織斑一夏はテロリスト ―『お父さん』と呼ぶんじゃねぇ―   作:久木タカムラ

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ほぼ一か月ぶりの更新。
お待たせしてしまってスミマセンでした。
だってマイクラ面白んだもん。


030. Dark Hero Show ― 真打 ―

 拘束衣に似た軽装甲に鎖を巻き付けた紫眼の異形。

 女性型の黒いボディに波紋を描く、元はレーゲンだったオッドアイの流動体。

 

 相手にとって不足がないどころか明らかに過剰戦力だから是非とも未来にクーリングオフしたい私なのだけれども、そもそも送り返すと言うか帰る方法があるなら自分で使うわ阿呆となる訳で。

 何つーか、例えるアレよな。本妻と愛人がご対面、からの二人揃っての修羅場ラバー。

 どっちが本妻役で愛人役なのかは明言を避けるとして、装備が装備なだけに何番煎じですかーと笑い飛ばすにゃ物騒過ぎて苦笑いしか浮かばない。

 確かに昔っから姉妹みたいに仲が良くて息もぴったりだけどさー、こんな時まで二人一緒に来る必要ないんじゃねーの? まさか3《ピー》がお望みなのか? それ前にやったやんけ。

 

「……色気もへったくれもない複数プレイだなぁ」

『この非常時に何を言っているんだお前は』

「モテる男は辛いって事でして。ドイツのお客さんの機嫌はどうでした?」

『知らぬ存ぜぬの一点張りだ。やれ軍部の独断だの政府側の強行だのと責任を押し付け合うだけで話にならん。面倒だから山田先生に任せた』

「そりゃあ山田先生も気の毒に。ちょっとくらい労ってあげないと反抗期突入しちゃうんじゃないですかねぇ。何なら私が一肌脱いで一晩中慰めてあげても――」

『――去勢スルゾ?』

「わーお」

 

 馬鹿話に興じている間も、二機はじっと動かず様子見を続ける。

 デュノアにしてもボーデヴィッヒにしても突撃一辺倒の単細胞ではない。技術と思考パターンをトレースしたあれらもその辺りの用心深さをしっかり踏襲しているらしい。

 ますますもって、やりづらい。

 装備も機能も向こうは未知数、しかしこっちはほぼ素っ裸――こちらだけカードを晒して相手の役が揃うのを待っているようなもんだ。

 

『今度は二機同時か。増援は必要か?』

「織斑先生か、最低でも山田先生クラスの援軍なら有り難いですが、他の先生方じゃ奴さんらには敵わんでしょうよ。おまけに奥の鎖付き、おそらく相手のISの機能を奪えます」

 

 まだ『~かも知れない』の域を出ない推測ではあるものの、レーゲンの二度目の暴走と変貌から考えてまず間違いないだろう。何より、先ほどからコアネットワークを通してランスローのコアに干渉しようと頑張っている者がいる。拒絶され続けるその正体があの鎖付きなら全て納得がいく。

 

『……にわかには信じられん情報だな。遠隔操作や無人機ですら各国が躍起になって研究している段階だぞ? まさかハッキング能力まで備えているとは……』

「下手な応援は新しい敵を増やすだけ、と考えた方が良いですね」

 

 私の後ろには戦えない少年少女が四人。

 若い己自身を躊躇いなく狙うのは凰――纏虎との戦闘で既に確認済み。

 デュノアはともかくとして、軍人の鑑のような合理性と冷徹さを併せ持つボーデヴィッヒが一番効果的な『人質』をみすみす見逃すはずもない。

 全くどいつもこいつも、何故私が少年達を助ける事前提に行動を起こすのか。

 過去の自分に取り返しのつかない傷を刻み込む可能性――もしかしたら、自身の存在が消失する恐れさえある危うい綱渡りだと言うのに。

 

「何にせよ、現状この場でまともに動けるのは私だけ。ま、一人でどうにかしなきゃならないのはいつもの事なんで慣れちゃあいますが」

『こちらでも打開策を考える。少しだけ時間を稼いでくれ』

「ふむ、なら私はこう答えましょう。別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう――ってね」

『…………済まない。弟達を頼む』

 

 そう託されたのを最後に、姉さんとの会話が切れる。

 代わりに秘匿回線で届いたのは、聞き覚えのある機械音声。

 

『ターゲット確認。識別名:黒灰の反逆者(ガンメタル・トレイター)、搭乗者:織斑一夏。メッセージを再生します』

 

 わざわざ伝言を残す彼女達も。

 それを少なからず楽しみにしている私も。

 覚悟を決めたと意固地になって嘯いているくせに――未練がましいったらありゃしない。

 

『よう、お元気?』

『……変わらんなお前は。いや、昔に比べたら大分変わってしまったが――ともあれ息災のようで何よりだ。不甲斐なく野垂れ死んでいたら地獄まで連れ戻しに行こうと考えていたところだ』

『篠ノ之博士の仮説も半信半疑だったけど、これを聞いてくれているって事は僕達は最初の賭けに勝ったって事だよね。こんな形でもまた会えて嬉しいよ……一夏』

 

 シャルロット・デュノア。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 懐かしい……ってのも変な話か。私の後ろにもいるし。

 凰の話では私を殺してしまったと思い込み自殺未遂まで起こしたらしいが、しかし当事者であるデュノアの声から動揺や極度の緊張は感じられない。

 不自然と思えるほどに平淡な、仮面を被った口調。

 私が歪んでしまい――未だ諦め悪く戻らずにいると言うのなら、デュノアの方こそ二十年前から相変わらずだ。自分の心を奥底に閉じ込め、仮面を被って取り繕う事に慣れてしまっている。

 何ともはや、いっそ凰のように感情に任せて怒鳴り散らしてくれれば私も少しは気が楽になるのだけども、こうも気丈な態度で接されると罪悪感ばかりが募る。

 

『もっと他に……私に言いたい事があるんじゃないのか?』

『ないはずがない。だが単なる記録に過ぎないこの応酬に、一体どれほどの価値がある?』

『生きてて良かったって言いたい。どうして僕達を頼ってくれなかったのか聞きたい。けどそれはもう一度、本当に会えた時のために残しておくよ』

 

 そりゃまた、盛大な恨み言をプレゼントされそうな予感しかしない。

 

『嫁よ、私とてお前の気持ちを理解してはいるつもりだ。しかしあの事故(・・・・)が原因でこの世の全てを憎むに至ったのだとしても、二十年前、否定し拒絶するだけでは何も生まれないと私を諭したのは他ならんお前ではないか。かつての私と同じ過ちを、何故お前が再び犯そうとする?』

『一夏、今ならまだ間に合う。僕達も今度こそ力を貸すから……他にも方法はあるはずだよ?』

 

 目を閉じれば、あの光景が容易にフラッシュバックする。

 飛び散る破片、必死に伸ばす華奢な手――私を呼ぶ悲鳴に近い声と、絶望に染まった瞳。

 何があっても消えない、消したくない記憶。

 

『人が一番怖いのは自分の死じゃない。目の前で誰かを失い、それを忘れてしまう事が怖いんだ。失わずに済む可能性がわずかにでもあるのなら、たとえ虚構だろうとそれに縋るさ』

『そのために、全てを捨てて外道を選ぶのか?』

『……選ぶんじゃねぇ、もう選んだんだよ』

 

 知らず知らず、私も感情が昂ぶっていたらしい。

 あの子の顔を思い出す度に自分を見失いそうになる。

 息を深く吐くに合わせて、茹だった思考が冷え固まっていく。

 冷徹に、残酷に、彼女達の想いが宿った二体の無機物を『敵』と認識する。

 

『一夏。幸せだった世界を取り戻す――僕達はそのためだけにここにいる』

『命さえ捨てようとするお前を、救うためにここにいる』

『『――心の底から愛してる。だから一切の容赦はしない!!』』

 

 標的の行動開始を示す警告音と共に、待機状態のランスローが一定の間隔を空けて激しく振動を繰り返す。モールス信号のようなそのパターンが意味するのは――

 

『抱擁をくれてやれ! 雷雨の処女(ゲヴィッター・ユングフラウ)!!』

『虜にして! 暴風の傀儡姫(ミストラル・マリオネット)!!』

 

 ボーデヴィッヒとデュノアが利口なお人形さんに命令を下した直後。

 完全に無防備だった足元――左右の地面を勢い良く食い破り、表面に無数の釘を生やした葉状のトラップが私を包み込んだ。

 ぐしゃり。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 意識を取り戻したラウラの目に映ったのは、表面が不気味に波打つ巨大な黒色の卵だった。

 

 鉄の処女(アイアン・メイデン)

 

 言わずと知れた中世ヨーロッパ時代の拷問道具、あるいは小バエを捕らえたばかりの食虫植物(ハエトリグサ)が何故か脳裏を過ぎり――卵の繋ぎ目からはみ出した白衣の裾を見付け、そのイメージが間違いではなかったのだと思い知らされる。

 

「ラウラ、気が付いたか?」

「……ああ。だが、身体が言う事を聞かない……」

 

 自分を守るように寄り添い、抱き支えてくれている少年――織斑一夏。その傍らには篠ノ之箒とシャルル・デュノアの姿もある。

 心配そうにこちらを覗き込む三人に対して小さな喜びと安らぎを覚えながらも、ラウラは感謝の言葉を述べるよりも疑問を口にする事を優先した。

 

「この状況は一体……何がどうなっている?」

「私達も良く飲み込めてはいないんだ。一夏と先生が協力してお前を助けた後、アリーナの外から何者かが現れて……お前の機体だったモノが無人のまま三度動き出した」

 

 嬉しそうに頬張る食虫卵の向こう、直立不動の二体の敵。

 クラス対抗戦、一夏と凰鈴音の試合の最中に襲来した半人半獣IS。出国前に映像で見たそれに勝るとも劣らない異形達が目の前に並んでいる。

 外見上は兵装の類を備えていないようだが、あれらがISである以上、両手に何も持っていないからと言って『丸腰』と考えるのは愚の骨頂だ。

 

「なあシャルル、ラウラのISが変身した奴――両足が埋まってないか?」

「推測だけど……地面の下を掘り進んで先生の所まで伸ばしているんだと思う。今は女の人の姿に落ち着いているだけで、本当は決まった形なんてないみたいだし」

「そんな無茶苦茶なIS、見た事も聞いた事もないな」

「そもそも無人機って時点で世界中が驚いてるはずだよ?」

「俺、その世界が驚くような奴と戦ったの今日で二回目なんだけど……」

 

 エンカウント率高くない? と嘆く少年はさておき。

 ようやく『先生』――あの男が話題に上がったと言うのに、一夏もシャルルも箒も、黒卵の中で苦しんでいるであろう彼の身を案じている風には見えない。

 絶対防御があるが故の余裕か。

 それとも単に、あの男とは『他人』の域を超えない関係でしかなかったのか。

 

「た、助けなくて良いのか!?」

「先生に『邪魔するな』って言われるからなぁ。下手に動いたら後で何されるか……」

「どの道、エネルギーが尽きてしまった私達じゃ猫の手よりも役には立たん。生身でISと対等に渡り合うなど、それこそ千冬さんか先生でもなければ不可能だ」

「大丈夫だよラウラ。先生なら何とかしてくれる」

「……その根拠は?」

 

 そう尋ねると一夏と箒、転入して日の浅いシャルルまで一様に苦笑して、

 

「「「――だって先生だから」」」

 

 その信頼に応えるように――

 

 

 

『WRYYYYYYYYYY――ッ!!!』

 

 

 

 反響する狂声。

 繋ぎ目から蒸気の如く溢れる幻想的な色合いの火焔。

 元々人間を簡単に飲み込めるほどの大きさだった卵が、さらに一瞬で数倍にも膨張し、ついには内側からの炎圧に耐え切れなくなって破裂する。

 さながら不死鳥の孵化を思わせる光景――アリーナを守るシールドどころか天を突かんばかりの勢いで昇る光の柱が、神々しい以上に禍々しくさえある当人の力を如実に表していた。

 

「な? 言った通りだろ?」

「…………」

 

 あの男が本気で(・・・)戦った記録は、公式非公式を含めてたったの二度しかない。

 一度目はラウラが敬愛して止まない織斑千冬との模擬試合。彼の危険度を計るために仕組まれた一戦においては、実力が伯仲しながらも互いの武器が破損する結果で幕を下ろした。

 二度目は先にも述べたクラス対抗戦での無人機との戦闘。この戦いでISが破損し、彼は初めて手傷らしい手傷を負ったが、それでも正体不明の襲撃者を下した功績は大きい。

 

「あ゙ー…………べっくらこいた」

 

 極東の戦乙女と対を成す、名実共に世界最強の一角。

 一夏に抱いたような敵愾心さえ湧き上がらない。

 あまりにも立っている世界が――次元が違い過ぎる。

 

「……虎の、首?」

「前に先生が斬り落とした無人機のだな」

 

 シャルルと箒が言うように、黒灰の魔人の姿には明らかな変化があった。

 右に比べて二回りほど肥大化した左肩部装甲。

 半獣IS戦を経て新たに追加改修された武装なのだろう――凄まじい貌で牙を剥く黒虎の双頭が陣取っている。タイガーパターンを模した溝孔より毛皮状に織り上げられた高密度のエネルギーが放出され、腰布と融け合ったそれは下半身のみならず、首元と左腕部全体をも柔らかく包み込む。

 たった一人で獣を討ち取り、その皮を褒美として賜った狂騎士。

 

「さて……次はどう愛してくれるんだ?」

 

 漆黒の突撃槍を地に突き立てて、兜の奥で不敵に嗤う。

 対し、これからが本番だと言わんばかりに相手側も動き始める。

 紫眼の拘束機体が指揮するかのように腕を振るい、それに合わせてドーム型に形状を変化させた流動体が相方を覆い隠す。一見すると完全な防御態勢に思えるが、ドーム表面に生えた射撃兵装がその予測を容易く撃ち砕く。

 シュヴァルツェア・レーゲンの倍近い口径のカノン砲――それが少なくとも十門以上。

 

「あんなのに撃たれたら蜂の巣どころか骨も残らないぞ……」

「じ、じっとしてた方が良いんですよね先生!?」

「分かっているなら言わなくていい。死にたくなかったらそこから一歩も動くなよ?」

 

 一斉に火を噴く実弾砲。

 音を裂いて殺到する弾丸を、黒灰の魔人は――

 

 

 

「刺激的な投げキッスだなぁオイ!!」

 

 

 

 エネルギーが過充填された右足で地面を踏み付け、灼熱の障壁を生み出す事で全て溶解させる。

 音速超えの金属塊を着弾する前に跡形もなく蒸発させるなど……あの光の毛皮は一体どれほどの熱量を有していると言うのか。

 攻撃する側が非常識なら、防御する側もまた非常識。

 拘束機体の踊るような指揮の下、次なる一手も十二分に常軌を逸したものだった。

 

「ウニ!?」

「どっちかってーとイソギンチャクだろ!!」

 

 射出されるはワイヤーで繋がった無数の棘槍。空中を走り地面を滑る動きは飢えた大蛇の群れを連想させ、その本数と速度は当然ながらレーゲンのワイヤーブレードより格段に多く、速い。

 合間を縫って本体達を狙おうにも、ドーム状の流動壁は健在で薄くなった様子もない。

 複雑な軌道を描いて降り注ぐ槍雨の中、黒の魔人は最小限の動きで躱し続け、背後のラウラ達に当たってしまいそうなものだけをアロンダイトと腕で弾いていく。

 

「む、無茶苦茶だ……」

 

 手数では圧倒的不利な状況を力業で強引に捌く――無茶苦茶以外の何と形容すればいいのか。

 一方、銃火の演奏に切り替えた敵も容赦がない。

 レールカノンに始まりアサルトライフル、ガトリング砲、ショットガン、クロスボウ――弾種も徹甲弾に炸裂弾、焼夷弾からフレシェット弾に至るまで多種多様。

 軍人であるラウラの目から見ても異常な、兵器の見本市のような応酬が繰り広げられている。

 

「……分かり切っちゃいたがキリがねぇな。やっぱ元を断たねぇと――」

 

 撃ち尽くした銃身が一度沈み込み、別の兵器に再形成されるまでの一瞬の空白。

 その隙を見逃さず、騎士は強く地を踏み締める。

 右手に握り振り被る突撃槍――超重力の他に魔獣のエネルギーまで加わった投擲姿勢。

 

「荒れるぜぇ? 止めてみなァッ!!」

『――――……!!』

 

 全力で放たれる魔槍。

 拘束機体が両腕を振って地中から生み出すのは、槍の射線上にずらりと並べた流動多層障壁。

 アロンダイトは耳障りな金属音を奏でて一枚目に着弾すると、まるで障子紙でも突き通すように易々と穿ち貫き、そのまま二枚目、三枚目、四枚目と次々に突破していく。量が量なだけに多少は威力が減退させられたが、それでも破った壁の数は二桁に達し――ついに全ての障壁を貫けた。

 届く。

 これが届けばあるいは――

 

『――ッ、――!!』

 

 ドームより伸びた幾本ものワイヤーが槍に絡み付く。

 それらを灼熱で焼き、引き千切り続けた果てに完全に勢いを殺されたアロンダイトは、惜しくも敵本体を目前に投げ捨てられてしまう。

 しかし、無力化される事もあの男の計算の内。

 戦術構築と武装選択の役目を担っているらしい拘束機体、あるいは流動体が、捨てられて無用の長物と化したアロンダイトを注視していたなら、柄が――いや、中身(・・)がない事に気付いただろう。

 

「お返しだよ。お返しだよ! お返しだよ馬鹿野郎め!! ちったぁ手前を大事にしやがれ!!」

 

 刺突は囮。本命は一閃。

 たった一歩で間合いを詰めた魔人が、愛刀を振り抜かんと腰溜めに構える。

 しかし――往々にして逆転劇とは二転三転するもの。この寸劇も例外ではない。

 刃がドームに届く寸前、半端な抜刀の体勢のまま騎士は中空に固定される。

 

「はんっ――AICか。そりゃ使えねぇ訳がねぇよなぁ!!」

 

 怒号と共に半球状に陥没する地面。

 重力操作能力による圧し潰しを試みたようだが――けれど二体の敵は屈する様子を見せない。

 

「チッ、やっぱり効果なしか……」

 

 ずるりと不快な音を立ててドーム表面に顕現する女型の上半身。数えるのも馬鹿らしくなる量の刀剣類を従えながらわざわざ姿を見せたのは、確固たる勝利宣言を突き付けるためか。

 一度AICに捕らえられたら脱け出すのはほぼ不可能。撤退すら選べない孤立無援――ましてや二対一の戦闘で身動きを封じられた場合の未来などただ一つ。

 それを裏付けるように披露される紫眼とオッドアイのコンビネーションは――

 

「あれは……『盾殺し(シールド・ピアース)』!?」

 

 拘束機体の左腕に泥のように滞留し形作られる、リボルバーと杭が融合したパイルバンカー。

 シャルルの専用機――ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに備わった《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》をさらに数倍凶悪したデザインの杭打機が、流動体に抱き締められた狂騎士にぴたりと狙いを定める。

 連射どころか、一発でも食らったらその時点で敗北が決定してしまう窮地の中で、

 

「クハッ……」

 

 黒灰の騎士は、確かに笑った。

 まるで、この瞬間を待ち望んでいたとでも言うように。

 

「少年、お嬢さん方、良い機会だからよく覚えておきな。相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北しているもんさ」

 

 杭が撃ち込まれる瞬間――荒れ狂うエネルギーの奔流が地面の下より噴き上がり、油断していた拘束機体と流動体を飲み込んだ。

 見落としていた。

 尾の如く伸びた毛皮の一部が大地を侵食するのを、勝利に惑わされて見落としていた。

 足元からの奇襲に想定以上のダメージを受けた無人機達は、なす術もなく落ちてゆく。

 

「ハッハァッ!! またまたやらせて頂きましたァん!!」

 

 眼下で待ち受けるのは右に握る凶刃と、電光纏う左の貫き手。

 そして――三機が交わった次の瞬間には既に決着がついていた。

 拘束機体は刺し貫かれてアリーナの防壁に縫い付けられ、胸部の大半を抉られた流動体は魔人の腕の中でびくりびくりと痙攣を繰り返す。コアを破壊された両機にもはや戦闘を続けるだけの力は残ってはおらず、やがて動きが止まり、あるいは雪解けの如く崩れ落ち――

 

「悪いな。それでも私は、道を進む事を選ぶよ」

 

 二つの亡骸を一瞥し、騎士が言葉を手向けたのを最後に。

 後にはシン――と静寂だけが残った。

 

「…………ラウラ。あれが、俺がいつか超えたいと思っている(ひと)の背中だ」

 

 ぞんざいに納刀して槍を担ぎ直す姿は邪悪そのもので。

 それ故に、ラウラ・ボーデヴィッヒの幼心に甘美な毒のように染み渡るのだった。




さてさてタッグマッチの何やかんやもこれにて終了。
けれどもアダルトサマーにはまだ仕事が残っております。
つまり原作二巻はもうちっとだけ続くんじゃ、ってコトで。

今回のリクエストは、

 マーサーさん、真っ赤な弓兵さんより、

・「別に、アレを倒してしまっても構わんだろう?」(Fate:アーチャー)

 ケツアゴさんより、

・「人が一番怖いのは自分の死じゃない」(マテリアル・パズル;ライト)

 ARCHEさんより、

・「選ぶんじゃねぇ、もう選んだんだよ」

 KZFMさん、i-pod男さんより、

・「WRYYYYYYYYYY――ッ!!!」(ジョジョシリーズ:DIO)

 sinyaさんより、

・「分かっているなら言わなくていい」(境界線上のホライゾン:ノリキ)

 サルベージさんより、

・「荒れるぜぇ? 止めてみなァッ!!」(キョウリュウレッド)

 ポポカリプスさんより、

・「お返しだよ。お返しだよ! お返しだよ馬鹿野郎め!!」(BACCANO!:ラッド・ルッソ)

 久遠♪さんより、

・「相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している」(ジョジョシリーズ)

 i-pod男さんより、

・「またまたやらせて頂きましたァん!!」(ジョセフ・ジョースター)

 でした。

 次からは以前と同じ更新速度に……戻ったらいいなぁ。

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