遅れて時間つぶし用の部屋に入ったら、他の四人にものすごく生暖かい目で見られた。
はっず。よく考えるまでもなく、衆人環境下での告白とか何やってんだろうね。しかもキスまでして。
「メルメリアさんは女の人が好きなの?」
「私の性自認は男寄りだから……」
「? それはどう違うの?」
やめてゴン! 純粋な好奇心でデリケートな質問をしないで!
悪気がないのはわかってるけど、そういうところだぞお前! そういうあけすけすぎるところ、マジでジンの息子って感じだからな!?
「ゴン、その辺にしといてやりな」
「人それぞれだよ、ゴン」
比較的年齢が上のレオリオとクラピカがとめてくれるが、もう遅いのである。
……というか、思い出した。俺はレオリオにはやらなければならないことがある。
「ゴンの質問をとめてくれたのはありがたいけど、それはそれとしてレオリオには一発拳をぶち込んでも私は許されると思うんだ」
「い!? いやいやいや、それはちょっとやりすぎじゃないか!? 俺だってあんたに配慮して直接触りはしなかったしよォ!」
が、レオリオの味方はいない模様。ゴンとキルアは様子を見ている。
クラピカに至ってはそっとレオリオの背後に回った。そうこなくっちゃな。
「大丈夫大丈夫、別に力は入れないからね!」
「これほど信用できない言葉もなかなかねェな!? ……クラピカ? なんで羽交い絞めにする? おい!?」
「これに関しては全面的にレオリオが悪い」
「ナイスクラピカ! よーし、そんじゃ一発行くよー」
「!? ヤ……ヤメローヤメロー!!」
「イヤーッ!!」
「グワーッ!?」
天誅!
安心しろ。こんなところで洗礼なんてことになったら目も当てられないから、オーラはマジで一切込めてない。普通に鍛えた女が殴りかかる程度の威力しかないはずだよ。
まあ、そんなのでも鳩尾に入ったらそれなり以上に痛いとは思うが、それは人の大切な人を辱めた罰として甘んじて受け入れてくれ。
その後は特に揉めることなく、五十時間を潰すことになった。暇すぎたからか、ゴンから強くなりたいから拳法を教えてくれと頼まれたので、短時間だが心源流拳法講座を開催するまであった。何せ俺、一応は師範代を名乗れるんでね。
最終的には全員がこれに参加したが、一通りやってみて思う。やっぱり一番バトルセンスがいいのはキルアだ。僅差でクラピカが続く。
ゴンももちろんすごくいいんだが、この二人と比べちゃうとどうしてもな。レオリオは言うまでもない。
「さっきはやることなかったから、不完全燃焼なんだよね。せっかくだしオレとちょっと戦ってみない?」
キルアからはそう誘われる一幕もあった。
急に強気で来たなと思ったけど、なんか見極めようとする目だな。オーラのことはわからずとも、何かしらの力が働いてると感づいたのかな? だとしたらさすがゾルディックの秘蔵っ子だな……(震え声
「こ、殺しだけは勘弁してください……」
「あれ? オレのこと知ってんの?」
「ゾルディック家でしょ? 君ら世界最高の暗殺一家のクセして家のこと何にも隠してないじゃん。確か地元じゃ観光地扱いされてなかった?」
「そういやそーだった」
「観光地扱いの暗殺一家ってなんだよ!?」
なんて会話を挟みつつ。せっかくだし、ネテロ会長のそれとは違うジャンルの強さも体験したかったから、話に乗ってみた。
結論としては、念に頼らなくても意外とキルアについていけることがわかった。目は彼の動きにあんまついていけてないんだけど、カウンター重点にすれば行ける感じ。凝があれば、普通に反応できた。
どっちも手加減されてたとはいえ、ヒソカにネテロ会長にとこの世界の上澄みと連続でやり合った経験は無駄ではなかったようだ。
ただ、カウンター重点でキルアと戦うということは、彼のナイフより鋭い手刀を受けかねないということである。
実際、当たってるのにダメージが一切入らないことに業をにやしたのか、一般人なら即死レベルのやべー一撃をもらうことになった。オーラがあるのでちょっと痛い程度で済んだのだが……人体同士がぶつかったとは思えない音が響いたので、レオリオを中心にまた引かれた。
「オメーの身体どんな強度してんだ!? 殺さないでとか震え声で言うやつの身体かよこれがよぉ!?」
「かわいい女の子相手に失礼な! 鍛えればわりと大半の人はこの域に来れるよ!」
「絶対ウソだ!」
「ウソじゃないですー!!」
いやマジで、本当に嘘じゃないんだ。彼らにまだ念について話せないのがもどかしい。
……まあ、キルアが念を身につけたら俺は普通に勝てなくなるだろうから、話したくないって気持ちもなくはないんだけどさ。
だって非能力者の動きを、念能力者が目で追うだけで手いっぱいなんだぞ。凝を使えば追えるとは言うが、逆に言えばそれはキルアが念に目覚めたら俺ではどうにもならないってことだ。
加えて彼の発がヤバい。なんだよオーラを電気に変えるって。人間という生物は電気信号で動いてるんだぞ。どうにもならんじゃないか。
……とそんな感じで五十時間を過ごした俺たちは、いよいよ先に進むことを許された。
この時点で、残り時間は十五時間ほど。原作だと確か十時間を切ってたはずだ。これは俺がマジタニ戦後の流れを早めた結果だろうな。早まった分がそのまま反映されている形だ。
おかげである程度余裕を持って進めることができた……のだが、この多数決の道の最後は十時間以上あったってどうしようもないものだ。
何せ最後の選択は、「五人で行けるが最短で四十五時間はかかる長い道」と「三人しか行けないが三分でクリアできる短い道」の二択を選べというものだからな。
ここに来るまでの間に遠回りだったり逆走だったりをしたものだから、この時点で残り時間は五時間程度までに減っていた。どっちにしても、長い道は選べない。
……と思うのが普通だが。原作だとここでは、長い道に入ったところで壁をぶち壊して短い道に入るというやり方で突破することになる。
この案を出すのは主人公のゴン。極限の精神状態で二択を迫られているのに、それをぶち壊す発想ができるところはさすが主人公の面目躍如というシーンだった。
この世界でも基本的にはそうなった。
原作と異なるのは、ここにいるのがトンパではなく念能力者の俺ということだ。だからこそ、壁をぶち破るのはほとんど一瞬で終わった。他の四人を下がらせて、きちんとした硬をぶち込めば余裕の一発だからな。
いくら俺が具現化系で、この手のことが不得手とは言っても硬は硬だ。これくらいはわけもない。
「ナイスゴリラ」
「言い方~!」
一年後には君もできるようになってるよ。なんなら俺より高威力で。
とは思ったが言い返さず、素直にキルアに茶化されつつも、俺たちは問題なくゴールに辿り着くことができた。
原作では壁に穴をあけるのに時間を取られていたから、到着は制限時間ギリギリ。文句なしのビリだったが、ここでは違う結果になったわけだ。
まあ俺らのあとにゴールした人が、制限時間ギリギリ近くにゴールした瀕死の人だけだったし、しかもその人は直後に死んだから、結局俺らがビリなことには変わりないんだけどさ。とにかくその人を最後にして、三次試験は幕を閉じた。
通過人数は、全部で二十五人。ただしうち一人死亡済みだから、四次試験に参加するのは二十四人ってことになるな。
……この人数が原作通りかどうか、わからないな。さすがにこんな細かいところは覚えてないし、読者として読んでる分にはそもそもあんまし関係ない数値だったからな。
しかしこの二十四人の中から、狩るものと狩られるものが決まる。受験者はくじを引き、引いた番号の受験者のプレートを七日間のサバイバルの合間に奪え、という試験だ。
俺は誰を引くことになるだろうか。原作だと俺の立ち位置にいるのはトンパで、彼のターゲットはレオリオだった。なるべくならレオリオは狙いたくないなぁ。
あとトンパの立ち位置にいるとしたら、俺を狙うのはクラピカということになるはずだが……まあこっちはなんとかなる、か……?
なんてことを考えながらも、俺の番が来たのでくじを引く。引いた番号は……198番。
……ふむ。ナントカ兄弟の末っ子の番号かな、これは。
確か……この兄弟の誰かがキルアのターゲットだったはず。でもって兄弟全員をキルアが狩り尽くすから……そこに便乗する形で行こうかな。
よし、方針決まり。あとは俺を狙うやつが、ヒソカやイルミじゃないのを祈るだけだ。
***
ゼビル島に上陸後、俺は真っ先に水場を探した。すぐにターゲット探しに行ってもいいんだが、どっちみちナントカ兄弟たちは最終的にキルアに狩られるし、それは初日には起こらない。まだ時間は十分に余裕がある。
俺にしてみればそんなことよりも、レルート先輩に汗臭いと言われてしまった現状をなんとかするほうが圧倒的に優先度が高いのだ。
ということで島を散策すること数時間、ようやく水浴びできそうないい感じの水場を発見した。
……正直なところ、俺の中の元日本人の感性が、無人島の湧き水で水浴びするのは嫌だと叫んでいる。一見きれいに見えても、その水に何がいるかわかったもんじゃないからだ。
だが今は背に腹は代えられない。せめてドラム缶か何かでもあれば、沸かして風呂にすることもできるんだろうがな……この水で何とかするしかない。
とりあえず周辺に人がいない――正確には一人につき一人監視員がついているが、影に徹してるのでノーカン――ことを確認した俺は、覚悟を決めて裸になって泉の中に踏み込んだ。うーん、ひんやりとした感覚が気持ちいい。
しばらくその感覚を楽しんだあと、髪を洗う。シャンプーがほしいところだが、これも仕方ないな。
と、思ったところで誰かが接近してくる気配を感じたので急いで水場から上がって身構える。この際裸なのはしょうがない。別に見られるくらいなら気にすることでもないしな。
「あれ、メルメリアさん?」
「なんだ、ゴンか」
よかった、やべーやつじゃなくて。
俺はホッと一息ついて構えを解く。
「ごめん、ちょっと見えちゃった」
「ん? ああ。いいよ、気にしてないから。塔で言ったでしょ、私の性自認は男寄りなんだ。ゴンもたとえばだけど、キルアに裸見られるくらいどってことないでしょ?」
「あーなるほど? あれってそういう感じなんだ。……でも、やっぱり悪いよ。メルメリアさんには好き合ってる人もいるんだし、オレが見るわけにはいかないでしょ」
「なんという光属性……」
年齢的なものもあるんだろうけど、ゴンって性欲あるのかな。まあこれはゴンに限らず、少年漫画の大体のキャラに当てはまるか。
おっと、ゴンの厚意にいつまでも甘えてるわけにもいかないな。そこまで配慮してくれてるなら、すぐに着替えてしまおう。
「ゴン、もういいよ。着替え終わったから」
「うん。……あれ、塔で着てたのと違うね?」
「備えあれば憂いなし、ってね。替えの服は何着か持ってきてるんだ」
「あ、そっか。女の人ってその辺大変だよね」
そんなことを話しつつ、ゴンが遠慮なく裸になっていく。この辺りは本当に幼く感じるなぁ。
まあ故郷の環境的にも、そういう羞恥心は育ちにくかったのかもしれないけど。あとは、なんだかんだで女性経験豊富ってのもあるのかな。
「あれ? でもそのリボンはそのままなんだ」
「あ、これ? これは先輩からのプレゼントなんだよね。だから使えなくなるまで使うつもりなんだ」
似合うでしょ? とポニーテールをちょいっと指で持ち上げてみれば、ゴンからは「うん!」という気持ちいいくらいまっすぐな返事が来た。
そうこうしているうちに、ゴンも水浴びを始めた。ついでに服も洗うつもりらしい。
それはいいんだが、あまりにも俺に対して無防備すぎる。大丈夫かなこれ……。
「……ゴン? 私のこと警戒しなくていいの? もしかしたら私のターゲットがゴンかもしれないよ?」
「んー……最初はもしかしてって思ったんだけど、話してるうちになんか違うなって思って」
「なんか、ってそんなあやふやな。まあでも、そういうこともあるのかな」
何せジンの息子だし、そもそも主人公だもんな。野生児だし。勘もバカにできないのが漫画の世界だしな。
「実際、私のターゲットはゴンじゃないしね」
ということで引いたくじを見せる。捨てずにとっておいたのだ。
「198……? 確かキルアのターゲットが199だったような」
「あ、ほんと? たった二十四人の中で受験番号が連番で固まってるなんてほぼないはずだから、もしかしたら私とキルアのターゲットはあの三兄弟かな。ゴンは? ターゲット何番?」
「……えーっとね……」
キルアも原作通りということで、ホッとしながら話に合わせて質問を投げかけたら、露骨にゴンが言いよどんだ。目も泳いでいる。この反応は、原作通りヒソカかな。
「……実はオレのターゲット、
確認ヨシ!
「……マジ?」
「マジ」
「それはなんというか……運がないというかなんというか……」
「キルアにも言われたよー。でも今回のお題は絶対倒さなきゃいけないわけじゃないからさ。どうすればいいかはまだ思いついてないけど、プレートだけを狙うなら何か方法はあると思うんだ」
「そこでターゲット外のプレート集めにシフトしないところは、素直に尊敬するよ。私だったら絶対諦めてる」
いやマジでな。俺にはとてもできない。
「……手伝おうか? 私のやること終わってからになるだろうけど……」
「……いや、いいよ。まずは一人で何とかしてみる」
「そっか、わかった」
これだもんなぁ。まったく、凡人には眩しいよ。主人公ってやつはさ。
「……それじゃ、私はそろそろ探索に戻るよ。がんばってね」
「うん、メルメリアさんもね!」
ということで、改めて島の探索を始める俺だった。
まずは……キルアを探すところからだな。
実のところ、四次試験はきちんとくじ引きをして原作とまったく違う展開にしようかとも思ったんですが、それだと書きたいシーンになかなか辿り着けないので妥協しました。
ご都合主義なのは承知してますが、ここは大目に見ていただきたく。