例えばこんなゲマトリアの日常 作:スカイブルーホワイトヘアー
ミレニアムのとある校舎内の廊下。何かに追われている人外と一人の生徒がいた。
「せ、先生! 早くなんとかしてくださいよ!!」
「なんとかしたいのは山々だが先に解析を……」
「そんな余裕ないですよ!? あんな生物兵器を外に放ったら大事になっちゃいますって!!」
「まあ待て、何も害があると決まった訳ではない。意外と有効的かもしれないぞ」
「全身紫色だなんてどう見ても有害ですよ!!」
そんな言い合いをしながらも『それ』と距離を離すべく廊下を走っている。何故こんな事になったのかは数時間前に遡る……
ー回想ー
『先生、ミレニアムにきませんか?』
一人家で朝のコーヒーを嗜んでいた際に突然コユキが連絡してきた。珍しい誘いだったが本日はミレニアムに行く予定はない。
「すまないな。今日はトリニティに行くつもりなんだ。書類仕事ならいつも通りミカにでも手伝って貰え」
『それが……沢山甘酒飲んじゃっててミカさんは今泥酔してるんです。だからもう頼れるのはマエストロ先生しか……!』
「私に頼る前にユウカ達に頼れば良いだろう」
『先輩達はみーんな色恋に夢中で仕事してくれません! 後輩に押し付けるなんて酷いと思いませんか? そんな可哀想な私を助けてください、先生でしょう!?』
「……仕方ないな」
正直な話トリニティへ向かう予定は大したものではない。精々いつものお茶会とナギサの愚痴を聞く程度だ、後回しにしても構わん。それならば本当に困っている生徒を優先しても良いだろう。全く、私も変わってしまったな。
『流石は私達の先生です! お待ちしてますね!』
コユキとの通話を終えて軽く身支度をしてミレニアムへと向かった。思えばミレニアムに足を運ぶのは一ヶ月振りだ。彼女達は創作意欲が高い為こちらから助言をしなくても謎の装置を開発したり盗聴したりハッキングを……まあ、碌なことはしていないな。だが他学園と比較しても大した問題ではない事も事実。セミナー問題についても多忙なミカが時々手伝っているからかそこまで滞ってはいなかったので積極的に関わる必要もなく自分の創作活動に勤しめていた。……というのは建前で実際は盗聴も盗撮もされる環境に進んで足を運びたくないだけだ。実際敷地内に脚を踏み入れただけでスピーカーから『こんにちは先生』と挨拶をされるんだ。その後は生徒とすれ違う度に挨拶したり悩みを聞いたり助言を行い普段疎かにしている分対応をした。相変わらず熱心な姿勢は好ましく思えるものの碌でもない発明、企画の内容が多数だ。『自立歩行型植物』や『光を浴びせると大きさが変動するライト』等々……少なくとも私なら作ろうと考えないものばかりだ。だからこそ彼女達と交流する事で創作に関する刺激を得られるが……今はコユキに呼ばれているので早々に切り上げてセミナーの部室へと向かう事にした。
「……なんだこの状況は」
扉を開けて視界に広がるセミナーの部室は床に書類が散らかりすぎて殆ど足場がない。来客用のソファーに眠っているミカを横目に書類に向き合っているコユキに話しかけた。
「大丈夫か?」
「……あれ、もう来てくれたんですか?」
「まあな。それよりもこの部屋の惨状はなんだ?」
「にゃはは……そのぉ〜……甘酒で酔ったミカさんが翼を羽ばたかせて書類の束を吹き飛ばしちゃって……とりあえず机に置いてある書類から終わらせようかなって……」
「甘酒で酔う、か……そうだな……実際耐性がない子は甘酒でも酔うかもしれないな」
事実アルコールを一口接種しただけで酔い潰れる子をよく知っているから甘酒で酔う生徒が居てもおかしくはないだろう。一般的な甘酒はアルコール度数が1%未満ではあるものの0ではないので充分あり得る。それにしては弱すぎる気もする。
「それはそうと先生、早く手伝ってください! そしてミカさんと三人で遊びに行きましょう!」
「仕方ないな……それで私はどの仕事を手伝えばいい?」
「その辺に落ちてるやつを適当に片付けてください」
「分かった」
足元の書類を広い見てみると研究費用、もとい部費の要求についての書類だった。『どんな女の子も巨乳になる装置』の開発費が欲しいと書いてあるな、よし却下だ胸を盛るな愚か者が。
「胸を盛るのは重罪だろう」
「でも先生は巨乳が好きと聞いていますよ?」
「否定はしないが盛るのは許さん」
さて、切り替えて次の書類を確認しようか。『エアプ○○』量産の為に部費を上げて欲しい、か……エアプ……
『ユーメユメユメユメ! 今日もピンクヘアーの淫乱後輩はユメのおっぱいに夢中ユメねぇ!!』
みたいな事だろうか。少しばかり好奇心が芽生えたがこれも碌でもない為却下しておこう。さて、次は……ん? 床に黒いスイッチが落ちているな……これも何かの発明か?
「コユキ、このスイッチはなんだ?」
「スイッチ? 何の事ですか?」
「これだ」
「何ですかこれ? よく分からないけど押しますね」
「待て、また面倒な事になったらこま」
カチッ
…………
………
……
…
「何も起こらないな」
「起きませんね」
「仕事の続きやるか」
「そうしましょう」
スイッチはゴミ箱に捨てた。……然し私は後にこの選択を未来永劫後悔する事になるだろう。多分。
それから数時間後に書類が片付き、時刻は午後3時に差し掛かろうとしている。仕事が終わり疲れたのかぐったりしているコユキに砂糖を入れたコーヒーを差し出して多少の労いをする。
「先生、ありがとうございます! おかげで早めに仕事が終わりました!」
「そうだな。……ところで一つ聞いても良いか?」
「何ですか?」
「私の知るコユキはあまりこういった書類仕事を行うイメージがないんだ。それこそ遊びを優先して仕事を放棄する様な……」
「そりゃあ仕事なんてしたくないですよ。書類と向き合うのなんて性に合いませんし遊んでいたいです」
「では何故放棄しなかったんだ?」
「それは……その……好きな人の前ではカッコつけたいんですよ」
そう言って未だに寝ているミカを横目に照れているコユキ。さてはこの二人そういう関係なのか? まさかあいつが手を回したのではないだろうな……幸せそうならいいか……
「多くは言わんが成就すると良いな」
「はいっ!」
「さて、そろそろミカを起こして三人で出掛け……」
私は『それ』と目が合った。白髪のカツラを被っている雑な手足の生えたドライバーを咥えている銀色の球体。雑にネクタイとヘッドギアを装着していて謎にヘイローも浮かんでいる。こいつは何だ? と警戒していると突然大声で喋り始めた。
「こ゛ん゛に゛ち゛ワ゛!゛わ゛た゛し゛は゛テ゛ー゛モ゛ン゛ノ゛ア゛っ゛て゛い゛う゛ん゛て゛す゛!゛」
「……は?」
「ノア先輩ってこんなんだったっけ……」
自己紹介をする銀の球体に理解を示す前にそれが咥えていたドライバーをぽろっと落とし口が完全に閉じた。……何か嫌な予感がしたと同時に球体が青白い光を放ち始め全てを理解した。
嗚呼、雑なオチだな
全身が青白い光に包まれていく中、久しぶりの出番がこんな雑な扱いを受ける為にあったのかと思うと悲しくなってきてしまった。そんなこんなでミレニアムは今日も平和だった。
おしまい
本当は毒ユウカでマエストロのスーツだけ溶かしてミレニアムとトリニティ生が歓喜する話を書く予定でした