〖ブルーロックRPG〗実況プレイ   作:マルメロ

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キタイと期待

 

 

『皆さん!! お聞きになりましたでしょうか!!? なんとなんと!!? ここに来て5点先取ルールへの変更!! そして指導者(マスター)達の出場制限を全撤廃!! 王者を懸けたこの最終戦、片時も目が離せそうにありません!!!』

 

 

 絵心甚八が発した衝撃の発言により世界中が湧き上がっていた。BLTVの会員登録者数も鰻登り、まさに不乱蔦の思惑通りの展開となったのだ。

 

 

「……だ、そうですよ? 出なくていいんですか、ノア?」

 

「まだその時じゃない。それに……お前の方こそ余裕は無いんじゃないか?」

 

「ミヒャエル・カイザーのレギュラー剥奪といい……姫宮依桜を信頼しているようですね? まぁ、気持ちはわかりますが」

 

 

 出場制限を撤廃された両マスターだが、今のところ試合に出るつもりはないらしい。全く出場しないという訳ではないようだが、双方にはそれなりの思惑があるようだ。

 

 

「なんだか楽しくなってきましたね。次はどうしますか、依桜?」

 

「う〜ん……と・り・あ・え・ず♪ ボクのチームから点を奪った無礼者は全員極刑で!」

 

「はい。縛り首にして水攻めした後、火あぶりにして野良犬のエサにしましょう」

 

 

 依桜とネスは何やら物騒な会話をして、その後何事もなかったかのように試合を再開した。ネスにボールが預け、依桜は一人最前線に駆け上がる。

 

 

「来るぞ! わかってんなお前ら!」

 

「おう!」

 

 

 愛空がDF二人に指示を出し、自らは依桜のマークについた。依桜を自由にすればあっという間に5点取られてしまうだろう。それを防ぐことこそが愛空の仕事だ。

 

 

「俺の視界の中じゃ好きにさせねぇぜ女王様」

 

「やれるもんならやってみな♪」

 

 

 依桜は愛空など興味もないようにゴールへと向かっていく。彼のスピードと反射を前にしては愛空といえど簡単に振り切られてしまう。

 

 

「遅いよ髭男!」

 

「ああ、そっちに行くならご自由にだ」

 

「……?」

 

 

 愛空の左側にカットインする依桜。しかし愛空は何故かそっちに向かう依桜への当たりは弱く、逆に右側に行こうとすると強く防ごうとしてくる。この守り方に依桜は疑問符を浮かべた。

 

 

「なるほど、親切な程わかりやすい罠だ。だったらあえて乗ってあげます」

 

 

 愛空の意図に気づいたネス。しかしあえてその策に乗っかり、左側にパスを出した。トップスピードで走る依桜のちょうど足元に落ちてくる高精度ピンポイントパスだ。

 

 

「かかったな女王……!」

 

「……! あれ、読まれてた?」

 

 

 しかしネスのパスの軌道の先にはフランスDFが待ち構えていた。愛空が依桜の進路を制限し、そこを刈り取る作戦だ。

 

 

「あったまいい〜! ケド、まだボクには届かないぞ♡」

 

「な……!? 咄嗟にオーバーヘッド!?」

 

 

 パスが地面に落ちてくるのを待っていたら奪われる。それを瞬時に悟った依桜はその場で即座にオーバーヘッドシュートに切り替えた。この反応、そして対応の速さにフランスDFは目を丸くして驚いた。

 

 

「だろうな姫宮……!」

 

「……!?」

 

 

 オーバーヘッドで放たれた依桜のシュート。しかしそのコースに愛空が顔面から飛び込んできた。かなりギリギリだが、依桜の攻撃を防ぐことに成功したのだ。

 

 

「伊達に同じチームで戦ってねぇ……お前ならあの状況からでも撃つってわかってたぜ!」

 

「ナイス愛空! こぼれ球(セカンド)!」

 

 

 愛空の顔面ブロックから溢れ出たルーズボールをフランスのキーパーが確保するように声を上げる。その掛け声に反応し、一番にボールに触れたのは氷織だった。

 

 

(僕はただ両親(あのひとたち)の元へは帰りたくない……それだけでここまで生き残ってきたけど、この試合の次元はヤバい……こんな僕の意識じゃ、一瞬気を抜いただけで置いてかれる)

 

 

 氷織はパスコースを探しつつも思考はどこか別のところにあった。それは自分のアイデンティティとも言える部分、両親から過度な期待を押し付けられていつしか壊れてしまった自分の本質だ。

 

 

「ボール貰うよひおりん♪」

 

(……!? 姫宮くん、もうここまで戻って……どんだけ動き回るねん)

 

 

 しかしそんな彼の前に依桜が現れた。戻りの速さに動揺しつつも、1on1を避けるべく逆サイドにいるシャルルにパスを出す。

 

 

(凄いな姫宮くんは……世界中から期待されても、自分を曲げずにやりたいようにやって……結果それが人を魅きつける。愛されてる意志と才能を持った人間……きっとあれが世界一のストライカーとしての資質ってやつなんや)

 

 

 ボールの行方を目で追いながら氷織はなおも思考していた。依桜だけでない、潔や凛、士道、皆世界中からの期待を背負っても自らの意志を曲げずに戦うエゴイスト達。自分にはない世界一の資質を持つストライカーだ。

 

 

「こっちだ天邪鬼」

 

「あひゃ♪ パス欲しかったらもっとベロベロしなきゃ!」

 

「糸師凛は囮かよ……!」

 

「と見せかけて、出しちゃう!」

 

 

 シャルルからのパスを求める凛。それを囮にドリブル突破するシャルルに対応する閃堂だが、囮にしたはずの凛に出すという天邪鬼思考に惑わされてしまった。

 

 

「は……!?」

 

「意味わからんな天邪鬼チビ」

 

 

 バスタード・ミュンヘンはシャルルの気まぐれ思考の術中にハマってしまっている。依桜にネスがいるように、凛と士道を止めるにはまずはこの天邪鬼を防がなくてはいけない。

 

 

「天邪鬼? ただの嘘つきっしょ?」

 

「……!?」

 

「ナイス日不見!」

 

 

 シャルルから凛へのパスを日不見がカットした。シャルルの天邪鬼思考を読み、的確にポジショニングしていたのだ。パスカットした日不見はシャルルを見ると二枚舌を出しながら煽るように笑った。

 

 

「俺相手に安い嘘は通用しないぞよ狼少年♪」

 

「は? キモ」

 

 

 パスをカットされたことにシャルルはこの試合で初めて笑みを崩した。不快な物を見たかのような視線を日不見に向けるが、当の本人は気にも止めていない。

 

 

(そうか……嘘を見破る日不見の才能は対シャルルの切り札になりうる。相性ってのはわからんもんやな)

 

「チェケラ♪ こっち使いな烏!」

 

「ハッ……! おもろいやないか嘘つき(フェイク)の天才!」

 

 

 日不見は嘘を見破る天才だ。お互いへの愛が冷めきっていた両親の元で育った彼は常に他人の顔色を伺いながら育ってきた。そんな生い立ちからか、日不見は嘘を見破り本性を暴くことに快感を覚えるようになっていたのだ。

 

 

「行かせっかよ二枚舌!」

 

「速いだけじゃ止まんねぇぜ赤毛のアン!」

 

 

 烏からのパスを受け取った日不見の元に最速で突っ込んでくる千切。しかし日不見は間一髪のところでフェイクを入れ、彼をかわしてしまった。

 

 

「まだだ……パスだろ追いつく!」

 

「残念、ばぁい」

 

「くッッ! フェイク上手ぇ……!」

 

 

 千切を抜き去った日不見は再び烏へとボールを戻した。二人の連携でボールは確実に前線へと押し上げられている。

 

 

(魔法使いのパスで強化されたり、敵との意外な相性の良さだったり……この最終戦(ファイナル)、全員がこれまで以上のパフォーマンスを発揮しとる)

 

「止めろ氷織!」

 

「うん、わかっとる……!」

 

 

 ボールを持つ烏に氷織が当たる。1on1の局面において烏に勝てないのは織り込み済み、だからこそ彼のように時間を稼ぐ守備意識だ。

 

 

「なんや、湿気たツラしとんな氷織」

 

「……!」

 

「言ったやろ? まずは自分に期待せんと何も始まらんで」

 

 

 その言葉を残して烏は氷織を抜き去ってしまった。ハッとした顔をする彼を置き去りに、烏はハーフウェイラインを超えてフランス陣内に切り込んでいく。

 

 

(嫌でも伝わってくるわ……このフィールドの熱ってヤツが。そん中にいても俺が冷静にいられて、頭使えてんのは良くも悪くも俺の非凡)

 

「ネスと姫宮警戒しろ!」

 

「OKマーク間に合う!」

 

 

 烏の進軍に対しフランス側も守備を整える。愛空が依桜にマンツーマンでマークし、烏からネスへのコースも警戒されている。この状況でも烏は冷静に、最適な選択肢を分析していた。

 

 

(だけど……俺自身が感じとる。冷静な自分の中に少しだけ、熱いモンが滾ってるってコトに)

 

「いいねぇ烏ちゃん♪ やろーぜ俺と!」

 

「チッ……! 邪魔や下品悪魔」

 

 

 進む烏を強引に止めに入る士道。守備力自体は凡だと烏は認識しているが、背後から士道のフィジカルで邪魔をされればさすがに面倒だ。

 

 

「出しなさい烏ちゃん! 女王命令♡」

 

「……思えばお前のせいやな非凡女王! 責任取れやボケェ!」

 

「!」

 

 

 依桜にパスを求められ、烏は士道を振り切ってパスを出した。高速回転のかかった浮き玉のパス、その着地点であるPA内に依桜は素早く抜けていく。

 

 

「お前にゃやらせねぇよ女王様!」

 

「あは♪ だったらもっと頑張りな!」

 

 

 愛空の裏に抜け、依桜がフリーとなった。後はパスをダイレクトでねじ込むだけ。しかし愛空の守備は無駄にはなっていなかった。何故なら生じた僅かなタイムラグで魔王が間に合ったのだから。

 

 

「視えてんだよクソ女王!」

 

「わ! 世一いつの間に!」

 

 

 シュートコースに潔が入ってきた。咄嗟のことに依桜も驚くが、突発的な反応で依桜に適う者は存在しない。ダイレクトシュートを諦め、トラップすると即左にボールを動かし、更に高速で右にカットインした。

 

 

「クソが……!」

 

「惜しい惜しい♡」

 

 

 潔をかわして依桜は再びシュートチャンスを得た。右に動いた弊害によりシュートコースは狭くなったが、依桜のシュートテクニックなら十分狙える位置だ。

 

 

「潰す……姫宮!」

 

「りんりん!?」

 

「待ってたぜ、お前と潔を同時に壊せる快感地点(クラッシュポイント)を……!」

 

 

 だがそこに凛が割り込んできた。自陣PA内でファウルスレスレのボディチャージ、一歩間違えばコーナーキックになるかもしれない破壊的守備だ。

 

 

「もう! 皆してボクのこと大好きなんだから♪」

 

「黙れ変態女王が……! 殺す!」

 

 

 何とかボールをキープしている依桜だが凛に身体を入れられているこの状況でシュートを狙うのはさすがに無理がある。かといっていつまでもやり合っていては体格差で依桜が不利だろう。

 

 

「こっち出せや姫宮!」

 

「……! 烏ちゃん!」

 

「どんだけお前の尻拭いしてきたと思ってんねん! 少しは恩返せやボケェ!」

 

 

 その時PA内の左側に烏が走り込んできた。フランスのDF、チャパがマークについているが依桜よりは確実に手薄だ。

 

 

「俺に……期待してみろや女王!」

 

「……!?」

 

「しょうがないなぁ……いいよ! ボクの下僕のお仕事は、ふくりこーせー充実♪」

 

「な……!?」

 

 

 烏の言葉に目を丸くした氷織。そんな彼が見た光景は依桜からパスを受け取る烏の姿。チャパを得意のハンドーワークで抑え、シュートをゴールに叩き込む。

 

 

「誰が下僕やボケ……ま、一応感謝したる」

 

「う……!」

 

 

GOAL!!! 

 

 

 キーパーもシュートを捕らえきれず、ゴールネットが激しく揺さぶられた。

 

 

『こ、今リーグ初ゴール!! 烏旅人の一撃で、バスタード・ミュンヘン突き放したァァァ!!』

 

 

「ハハッ! やるねぇ烏ちゃん♪」

 

「ナイスゴール鳥貴族!」

 

 

 ゴールを決めた烏の元に日不見や斬鉄が集まる中、烏は依桜の元へと歩いていく。実際、ゴールを決められたのは依桜のアシストがあったから。しかしそれ以上に烏のエゴが目覚めたことが大きいだろう。

 

 

「おおきに姫宮。お前のおかげで新しい自分が見つけられそうや」

 

「ん〜? まぁここまでボクに尽くしてきたご褒美かな♪ 次はちゃんとボクにアシストするコト!」

 

「ハッ……! 朝寝坊の尻拭い以外ならやったる眠り姫」

 

 

 依桜と烏のやり取りを遠目から見つめるのは氷織。さっきの烏の発言、それがずっと頭の中を駆け巡っていた。

 

 

『お前は世界一になるんやで羊!』

 

『お父さんもお母さんも“期待”しとるからね!』

 

 

「烏……なんでそんな風に思えるん? 期待なんかされても……苦しいだけやのに」

 

 

 氷織のその呟きは誰の耳にも届くことはなく、フィールドを包む実況の声によってかき消されるのであった。

 

 

「シャッハァ! 出せ天邪鬼!」

 

「行っくぜデビルニキ!」

 

 

 氷織の心に迷いが生じていても、試合の流れは止まってくれない。点を入れられたフランスは逆に燃え、ドイツ相手に猛攻を仕掛けていた。PA内に走る士道にシャルルがパスを通す。

 

 

「だからモロバレだじょガキンチョ♪」

 

「……! クソスプタン野郎キッッショ……!」

 

 

 シャルルのパスはまたしても日不見に防がれてしまった。シャルルの天邪鬼な思考は完全に読まれてしまっている。パスルートが狭まる、フィールドが新しく書き変わっていく。

 

 

「崩すなら今やな。ホラ、もう一発魔法かけろやおネス」

 

「わかってますよ、カーカー煩い伝書烏さんだこと」

 

 

 日不見の奪ったボールは烏、そしてネスへと渡っていく。両サイドに閃堂と清羅が走り、玲王もネスとの連携を狙っている。

 

 

「さて、次はどんな魔法をかけようかな」

 

(確かにネスのパスでチームは別物に変わる……それの警戒も怠れないけど、一番ヤバイのはやっぱここやろ!)

 

「……! ひおりん……」

 

 

 ネスは別に依桜だけにパスを出すことにこだわっていない。その時々で一番自身のパスが効果的に生きるルートを選んでいるのだ。そこがカイザーシステムの時とは大きく違う部分。だがネスのパスと依桜の能力、これ以上に良い選択肢というのは中々生まれるものでもない。

 

 

(来た……! 姫宮くんのが一瞬速くパスに追いつくけど、トラップした瞬間を狙える!)

 

 

 ネスから依桜へのスルーパスをメタ・ビジョンで読んでいた氷織は依桜へプレスを仕掛ける。確かに依桜の方が速い、しかしトラップの瞬間に生じる隙を狙えばあるいは。

 

 

「残念、ビックリサプライズが残ってます♪」

 

(嘘やろ……! パスが急に曲がって……!?)

 

 

 しかしネスのスルーパスは地面にバウンドした瞬間、方向を変え氷織の想定よりも速く依桜の足元に吸い付いていった。

 

 

「ナイスサプライズ♪ あとはボクが可愛く決めるだけ!」

 

(こんなん無理ゲーやん……! まるで負けイベのボスと戦っとる感覚……! 勝てる気がせぇへん……!)

 

「行かすか!」

 

「コース切れ!」

 

 

 フランスのDFが依桜の進路を阻むが、その反射神経と高速カットインで瞬く間に二人を抜き去ってしまった。あとは愛空との1VS1を制するだけだ。

 

 

「面白ぇ! 来いよ女王様……!」

 

「行っくよアイクン!」

 

 

 PAのやや外、抜かれたら終わりの場面で依桜と愛空のタイマンバトルだ。

 

 

(世界中が姫宮くんに期待しとる……姫宮くんのゴールを……姫宮くんの勝利を……)

 

 

 依桜は世界中から期待されている。それは氷織にとっては耐え難い苦痛のように思える。両親からの期待ですら氷織の人生を歪めてしまったのだから。

 

 

「なんちゃって♪ ボクも可愛い天邪鬼ちゃん♡」

 

「……!? マジか、コース無いのに無理やり撃ちやがった……!?」

 

 

 愛空がコースを塞いでいるので、狙える位置は極わずか。故にここはシュートではなく愛空を抜きにかかるだろう、そんな固定概念をぶち壊す依桜の天邪鬼的シュートだ。コースが限定されているなら、そこを堂々と狙うのみ。

 

 

(でも……なんでやろ? 姫宮くんの背負ってる期待は苦しく見えなくて……不思議と僕もあんな風に期待されてみたいって思ってしまう……何が違うんやろ?)

 

 

 氷織にとって期待されることは嫌なこと、しかし依桜の背負う期待は嫌なようには見えない。むしろ、自分もあんな風になってみたいと感じてしまう。両親からの期待と一体何が違うのだろう? 

 

 

「甘ぇよクソ女王……!」

 

「世一!?」

 

「狙うよな、ストライカーなら! あそこから撃てるのはこのコースしかない……!」

 

 

 依桜の放ったシュートはなんと潔に止められてしまった。愛空がコースを制限している以上、狙えるのは潔が塞いだこの場所だけ。依桜がドリブル突破ではなくシュートを撃つことに賭け、走っていたのだ。

 

 

『俺に……期待してみろや女王!』

 

『まずは自分や、自分に期待しろ。そっからしか何も始まらへんぞボケェ』

 

(……もしかして)

 

 

 潔のクリアしたボールはPAを超え、氷織の元へと落ちていった。ボールをトラップした氷織は烏の言葉を頭の中で復唱し、とある結論を導き出す。

 

 

(期待っていうのは、僕が両親(あのひとたち)にされてたみたいに……ただ一方的に押し付けられるものだけだと思ってた。けど、それだけじゃないのかもしれへん)

 

「ナイス氷織! 行くぞカウンター!」

 

(姫宮くんや潔くん、凛くんみたいにぶっ飛んだ生き様やプレーをする人間に魅了されて……本人の意思に関わらず周りは知らず知らずの内に期待させられてしまう……期待されるんじゃなくて、期待させる人間……!)

 

「氷織! こっち使え!」

 

 

 千切が氷織からのパスを求める。依桜がP・X・G側のゴール前にいる今、千切のスピードを使ったカウンターが刺さる場面だ。しかし氷織は、迷わずその足を振り抜いた。

 

 

(僕も……なってみたい! 期待されることに嫌気がさしてた僕の人生が変わることがあるのなら! それは僕が自分の意思で誰かを期待させられる……エゴイストになった時や……!)

 

「……! ゴール前から超ロングパス!?」

 

「マジか想定外……!」

 

 

 氷織は千切へのパスではなく、自陣ゴール前からの超ロングパスを選んだのだ。バスタード・ミュンヘン側は当然そんなもの無警戒であったが、P・X・Gもこの氷織のプレーは想定していない。咄嗟に合わせるのはそれこそ無理ゲーだろう。

 

 

(行け……! 僕のパスで世界が変わる……その体感をこの一撃で……!)

 

「いいねぇひおりん! お前の極エロ射精(パス)で俺のサッカー細胞が湧き上がる!」

 

「士道……!?」

 

 

 オフサイドラインギリギリで氷織のロングパスに士道が反応している。だがパスの着地点はPA外、士道の能力の範囲外だ。

 

 

「挟んで止めろ! PAに入れんな!」

 

「くわっっ!」

 

「任せろ……!」

 

 

 玲王の指示で鰐間と斬鉄が士道を止めに入る。トラップされてPA内まで持ち込まれたら彼の得意領域、その前に止めるのがベストだ。

 

 

興奮(キマル)ぜこの絶頂(かんかく)! 俺の遺伝子を孕ますぶっ飛びスパーク!!」

 

「な……!? まだPA外、しかもあのロングパスをダイレクトで……!?」

 

 

全射程認識得点能力(オールレンジ・パーフェクション)

 

大爆発直撃蹴弾(ビッグバン・ワンショット)!!! 

 

 

 なんと士道はPA外であるにも関わらず氷織のロングパスに飛びつき、ダイレクトでシュートをゴールに蹴り込んだ。ドイツのGK、バッハマンが反応こそしたが予想外の一撃に飛ぶのが遅れ、シュートはゴールネットに突き刺さる。

 

 

GOAL!!! 

 

 

『ひ……氷織羊の超絶ロングパスから、士道龍聖の空中ダイレクトボレーが炸裂!! P・X・G同点!! 同点に追いつきました!!』

 

 

「おいおいおい! お前マジで最高にエロいぜひおりん! 俺の細胞全部ビンビンだこのヤロウ!」

 

「……士道くん、僕に期待しとる?」

 

「モチのロンよ! 最終戦にして最強エロエロコンビ爆誕だ!」

 

 

 真っ先に氷織の元へ走っていき飛びつく士道。彼に頭をわしゃわしゃと撫でられながら氷織は満足気に笑うと、今度は野心に満ち溢れた表情へとその顔を変えた。

 

 

「コンビ? アホ言うなや変態悪魔。僕は誰とも組まへん、僕のパスについてこれへんかったら容赦なく振り堕とすから覚悟しぃや」

 

「いいねぇドSティック変態パサー♪」

 

 

 氷織の宣言、それは士道だけでなく潔や凛、全ストライカーへと告げられたものだ。自分のパスでストライカー共を期待させる、それが氷織の新しいエゴだ。

 

 

「少しはマシな顔になったやん……非凡」

 

 

 点を決められた側、バスタード・ミュンヘンの烏は元チームメイトの変化にどこか嬉しそうだった。同点に追いつかれたのはムカつくが、それはそれこれはこれだ。両親からの期待に押し潰され、人生を諦めかけていた氷織の躍動に烏は先輩として嬉しく思うのだった。

 

 

 ──次回、『フタリ・ヒトリ』に続く。

 

 

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