神楽坂と古代の機械巨人   作:交響魔人

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GXからゴッズへの移行期に、こういう事件があったのではないか…?という物語です。



神楽坂と治安維持局設立法案

 リンタマ市。

 童実野町の隣にあり、童実野町よりも治安の悪い都市。

 

 

 小さな飲み屋の一室に、一組の若い男女がいた。

 左の薬指に白金の指輪を嵌めている処から察するに、夫婦だろう。

 

 

 その夫婦の対面に、スーツを着込んだ男が着席する。

 

 

「初めまして、私は」

「本題に入って頂戴。そんなに時間がないの。」

「失礼しました。お二方は、闇のカードに心当たりは?」

 

「ある。」

 

 即答する神楽坂に、一瞬面食らう男。

 

「流石は神楽坂プロ。」

「その呼び方はやめてくれ。マイナーリーグでの勝利にしがみ付いて燻ぶっているのに、プロなんて。」

「そのようなことは。貴方と同時期、デビュー前で雑誌に特集が組まれたオベリスクブルー出身の決闘者が次々と引退、あるいは資格を取るために専門学校に行くなど別の道を進んでいる中、貴方は真摯にデュエルを続けています。時期さえ合えば。」

 

 力説する男を、美夜は制止する。

 

 

「それで、闇のカードというのを回収すればいいの?」

「いいえ、ばらまいている元締めを対処していただきたい。」

「何?!あれをばらまいているのが居るのか!」

「はい。視覚効果以外の効果を付与した結果、実際にダメージが発生する闇のカードによる障害事件。これに対抗する為に治安維持局と実働部隊、セキュリティの設立を主張する一派がいます。」

 

 

「そんな動きに対して、日本警察が黙っているの?」

「いいえ。縄張りを荒らされた事で上層部は怒り心頭。警察に新しい部署を設立し、予算を回せばいいと主張しているのですが…それでは対処しきれない、というのが連中の意見です。」

「その主張をしている根拠が、闇のカードによる犯罪数の増加。ということでいいわね?」

「はい。ほぼ、黒です。具体的な証拠をつかめばそこから切り崩してみせる、と。どうでしょう?請け負ってくれませんか?」

 

 

「その前に。この話は俺達以外にも持ち掛けているか?」

「少しいます。この件を秘密裏に調べている腕利きの情報屋がいるのですが…。彼が調べた単語がこれです。」

 

 

 出された小さなメモ。

 

「「イリアステル?」」

「はい。彼からは『この件は、深入りすると破滅では済まない』と警告してきました。私も同感です。故に、腕が立ち、かつあまり知名度が高くない貴方達に」

「語るに落ちるとはこの事ね!」

 

 立ち上がって指さす美夜に対し、男は素早く懐に手を入れ分厚い封筒を取り出す。

 

「報酬は払います。前金で68万」

 

 渡された封筒に手を伸ばし、枚数を数え、一度数えなおした後、もう一度数える妻に神楽坂はあきれる。

 

 

「美夜。二人の子供たちの学費といい、何かと金は必要だが、お前に何かあっては取り返しが」

「シンクロモンスターのレアカードです。チューナー以外のモンスターの属性と、チューナー縛りがありますが…。」

「必要なチューナーがなければ、シンクロモンスターだけ貰っても意味がない。場に出せないシンクロモンスターなど、入れておいても役に立たない。」

「その心配は無用。貴方が使っているテーマのシンクロ・モンスターです。」

 

 

 カードファイルを受取り、テキストを熟読する神楽坂。

 

「よし、受けよう。」

「ありがとうございます。そのモンスターをシンクロ召喚するのは些か難易度が高い。そこでこの魔法カードも進呈します。貴方のデッキに合うでしょう。」

「これは。大切に使わせてもらう。」

 

 話がまとまった事で、男は笑みを浮かべる。

 

 

「それと、ここでの支払いも致しましょう。」

「注文だ!ハラミのステーキ、300gとイカスミのパエリア!」

「単品で牛タンシチュー特盛とバゲット!」

 

 

 注文を受けた店員が、美夜に顔を向ける。

 

「レディースセットにすればサラダとドリンクとデザートが付きますが…。」

「早く持ってきて」

 

 

 容赦なくこの店で高めのメニューを選ぶ夫婦を見ながら、プロデュエリストといっても下位ランカーの世知辛さを男は痛感する。

 

 

「すみません、ここのおすすめは何でしょう?」

「黒板に書いてあるのが今日のおすすめですが。」

「なら、台湾ラーメンと生ビールを…お二人は飲まないのですか?」

 

 

「帰ってデッキ調整があるからパス。」

「帰り運転するの私だし。」

 

 

 

 何せ、神楽坂夫妻は電子レンジで温めたジャガイモやパン屋から貰えるパンの耳、特売やセールを駆け回って集めた食材を自炊するという生活を送っているので、肉類を貪れる機会は少ない。

 普段のタンパク源は豆腐と厚揚げと油揚げだ。ちゃんとした肉は子供たちに回している。

 

 

 

―――――

「こちらピクシー3(スリー)、所定位置についたわ」

『よし、そのまま待機。工作班、時間厳守だが、確実性を重視しろ。多少の遅れは想定している。N1(エヌワン)はまだか?そろそろ所定位置で待機していて貰いたいが。』

 

『…K1(ケーワン)、本当に俺はここでいいのか?突入したほうが。』

『問題ない。逃走ルートは5つあると分析している。』

『だったら!』

『奴は必ずそこを通過して脱出を図る。優秀であるがゆえに、その考えは読みやすい。』

 

 

 今回の作戦を行う際、『指揮下に入れ』と言ってきた男からのメッセージを聞きながら、美夜は本当にうまくいくのか?と疑念を抱いていた。

 前金を受け取った以上、仕事は果たさねばならない。

 

 

 

―――――

「ブライソン様。今、お時間よろしいでしょうか?」

「何の用だ!」

 

 

 白いスーツを着こんだイリアステルに属する男。

 ブライソンは彼を憎々しげににらむ。

 

 

「我々は少々憂いています。治安維持局の設立とセキュリティ・チームの結成。それが出来なければ、ネオドミノシティ計画に我々が介入する事が面倒になります。」

「問題ない。すべて私に任せておけばいい。」

「そうもいかないのです。」

「闇のカードをばら撒き、治安を悪化させれば…カードゲーム犯罪に特化した部署の設立法案は押し通せる。」

「貴女がその件に深く関わっている、という確証が持たれています。我々が提案したように…闇のカード製造工場は、タンカーに造るべきでは?」

「海は嫌いだ。」

「…一つ忠告を。包囲されつつあります。脱出するのであれば」

「お前の言葉など信用できるものか!こういう時の備えはある!」

 

 

 通信機の電源をブライソンは入れる。

 

「待機中のデュエリストに告げる。今すぐ周囲を捜索しろ。」

 

 途端に慌ただしくなる施設。

 

 

「大丈夫なのですか?」

「デュエルアカデミアにおいて、オベリスクブルーで卒業してプロとしての経験もあるエリート達だ。戦力としては十分だ。」

(デュエルエリートといっても、プロリーグで通用せずに引退した微妙な実力者がどこまで役に立つのやら)

 

 冷ややかな目で見つつ、白スーツの男はその場を後にする。

 

 

 

―――――

『…各員、敵が動き出した。全員は元プロデュエリスト。だが、既に引退しているものばかり。アマチュア相手の勝利にしがみ付き、闇のカードに縋る連中など粉砕しろ』

 

 

 メンバーの一人一人に指示が送られ、デュエルが始まっていく。

 

 

『ピクシーⅢ、前方から一人来る。打ち負かせ。』

 

 

 美夜は待ち構える。

 

 

「っつ、侵入者?!」

 

 即座にデュエルアンカーで拘束する美夜。

 

「な、何だ、これは!」

「外したければ、私に勝つしかないわ。鷲ノ宮 麻美(わしのみや あさみ)さん。」

「私を知っているのか?」

「ええ。私は人物の顔と名前を覚えるのが得意なの。だから貴女も知っているわ。プロリーグで一勝も出来ずに引退した女って。」

「おのれっ、私に挑んだことを後悔させてやる!」

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

美夜 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

鷲ノ宮 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「私の先攻!」

「プロがアマチュア相手に先攻を取るの?ああ、引退したから別にいいか。」

「黙れっ!私は二重召喚を発動!このターン、通常召喚を二回行うことができる!センジュ・ゴッドとソニックバードを通常召喚!センジュゴッドの効果発動!デッキから儀式モンスター、カオス・ソルジャーを手札に加え、ソニックバードの効果で儀式魔法、カオスの儀式を手札に加える!」

「いきなり儀式召喚の準備が整ったわね」

「儀式魔法、カオスの儀式を発動!場のモンスター二体を生け贄に、カオス・ソルジャーを儀式召喚!カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

 

美夜 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

鷲ノ宮 ライフ4000

手1 フィールド カオス・ソルジャー

    魔法・罠 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、ツインツイスターを発動!手札のヘルウェイ・パトロールを捨てて、その伏せカード二枚を破壊!」

「くっ、亜空間物質転送装置に、魔法の筒が!」

 

 破壊した伏せカードを見て、美夜は感心する。

 

「除去カードを亜空間物質転送装置で躱し、ダイレクトアタックは魔法の筒で防ぐ。考えられているわね」

「フン、私はデュエルアカデミア本校のオベリスクブルー出身で、プロデュエリスト!お前のようなアマチュアなど敵ではない!」

「過去の栄光にいつまですがっているの?もう学生でも、プロでも無いのに。」

 

 

 

 美夜のセリフに怒りをにじませる鷲ノ宮。

 デュエルアカデミアに階級制度が出来上がり、上が下を見下すのが当たり前になった時期。

 

 女子生徒は全員オベリスクブルーに配属される環境にあって。彼女もまた、エスカレーター式にブルーへ配属され卒業。その後、デュエルワールドリーグに入った。入ってしまった。

 

 ぬるま湯につかった温いデュエルがプロリーグの世界で通用するはずもなく。カオス・ソルジャーを儀式召喚しても攻略され、嘲笑される惨めな日々。

 公式戦で一勝も出来ずに引退。気づけば、落ちるところまで落ちていた。

 

 

「儀式魔法、高等儀式術を発動!デッキからレッドサイクロプスとデーモンソルジャーを墓地に送り、終焉の王デミスを儀式召喚!」

「そ、そのモンスターは?!」

「ライフを2000払い、このカード以外の場のカードを全て破壊する!」ライフ4000から2000

 

 

 デミスの蒼炎が、カオス・ソルジャーを焼き尽くす。

 

「カオス・ソルジャー?!くっ、まだだ!まだライフは残る!」

「墓地のヘルウェイ・パトロールを除外して、ディアバウンド・カーネルを特殊召喚!」

 

 白い蛇の悪魔が現れ、カオスソルジャーと向き合う。

 

「攻撃力1800?!」

「バトル!デミスとディアバウンドでダイレクトアタック!」

「きゃああああああっ!」ライフ4000から1600、1600から0

 

 

「私はもう、あ…アマチュアにも勝てないのか…。私の、今までの苦労は、何だったんだ…。」

 

 

 デュエルアンカーから流れた電流で気絶した鷲ノ宮を見ながら、美夜は忌々し気につぶやく。

 

「何時までもプロデュエリストに執着しなければ良かったのに。」

 

 

 

 

 

―――――

 美夜が勝利している頃。

 他の地点でも、ブライソンが送り込んだ手駒は次々と敗れていた。

 

 

「なっ?!プロのデュエルエリートをこうも簡単に倒すとは…。まぁ、いい。私さえ捕まらなければどうとでも出来る。」

 

 

 まだ戦っている元プロデュエリスト達を見捨てて、ブライソンは逃亡を図る。

 逃亡ルートは5通り用意しているが、その中の一つを使う。

 

 

(このルートが一番安全かつ確実!ここさえ脱出すれば、治安維持局とセキュリティ設立法案は押し通せる!初代治安維持局長官になり、要職を私の一族で独占すれば一族は復興できる!)

 

 そう考えている彼女の腕に、デュエルアンカーが伸びる。

 

 

「?!」

「そこまでだ。もう逃げられないぞ。」

「お前は…誰だ?」

「知る必要はないな。」

「…すぐに終わらせてやる!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

神楽坂 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

ブライソン ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「先攻は譲ろう。精々盤面を固めるがいい」

「だったらそうさせてもらう。俺の先攻、ドロー!俺はジェネクス・ウンディーネを召喚!効果発動、デッキから黄泉ガエルを墓地に送り、デッキからジェネクス・コントローラーを手札に加える。」

「ジェネクス?」

「儀式魔法、ドリアードの祈りを発動!レベル3のジェネクス・ウンディーネをリリース。精霊術師ドリアードを儀式召喚!」

「儀式召喚。ふん、高レベルでレアな儀式モンスターならまだしも、そんな雑魚を使うとは。」

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

神楽坂 ライフ4000

手2 フィールド 精霊術師ドリアード

    魔法・罠 伏せ2

ブライソン ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「私のターン、ドロー!手札から切り込み隊長を召喚して効果発動、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する。現れろ、チューナーモンスター、ゾンビ・キャリア!」

「チューナー…」

「レベル3の切り込み隊長に、レベル2のゾンビ・キャリアをチューニング!殲滅しろ、A・O・Jカタストル!」

「?!オークションの最低落札価格が1600万円する超レアカード!」

「如何にも。このカードが闇属性モンスター以外と戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わずに破壊する。さぁ、バトル!」

 

 カタストルがレーザーを発射するべくエネルギーをチャージするが。

 

 

「罠発動!風林火山を発動!!場に地・水・風・炎属性のモンスターがいるときに発動!」

「お前の場にいるのは雑魚モンスター一体だけ。」

「精霊術師ドリアードは、地・水・風・炎属性を併せ持つ!よって風林火山の効果を適用!相手モンスターをすべて破壊する効果を選択する!」

「なっ?!」

 

 ドリアードが祈りをささげると、カタストルが火炎で焼かれ、濁流が襲い、岩が投げつけられてスクラップにされた後、烈風が残骸を吹き飛ばす。

 

 

「おのれっ!カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

「エンドフェイズ、2枚目の風林火山を発動!今度は、魔法・罠カードを全て破壊する効果を選択する!」

「神の宣告と奈落の落とし穴が?!」

 

 凶悪な汎用カードを潰せた。

 神楽坂は油断せず、デッキに目を向ける。

 

 

神楽坂 ライフ4000

手2 フィールド 精霊術師ドリアード

    魔法・罠 

ブライソン ライフ4000

手2 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、墓地から黄泉ガエルを特殊召喚!さらにチューナーモンスター、ジェネクス・コントローラーを召喚!」

「レベルの合計は6か7か!だが、お前のエクストラデッキに、私のライフを削り切れるようなシンクロモンスターはあるまい!」

「レベル3の精霊術師ドリアードとレベル1の黄泉ガエルにレベル3のジェネクス・コントローラーをチューニング!3つの力を秘めしジェネクスよ!わが声に応えて起動せよ、シンクロ召喚!A・ジェネクス・トライフォース!」

「攻撃力2500!」

 

「バトル、トライフォースでダイレクトアタック!」

「くううっ?!」ライフ4000から1500

「メインフェイズ2!トライフォースの効果発動、光属性をシンクロ素材としているとき、1ターンに1度、俺の墓地の光属性モンスター1体を選択して、俺の場にセットできる。ドリアードをセットして、ターンエンドだ!」

 

 

 

神楽坂 ライフ4000

手2 フィールド A・ジェネクス・トライフォース (精霊術師ドリアード)

    魔法・罠 

ブライソン ライフ1500

手2 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「負けない、負けられない!このデュエルに勝ち、逃げおおせれば繋がる!」

「俺にだって、負けられない理由はある。」

「私とお前のような庶民では、背負っている物が違う!ドロー!よし、魔法カード、戦士の生還を発動!墓地より切り込み隊長を手札に戻し、召喚!」

「またそれか。今度は何を手札から特殊召喚するつもりだ?」

「手札から召喚僧サモンプリーストを守備表示で特殊召喚!ここで、墓地のゾンビ・キャリアの効果を発動する!手札を一枚デッキの一番上に戻し、墓地から特殊召喚!」

 

 

 ブライソンの場にモンスターが並ぶ。

 ようやく、神楽坂は理解した。

 

 

「なるほど、そういうデッキか」

「何?」

「切り込み隊長から【戦士族】だろうと推測した。だが、違う。汎用性の高いカードをかき集めたシンクロデッキだな。」

「だとしたらなんだ。メインデッキのモンスターなど、強力なシンクロモンスターを出す為の素材に過ぎない。」

「…そうか。これでレベル5、6、9が出せるわけだが。二枚目のカタストルでもあったりするのか?」

 

 にやりと笑うブライソン。

 

 

「私にはもっと強いカードがある!行くぞ!レベル3の切り込み隊長とレベル4の召喚僧サモンプリーストに、レベル2のゾンビ・キャリアをチューニング!出でよ、我が最高傑作!シンクロ召喚!氷結界の龍 トリシューラ!」

 

 現れる三つの首を持つ氷結界のシンクロモンスター。

 

「嘘だろ…。最低落札価格5000万だぞ。」

「トリシューラの効果発動!場からセット状態の儀式モンスター、墓地の黄泉ガエル!そして手札を一枚除外する!」

「ライトニング・ボルテックスが!」

「バトル!トリシューラ、トライフォースを攻撃!」

 

 トリシューラの息吹がトライフォースを打ち砕き、氷の破片が神楽坂を襲う!

 

「うわぁああああああっ!」ライフ4000から3800

 

 神楽坂が着ていた上半身の服は破れ、切り傷から血が滴り、あまりの衝撃で神楽坂は膝をつく。

 これが、闇のカード。200ポイントのダメージで、これだと?

 

 激痛の中、神楽坂はぞっとする。

 

 

「思い知ったか!」

「たった、200のダメージでこれ、か…」

「私はこれでターンエンドだ。サレンダーするなら、ドローフェイズの前なら受けてやるぞ。」

 

 

 

 

神楽坂 ライフ3800

手1 フィールド 

    魔法・罠 

ブライソン ライフ1500

手0 フィールド 氷結界の龍 トリシューラ

    魔法・罠 

 

 

 切り返せるカードが除外された。

 このカード単体では壁すら用意できない。勝つためには…チューナーか、チューナーを場に出すカードを引き当てるしかない。

 

 

 そんな時。神楽坂は恩師の言葉を思い出す。

 

 

『諸君!デュエリストたるもの、最後の最後まであきらめてはならないノーネ!

どーんなピンチの時デーモ、自分のデッキを信じれば、必ずや一筋の光明がさすノーネ!』

 

 

 神楽坂は、息を整えると立ち上がりデュエルディスクに手を伸ばす。

 

「俺のターン。」

「?!なぜ、あきらめない!」

「…デュエリストだからだよ。」

 

 

 心底、理解できないという表情のブライソンを悲しい目で見る神楽坂。

 

 

「…ありがとう、俺のデッキ。ライフを1000払い、簡素融合を発動。エクストラデッキから、レベル6以下で効果を持たない融合モンスターを特殊召喚する!」ライフ3800から2800

「ふん。だがその効果で呼び出した融合モンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊されるはずだ。」

「クリッチーを特殊召喚!魔法カード、黙する死者を発動!墓地からジェネクス・コントローラーを守備表示で特殊召喚!」

「レベル9か。だが、チューナーとそれ以外のモンスターが一体のみ。それではミスト・ウォームでさえ出せないな!」

「レベル6の闇属性のクリッチーに、レベル3のジェネクス・コントローラーをチューニング!シンクロ召喚!汽笛を奏でる黒き機関車、レアル・ジェネクス・クロキシアン!」

 

 

 前払いとしてもらったシンクロモンスター。

 記憶力の高い神楽坂は、効果を把握している。

 

 

「攻撃力2500、しかもチューナー以外のモンスターに闇属性が必要で、チューナーもジェネクスでなければならない…安物だな。」

「それはどうかな?デュエルは、レアカードだけでやるものじゃあない。」

「違うな、レアカードが全てだ。金さえあれば強いカードは手に入る。そして強いカードを持っているものが、デュエルの勝者となる!」

「だったらその安物の力を思い知れ!レアル・ジェネクス・クロキシアンの効果発動!シンクロ召喚成功時、相手の場の一番レベルが高いモンスターのコントロールを得る!」

「なっ?!わ、私のトリシューラが!」

 

 

 視覚効果以外でダメージを実体化させる、闇のカード。

 それが奪われた事で、ブライソンはおびえる。

 

 

「ま。待て!お前の依頼料、その三倍、いや、五倍払う!」

「……」

「足りないなら、私が長官に就任した時には、セキュリティのトップに据えてやる!レアカードも思いのままだ!」

「…闇のカードをばらまいて、多くの人々を傷つけたお前を野放しにして得る金や地位に、何の価値がある。バトルフェイズ。」

「い、嫌っ!助けて!なんでもするから!」

 

 彼女は哀訴した。今まで彼女に命乞いをして来た者達のように。

 

 

「氷結界の龍トリシューラで、ダイレクトアタック。」

「いやああああああああああっ!!」ライフ0

 

 

 

―――――

 

 吹き飛ばされたブライソンの服はズタズタになり、デュエルアンカーから流れた電流により、白目をむいて気絶する。

 

 

「…こちらN1、ターゲットを確保した」

『良くやった。まだ動けるか?』

「かすり傷だ、問題ない。」

 

 出血は止まらないが、神楽坂は強がる。

 

 

 

 

 

 依頼人からの任務を的確にこなしていた男は、満足そうに頷く。

 

「これで任務完了。報酬に加えて俺の名も上がるはず…ん?依頼人からか。こちらK1、どうなされましたか?」

『今すぐ、動けるデュエリストを寄越せ!あの小娘に上司が居た!』

「だとしても、カード犯罪の増加に対し、治安維持法案を主張していた女が黒幕だった以上、法案自体に世間的な批判が集まれば」

『我々の告発に対し、小娘を尻尾切りにして、法案を正当化したら?』

「?!」

『男の居場所は突き止めた!すぐに手練れを送れ!』

 

 

 通信が途切れ、男は今回参加したメンバー全員に再度連絡を入れる。

 

「…N1!かすり傷ということだが、カメラをONにしろ!」

『わかった』

「?!それのどこがかすり傷だ!ちっ、各員、一度カメラをONにしろ!」

 

 怪我の具合を見た男は驚き、ほかのメンバーの状況に呆然とする。

 特に、ピクシーⅠが負った怪我を見たとき、はっきりと顔をゆがませる。

 

 

 

「ピクシーⅢ!今からいう地点に急行しろ!」

『了解』

 

 実力的にはN1かピクシーⅠを向かわせたかったが、闇のカードによりほかのメンバーが手傷を負っていた為、ほかに選択肢はなかった。

 

 

 

―――――

 

 用意されたバイクに乗り、全力で向かう美夜。

 

「くっ、赤信号?!」

 

 急いでいるのに!そう思う彼女の隣を、二人の男がのんびりと歩く。

 片方は茶髪、もう片方は黒髪だ。

 

「あー、つながらない。」

「薄情だな、クロノス校長が退職するというのに。」

「あれから結構時間たっているからな…。」

「もういいだろう。今の人数で予約を確定しておくぞ。」

 

 

 

 歴史に「もし」は無い。

 冬休みに神楽坂が本土に帰り、叔母から「古代の機械巨人」を借り受ける際。

 フローラは自身の事が海馬の耳に入って詮索されないように釘を刺しつつ、血の繋がらない甥っ子を守るために「鍵の守護者に選ばれたメンバーと距離を置け」

 と助言し、神楽坂は十代や万丈目と距離を置いた。

 

 もしも。月一試験において万丈目に勝利した十代がラーイエローへの昇格を受け、神楽坂との交流を深めていたら。

 万丈目が三沢と寮の入れ替えデュエル後にノース校に行かず、ラーイエローへの降格を受け、神楽坂と交流を深めていれば。

 

 学園祭において、彼女がオシリスレッドのコスプレデュエル大会に見物しに来ていれば。

 

 

 美夜は偶然出会った二人に事情を説明。その後の歴史は変わっていた。

 

 

 だが。そうはならなかった。

 十代と万丈目は恩師の退職祝いに向けてのパーティ開催に頭が一杯であり、先を急いでいそうな通りすがりの女に注意を払わなかった。

 

 

 

 

 

―――――

「…なるほど。ミス・ブライソンは失敗しましたか」

『いかがいたしましょう?救出しますか?それとも、居なかった事にしましょうか?』

「不要です。治安維持局法案は私が通過させるとしましょう。」

 

 通信を切った男が歩き始めた直後、デュエルアンカーが飛んでくる。

 

 

「おや。」

「ここから先には、行かせない!」

「ミセス・神楽坂ですね。お初にお目にかかります。このようなものを向けられる謂れはありませんが…」

「ブライソンの仲間でしょう!」

「ふむ…そこまでたどり着いた情報収集能力は評価します。どうでしょう、我々の側に来る気は?」

 

 無言でデュエルディスクを構えたことで、白スーツは説得をあきらめる。

 

「名乗りなさい」

「…ジェイと、お呼び下さい。では」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

美夜 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

ジェイ ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「私が先攻ですね、ドロー。ふむ。モンスターをセット。リバースカードをセットしてターンエンド。」

 

 

 

美夜 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

ジェイ ライフ4000

手4 フィールド セットモンスター

    魔法・罠 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!ヘルウェイ・パトロールを召喚!」

「攻撃力1600…。」

「魔法カード、トランスターンを発動!ヘルウェイ・パトロールを墓地に送り、ディアバウンド・カーネルを特殊召喚!」

「ヘルウェイ・パトロールが墓地に…悩みどころですが、ここで止めておきます。激流葬」

「っつ!ディアバウンドが!」

 

 フリーチェーンで逃げられるディアバウンドとて、相手の場に表側表示のカードがなければ無意味。

 

「フィールドから墓地送りになったゴブリンゾンビの効果で、ゾンビ・マスターを手札に加えておきます。」

「儀式魔法、高等儀式術を発動!デッキからデーモンソルジャー2体を墓地に送り、終焉の王デミスを儀式召喚!」

「ここでデミス…。デッキは悪魔族メイン、と。」

「バトル!デミスでダイレクトアタック!」

「ダメージは受けますが、手札から冥府の使者ゴーズの効果発動、このカードを守備表示で特殊召喚。カイエントークンも守備表示で出しておきます。」ライフ4000から1600

 

 ダメージを受けるも、平然と二体の最上級モンスターが壁として出現する。

 

 

「メインフェイズ2!ライフを2000払い、デミスの効果発動!このカード以外の場のカードを全て破壊する!」ライフ4000から2000

「ふむ、いいでしょう。」

「ターンエンド!」

 

 

 

 

美夜 ライフ2000

手2 フィールド 終焉の王デミス

    魔法・罠 

ジェイ ライフ1600

手4 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「私のターン、ドロー。永続魔法、生還の宝札を発動。ゾンビ・マスターを召喚。効果発動、手札の馬頭鬼をコストに、墓地のゴブリンゾンビを特殊召喚。生還の宝札で1枚ドロー。」

「チューナーは引けなかったみたいね!」

「代わりにこれが引けました。速攻魔法、緊急テレポートを発動、デッキからクレボンスを特殊召喚。レベル4のゾンビ・マスターにレベル2のクレボンスをチューニング。氷結界の龍 ブリューナクをシンクロ召喚。」

「ブリューナクっ?!」

「これで墓地に眠る闇属性は、冥府の使者ゴーズ、ゾンビ・マスター、クレボンスの三体。ダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚。」

「ここで、ダーク・アームド・ドラゴン?!」

 

「ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動。墓地の冥府の使者ゴーズを除外して、終焉の王デミスを破壊します。」

「デミスっ!」

「墓地の馬頭鬼を除外して効果発動、墓地からゾンビ・マスターを特殊召喚。生還の宝札で1枚ドロー。手札抹殺を発動、手札を1枚捨てて、1枚ドロー。ゾンビキャリアを捨てておきます。」

「死者蘇生とジュラゲドが…。」

「バトル。氷結界の龍 ブリューナクで、ダイレクトアタック。」

「きゃああああああっ!」ライフ0

 

 気絶した美夜の体を避けて、ジェイは目的地に向かって悠然と歩き出す。

 

 

 

 

 

―――――

 ドミノ街市議会場にて。

 

 

「法整備を主張していた人物が一連の事件の黒幕であった以上、治安維持局法案は即刻廃案にするべきである!」

 

 事前の根回しもあり、その意見に賛同する声は少なくない。

 これならば。これならば、治安維持局の設立を阻止し、現行の警察で対処可能という話に持っていける。

 

 そう思っていた政治家だが。

 

「待って頂きたい。」

「お前は…!」

 

 ゆっくりと歩く白いスーツの男。

 視線が集まる中。温和な笑みを浮かべ、壇上へ上がる。

 

「法整備を主張していたミス・ブライソンが、カード犯罪の元締めであり、それを突き止めたのが民間人であった事。これを考慮すれば、現行の治安維持組織に新部署を創設するだけでは明らかに不十分。このようなカード犯罪が二度と起こらないようにするために、新たな部署、治安維持局とセキュリティを創設するべきである、と確信を持ちました。」

 

 法案を通すために一連の事件を引き起こした事を暴露したら、その事実を逆手にとって法案を押し通そうとする白スーツの男。

 

「その設立に必要な基金は、私共が全額ご用立ていたしましょう。」

 

 その発言に、中立を掲げていた議員達が賛同に傾く。

 

 

 

「あの男は何者だ?何の権限があってこの場で発言している!そして何故、誰もその事を指摘しない?」

「こうしてはおれん!」

 

 いきり立つ二人を、壮年の男がなだめる。

 

「…もはやこれまで。」

「しかし!それでは被害者とその家族は!」

「今は耐えろ…。イリアステルというのは、相当厄介な組織のようだ。」

 

 

「…今回の出費は無駄に終わりましたな」

「だとしても、尽力していたものに報酬を払わねば仁義が廃る。」

 

 

 

 その夕刻。ドミノ街はネオドミノシティへ街の名前を変えると共に、治安維持局の設立を盛り込んだ法案が可決されてしまう。

 

 

 

「…今回の報酬だ。治療費はこちらが持つ。」

「しかし、結局法案は可決されて…。」

「向こうが上手だっただけの話。貴方達はよくやってくれた。」

 

 

 報酬を受け取りつつ、釈然としない顔で神楽坂夫妻はその場を後にする…。




 準レギュラーが頑張ってイリアステルの陰謀を阻止しようとしても、戦略的に敗北する気がします。

Q;神楽坂が【ジェネクス】?選んだ理由は?
A;儀式モンスターのドリアード、黄泉ガエル、ジェネコンの為の各種バニラサポートに加えて簡易融合などの融合モンスターの要素があるので、『GXからゴッズへの過渡期』でメインキャラが使うテーマとしてよいのではないか?というのが使わせた理由です。それにジーエックスとジェネックス。語感も似ているのも理由の一つです。


Q:白スーツって誰?
A:イリアステルの関係者と思われるモブキャラ。ゴドゥインを唆した人物です。今回は治安維持局を設立する法案を確実に通すために登場しています。


Q;結局、治安維持局設立はどうすれば阻止できたの?
A:結論から言って、イリアステルが関わっているので基本無理ゲー。
そもそも、「ラーイエローの神楽坂」と「三年間オシリスレッドの十代」と「ブルーとレッドを行き来した万丈目」が交流を深めるのは無理。


Q:今回、神楽坂に指示を出していた人物は?
A:西条という男で、ピクシーⅠの旧姓は「速見 信乃(はやみ しの)」です。どこかで見た?気のせいでしょう。
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