース側は圧巻のシュートに唖然とするしかなかった。雪宮の覚醒から、ようやく反撃の兆しが見えてきたというのに全て持っていかれてしまったのだ。
「あ……あ……あぁ……!!」
依桜に見事なアシストを献上したネスはその場で膝をつき崩れ落ちていた。カイザーを裏切る気なんて微塵もなかったのに、気づいた時には無意識にパスを出していたのだ。
(僕は……なんで? ……でも、あれが……あれが……僕の追い求めていた……)
「おい、クソ犬」
「か、カイザ……違うんです、これは…………あぁぁぁ!!」
「てめぇ……これは一体どういう了見だ? あ?」
カイザーが怒りに身を任せネスの頭を持ち力を込めた。握力80kgを誇る彼の腕力にネスは悲鳴を上げながらも必死に弁明する。
「あ、あれは……僕にも……本当に……無意識で……!」
「黙れクソ駄犬が……言い訳なんざ聞いてねぇんだよ」
「や……やめっ……!」
頭を握る手に更に力を込められた。もはやネスは言い訳すらできず、痛みに悶え苦しんでいる。そんな状況を無意味に感じたのか、カイザーはしばらく後乱暴にネスの頭から手を離した。
「もういい……肝心な時に使い物にならない犬に用はねぇ。消えろネス、俺の人生にお前はいらない」
「か……カイザ……!」
去っていくカイザーに必死に手を伸ばすが届かない。その後ろ姿を呆然と眺めることしか今のネスには出来なかった。何故依桜にパスを出してしまったのか、その答えを考えて頭がぐちゃぐちゃになってしまっている。
「あ〜あ、捨てられちゃったね野良犬ちゃん」
「……依桜」
依桜に声をかけられてもネスはまともに受け答えすらできなかった。そんな彼を見て、依桜は不思議そうに問いかける。
「ねぇおネス。なんでバカイザーじゃなくてボクにパスしたの?」
「……わからない。僕は……」
そんな風に聞かれても無意識に出してしまったパスだ、理由なんて言語化できるはずもない。カイザーに出会った瞬間から、彼を世界一にするためだけにサッカーをしてきた。今だってそれは変わらないはずなのに。
「……魔法」
「ん?」
「あの時……確かにあそこにあった気がした……僕が夢見た魔法が……」
カイザーへの忠誠心が揺らいだとするならば、それはあの場あの時に魔法を見てしまったから。そしてその魔法の正体とは、依桜だ。
「魔法か……結構メルヘンチックなとこもあるんだ。まぁでも……」
「……!」
「確かにあれは魔法だったかもね♪ おネスは魔法使い見習いで、ボクが可愛い魔女様ってとこ?」
「……あ」
依桜はしゃがむとネスの額にキスをし、頭を撫でた。これはメイド喫茶でバイトしていた時、弱っている客を手玉にとるためによくやっていた手法だ。しかし今のネスにとっては自分の憧れた魔法が初めて肯定された瞬間であり、溜め込んでいた感情が爆発するきっかけでもあった。
「あ……あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ネスは天を仰ぎ、大粒の涙を零して号泣した。魔法なんてないと、くだらないと一蹴され続けてきた人生に意味を貰った気がして。家族にも誰にも認められなかったのに、依桜が初めて自分の魔法を受け入れてくれたのだ。
「うわ、ビックリした! え? マジ泣きじゃん」
依桜としては、自分を潰そうとしてきた奴らの片割れが何故か自分にパスしたので味方にできたらいいなくらいの感覚だったのだが、どうやらネス相手にはパーフェクトコミュニケーションだったようだ。若干引きつつも、依桜にはネスの気持ちが何となく理解できた気がした。
(ああそっか……ボクの可愛くなりたいって気持ちとおネスの魔法っていうのは……ちょっと似てたのかもね)
世間の普通からはみ出した者同士、依桜とネスは似ていたのかもしれない。今までやられてきたことはムカつくが、それはそれとして今回のアシストは素直に認めてやってもいいと依桜は心の中で思うのだった。
バスタード・ミュンヘンVSユーヴァース
3ー1
『GOAL』
バスタード・ミュンヘン
・HIMEMIYA (アシスト KARASU)
・HIMEMIYA (アシスト KARASU)
・HIMEMIYA (アシスト NESS)
ユーヴァース
・YUKIMIYA (アシスト NAGI)
試合終了!!!