織斑一夏はテロリスト ―『お父さん』と呼ぶんじゃねぇ―   作:久木タカムラ

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買い物するだけなのにこれである。


035. おいでませレゾナンス

 戦場のみならず、日常にも危険はたくさん潜んでいる。

 たとえば不慮の事故、たとえば落雷や突風などの自然災害、そして昆虫や動植物――当然ながら我々人間も、捉えようによっては大多数の危険分子と言える。

 数が集まれば巨大なうねりとなるのは自明の理。 

 多数派とはこの世の『正義』を構築すると同時に、それ以外を徹底排除する『暴力』なのだ。

 つまり何が言いたいのかってーと、ロリコンだろうとミッ○ーマ○スだろうと、群れを成したらどんなものでも結構怖いよねって事で。

 

「――助けてええええっ!!」

 

 それを現在進行形でうーちゃんは味わっていた。

 わらわらと迫る集団に、恥も軍人の矜持もなく悲鳴を上げつつ逃げ惑う。ドイツの冷氷どころか外見相応の幼さ全開である。

 五十前後の敵はさらに増え続け、このままでは捕まってしまったが最後、全身を弄られた挙句に路上で恥ずかしい姿を晒してしまう事になるだろう。

 血走った目に涎を垂らす口――三大欲求の一つに従って美少女を追い掛ける姿は、ホラー映画のゾンビ共にも引けを取らない。と言うか、生きているから足はこっちの方が断然速い。

 

「おとーさーんっ!!」

 

 都会の荒波に鍛え上げられ、欲望に染まった屈強な猛者達は止まらない。

 見据えるのは、泣いて逃げる華奢な少女(エモノ)の背中のみ。

 定職にも就かず、風呂にも入らず、公園を根城にして気ままに生きる、その敵の正体とは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くるっぽー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ハトだった。

 公園中から集まったとしか思えない数の平和の象徴が、うーちゃんの両手に盛られたパンくずを狙って大行進。しかも鳥類のくせに飛ばないで駆け寄ってくるもんだから、普通に襲われるのとはまた別の――ヒッチコックじみた異様な迫力がある。

 しかしまあ、それもあくまで主観で見ればの話。

 うーちゃん本人にとっては恐怖以外の何物でもないのだろうが、山盛りのエサを持って走り回る光景は実にほのぼの。向こうのベンチに座ってらっしゃる老夫婦も微笑みを浮かべている。

 エサを捨てれば追われずに済む。けれどその事に頭が回らないのか、それとも私が落とすなよと言ったのが悪かったのか――軍で鍛えた抜群のバランス感覚を遺憾なく発揮して、パンくずの山を器用に維持したままうーちゃんは追われ続けた。律儀で素直な娘である。

 

「へびゅっ!?」

 

 あ、コケた。

 

「ひにゃあああああっ!?」

 

 そして天然羽毛布団に埋もれた。

 今度は奈良に行って鹿と戯れさせようと思った私は悪い大人だろうか。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「…………むー……」

 

 私の頭上でうーちゃんが恨みがましく唸る。

 

「……そろそろ機嫌直してくんねぇかなぁ」

「やっ!」

「やっ、ってあのねぇ……」

 

 膨れたまま髪の毛を結構強めに引っ張ってくれるもんだから、ナノマシンの恩恵があるとは言え三十過ぎのオッサンとして生え際のダメージが非常に気になってしまうところ。今日の晩ゴハンは海藻類を多く摂取しなければ。

 何はともあれ、うーちゃんがハトで……じゃねぇな、ハトがうーちゃんと戯れてくれたおかげで予想以上に暇を潰せた。時間的にも少年達を追跡するのに丁度良い頃合いだろう。

 ってぇ事で、ご機嫌ナナメなうーちゃんを肩車して周囲から変な目で見られつつ、目的地であるレゾナンスに向かっている私達だったが――

 

「…………一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す…………」

 

 少年の背中を睨み付け、白昼堂々殺人予告をするツインテール娘とエンカウントしてしまった。

 え、何この娘すっげー怖いんですけど。目がマジなんですけど。露骨過ぎる殺意にうーちゃんや一緒に隠れていたオルコット嬢もドン引きなんですけど。

 

「あー……二人して買い物かい?」

「少なくともわたくしはその予定だったのですが、運悪く学園の正門のあたりで鈴さんが出掛ける一夏さんとシャルロットさんを見つけてしまって……」

「それでこの有様か」

 

 おチビの背後に虎の化け物の幻影が浮かんで見えるのは……私の気のせいだと思いたい。何それスタンド? 石仮面なぞ被らなくても人間辞めかけちゃってるよこの子ってば。

 

「ところで、小父様とラウラさんは何故ここに?」

「嫁を尾行するついでにデートしていた! ハトがいっぱいで怖かったぞ!」

「あ、おバカ……」

 

 私が言い訳を考える前にうーちゃんが馬鹿正直に説明してくれやがった。しかもつい今し方まで不機嫌だったのに自慢げに話すもんだから、おかげでオルコット嬢の額に太い青筋が浮かび、私の後頭部にはでっかい脂汗が漫画のように浮かぶ。

 ああもう、般若が増えちゃったじゃないの。

 

「あら…………あらあらあらあら、そうでしたのデートしてらしたんですの。わたくしとではなくラウラさんと……へぇー? 楽しそうで良かったですわねぇ?」

「……デート、って言うほどのもんじゃあなかったけどな。一緒に朝メシ食って、暇潰しに公園で動物に戯れられて、少年ぶっ殺しちゃいそうなおチビとお前さんを見っけて」

「『あーん』もしたぞ!」

「キミはちょっと黙ってような?」

 

 お父さんの命が風前の灯火よ?

 イギリスお嬢様の笑顔がハリウッドの特殊メイクみたいになっている。じゃなきゃ人形浄瑠璃で使われてるアレだ、クワッとかキシャーッとか効果音付きで鬼の顔に変化する奴だね。嫌過ぎるわこんな和洋折衷。

 

「何か、申し開きはございまして?」

「一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す一夏殺す…………」

 

 怖い怖い怖い怖い。

 私と私が二重に大ピンチじゃねぇのよ全く。

 とりあえずおチビ、衝撃砲を戻しなさい。そんなん生身に撃ったら鼻血出ちゃうでしょ。

 

「父よ、早く一夏達を追わねば。見失ってしまう」

「流石はうーちゃん、全然空気読まねぇでやんの。けどナイス話題逸らし! さあみんなで少年を追い掛けよう! 標的を亡き者にするまでが追跡ですよう!」

「後でじっくりとお話を伺いますからね?」

「…………へい」

 

 娘同然の女の子とほのぼのしていただけなのに、何時の間にか浮気バレした旦那みたいな窮地に立たされている。あるいはキャバ嬢の名刺を発見された野原ヒ○シ。

 とりあえず、警察のご厄介になりそうなおチビを縄で縛り上げて小脇に抱え、さも当然のように反対側の腕に抱き付いたオルコット嬢を連れて雑踏に消えた少年達を追う。

 親子の団欒なのかデートなのか誘拐なのか――我ながら判断に困る状況である。

 

「あ、どうも皆さんお騒がせしてます保健所の者でーす。この猫っぽいお嬢さん噛むからなるべく近付かないでくださーい。胸の大きい人は特に注意してー」

「がるるるるるるっ!! うなーっ!!」

「鈴さん……」

「とうとう人語まで忘れたか」

 

 恋する乙女達は恐ろしいものだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ……それからどーした!

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 危機的状況と言うなら、それを『受難』と呼ぶか『女難』と呼ぶか、はたまた『いつもの事』と呼ぶかはさておき、一夏少年は現在間違いなく危機に瀕しているのだろう。

 俺はただ、シャルと買い物(・・・)に来ただけなのに――と嘆く若者。

 もっとも、どうにかデートの形に持って行こうと頑張る初恋乙女の気も知らず、相も変わらずの朴念仁を発揮している以上、この少年に救いの余地はないのだが。試着室に連れ込まれた事自体に非はなくとも、これまでの余罪や前科を考えれば陪審員総意の完全なるギルティだ。

 

「何をしているんだお前達は……」

 

 姉は眉間を指で揉み解しながら呆れた声を零し、初心に純情を足して二乗した小動物系副担任の山田先生は真っ赤な顔であわあわあわわ。

 何にせよ、シャルと一緒に試着室に入っているところを見られてしまった。

 いつも唐突に出現するあの変人先生に見付かるよりはまだマシ……なのだろうか。女物の水着に囲まれて説教されるのとからかわれるのとでは、果たしてどっちが気楽なのやら。多分、どちらも同じくらい疲れるのは間違いない。

 

「…………まあ何だ、仲良くするなとは言わんが時と場所を選べ。休日でもIS学園の生徒として恥ずかしくない行動を心掛けろ」

 

 あれ、とそこで少年一夏は首を傾げる。

 学外とは言え、家ではズボラでぐーたらな姉も今はスーツ姿で教師の顔のままだ。なのに普段の説教らしい説教もなく、まるで理解ある人格者のように無難に諭し説くだけとは。

 読心されたら鉄拳制裁確実の疑問を抱く一夏だったが、その謎は他ならぬ姉自身によってすぐに解明される事になる。

 

「――そこに隠れてる馬鹿一匹と不審者三名! お前達もさっさと出て来い!」

 

 …………果たして。

 ディスプレイされた水着の向こう側からぬぅっと顔を出してコンニチハしたのは――季節外れのハロウィンを楽しむ四人組だった。

 それ以外にどう言い表せば良いか分からない奇天烈集団だった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「待て待て待て、恥ずかしそうにまた隠れようとするんじゃない! 森の不思議な妖精さんか!」

 

 シンプルにデフォルメされた骸骨の仮面と全身を覆う黒い衣装――ショッピングモールとは何の関連性もない死神コスの変人先生は、まあいつもの事だと捨て置くとして。

 肩車されてご満悦のラウラが梨の妖精ふなっすぃ~なりきりパジャマを着ているのも、可愛いは正義だから何も言うまい。血走った目で歯を噛み鳴らす鈴はキツネリスの着ぐるみで、先生の腕に抱き付いているセシリアに至っては……もはやコスプレと言うよりただの変装だった。

 

「あー……オルコット? お前はその格好でここまで来たのか?」

「……? これが正しいジャパニーズスニーキングスタイルではありませんの?」

「確かにお前には見えない、と言うかお前だと思いたくない変装だが……」

 

 姉が呆れるのも無理はない。

 セシリアが掛けているのは――マヌケ臭い鼻メガネだった。

 今はもう宴会の席でも使われなさそうな、百均で売られていそうなパーティーグッズを、貴族の血を引くイギリス令嬢が真面目に着用している。それ以外は普通に制服姿。

 変人の口車に乗せられたのは明らかだが、被害者本人は心の底から信頼し切っているようなので笑うに笑えず、一夏も千冬もシャルも山田先生も憐憫の目で見るだけに留めた。

 

「そ、それよりもスミス先生、ヒドいですよ黙って出掛けるだなんて! いつもみたいに起こしてくれなかったから織斑先生との待ち合わせに遅れるところだったじゃないですかもー!」

「たまには自分で起きる癖をつけましょうよ。同じ部屋になってから毎日じゃないですか」

「だって、だってスミス先生だとすごく気持ち良く起こしてくれるんですもん……」

 

 大きな胸の前でもじもじと指を絡めて赤くなる山田先生。

 彼女をそんな顔にさせる先生が羨ましい――と一夏は思うがそれを言葉にはしない。口が裂けたとしても絶対に言わないし、頼まれたって言えない。

 だって、鬼より怖い姉とクラスメイトが髪を揺らめかせながら殺気を漂わせているんだもの。

 

「ほほう。気持ち良く、なぁ?」

「どう気持ち良いのか是非ともお話を伺いたいのですが。ねぇ、小父様?」

「……普通に起こしてるだけッスよ? いやマジで」

 

 と言いつつも、説明は無意味と判断して逃げる死神。

 弾かれたように追う鬼教師と鼻メガネ。

 そして逃走も空しくクロスボンバーで床に沈められ――それでもラウラと鈴を器用に庇いながら倒れるのを眺めていると、どれだけの芸人根性が染み付いているのか興味さえ湧いてくる。

 

「ところでセシリア、鈴の奴どうかしたのか? 凄い顔で俺を睨んでるんだが」

「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ぐるるるるる……!」

 

 これではもはや『凰鈴音』の名を持つ猛獣だ。

 ほら、怖くない……とか冗談半分で指を出したら間違いなく噛み千切られるだろう。縦に開いた瞳孔が雄弁に物語っている。

 

「貴方のせいでしょうに……命が惜しければ近付かない方が賢明でしてよ? 天草式の女教皇やら胸革命のハーフエルフやら第3十刃やらデビルーク星の王女やら狐耳のサーヴァントやら例の紐の竈の神やら海賊女帝やら、鈴さんからすれば天敵のような方々とばかり遭遇しましたから。何でもこの近くでコスプレイベントが催されてるとかで」

「幅広くやり過ぎだろレゾナンス……」

「ちなみに織斑先生。その方達とすれ違う度、小父様はわざわざ足を止めてそれはもうじっくりと堪能してました。しかも浮かれ顔で記念写真まで撮って。ご覧になります?」

「……ふぅーん?」

「いやいやいや、誤解しないで下さい織斑先生。それはほら、アレですよ、着ぐるみとコスプレを愛する者として参考にしたいなあと思っただけでごぜぇまして」

「で、本音は?」

「胸とか尻とかスゲェ眼福でしたグヘァッ!?」

 

 床さえぶち抜きそうな勢いで死神モドキの顔を踏み潰し始める姉。

 ああ言ったらどうなるか分かっているはずなのに神経を逆撫でするのだから、やっぱりあの人は筋金入りの変人である。あんな大人には絶対なるまい。

 

「ちょっ、止め、死ぬ死ぬホントに死んじゃう――あ、今日は白!」

「~っ!? 何処を見た? 何を見た!? 今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろ!」

「ギャー!!」

 

 店内での痴話喧嘩は他のお客様のご迷惑になるので止めましょう。

 

「しかし嫁よどうする? これをどうにかしないと本当に保健所に通報されかねんぞ?」

 

 さりげなく避難して来たふなっすぃ~ラウラが言う。

 これ――と彼女が指したのは言うまでもなく丈夫な縄に繋がれた鈴であり、ガジガジとリードを噛み切ろうとする姿はいよいよもって人間の範疇を逸脱しようとしていた。

 何よりも恐ろしいのは、鈴がまだISを起動させていない事だ。このまま勢いに任せて衝撃砲をズドンされた日にゃ笑い話じゃ済まなくなってしまう。

 せめて意思疎通が可能になるまで戻ってくれれば――

 

「はぁーい! 動物と会話してみたい――そんな時はこちら!」

「何事もなかったようにこっちに混ざらないでくださいよ」

「しかも鈴さん動物扱いですし」

「と言うかあれだけ踏まれてよく平気だよね」

「鍛えてますからっ!」

 

 グッ、とサムズアップする変人の向こうでは、山田先生に羽交い絞めされた姉が抜け殻と化した死神様コスチュームを踏み続けている。ラウラは目を輝かせて『カワリミ・ジツだ、ジャパニーズニンジャだ!』と大興奮しているが――まあ彼女に関しては勝手に楽しそうだから放っておこう。

 

「それで小父様、この事態をどう収拾するおつもりですの?」

「フフーフ、こんな事もあろうかと暇潰しに作ったニャウリンガルの出番さ!」

「……セーフかな、商標的に」

「アウトだと思うぞ」

 

 ンなこたぁさておき。

 先生が取り出したるは手の平に収まるサイズの機械。それを荒ぶる鈴の口元に近付け、頭や腕を齧られながらスイッチを押した。

 ピピッ、と安っぽい電子音。

 

【おなかがすきました】

 

「そんなしょーもない理由でこんだけ怒ってんの!?」

「違うよね、絶対違うよね!? 翻訳が間違ってるか壊れてるよこの機械!」

「む、失礼な。じゃあもう一回やってみよう」

 

 ピピッ。

 

【ふっかつのじゅもんがちがいます】

 

「まさかのドラクエ!?」

「と言うか何を復活させるおつもりですの?」

 

 ピピッ。

 

【あかまみまみ、あおまみまみ、きまみまみ】

 

「言えてねぇし!」

「やっぱり故障しているのでは?」

「変だなぁ。デュノア嬢ちゃん、試しに『にゃー』って言ってくんない? 少年の事考えながら」

「えっ!? えっと…………に、にゃー?」

((あ、普通に言うんだ……))

 

 ピピッ。

 

【いちかだいす――】

 

 読み終わる前にシャルに目を塞がれた。

 

「わーわーわーわー!? 壊れてる! 絶対これ壊れてるよ、うん!!」

「今さら恥ずかしがらんでも良いのに。本人以外にはバレバレよ?」

「は、恥ずかしがってなんかないもん!」

 

 真っ暗な視界の中、妙に切羽詰ったシャルの叫び声。

 シャルの愛らしい猫語がどう翻訳されたのか、非常に気になるのだけれども――それよりも今はムニムニと押し付けられた二つの塊と柔らかな匂いで一夏の意識は熱暴走寸前に陥る。

 蘇る大浴場での一件、そして先ほどの試着室での密着。

 鈍感だの朴念仁だの――女の敵の代名詞のような一夏でも、これだけ大胆に女体の神秘と言うか素晴らしさを強調されたら焦りもする。だって男の子だもん。

 

「シャル、その、胸が……」

「へ? …………きゃああああああっ!?」

「へばぁっ!?」

 

 ビンタ一閃。

 さらに不幸な事に、ぶっ飛ばされた先には牙を剥き出しにして待ち構える鈴の姿が。

 好きな幼馴染が他の女とデート。そして自分にはない数多の巨乳を見せ付けられ、挙句の果てに一緒に試着室に入ったりべったり抱き付いたりしてイチャイチャイチャイチャイチャイチャと。

 彼女の怒りのボルテージは限界をとっくに通り越し、メルトダウンさえ起きていた。

 

「イィィィィィィチカァァァァァァァッ!!」

「ままま待て鈴、まずは落ち着ヌガアアアアアアッ!?」

 

 ガジガジ、ガジガジ、ガジガジガジガジガジガジ。

 頭部を重点的に噛み付かれ、ゴロゴロと痛みに悶えながら二人仲良く床を転げ回る。

 

「僕達、何しに来たんだっけ……」

「おそらく水着を買いにかと。わたくしもすっかり失念してましたけど」

「それについては心配無用、事前に私がみんなの分をポケットマネーで買っといたから。サイズもぴったり、今年の新作とか貝とか紐とか例の競泳水着とか水に溶けるのとか種類も豊富!」

「待って、ねえ待って。百歩譲って僕達のサイズを知っているのはツッコまないけど、今明らかに水着に結び付けちゃいけない危ない単語が出たよね!?」

「これでビーチの視線を独り占めっ!」

「ヤだよそんな注目!!」

「着たら少年が喜ぶかも」

「うっ……それなら……」

「シャルロットさん、そこで乗り気にならないでください」

 

 何やら男にとって理想郷のような会話が聞こえて来たが――結局、変人先生は囮に気付いた姉に空中即死コンボでぶちのめされ、全員分の水着(各自で選んだ)を改めて買わされたのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 おまけ。

 

「父よ、その機械は何だ?」

「んんー? 猫っぽく喋るとその時心の中で思っていた言葉に変換してくれるオモチャ……のはずなんだけど、どうも壊れてるっぽいんだよなぁ。帰ったら調整せにゃ」

「ふーん。……ニャーニャー」

 

 ピピッ。

 

【おとうさんだいすき】

 

「おお本当だ。良かったな父よ、壊れてないみたいだぞ」

「……キミって時々こっ恥ずかしい事を平気でやってくれるよね」

 

 自分から進んで言ったのに照れるなよぅ。

 お小遣いあげたくなるじゃねぇかコンニャロー。




実はもうちょっと続いたりして。
次回はちーちゃんとセッシーの女の戦いがあったりなかったり。

今回のリクエストは、

 落葉肩上さんより、

・ふなっしーの仮装

 押し売り設定屋さんより、

・死神様のコス(ソウルイーター)

 地獄飛蝗さん、サルベージさんより、

・「鍛えてますから」(響鬼)

 elf5242さんより、

・「今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろ!」(テイルズオブディスティニー2:バルバトス)

 でした。

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