『さぁ、この激闘もそろそろ中盤戦!! 果たして誰がこのリーグの王座を手にするのか────!? な、なんと!? 今リーグでまだ一度も出場がなかったフランスの神童、ジュリアン・ロキがここに来ての出場表明です!!』
「ねぇロキ〜! 交代してよ交代! つまんないからさ〜( ˘• ₃ • )」
「ダメです。そうさせない為に僕がわざわざ出てきたんですから」
満を持してフィールドに出てきたフランスのマスター、ジュリアン・ロキ。彼はいきなりシャルルの交代願いをバッサリと断ると、チーム全体に指示を出す。
「ここからが本番ですよP・X・G。まずは流れを変えてシャルルのモチベーションを取り戻します」
「扱いずらいなぁ天邪鬼は……」
「そんじゃ、見せてもらいますかフランスの神童ちゃんの実力」
氷織や愛空がそれぞれコメントを残す中、潔はドイツ側のベンチにいるノエル・ノアを見ていた。こちら側はロキが出てきているというのに、向こうはまだ出場する気はないようだ。
(世界No.1ストライカー、ノエル・ノア……見てろ、絶対に引きずり出してやる……!)
憧れの人物だろうが、世界一だろうが関係ない。この試合で潔は全てを喰らうつもりだ。それはノエル・ノアであろうと例外ではない。
『では改めまして、フランスはDFのギャバンに変わりジュリアン・ロキを投入! これは超攻撃的なフォーメーションだ!』
P・X・Gボールで試合再開。ボールは早速入ったばかりのマスター、ロキに渡った。
「それじゃあトばします!」
「な……!?」
「速い……!」
試合開始早々、ロキの圧倒的加速力が爆発した。ネスと玲王を置き去りにし、ロキはバスタード・ミュンヘン陣内を駆け抜けていく。
「頭ではわかっとったけど、やっぱ反則やろクソボケが……!」
ロキの人間離れした加速力はわかっていても止められない。どれだけ思考を回し、論理的に動いたとしてもそこにあるのは圧倒的スペックの差。埋めることなどできないのだ。
「くわっっ!?」
「無理ゲーっしょこんなん……!?」
CB二枚を抜け、ロキはあっという間にゴール前にたどり着いた。GKバッハマンはそのあまりの速さに手を震わせていた。この1on1に勝たなければ失点、しかし相手はロキだ。怯えるのも当然だろう。
「遅いヤツから死んでいく、これ自然の摂理ですよ」
「じゃあアンタも死亡確定!」
「……!?」
失点確実だと思われたその時、依桜がスライディングでロキのボールを弾いた。ロキはやや驚きの表情をして、ラインを越えて外に出るボールを見ている。
「ごめんね坊主ちゃん! ボクの眼にはアンタも止まって見えてるよ♪」
「へぇ……あの時とはまるで別人ですね、面白い」
依桜とロキは過去に一度戦い、その時は依桜が完膚なきまでに叩きのめされた。しかし今違う、依桜の実力は確かにロキに届きつつある。それを確認して、ロキは不敵に笑った。
「ごめん姫宮! 全然反応できなかった……!」
「読みでもテクニックでもなく、単純なスピード。一見ただの脳筋プレーやけど、これ極められるのが一番厄介やな」
玲王や烏ですら止められない速さ。単純なコトだが速いとはそれだけで厄介なのだ。千切や斬鉄の超上位互換、それがロキと言えるだろう。
「とにかく……ロキをどうにかせんことには話にならんな。行けるか、姫宮?」
「あったりまえでしょ! 何回でも止めてあげる!」
現状ロキを止める術は依桜に託す他ない。凛や士道、潔の存在も充分脅威的だがやはりロキだけは頭一つ抜けている。
(……確かに今はそれ以外方法はない。けど、ただでさえ消耗が激しいのに姫宮の体力がいつまで持つか……それに今回は3分間耐えればいい訳じゃない。早く対策を考えないと、このままじゃジリ貧だ)
玲王は思考しながらベンチに目をやる。ノアが出てくれるなら戦力的にも遥かに楽になるのだが、未だ動く気配はない。ノアには頼れない、自分達でどうにかするしかないのだ。
「スピードはロキだけの物じゃねぇっての!」
(くっ……! コイツも速い!)
スローインからボールを受け取った千切がネスを抜き去る。ロキばかり警戒していても他で潰される、フランスの攻撃力は今や異次元のレベルだ。
「いいですねお嬢さん、僕についてこれますか?」
「上等……! やってやんよ
千切とロキの連動。ただの速いドリブルとパス回しだがこれだけでバスタード・ミュンヘンは後手後手に回ってしまっている。
「W瞬足……! やばすぎんだろ!?」
「無理、追いつけない」
「舐めんなや、潰させてもらうでお嬢!」
「クッ……!」
しかし烏が何とか二人の連携に割って入り、千切を引き剥がすことに成功した。烏のプレスを受けてボールを弾かれた千切だが、間一髪足を伸ばしてロキに繋げた。
「はい、後はどーぞ性欲モンスターさん」
「OK早漏坊主♪」
そしてロキから士道へのラストパスが通った。まだPA外だが、今の士道ならば狙える位置だろう。だがバスタード・ミュンヘンも黙ってはいない。シュートを阻止すべく、鰐間が強引に身体を入れてきた。
「撃たせん! くわっっ!」
「そんなへっぴり腰じゃ俺のダイナマイトは消せないぜ!」
しかし士道はそれでも強引に撃ってきた。ゴール枠内へのシュート、だがそれを玲王がブロックする。
「間一髪……! ギリクリア!」
「チッ……! しつけーなちょんまげ!」
「ぬりぃなモノマネ紫」
「……!?」
玲王が弾いたボールは持ち主を失いPA内を彷徨う。そこに最初にたどり着いたのは凛だった。完全フリーの状態でシュートを放つが、一か八か飛び込んできた依桜にギリギリのところで防がれてしまった。
「あっぶな〜! 惜しかったねりんりん♡」
「ウロチョロピンク蝿が……!」
ウィンクして煽る依桜と青筋を立てて怒る凛。そんな中、依桜の弾いたボールに喰らいつく者がいた。潔がこぼれ球に素早く反応し、シュートを狙ってきたのだ。
「どっちもぬりぃよ自滅主義者共」
「世一……!?」
驚く依桜を横目に、潔は足を振り抜いた。キーパーも反応できていない、完璧なタイミングでの不意打ちダイレクトシュートだ。
「まだだ追いつく!」
「……! 斬鉄!」
「でもまだ枠内……!」
しかしそのシュートを斬鉄がブロックした。彼の足に当たったシュートは軌道が変わるが、それでもゴール内へと進んでいく。しかし確実に取りやすいボールになったのは確か、キーパーバッハマンがギリギリのところで弾き、ボールはラインを越えてスローインとなった。
「ナイスキーパー!」
(何とか凌いだ……けどこれじゃあキリがないぞ……!)
P・X・Gの猛攻を紙一重で凌いではいるが、ロキがいる限りこの攻撃は止まらない。依桜が守りに徹しているので反撃の手段も限られてしまう。その事実に玲王は焦りを覚える。
「ハァ……ハァ……ゲホッ……! ゲホッ……!」
「おい! 大丈夫かよ姫宮!」
「……平気、まだ行けるよ」
膝に手をついて息を落ち着かせる依桜に玲王は心配そうに駆け寄る。やはり依桜の体力はもう長く持たない、そして依桜が力尽きたその時はバスタード・ミュンヘンが敗北する時だ。
(せめて、姫宮に頼らずロキをどうにかしなきゃ……! でもそんなコトできるのか?)
玲王が思考を回している間も時は止まってくれない。スローインですぐさま試合は再開され、ボールを持った蜂楽がサイドから攻め上がる。
「第3部開幕なり♪」
「チッ……!」
守備に入った閃堂をかわし、蜂楽はシャルルへとパスを送った。それをトラップしたシャルルは少し思考した後、凛へと長いパスを送る。
「奪え日不見!」
「あいよ楽勝!」
「残念、トラップ甘々です」
「な……!? マジ!?」
シャルルのパスをまたもや防いだ日不見。しかしその瞬間、トラップでボールが足元を離れた僅かな隙でロキにボールを奪われてしまった。人智を超えた速さに日不見も絶句するしかない。
「ホラ、もう一度立て直しますよシャルル」
「は〜い」
ボールを奪ったロキは再びシャルルへとボールを戻した。しかし当の本人はどうにもやる気が出ないのか、気の抜けた返事が返ってくるだけだ。
「やる気ないなら帰れやボケ。気ィ抜いたら堕ちてくで虚無ノ邪鬼クソガキ」
「もー。ウッザいねドイツニキ達……!」
これには烏がしっかり対応している。普段ならともかく、今のやる気を失ったシャルルではバスタード・ミュンヘン相手に好き勝手している余裕はない。
「やる気出ぇへんなら僕に任しとき、おもろいもん見せたるわ」
「……氷織!」
だがカバーに入った氷織にボールが渡り、攻撃は続行された。脱力を生かしたドリブルでバスタード・ミュンヘン陣内に切り込んでいき、絶妙なタイミングでパスを出す。
「ここやろ? 走ってみ
「……! 僕を試しますか、いい度胸だ」
氷織のパスはDFの頭上を越えていく。本来、誰も追いつけずにゴールラインを越えるような球だ。しかし、ロキの超加速があればそれは不可能ではなくなる。
「嘘だろ……!」
「マジかアレ追いつく……!?」
ロキはどんどん加速を増していく、このままでは本当に追いついてしまうだろう。しかし、そんな彼に一人肉薄する者がいた。
「加速なら俺も得意だスプライト坊主……!」
「……!?」
ギリギリ、本当にギリギリだが斬鉄がロキの加速について行き身体を入れることに成功した。ロキといえど全くのノーダメージとは言えず、多少なりとも速度を落とし体勢を崩された。
「ナイス斬ちゃん♪ さっすがバカ加速♡」
そしてその隙を依桜が見逃すはずもない。ボールを何とかクリアし、P・X・Gの攻撃を一時中断させることが出来た。だがリスタートは依然としてフランス側、彼らの攻撃が止まらないことに変わりはない。
「へぇ〜、やるねぃおバカメガネ」
「ナイススプリントだ!」
「自分、足の速さなら負けないんで」
「次、来るよ?」
日不見や鰐間が斬鉄の活躍を褒め、それに対し満更でもないのか斬鉄はメガネをクイッと上げてカッコつけている。灰地がフランスのスローインが来ることを忠告きたが聞こえていないようだ。
(……今、なんで斬鉄はロキに追いつけた? いくら斬鉄が速いといっても、ロキのスピードは人類の枠を超越してる……足の速さ一点ならサッカーだけじゃなく全てのスポーツ選手の中でも頂点クラスだ)
そんな中、玲王は一連の流れを思考していた。確かに斬鉄は速い、そんなことはこの中で玲王が一番わかっている。しかしそんな彼でも届かないのがロキという男だ。世界を騒がせる神童の名は伊達じゃない。
(……そうか! 考えてみれば簡単なコトだ、これなら!)
そして何かを思いついたのか、玲王は斬鉄の元へと走っていった。そして興奮気味に彼にとある命令を下す。
「斬鉄! お前にやって欲しいコトがある!」
「……? なんだ、玲王?」
「お前がロキを封じ込めろ! そうすりゃ、姫宮が自由に動ける!」
その発言に斬鉄は面食らった。それが不可能なのは自分が一番理解しているから、さっきのプレーだってたまたまなのだから。
「そうしたいのは森々だが……俺でもあの坊主に追いつくのは難しいぞ」
「バーカ、山々だろ。かけっこじゃねぇんだ、別によーいドンで正々堂々ロキと張り合う必要はないんだよ」
「……?」
玲王の言葉の意図を理解できない斬鉄。これは彼が馬鹿だから、という訳では無いだろう。事実、玲王の話の本筋はここからだ。
「いいか? お前はロキの前方3m位の位置から常にアイツを監視し続けろ。それだけの距離的アドバンテージがあれば、お前の加速力でロキに喰らいつけるはずだ」
「なるほど……フライングゲットか」
「別にボールを奪えなくていい、とにかくロキの動きを制限しろ。そんでそこを……清羅! お前が刈り取ってくれ!」
「……!」
そして次に玲王は清羅を指名した。名指しで呼ばれた清羅は驚くが、すぐに冷静になり玲王の話に耳を傾けた。
「あいよ」
「頼んだぜお前ら」
そして玲王の策を承知する。清羅とて生き残りたい、ロキを封じることができれば彼の評価は一気に上がるだろう。
「さて、そろそろ決めますか」
千切のスローインで試合再開、ボールは当然のようにロキの元に投げられるが……
「安直やボケ、もうちょいマシなとこに投げんかい」
「チッ……! 邪魔烏!」
そこを烏がカットした。ロキが突き抜けてやばいのは全員の共通認識、軽々と通させてくれるほど烏のセンサーは甘くない。
「安直なのはお前だ害鳥」
「な……!? 潔……!」
だがフランス側も当然わかっている。烏がカットしたボールを今度は潔が奪い返した。同じメタ・ビジョン使い同士の対決、まずは潔に軍配が上がったようだ。弾かれたボールは所有者を失い、宙を舞う。
「
「任せて」
そこにいち早くたどり着いたのは灰地。まだバスタード・ミュンヘンのゴール前にボールがあるので、無理にキープはせずに前線にクリアした。
「ナイス灰地ちゃん♪」
「おっと、やらせないぜ姫宮」
「……!」
このクリアボールを確保しようと走る依桜だが、愛空が身体能力を活かした高い位置でクリアした。再びボールはドイツ側ゴールへ向かっていく。愛空からシャルル、そしてロキへと流れるようにパスは繋がっていった。
「行かせんぞ速坊主!」
「僕に勝てますかメガネさん?」
ロキにボールが渡ると斬鉄は玲王に言われたように無理に距離は詰めず、あくまでロキの前方に居座る形でのディフェンスを開始した。距離にして3m弱だ。
(いいぞ……その位置ならたとえロキ相手でも……!)
「フライング……ゲットッッ!!」
「……!?」
(お前のバカ加速で喰らいつける!!)
ロキが加速した、それと同時に斬鉄も全速力でついて行く。当然速度はロキの方が上、しかし距離を取っていたことによりギリギリのところで身体を入れることに成功した。ボールを奪うまではいかないものの、ロキの自由と速さを制限したのだ。
「これ思ったよりキツイぞ玲王ッ……!」
「いや、それでいい! 清羅!」
「あい……!」
そして斬鉄がロキを妨害してる隙を突き、清羅がロキにチャージを仕掛けた。彼の体幹、そしてボディバランスがあればそう簡単には崩されない。アクロバティックな動きでボールをカットし、玲王へと繋いだ。
「最高だ飛車コンビ!」
玲王はすぐさまボールを前線のネスに。せっかくもぎ取ったチャンスだ、無駄には出来ない。
「やりますねビジネスパートナー。それじゃあそろそろ決めましょうか」
ボールをトラップしたネスはこれまた敵の判断を待たずに左サイドへのスルーパスを出した。そこには閃堂が走っている。
「オラァ! 決めろ姫宮!」
ネスからのスルーパスに閃堂は全力ダッシュで追いつき、ダイレクトで依桜に浮き玉でパスを上げた。ボールを奪ってから一転、素晴らしい精度の高速カウンターだ。
「あはは♪ こっちだよ〜!」
「くッッ……!?」
今度は愛空の裏を抜け、依桜がフリーで抜け出した。そこに閃堂のパスが飛んできている。依桜ならば無数のフィニッシュパターンを持っている、キーパーの警戒も最大に達していた。
「キメェんだよ花畑アホピンクが」
「……!」
しかし、そのパスが依桜に到達することはなかった。凛がパスコースに入り込み、カットしてしまったからだ。彼はボールを確保すると視界を前に向け、獲物を見つけた獣のように舌なめずりをした。
「あはっ♪ やっと本気になった? ベロりんりん!」
「ぶち壊してやるよ……
凛のその姿を見て、依桜は思わず笑みを浮かべた。Uー20戦で見せた凛の真のプレースタイル、全てを壊す破壊獣へと変貌した彼ともう一度戦いたいと思っていたところだ。破壊衝動のまま突き進む凛を止めるべく、依桜も足に力を込め走り出した。
──次回、『デストロイヤー・オブ・ライフ』に続く。