「私の名前はメルメリア=ルルフォート。クカンユ出身の二十二歳。よろしくね」
「うん、よろしく!」
「おう、こっちこそ」
「おー」
「こちらこそ、よろしく頼む」
ひとまず軽く自己紹介。アイサツは大事。古事記にもそう書かれている。
「メルメリアさんって、一次試験の会場であのヒソカと組手してた人だよね?」
「う。まあ、うん。あっちは手抜いてたけどね」
「いやいや、あの野郎に対して一歩も引かなかったのはすげぇよ! なあ!?」
「うん! オレ、不意打ちで一発は入れられたけど……そのあとすぐに負けちゃったもん」
「うむ、同じことをしろと言われてもできると断言する自信はない。そもそもの話、女性はどうしてもフィジカルで不利になりがちにもかかわらず、あれほどできるのだからな……何か武術でも?」
「一応、心源流で師範代をやれるくらいには……」
「へー、大して速くないのに動きが……こう、なんつーの? 巧い? のはそういうことね」
こうやって面と向かって主人公組と話すと改めて思うが、全員陽キャだなぁこいつら。少年漫画の主人公張ってるだけはある。
キルアが軽口を叩きながらもちょっと警戒してるっぽいのは、ヒソカとやり合ってるときに不可抗力で高めざるを得なかったオーラを感じちゃってたからかな?
だとしたらさすがの勘の良さだ。だいぶ遠巻きにされてたから結構距離があったはずだからな。
ともかくこんな感じで、おしゃべりをしながら多数決の道は始まった。原作と違って行動開始するまでに何時間も待たされたとかがないし、トンパと違って俺に足を引っ張る意思がないから実にスムーズだし和やかだ。こういうのでいいんだよ、こういうので。
最初の選択肢は右に行くか左に行くか。ここは覚えてるぞ、原作は確か右に行ったはずだ。
原作だとここでは左を選んだレオリオが不満をあらわにするが、これも原作ほどではなかった。やっぱ原作だと、最初にかなり待ちぼうけを喰らったのが尾を引いてたんだろうな。
あとはあれか。俺が女だからってのもあるのかもしれん。
なんていうか、レオリオって最初に登場したときにスケベな本読んでたくらいだし、この四人の中ではやっぱり一番まっとうに「普通」だよね。ゴンたちについていけてるんだから、決して凡人ではないけどさ。
ところで俺は全体的にかわいい系で、胸もそんなに大きくはないんけどレオリオの好み的にはどうなんかね。もちろんそういう意味で好かれても困るだけだけどさ。
「お、なんか開けたところに出るっぽいぞ」
と、そうこうしているうちに最初の試練か。
そこはだだっぴろい空間……の、真ん中以外は底が見えないほどの深さになっている場所。出入口は中央部分を挟んだところに一つずつ。
そして俺たちが来たところとは反対側に、腕に枷をはめられボロ布で全身を覆った人影が五人分。あれがここの試験官、リッポーが自分の刑務所から選出した試練官だな。
うーん、そこそこ距離があるし明かりも少ないから、ここからだとさすがに顔の判別がつかないな。原作と違う人間がいないか確認しておきたかったんだが、仕方ないか。
なんて考えている俺をよそに、話は進んでいる。一人の囚人が手枷と布を取り払い、前に出てきて説明している。
簡単に言えば、俺たちはここで彼ら五人と一人ずつ戦わないといけない。戦う方法は自由。順番も自由。ただし引き分けはなし。
そして三勝以上したら俺たちは先に進めるが、三敗したらここで試験は失格で終了だ。
あとはルールとして向こうから明かされないが、ここで俺たちを一時間足止めするごとに彼ら囚人の刑期が一年減刑される、というのもあるな。彼らはもちろん勝つ気で来るが、このルールのおかげで、勝てなくとも時間さえ稼げればそれだけでも十分意味を持ってくる。
実際原作でも、大半のやつが時間稼ぎにいつでも移行できるような作戦、もしくは作戦そのものに遅延要素を入れてたしな。
「こちらの一番手はオレだ! さあそちらも選ばれよ!」
おっと、説明終了か。そんじゃ行きますかね。
「私一番手もらっていい? これでも肉弾戦はちょっと得意なんだ。万が一あの見た目で頭脳系の戦いをお出しされても、一応私大卒だしなんとかなると思うんだよね」
色々と言ったが、ここは本来ならトンパが一番手を買って出て、即降参する場面だ。今は彼の代わりに俺がいるわけで、そういう意味で俺が真っ先に行くのが一番だと思うんだよね。こちとらまだしばらくは原作通りに進めたいんでね。
「そうだね、メルメリアさんなら安心だよ」
「だな。心源流拳法師範代のワザマエ、改めてしっかりと見させてもらうぜ!」
このメンツの中でも、会話のイニチアチブを取りがちなゴンとレオリオが積極的に賛同したことで、俺の一番手は確定した。クラピカとキルアも何が何でも一番手がいいってわけでもなかったようで、素直に譲ってくれた。
ということで、せり出た橋を渡って中央のリングへ。
「勝負の方法を決めようか。オレはデスマッチを提案する! 一方が負けを認めるか、または死ぬか。それまで戦う!」
あーうん、こんなだったこんなだった。
前世の俺だったら、この時点で半泣きになってたと思う。だってこの男、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。しかも強面。こんなやつにデスマッチ提案されたら誰だって泣くでしょ。
ただ今の俺は曲がりなりにも念能力者なので……危機感は正直欠片も覚えない。
てゆーかこの人、名前なんだっけ? 見覚えはあるんだけどな。やっぱ超序盤の数話しか出てこないキャラの名前とか、さすがにまったく覚えてねぇや。
「基本的にはいいんだけど、いくつか確認させてね。気絶は負け? 続行?」
「続行する。あくまで死ぬまでだ」
「んー……わかったよ。あと二個確認。武器とか防具はあり? なし?」
「なしだ。我々は見ての通り丸腰なのでね……そこは対等になってもらおう」
「あー……ごめん、確認事項一個増えた」
と、ここで私は服とズボンの裾を順にめくって、そこにあるものをアピールする。
「こんな感じで、私鍛錬のためにいつも重りを手首足首につけてるんだけどこれはあり? なし?」
そう、俺は今重りをつけて生活している。
これも一応はハンター試験対策だ。あとは念の成長率とかにマイナス補正を喰らってる身としては、あるに越したことはないかなって思って。
あと鍛錬のためとは言ったが、実のところは武器と防具も兼ねている。
どうしても女ってことで、身体が軽いんだよな。そこを補って威力を上げるためってのと、手首とかを切り落とされないために、だ。周を使えばなかなかの効果があるんだぜ。
まあ防具としては、達人を相手にしたらこの程度紙切れみたいなもんだろうが、それでもないよりはマシだろうからな。
あ、さすがに一次試験のマラソンのときやネテロ会長との稽古のときは外してました。
「……重さは?」
「一個十キロ、全部合わせて大体私の体重の三分の二くらい」
「……なしだ」
「はーい」
ちっ、しょうがねーな。つけたり外したりするの別に苦ではないけど、それはそれとしてめんどくさいんだぞ。
とりあえずゴンたちのほうに投げ……ると迷惑になるかもだし、リングの端のほうに転がしとこう。
「んじゃ最後に……フィールドの破壊はあり? たとえばだけど、四隅に立ってる燭台をへし折って武器代わりに使うとか」
「それはありだ。こちらも選択肢から外すつもりはない。……ああ待て、設置されているモニターの破壊だけはなしだ。後続の誰かが試練で使うかもしれないからな」
男が指さしたのは、リングの端に立っているモニターだ。なるほど、そういうことなら仕方ないね。
ま、ぶっちゃけこの質問、そういう意図でしたわけじゃないんだけどな。
大事なのは、このリングを傷つけてもいいということ。その言質を取れたことだ。
「おっけー、大体わかった。そんじゃやろっか」
「その意気やよし! それでは……勝負!」
ということで相手の男が猛然とタックルを仕掛けてきたが、あいにくと俺、ネテロ会長と組手してからまだ半日も経ってないんだよね。しかも最後に見たのは天下の百式観音だ。正直遅すぎてあくびが出るレベルですわ。
俺も来るところまで来たんだなぁと改めて思いながら、相手のタックルを片手でかるーく受け止める。
「な!?」
「よっこいしょー!」
「ぬおおぉぉ!?」
そのまま心源流の投げ技の一つで、男を仰向けに倒れ込む形でぶん投げてっと。男が背中から地面に落ちると同時に、すぐにマウントを取りにかかる。
お、マウント外したい? がんばるね。すぐに反応出来てえらい。
でも残念だけど、念なしでそいつはできねぇ相談だ。
まあでも、安心してくれ。俺だって無意味な殺しはしたくないんでね。
ってことで、じたばたとあがく男にオーラを込めた威嚇を放ち、一瞬身体を硬直させる。その隙に、顔の真横を通過する形で硬を一発床にお見舞いだ。
あんまやりすぎても後続が困るだろうし、硬やると全身のオーラが一部に集約されて他の部分が弱まるからマジで顔の真横辺りを、しかも床にほぼ触れるくらいの高さからゆっくりゆっくりとタッチ。
すると直後、巨大な破砕音が響き渡った。次いで息を呑む音がかすかに聞こえて、男の顔があっという間に青くなる。
ま、そりゃそうだろうね。何せマジでそーっと、それもちょんって触れた程度だったにも関わらず、リングにそこそこの穴ができたんだからさ。俺は強化系と相性が悪い具現化系だが、それでも硬はこれくらいの威力を担保してくれるのだ。
「今度は今のを顔に当てるつもりだけど、どうする?」
「……わ、わかった、俺の負けだ」
「はいおつかれさまー」
はい俺の勝ち。なんで負けたか、明日まで考えといてください。
「いえーい、一勝ー」
外した重りを着け直してから、ダブルピースでゴンたちのところに戻る。
同時にハイタッチを求めてみるが、無邪気に応じてくれたのはゴンだけだった。キルアに至っては壁際まで退いてる。お姉さんは寂しいぞ。
いや気持ちはわかるけどね。俺も前世だったら、ちょんって触れただけで床を陥没させるようなやつとかドン引くだろうし。
「い、今のは一体?」
「心源流の奥義みたいなもんかな。みんなも鍛えればできるようになるよ」
「いやならねーよ!?」
レオリオがぶんぶんと大袈裟に首を振ってるけど、君もできるようになると思うよ。
クラピカとキルアも似たような雰囲気だったけど、何か言う前に次の試練官が出てきたのでこの話は一旦ここまでだ。
次に出てきたのはヒョロい男だ。なんだっけ? 確か爆弾魔とかそんなんじゃなかったっけか。
これに応じたのはゴンだ。原作通りだな。よし。
そして戦い自体も、原作通りに推移した。
互いのロウソクに同時に火をつけて、先に自分の火が消えたほうが負けってルール。ロウソクは長いのと短いのを選べるが、どっちを選んでも燃えやすいほうを渡される。
もちろんゴンもそれに引っ掛かったわけだけど、「火の勢いが強いってことは、ちょっとの風じゃ消えないってことだね」ということでロウソクを床に降ろし、一気に相手に接近。ロウソクに息を吹きかけて消すことで勝利を収めた。
ま、策士策に溺れるってやつだったな。
そして出てきた三人目。歪んだ顔の見掛け倒し……こいつはジョネスと並んで覚えてるぞ。
名前は確かマジタニ。マジでただの見掛け倒しで、懲役年数も詐欺とか脅迫とかでコツコツ積み重ねただけのビビリだったはずだ。
これに応じるのはクラピカ。これも原作通りになった。
よし……と素直に言っていいのかどうかは解釈次第だろう。
原作におけるマジタニの役割は、クラピカというキャラクターが負う「緋の目を持つ少数民族クルタ族唯一の生き残り」という設定を開示させることにある。
マジタニはその罪状のアレコレをやる際に円滑に進められるよう、幻影旅団員が身体に入れている蜘蛛の入れ墨を真似て入れてるんだが、これを見たクラピカが――偽物だと理解はしていても――激昂。作中で初めて緋の目が披露されることになる。
そして激昂したクラピカは、普段の冷静さをかなぐり捨てた荒々しい一撃を容赦なく見舞い、マジタニを一発KOする……というのが、クラピカVSマジタニ戦のおおまかな流れだ。
ここまではいい。問題はここからである。
なぜなら、死亡か降参以外勝敗が認められないデスマッチにもかかわらず、降参する間もなくマジタニが一撃で気絶したことで、戦闘そのものが中断する羽目になるからだ。
もちろんデスマッチなので、気絶しているマジタニを殺してしまえば勝利は間違いないのだが……クラピカは自身の信条からこれを拒否。そのまま十時間近く、彼らの四次試験は停滞し続けるのである。
この世界でも、そうなった。俺、ゴン、クラピカで三勝だから通せと威勢よく言うレオリオに対して、四人目の試練官が「デスマッチなのに死んでいないし、降参も宣言されていないからまだ決着はついていない」と突っぱねたのだ。
……?
ここで俺は首を捻った。その声に聞き覚えがあったからだ。
俺が忘れるはずもない。この声は、レルート先輩の声だ。
そんなバカな、と愕然とする。
いやでも、あり得なくはない、のか。先輩は超長期刑囚だ。ここで使われている試練官たちと、立場は同じ。
だとしたら……。そう思った俺は凝までして、リングのさらに向こう側にいる試練官たちの顔を確認しようとしたが……相変わらず暗くてよくわからない。
ただ、今レオリオと言い合っている相手が女性であることは間違いない。それは声からだけでなく、わずかに露出している腕や足でもわかる。
まさか。
まさか、本当に?
本当に先輩なのか?
そのままなし崩し的にマジタニが目覚めるまで待つことになったが、俺は気が気じゃなく、悶々としたまま時間をやり過ごすことになった。
マジタニ、なんだかんだで好きよ。人間臭くて。
ハンターハンターって、脇役どころか半モブキャラすらどいつもこいつもいい味出すヤツ多いの、マジですごいなって思う。
それだけ魅力的なキャラを量産できる手腕、素直に尊敬する。