織斑一夏はテロリスト ―『お父さん』と呼ぶんじゃねぇ―   作:久木タカムラ

42 / 46
もしISに魔装学園H×Hの要素があったら。
これ幸いとオジサマーがエロい事しまくる光景しか思い浮かばない今日この頃。


ともかく、遅くなってしまい申し訳ないです。


042. 悪党父娘と夏の花火

「私の熱血を送り込みィィィィ!」

「おくりこみー!」

「火を灯して焼いてくれるぜ!」

「くれるじぇー!」

 

 水飛沫を上げてはしゃぐクラスメイト達と、真上で燦々と輝く太陽――それらに負けず劣らずの熱気を放ちながら、変人先生と彼の娘の一人が炎の前で忙しなく動き続けている。

 先生はトレードマークの白衣を脱いで頭にタオルを巻き、息の根を止めたばかりの獲物の胴体に素早く刃を走らせて、隣に立つラウラの妹(こちらは『しーちゃん』と書かれた三角巾とマスクと白衣の給食当番スタイル)が慣れた手付きで竹串に刺し焼き網の上へ置いていく。

 光景そのものは別段不自然ではないのだけれど、先生が何かしてる時点で裏があるのでは……と勘繰ってしまう。ほとんど条件反射に近いがちっとも嬉しくない。

 

「張り切ってるね先生……」

「お、デュノア嬢ちゃんも何か食べるかい? 色々あんぞ?」

 

 視線を向けながら、手は止まる事なく焼いたり炒めたり刻んだり煮込んだり。

 一体何処から材料一式を調達してきたのか、ジャパニーズ・エンニチで並んでいるような屋台を数軒組み上げて――焼きトウモロコシに焼きそばに焼き鳥、各種ラーメンやカキ氷、寸胴鍋一杯のカレーとキンキンに冷えたスイカまで取り揃えた海の家をあっという間に完成させてしまった。

 本当に、どんな仕事をしていたのか気になる人だ。

 聞いたとしても、のらりくらりとはぐらかされるだけだろうが。

 

「どうして急に海の家? お昼ご飯なら旅館で出してくれるって聞いてたけど」

「世知辛い話、馬鹿やるにも色々と先立つもんが必要なんでねぇ。食材は女将さんに頼んで格安で分けてもらったし、織斑先生も明日の打ち合わせで花月荘に戻ったし。鬼がいない内に稼がんと」

 

 変なところで所帯じみた男である。

 

「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり、じっと手を見て尻を掻く」

「あまり真剣に悩んでないよね、それ」

「まーね」

 

 そもそも、この人が悩む姿自体想像もつかない。

 出発前日、廊下を行き来しながら『光学迷彩……ドローン? いっそ軍事衛星をハッキングして撮るか……』とシリアスに考え込んでいるのを目撃したが、うん、あれはノーカウントで。直後に織斑先生に成敗されたし。軍事衛星を乗っ取って何を撮影する気だったのやら――断末魔の叫びに混じっていた『女湯』の単語から考えるに、少なくとも単なる集合写真とかではないだろう。

 ……やっぱり一夏もそういうの(・・・・・)に興味あるのかなぁ。

 

「さっきの、あの綺麗な金髪の人は何処行ったの?」

「疲れたから部屋帰って寝るとさ。続きは夜になってからのお楽しみ、ってな」

「……織斑先生に怒られても知らないよ?」

「海で野郎がする事なんざ、泳ぐか昼寝するかねーちゃんナンパするかのどれかだよ。馬鹿やって痛い目見て――全部ひっくるめてが夏の醍醐味さ」

 

 泳ぎも昼寝もせず――ナンパだけはしっかりして――調理に勤しむ人が目の前にいる訳だが。

 

「ねぇおねーちゃん、見て見てー」

「ん、なぁに?」

「ほらぁ、タコさん♪」

 

 おねーちゃんなんて呼ばれるの初めてだぁ、と感動できたのはほんの一瞬だった。

 しーちゃんがシャルロットの足元に押し運んだ巨大なクーラーボックス――銀髪幼女がそのまますっぽり収まってドラキュラごっこでもしそうな箱の中で、みっちりと押し込められたミズダコが感情のない目でジーッとこちらを見つめていたのだ。

 伸ばせば体長は7メートルに達するだろうか――まかり間違っても『タコさん♪』と可愛らしく呼べるサイズではない。ほらぁと言うかホラーである。

 

「――わあああああああっ!!?」

「そんな驚くなよ。今日びフランスでもタコくらい食べるだろ?」

「オスシのはね!? こんなのいきなり眼前に出されたら日本人でも軽く引くよ!? ほらなんか這い出て来ちゃったし!? 僕に巻き付いてるし!? なんか、ヌメヌメするぅ!!」

 

 水着の中にまで入り込む触手。

 お約束とばかりに独特の弾力と滑り気が全身に纏わり付いて――無数の蛇に弄ばれているような感覚が背筋を駆け巡る。敏感な太腿の内側や脇腹を吸盤で吸われたり撫で回されたり、乙女としてかなりマズいこの状況。色々な初体験の相手が軟体動物とか悪夢でしかない。

 

「あ、ママの絵本みたい」

「……ママが同じの持ってるの?」

「ん、男の人がタコさんと遊んでるの。あとね、お風呂じゃないのにね、はだかんぼさんなの!」

「…………しーちゃんさんや。今度ママと一緒に寝る時、その本持ってって『これ読んでー』ってお願いしてみ? きっとママ、とっても面白い顔になると思うから」

「うにっ!」

「いーから早く助けて!?」

 

 天災の知られざる趣味が流れ弾気味に暴露されたが、その本の内容を(女だけど)フルコースで味わう羽目になりそうな身の上としては、篠ノ之博士が無垢な幼子に辱められようが奇声を上げて悶えようが正直知ったこっちゃねぇのである。

 結局、巨大ダコは先生によってクーラーボックスの中に強制送還された。しばらくヌルヌルしたものには近付きたくもない。

 

「パパ提督! お手伝い任務遂行しました!」

「うむ、大義であった! 皆と遊んできていーよー。あ、日差し強いしこれ被ってけ」

「うにっ!」

 

 彼が愛娘に被せたのはクラゲのような宇宙人のような――麦藁帽子の代わりとしては奇怪過ぎる触手付きの黒い物体。目と口、ついでに砲身らしきものもあり中々に不気味だ。直前に触手生物の代表格とゴールデン伝説さながらの格闘をしたからなおさらに。

 武装とも呼べる妙な格好をしているのは彼女の姉妹達も、一夏やクラスメイト達も同様だった。

 

「Burning Love!!」

「気合! 入れて! いきますッ!!」

「うおあああっ!? ちょっと待て、当たる! 当たる当たる!!」

 

 高々と上がる水飛沫と悲鳴。

 海面からにょっきりと突き出た全長4メートルほどの丸太――その頂近くに縛り付けられている一夏は海軍将校を思わせる白い軍服姿で、皆の中で唯一の丸腰だ。一夏の私物ではないだろうから無理矢理着せられたのは間違いないが……平時なら見惚れるくらいには似合っているかも。

 他にもブレザーやセーラー服、果ては巫女服やら際どいさらしやら、砂浜が大人の欲望丸出しのコスプレ会場と化してしまっていた。それでも皆楽しそうなのが何ともはや。

 

「いやぁ、眼福ですなぁ目の保養ですなぁたばちゃん」

「そうですなぁいーくん! 焼きそばンマー! くーちゃん達もガンバレー!!」

『はーいっ!』

 

 そしてそれを満足そうに見物する大人が二名。

 

「いーくんの注文通り、艦載機はBT兵器操作の練習に、他は射撃訓練になるようコスチュームを作製しといたよん♪ もちろん安全性は保証します!」

「結構結構。楽しく学ぶってのが私の教育方針だからねぇ」

「あ、そういう意味もあったんだね……」

 

 意外とまともな事を考えていたようだ。

 

「ま、音声認識型だから、勝ちたきゃ恥ずかしくてもセリフを言わなきゃいけないんだけどねー」

「中破したら?」

「当然、脱げます! って事で金髪2号、おヌシも夕立に強制お色直しじゃー!」

「きゃー!?」

 

 砂中から飛び出した無数のロボットアームに水着を剥ぎ取られ、素っ裸を恥ずかしがる暇もなく黒の制服やハイソックスに着替えさせられてしまった。仕上げにプロ顔負けのメイクまで施された自分を見てハイタッチするこの二人は、もう大人として色々と駄目なんじゃなかろうか。

 口の周りを青のりやソースで汚したまま、握った割り箸をマイク代わりにして、ウサミミ博士は声を張り上げる。

 

「最終競技『提督奪還・棒倒し!』もいよいよ大詰め! 果たして艦娘達は深海ちびーズから無事提督(いっくん)を助け出す事ができるのか!?」

「とうとう最後までこんな扱いですか俺!?」

「だってぇだってぇ『疲れたから動きたくない』って駄々こねたのはいっくんじゃーん。だぁから動かなくて済むようにしてあげたのにー」

「縛られたいとは一言も言ってないですけどね!?」

 

 喚く一夏の足の下、丸太の周囲で砲弾や艦載機を飛ばす深海ちびーズ(天災命名)とやら。

 こっちはこっちでモノトーン調の衣装――ゴスロリや白のワンピースを着ており、どういう訳か二頭身にデフォルメされて見える事も相まって、チョロチョロ動き回る姿は大変微笑ましい。

 もっとも、角が生えていたり、巨獣と機械を融合させたような兵器を従えていたり、統率された動きで大勢の『おねーちゃん』達を相手取ったりしているのでギャップも凄まじいが。

 

「ひやあぁ!? ダメです引っ張らないで! み、見えちゃいますー!?」

 

 保母さん代わりなのか山田先生もちびーズ側で――額の角と両手の巨大な鉤爪はさておき、肩と腋が露出したデザインのリブ編みワンピース(裾短め)を引っ張られて、同性さえも目を奪われる豊かな母性の塊やお尻が半分ほどはみ出てしまっている。それを見た海の家のおっちゃん(仮)とダメ博士は『おおっ!』とガッツポーズ。

 ちなみにラウラはセーラー服に加えて黒いマントを羽織り軍刀を携え、

 

「弱過ぎる!! お前等の指揮官は無能だなぁ!」

「うー姉様、怒ってるの……?」

「あっ……いやいや! 怒ってない、怒ってないから泣くな! なっ!?」

 

 軍人の気質からか、妹達を半ば本気で相手して怖がられてオロオロし、

 

「ぱ、ぱんぱかぱーん! ぅぅ、恥ずかしいですわ……」

「似合ってるよ~セッシー♪」

「布仏さんは恥ずかしくありませんの?」

「ぜ~んぜん? あいあむ叢雲ちゃんなのだー♪」

 

 キャビンアテンダントを思わせる青い制服と帽子のセシリアは、不参加なのにばっちり着替えたのほほんさんにスマホで動画を撮られ、

 

「ちょっと! あたしの格好何か悪意を感じるんだけど!?」

 

 鈴のは確か水干だったか、オンミョージのような紅色の服にサンバイザーを被り、大きな巻物を小脇に抱えていた。何故彼女が不機嫌なのかと言えば、コンプレックスである特定部位が鉄板でも仕込んであるのかってくらいに平たく表現されているからで――

 

「メイン盾きた!」

「これで勝つる!」

「盾って言うか壁ね、凰さん!」

「鉄壁の絶壁ね、凰さん!」

「揃いも揃って宣戦布告と見なすわよおどれらぁ!! 脂肪の塊がそんなに偉いんかー!!」

『そーだそーだ!! 巨乳がなんぼのもんじゃあ!!』

 

 周りの暖かい声援(?)に対し式神札で無差別攻撃を行い、ブルジョワ組とプロレタリア一家の仁義なき抗争を勃発させたりしていた。夏は人を狂わせると言うが、貧乳軍の猛攻は日頃の妬みを発散するかのように苛烈で狂気すら感じるものであった。気持ちは分からないけど剣呑剣呑。

 

「全く、どうして私までこんな格好を……」

「箒おばちゃんは……遊ばない、の……?」

「お友達いないの? ぼっちさんなのー?」

「お、おばっ!? いや姉さんの『娘』で姪だからおばちゃんで良いのか……? それより、私はぼっちじゃないぞ!? 私にだって友人の一人や二人くらい……いるはずだ! きっと!!」

「でもママが『箒ちゃんはぼっちだから仲良くしてあげてね』って! ね、きーちゃん!」

「うん……」

「………………姉さん? ちょっとお話があるのですが?」

 

 姿の見えなかった箒まで何時の間にか参加させられていて、多少ぎこちないながらも突然できた姪っ子達に懐かれている――それは別に良いし、姉に寂しい子扱いされて怒るのも当然の権利ではあるのだけど、その戦艦クラスの主砲をこっちに向けないでほしいなぁ、とシャルロットは思う。

 一方、標的にされたウサミミ博士は焼きそばを飲むように完食し、さらに数本の焼き鳥を串ごとバリバリと平らげた後――

 

「うーさっさっさっさっ! ほぉらほら、捕まえてごらんなさぁーい!」

 

 若干ウザい感じに、両手を広げて脱兎の如く逃げ出した。

 でもって、ブチリ、と太い綱を引き千切ったような音が確かに聞こえた。

 

「――こぉの馬鹿姉! 今日こそ引導を渡してやる!! 第一、第二主砲。斉射、始め!!」

「ふっふーん、束さんの半分は箒ちゃんへの優しさでできているのだよ!」

「頭痛を鎮める薬じゃなくて頭痛を起こす薬でしょうが姉さんの場合!!」

「箒ぃぃっ! こっちに流れ弾飛ばすなーっ!!」

 

 流石、世界を煙に巻く要注意人物だけはある。

 妹を手玉に取る事など彼女にとっては朝飯前、赤子の手を捻るよりも容易いのだろう。追い回す箒も箒で真っ直ぐな――悪く言えば闘牛用の牛みたいな性格なのだし。

 

「……何だかんだ言っても仲良いんだね、箒と篠ノ之博士って」

「愛情表現が下手な姉妹だからねぇ。マイナスにマイナス掛けたらプラスになる、みたいな?」

「あー、だから先生ともマイナス同士気が合うんだね。あははは」

「そうそう。あっははははは――言うようになったじゃねぇかオメェも」

「ごめんなひゃい」

 

 つい口が滑り、ほっぺをムニムニされてしまった。

 

「パパー! トウモコロシください!」

「えーちゃん、トウモロコシな」

「うんっ、トウモコロシ!」

「……もう良いや、うん。トウモコロシねトウモコロシ。丸ごとじゃ多いから半分な」

 

 えーちゃんが差し出した硬貨はプラスチック製の玩具だったが、先生は薄く笑みを浮かべながら切り分けたトウモコロシ(・・・・・・)を渡し、ハムスターそっくりに食べる娘の頭を愛おしそうに撫でた。

 その光景が――幸せそうな幼子が何だかとても羨ましくて。

 

「えへへ……ぱぁぱ♪」

 

 そう言って娘を見送る大きな背中に抱き着いたのは、魔が差したとでも言おうか、ちょっとした悪戯心や仕返しの意味も込められていたりいなかったり。

 一夏なら慌てふためくか真っ赤になって固まるかのどちらかだろうが、先生は動じた様子もなく呆れ顔になって軽く溜め息を吐いただけで、引き剥がす事も突き放す事もしない。

 

「父親絡みで悩み事でも?」

本当のパパ(・・・・・)の事で、ちょっとね。もうとっくにバレちゃってるのに、何時になったら打ち明けてくれるのかなぁって思って」

「………………ほぉ」

 

 驚きと感心が半分ずつの声音。

 

「良く気付いたな。予想よりも大分早い」

「だってオーバンさん(おとうさん)ったら、電話する度に一夏と何かなかったか聞くんだよ? 一昨日も一緒にレゾナンスに行った事を教えたら『年頃のレディがみだりに異性と出かけてはいけません!』って大慌てでさ。そりゃ気付きもするよね」

「長い間会う事もできなかった実の娘と、ようやく気兼ねなく話せるようになったんだ。父親だと言い出せないからこそ、極東で一人きりの娘が心配で仕方ないんだろうよ。男親にとっちゃ、娘に近付く男はみぃーんな馬の骨だしな」

 

 ラーメンの出汁くらいにしか使えんわ、と先生は言う。

 

「ママもママで『あの人が自分から言うまで待ってあげなさい』だって。だから、先生をパパって呼んでヤキモチ焼かせようって今決めちゃった♪」

「ついでにこれを見て少年も妬いてくれたら一石二鳥ってか? 悪女だねぇ」

 

 その強かさは間違いなく母親からの遺伝だろう。

 かつて浴びせられた辛辣な罵詈雑言さえ、自分を想うが故の愛情の裏返し。

 憎まれ役を演じた心優しい母――性格が似ていると実感する事が、家族との明確な血の繋がりを意識できる事が、こんなにも幸福に思える。

 女心は分かってくれないけれど、真っ直ぐ真摯に向き合ってくれる一夏。

 嘘つきで気まぐれで一夏以上の女たらし、それでも誰よりも頼れる先生。

 この二人に出会えたから、今も自分は笑顔でいられる。

 

「つーか、そろそろ離れてくんないかなぁ。織斑先生に見られたらどうなる事やら」

「――そうだな。どうなるんだろうなぁ?」

「……あーららら」

 

 だから、だろうか。

 少しだけ、ほんの少しだけ、二人を独り占めしたいと考えてしまうのは。

 箒にもセシリアにも、鈴にもラウラにも、山田先生にも篠ノ之博士にも――織斑先生であっても渡したくないという欲が出てしまうのは。

 

「あー、織斑先生? 打ち合わせの方はもうよろしいんで?」

「滞りなくな。で、お前はデュノアと何をしていたんだ?」

「何をと言われましても、何と申しましょうか……」

「ねぇパパ、僕、買って欲しい服があるんだけどなぁ♪」

「おーいデュノア嬢ちゃん、この状況でその冗談は笑えねぇって!」

 

 母からの教えその一、イイ女になりたいなら男を困らせて手玉に取るべし。

 その二やその三は思い出すのも恥ずかしいピンク色の教えだったので割愛するとして、なるほど確かに、滝のような汗を流して狼狽する先生は――さながら飼い主に叱られる大型犬。別に悪女の道を志すつもりはないが、困っている姿はちょっと可愛いかな、と思えてしまう。

 

「あのですね織斑先生、これは決して援助交際とかそういういかがわしい何かではなくて、親睦を深めているとでも言いましょうか――だからとにかくその物騒な小道具は片付けましょう!?」

「やかましいこの性犯罪者! 目を離した途端に性懲りもなく、オルコットに続いてデュノアまで誑かしおって! スイカ代わりにお前の頭をカチ割ってやる!!」

「ぎゃー!?」

 

 一夏だったら……どんな可愛い顔をしてくれるのかなぁ。

 そう考えると、小悪魔的な女を目指すのも案外悪くないのかも知れない。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「えー、以上をもちまして全競技を終了致しやす! おつかれっしたー皆の衆!」

「おつかれさんっしたー」

「……なんで篠ノ之博士とスミス先生が一番ボロボロになってるんだろ」

「さあ……?」

 

 大和モッピーに撃たれて自慢のウサミミが穴あきチーズみたいになったたばちゃんと、お茶目なデュノア嬢ちゃんのおかげで姉上に折檻されて顔面が潰れたアソパソマソに変貌した私。

 まあそれはいつもの事だとして、我らがウサミミ博士が主催なすったお祭り騒ぎも、名誉なんぞ欠片もない表彰式を残すだけとなった。

 

「続いて表彰式に移りまーす。自分が優勝だと思う子足上げてー」

『はーいっ!』

「はいノリが良くて大変よろしいー、特にうちの娘達。約束通り、私とたばちゃんが優勝した子のお願いを何でも聞いたげるんでー、自信ある人は今のうちに考えとくようにー。あ、おっちゃんにエロい事されたいってお願いの子は――」

 

 音速を超える速度でこめかみにブレードが突き刺さった。

 ついでにたばちゃんに向こう脛をゲシゲシ蹴られ、オルコット嬢は愛銃を構え、旅館の方からは小口径の弾丸が飛んで来た。割り箸で摘まんでぽーいっとな。

 

「――こんな風に織斑先生にオシオキされるので止めておこうねー」

 

 正直な話、成績上位の面々については意外っつーか納得っつーか。

 

「気を取り直して、まずは銅メダルから発表しちゃうぜい! 血で血を洗ったおにゃのこだらけの水上大運動会、第三位は――つるぺた怪獣ツインテール!」

 

 全員が一斉におチビを見た。

 つるぺたとツインテールの属性なら、持ってるお嬢さんは他にもいる。しかし加えて怪獣っぽい性格となると、この場でそんな三拍子を兼ね備えているのはおチビくらいだから、満場一致なのも仕方ないっちゃ仕方ない。

 

「怒っていいわよね、あたし怒っていいわよねコレ!?」

「怪獣ちゃんにはいーくん特製巨乳パッドを贈呈!」

「一度は売れたんだけどキャンセルがほとんどでね、在庫有り余ってるから好きなだけ持ってけ」

「いらんわー!!」

 

 これで皆も山田先生、ってのが売り文句の力作なんだが……いくつになっても女心は分からん。

 ちなみに三位の理由は、最初の遠泳競技で一着だったからだそうな。私と一緒にゴールっつーか網に入った状態だったけど、たばちゃん的には面白けりゃ何だって良いらしい。

 

「続いて第二位――おーちゃん!」

「うにっ!」

 

 もう足は上げなくて良いから。

 

「人間ビーチフラッグで二人分の旗をゲットできたのが大きいね! 誰かさんが旗と一緒に唇まで奪われちゃうとは流石に思わなかったけどぉ?」

「はっはっはっ、いやいやいや」

「おーちゃんには前から欲しがってた象さん等身大ぬいぐるみをぷれじぇんと! くーちゃんずも頑張ったから好きな動物さんのぬいぐるみをあげちゃおう!! 予算の都合でこっちはちっちゃいサイズになっちゃうけどゴメンね!!」

 

 三徹してぬいぐるみを作るのは別に問題じゃないんだが、等身大ともなると材料費も結構馬鹿にならんのよなぁ。娘達のご褒美にその辺から失敬した汚い金(主に裏金とか裏金とか裏金とか)を使う訳にもいかんし――まあ、シロナガスクジラさんのが欲しいとか言われないだけマシか。

 

「でゅわいよいよ第一位! 願いを叶えてもらえるのは一体誰なのか!? いっくんにあーんな事してもらったり、いーくんにいや~んな事されちゃったり!? 何じゃそりゃスッゲェ羨ましいぞコンチクショウ! さあ目をかっぽじって聞け皆の衆! 栄えある優勝者は――」

 

 目ェかっぽじったら『痛い』じゃ済まないし、未成年にいや~んな事したらそれこそ織斑先生に目玉抉り取られそうなんだが。

 

「ゆーしょーしゃは……………………いーくんこれどう読むの?」

「……『のほとけ』だよ」

「せんせー呼んだ~?」

 

 いまいち締まらないご指名を受けて前に出るヨタロウ、もとい、キリクマ装備ののほほんさん。

 競技には参加せずマイペースにコスプレで遊んでいた彼女だが――驚いた事に、各競技でどんな結果になるかをことごとく的中させて外野のままポイントを荒稼ぎしていたのである。それさえも何となく適当に賭けただけと言うのだから、賭博師にとっては恐ろしい話だ。競馬予想師になるかブックメーカーにでも投資すれば大儲けしそう。

 

「……なんちゅーか、想像以上にぽやんとした子だね。のんびりのんちゃん?」

「妙にしっくりくるアダ名ですな」

「ま、いっか。とにかく一等賞おめでとう! ランプの魔人や神龍より万能なこの篠ノ之束さんが責任を持ってのんちゃんのお願いを叶えてしんぜよう!」

「んー……お願いかぁ……」

 

 カポッ、とキリクマの頭部を脱ぎ、のほほんさんは珍しく悩むような素振りを見せる。

 

「ねぇ博士、せんせー、それって今じゃないとダメ?」

「いや、すぐに思いつかないなら晩飯の後や学園に帰ってからでも構わんけど」

「じゃあ考えておくのだ~♪」

 

 どんなお願いにしようか考えてすらなかったらしい。

 人間の原動力は欲望だと言うが、無欲な子が一番強いのかねぇ、やっぱり。

 他のお嬢ちゃん方もノリ良く拍手したりのほほほんさんを羨ましがってはいるが、妬みや嫉みの感情を抱いている様子はない。これもある種の人徳だわな。

 

「それではこれにて閉幕! ありがとごじゃましたー!」

「あのー……」

「片付けは束さん自慢のマッスィーン達にお任せ! ウミガメも思わず産卵しに来たくなるようなビューティフルな砂浜にしてやるぜい!」

「ママー、けーちゃんもお手伝いするー!」

「かーちゃんもー!」

「あのー!!」

「何だよいっくん、うるっさいなー」

「うるさいって……叫ぶ事しかできないこの状況で他にどうしろと!?」

 

 深海ちびーズの奮戦で時間切れを迎え、助け出されずにいる少年。

 一方で、満潮の時刻が近い影響から水位が上がり、少年の足元まで波が届こうとしている。

 

「……このままほっといたらどうなるかね、たばちゃん」

「んー、どんどん水かさが増えて…………溺死?」

「そんなに海水が増えたら俺が溺れ死ぬ前にまず日本が水没しちゃうでしょうが!」

「いやだなぁ、軽いジョークじゃまいか。ところでいっくんや、運動会の締めくくりには一体何が必要だと思う? ――そう、打ち上げ花火です!! って事でポチッとな♪」

「せめて答える時間を下さい! と言うか今さらっと何押した!?」

 

 振動する丸太、ゴボゴボと泡立つ水面。

 

「おぉおおぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 でもって提督姿の少年を縛り付けたまま、丸太型ロケットは天高く駆け昇り――ちゅどーん、と大輪の花を咲かせた。それを眺めながら、私とたばちゃんは某野菜人の戦闘プロテクターを着て、

 

「「――きたねぇ花火だ」」

「アンタらそれが言いたかっただけだろ実は!?」

 

 あ、生きてた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 さて、うちのがんばった大賞が空の星になりかけたのはどーでも良いとして――もう一人、今も頑張ってる子に三位の副賞をあげねぇと。

 

「もうすぐ晩ご飯だってのにこんな人気のない場所に連れて来て……まさか、あたしにいやらしい格好でもさせるつもり!? エッチな雑誌みたいに!」

「読んだ事あんの?」

「ななな、ないわよアホンダラァ!? どんなポーズなら一夏が喜ぶか参考のために毎晩熟読とかしてないんだからね!?」

「……持ち物検査で引っ掛からないよう気を付けなよ?」

 

 おチビが女豹のポーズをしても威嚇する小猫のイメージが精々だろうが――受け身で誘うよりはベッドに押し倒した方が、あの鈍感小僧にはよっぽど効果的なんじゃなかろうか。事実、私の時はほとんど夜襲っつーか狩りをする虎に近い勢いだったし。すぐに反撃して存分に鳴かせたけど。

 まあ、何処を撫で回すとマタタビ漬けの猫みたいになるかはともかく、

 

「ほれ、これやるから有効に使えや」

「何よこれ、メモ帳?」

「少年が好きなおかずのリストとそのレシピだよ。和食がメインだけど中華風にアレンジしたのもあるから、お前さんでも多少は作りやすいだろ。さっさと腕磨いて嫁の座かっ攫っちまえ」

「よ、嫁って……!?」

 

 流石に作れるのが酢豚一品だけじゃあ、男の胃袋ワシ掴みにするには頼りないからなぁ。仮にもセカンド幼馴染だし、これくらいのアシストはしてやらにゃ。

 さーて晩飯食い行くべ。




次回は臨海学校、夜の部。
そう、温泉です。入浴シーンです。オジサマーのあれが固くておっきくなります。
なるべく早く更新できればなぁ…。


今回のリクエストは、

 尚識さんより、

・「なんか、ヌメヌメするぅ!」(艦これ:鈴谷)
・「バァァァァァァニングゥ、ラァァァァァヴ!!」(艦これ:金剛)

 無限正義頑駄無さんより、

・大和のコスプレ(箒)、愛宕のコスプレ(セシリア)、夕立のコスプレ(シャル)、木曽のコスプレ(ラウラ)、港湾棲姫のコスプレ
・「Burning love!!」
・「ぱんぱかぱ〜ん♫」

 リーライナさんより、

・叢雲のコスプレ

 M@TSUさんより、

・「メイン盾きた!」「これで勝つる!」

 suzuki00さんより、

・きたねぇ花火だ。

 でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。