織斑一夏はテロリスト ―『お父さん』と呼ぶんじゃねぇ― 作:久木タカムラ
何とか年内更新…
遅くなってすみませんでした。
「なんで俺達、いきなり部屋追い出されたんですかね……」
「さぁてねぇ。女同士積もる話でもあるんだろうよ、きっと」
土産売り場の近くで、浴衣姿の馬鹿と織斑一夏を見つけた。
長椅子に座って足をだらしなく投げ出し、横の自販機で買ったらしいナッツ類を二人でポリポリやってるその姿は、何と言うか――動物園のニホンザルがドングリでも食べている光景と重なって仕方がない。あるいは、女所帯で肩身が狭い父親と長男のような哀愁さえ漂っている気がする。
まあ、女ばかりなのはここでも学園でもほとんど変わらないのだろうが、ビーチの時とは打って変わって、珍しく――本当に珍しく、周囲に他の女の姿が見当たらない。天災か銀髪幼女あたりがここぞとばかりに現れそうだが、今のところその予兆もない。
スコールに初孫(?)に期待されちゃってるから、という訳ではないのだけれど、このまま踵を返して部屋に戻るのも、それはそれで躊躇いの方が勝ってしまう。
だから――
「……そうしてるとホントに親子みたいだな」
「せめて兄弟と言ってほしいですね」
「あ、どうも」
こちらに気付いていたのか馬鹿はさして驚きもせず、若造は若造で律儀に会釈をする。
さて……どうしたものか。
思わず声を掛けてしまったが――特に織斑一夏とは、このままのんべんだらりと他愛もない話に興じられるような親しい間柄じゃない。むしろ決して小さくない因縁さえある。
馬鹿に視線で援護を求めるも、缶ビールに口を付けたまま『ん?』と返される始末。
本当に、どうしたものか。
「……あー、えーと……それじゃあ俺、もう一度風呂入って来ますね。さっきもほとんどまともに入れなかったんで……」
「おーう。頑張って覗きリベンジしてきな」
「だからしませんって! ジュースごちそうさまでした!」
浴場での一件を色々と思い出したのか、酔っ払いにからかわれて顔を赤くしながら、織斑一夏はタオル片手にそそくさと廊下の向こうに消えた。
天井のスピーカーから降る緩やかなBGMの中で……これで二人っきり。
「……意外と気が利く奴じゃねーか」
「その気遣いをもうちょっとだけ自分の近くにも向けりゃあ、今頃パラダイスだったろうに」
「女の園で手当たり次第にとっかえひっかえってか? ハッ、どうだか。ありゃあいざ迫られたら尻込みして一歩引いちまうタイプだぜ」
「いやいやぁ、あーゆーのに限って中身は飢えた狼だったりするもんですよ。その点私は、可憐に咲き誇る花々を慈しむ、まるでアルプスの羊のように牧歌的な男でして」
「羊の皮を被った悪魔だろうがテメェは」
もしくはアナコンダか。
どちらにせよ狼よりタチが悪い。
大体、女を花に喩えたのなら草食動物の方が逆に天敵だろう。食い散らかす気満々じゃねぇか。
酔っ払いが平常運転な馬鹿と話していると、色々考え込んでいた自分がアホらしくなってくる。
何もかもあるがまま――隣に居たければ居れば良いし、話したければ話せば良い。丸ごと全てを呑み込み溶かすように、この男は好意も悪意も拒まない。
「……で、なんでこんなトコで安酒かっ食らってたんだよ」
「初めは織斑先生の部屋で飲もうと思ったんですが、お嬢さん方が来てしまいまして。私としては一緒に一杯やっても良かったんですが、織斑先生が、ね。私や少年抜きで腹を割って話したいとか何とかで――つまるところ女子会って奴ですな」
「女子会……ンなもんに興味あるような女にゃ見えねぇが」
他人の事を言えた義理ではないが、そう思う。
「山田先生も見回りに出ちゃって部屋に誰も居なくてですねぇ。どうせなら仲間外れの野郎二人で時間潰そうかーってな具合だったんですよ。ま、ご覧の通り早々に独り酒になりましたけど」
…………ふーん。
あらぁそうなの、じゃあおやすみなさい――なんて選択肢が出るはずもなく、オータムは馬鹿と同じ長椅子に静かに腰を下ろしていた。
肩を並べるのではなく、彼の背に背を預けて。
他人の振りを取り繕う事など、今となっては何の意味もない。ただ、何となく、今の自分達にはまだこの距離が相応しいような気がしたのだ。互いに顔は見えなくとも、しかし確かにそこに居て体温を感じられる――そんな関係が。
「……ん」
「ん」
肩越しに伸ばした手に伝わる、缶ビールの冷たく固い感触。
一息で飲み干したのは単に喉が渇いていたからで――受け取った後で間接キスに気付いて初心な少女のように動揺したからじゃない。断じてない。そこまで若く……若いけど若くないし!
手慰みに空き缶を鳴らしながら、言う。
「……やっぱり安物は美味くねぇな」
「これでもコンビニとかで買うより高いんですけどねぇ」
「こちとらパーティーに潜入したり何だりで舌が肥えちまってんだよ」
「タダ飯タダ酒より美味な物は無い、か。羨ましい事で」
「連れてってやっても良いぜ? スケベ親父共に尻を撫でられるのを我慢できるんならな」
半ば本気で誘ったつもりだったのだが、馬鹿から返って来たのは意外にも真面目な声音だった。
「……それが
「あ?」
「もし、貴女が尻を撫でられたら……撫でやがったクソ野郎を殴り飛ばさずにいられる自信なんてありませんから」
「………………おう」
そう返事できたものの…………どうしよう、顔が綻ぶのが止められない。
茶化す訳でも口説き文句でもなく、不意打ち気味に淡々と――惚れた男に『お前は俺の物だ』と言外に言われて心を揺さ振られない女はいない。
「そして人気のないところに貴女を連れて行って私が思う存分撫で回します」
「台無しだよ馬鹿野郎」
訂正。
こいつも立派なスケベ親父だった。
「――あのっ、スミス先生!」
◆ ◆ ◆
「どうした、飲まないのか?」
「いや、飲まないと言いますか……」
「飲めないって言うか……」
「そもそも飲み物なのかも怪しいと言うか……」
「逆に興味深いです」
箒が言い淀み、鈴が気まずそうに視線を逸らし、シャルロットは口元を引き攣らせて、ラウラはふむふむ……と成分表を物珍しそうに読んでいる。
口を付けられずにいるのはセシリアも同じだった。
備え付けの冷蔵庫から千冬が手渡したのが、およそ一般的ではない飲料ばかりだったからだ。
ロボビタンA。
ドーピングコンソメスープ。
スーパーゲル状デロドロンドリンク。
まロ茶。
山田印のモーモーミルク。
片田舎のマイナーな自販機でも見かけないであろう謎ドリンクの数々。
別のが欲しければお互いに交換して良いとも言われてはいるが、味の想像ができず当たり外れが分からない以上、目隠し状態でババ抜きをしているようなもの。
故に、ベッドに座り美味そうにビールを煽る千冬を余所に、誰一人飲めずにいるのだった。
なぜこんな事になったのか――時は十分前に遡る。
アルデンテに茹で上がる寸前のセシリアが湯船から抜け出せたのは、奇々怪々な格好で男湯から飛び込んで来た天災を、千冬と金髪の女性がそれぞれ持っていたタオルで縛り上げ、そのまま海に放り捨てた後の事だった。
芯まで温まった身体を、ワザマエの国日本が誇るマッサージチェアで『あ゙あ゙あ゙あ゙っ……』と念入りに揉み解してもらい、よく冷えたミルクティーを腰に手を当ててキュッと一杯――『これぞジャパニーズ・セントウの醍醐味ですわ~』などと一人で感動し、揚々と部屋に戻ろうとした。
その矢先に、尻を見つけた。
「……何してるんですのあの人達は」
一夏を巡るいつものメンバー、いつメンの四人が鬼の根城、もとい『教員室』の張り紙がされたドアに耳を当てて中の様子を窺っている。
率直に抱いたイメージが――『桃園』だ。
自分に同性愛の気はないはずだが、浴衣に包まれた形の良いヒップが並んでいるのを見ていたらそう思えたのだから仕方がない。ついでに『小父様なら喜んで撫でそうですわねぇ……』とも。
「「「「へぶっ!?」」」」
盗み聞きを咎めるべきか逡巡していると、四人がドアに殴り飛ばされた。
鬼教師と目が合ってしまったのは、唸る帯が四人を瞬く間に捕縛したその時だ。
言葉はなく顎で部屋の中を指し示すだけでも、彼女の言いたい事は容易に理解できた。
入れ替わりに部屋を蹴り出された一夏と小父様がちょっと気になったけれど、最大の
「Keep your friends close. Keep your enemies closer……ですわ」
意を決し、セシリアは敵陣へと一歩踏み入れた。
そして現在。
困惑する一同を眺めながら、二本目のビールを開けて喉をグビグビ鳴らす千冬。
十秒と経たずに空になった缶をサイドテーブルに置くと、浴衣の裾から覗く長くしなやかな脚を艶めかしく組み替えて、品定めする肉食獣のような目のまま本題を切り出した。
「良い機会だからな、あいつらの何処に惚れたのか聞かせてもらおうじゃないか」
あいつら――誰と誰の事か、わざわざ言う必要もない。
全員が分かっているからこそ、箒も鈴もシャルロットもラウラも上手い答えを返せない。それはつまり、競争相手達の前で自分の想いを赤裸々に告白するのと同義なのだから。
ここまでは完全に千冬のペース、彼女の独壇場だ。
だが、
「私達よりも、まずは織斑先生が話すべきでは?」
「……ほう?」
好戦的な物言いに友人達は絶句し、担任は口を細い三日月の形に歪めた。
さて……今の自分はどう映っているのだろう。太陽に向かって飛び続けるイカロスか、または秘密道具抜きでジャイアンにドロップキックを食らわせたのび太くんか。
「ふっ、ふふふ……確かにオルコットの言う通り、私から話すのが筋だな。良いだろう」
千冬は三本目のビールを器用に片手で開けてから、
「最初に質問しよう。お前達にとって、
それは、予想外の問い掛け。
「何だ、って聞かれると……」
「一夏のお姉さん?」
「モンド・グロッソの初代優勝者?」
「担任の先生、かなぁ」
「尊敬する教官です」
各々が答えると、予想していたとでも言うように千冬は頷く。
「まあ、大体そんな所だろう。私があの馬鹿に惚れてしまった原因はそこにある」
惚れてしまった――と彼女ははっきり言った。
酔いが回ったせいで饒舌なのか、それとも彼が同席していないからなのか、普段なら躍起になり暴力を使ってでも否定しそうな事を、むしろ誇らしげな口調で言い切った。
「お前達の前にいる今の私はな、言わば卵の殻みたいなものだ」
「殻……ですか?」
「そうだ。しかも、長い間上っ面ばかり取り繕い過ぎて…………自分でも割るのが難しくなるほど分厚く凝り固まってしまった殻だ」
世間や自分達が抱く織斑千冬のイメージは間違っていると、そう言いたいのだろうか。
「……私がこうして教職に就いたのは、一種の使命感があったからだ」
「使命感、ですか?」
「ああ……束がISの存在を世界に公表した時から危険性について考えてはいたが、ドイツで教官になってその危機感は一段と強くなった。だってそうだろう? 職業軍人でさえ私のような部外者に教えを請わなければならないのに、その一方で、十五かそこらの小娘が自転車か何かと勘違いしてファッション感覚で乗ろうとする。初めて見た時は悪夢かと思ったよ」
IS操縦の第一人者が嘆いているのだから、当時の教育環境はよほどのものだったのだろう。
専用機持ちとしては耳に刺さるお言葉だ。
「そんな訳で、教師として赴任したまでは良かったんだが、そこからが大変だった。下手をすれば何十人、何百人も殺傷できる代物の扱い方を素人同然の生徒に教える――軍人相手とは勝手が全然違うそれが、私の想像を超えるほどの重圧だったんだ」
そこで千冬はビールを口にして、ふぅ、と息を吐いた。
セシリア達は何も言わない。
「世界最強? とんでもない、私は弱い女だよ」
何も言えなかった。
誰かに何かを教える責任の重さなど、これまで考えた事すらなかったからだ。
「失敗したらどうしよう、間違えたらどうしよう、怪我人が出たらどうしよう。そんな不安を隠し通すために私は殻を作った。規律と規則を重んじて、生徒が素直に言う事を聞いてくれる、強くて怖くて厳しい『織斑先生』を演じるための殻をな。幸い、それでどうにか今までやって来れたよ」
気を抜く事も甘える事も許されない。
それは奇しくも、両親を失って誰も信用できずにいたかつてのセシリアと酷似していた。
いや、セシリアだけではない。
全てを聞き及んでいる訳ではないが――この場にいる全員が、それぞれ何かしらの事情によって孤独を味わい、他人との間に壁を作って生きてきた過去がある。
「そしてある時思った。もしISがなかったら、私には何が残るんだろう――とな」
「………………」
「答えは出なかった。別の居場所さえなかった」
だから、たった一つに固執して。
奪われまいと、壊されまいと意固地になって。
それでも変わる事ができたと、本当の自分を少しでも見てもらう事ができたと思えるのは――
(箒さん達には一夏さんが、わたくしや織斑先生には……)
あの人が、いてくれたから。
「あの馬鹿に振り回されるようになって、抑え込んでいた心を吐き出すようになって、受け入れてくれている事に気が付いた。強さも弱さも、肩書きも立場なんかもどうでも良くて、何もない私が偽っていた仮面も剥ぎ取って抱き締めるみたいに……な。あの馬鹿に甘えて、甘やかされていると気が付いた時にはもう手遅れだった――取り返しがつかないくらい
笑うなよ、これでも初恋なんだ――と。
照れくさそうに後頭部をポリポリ掻いてそう締め括り、アルコールとは別の理由で火照った顔を冷ますかのように、三本目のビールを一気に空にした。
顔の熱は箒達にも伝染していた。
鬼も裸足で逃げ出す女傑の想い――まるで少女漫画を思わせる恋心の吐露に、うら若き乙女達は言葉すら忘れたように口を半開きにしたまま沈黙し、しかし内心で黄色い悲鳴を上げる。
「……さあ、私の話はこれで終い。次はお前達の番だ」
静かな興奮も冷めやらぬうちに、再び肉食獣の鋭い眼光と笑みを取り戻す千冬。
今までの恥じらう姿こそ演技だったのでは、と思えるほど
「存分に吠えるが良いさ……なあ、
「……望むところですわ」
威嚇するに値する相手だと認識してもらえたのは光栄だ。
精々キャンキャン吠えながら噛み付いて――恋愛に大人も子どももない事を証明してやる。
◆ ◆ ◆
「――あのっ、スミス先生!」
呼び止めた。
呼び止めてしまった。
自室以外の場所で珍しく白衣を着ていない彼が、昼間会った綺麗な金髪の女性ととても親しげに話しているのを見て――何だか胸の奥がチクリとして、考えるよりも先に口と足が動いていた。
少し驚いたように、そして不愉快そうに真耶を見た後、彼に耳打ちして何処かに立ち去る女性。
秘密を孕んでいるその様子が、二人が男女の関係にある事を見せ付けられたみたいで、言葉では言い表せない複雑な感情が澱のように溜まっていく。
しかしながら、例えば千冬やセシリアのように心情を発露できるかと言えば、答えは否だ。
だって自分と彼は寮の同じ部屋で暮らしているだけで(事故でキスはしちゃったけど)……まだ恋人ではないのだから、詰め寄る勇気はないし特権だって持ってないと考えてしまう。
「山田先生、どうかしましたか?」
そんな真耶の気持ちを知ってか知らずか、逢瀬の現場を見られたというのに、こちらに歩み寄る彼は慌てる風もなく飄々したいつも通りの佇まい。
それが寂しくて――自分の事も見てもらいたくて。
「あ、あの…………見回り、その、い、一緒に見回り、してくれません、か……?」
「ええ、構いませんよ?」
浴衣を握り締める両手も、かろうじて出せた言葉も震えていたけれど、彼と並んで歩き始めるとその震えもすぐに治まってしまう。その代わりに学園の外、普段と異なる場所だからか――鼓動がトクントクンと徐々に速くなるのを感じる。
自分よりも高い位置にある彼の横顔を窺い見れば、視線が偶然交わって顔に熱を帯びていく。
これではまるで――
「……と、まずはこの部屋からですかね」
「へ? あ、はい、そうですっ」
彼に言われて、慌ててドアをノックする。
部屋の中から『うぇいうぇ~い♪』と応えてにゅっと顔を出したのは、着ぐるみパジャマの上に浴衣を羽織っている布仏本音だった。
二人の姿を半開きの目で認めると、彼女は笑みを一層深めて、
「あ~、スミス先生とやまやんだ~」
嬉しそうにそう言った。
その声に反応して、室内がにわかに騒がしくなる。
「嘘っ!? スミス先生もいるの!?」
「やだ、服とか脱ぎっ放し!」
「このパンツ誰のー!?」
「……やれやれ」
「あ、あはは……」
彼は呆れ顔で、真耶も苦笑せざるを得ない。
何故だろう、自分の事でもないのに、男性が聞いていると思うと恥ずかしくなってくる。
ツイスターゲームやトランプが床に広がってはいたものの――日頃の指導の賜物なのか、煙草やアルコールなどの持ち込み禁止の品はなく、チェック自体は何の問題もなかった。
「それじゃあ、皆さん早く就寝してくださいね? 明日は大変なんですから……」
「はぁーい」
「先生達もデートはほどほどにして寝なよー?」
「でっ、ででデート!?」
冗談だと分かっていても、違う、と否定できない。
だって……自分でもそう思っていたから。
色恋沙汰を面白がってはやし立てる生徒達に言い返せず、水揚げされた魚みたいに口をパクパクさせていると、部屋の外で待っていたはずの彼にいきなり肩を抱き寄せられた。
彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべて、
「オジサンとオネーサンは大人だからまだまだ起きててもいーの。と言うか、キミらが何時までも夜更かしして遊んでるせいでイチャイチャできないんだから、散らかした玩具も片付けてさっさと寝ちゃってちょうだい。さもないと…………全員裸にひん剥いてベッドの中で食っちまうよ?」
「「「きゃあああああっ♪」」」
セクハラ紛いの発言ではあったものの。
教育者としての場数や心構えの違いなのか、それとも貫禄の有無によるものなのか――とにかく彼の一言は効果的だったらしく、あれだけ騒がしかった少女達が素直に寝床に潜り込んでいく。
それを見届けて部屋を後にした彼と真耶だが、真耶の脳裏では先ほどから彼が言った『ベッドの中で食べられてしまう』光景が浮かんで、彼の顔すらまともに見れなくなってしまっていた。
しかも、次の部屋、その次の部屋でも、同じようにデートだ何だとからかわれたため、見回りを終えた時にはもう心臓の鼓動が限界に近い状態だった。
「…………やっぱりスミス先生は凄いです」
「はい?」
「生徒の皆にとても慕われてますし、授業で分からない箇所を教えるのもお上手で、いざって時は落ち着いていて頼りになって――さっきだって私一人じゃからかわれて慌てるだけで、全然言う事聞いてもらえなかったと思います……」
「…………」
「織斑先生やスミス先生に比べたら私なんて――」
「――それ以上は言っちゃいけない」
静かに、けれど有無を言わさぬ口調。
「それ以上は言っては駄目ですよ、山田先生。自分なんて――とか、そんな言葉は、誰かに何かを教える立場にある者が、ましてや教師なら絶対に口にしてはならない禁句です……って、今の全部恩師の受け売りなんですけどね」
「恩師、ですか?」
「ええ……教師になった時に指導してくれた先輩でもあるんですが、私の教師としてのノウハウは全てその人から教えてもらったもので――実は山田先生に
だからって訳じゃないですが――と。
彼は立ち止まり、こちらの目を真っ直ぐ見て、言った。
「生徒に慕われている私が凄いなら、その私が尊敬している貴女はもっと凄い先生です」
「スミス先生……」
「自信を持ってください。じゃないと生徒達まで不安になってしまいますよ?」
「……はいっ!」
ああやっぱり、と真耶は思う。
やっぱり、この人といると心が安らいで笑顔になるのを感じる。
「まあ、一つだけ文句を言わせていただけるなら……夜寝る時、ベッド横の明かりとか全部消してくれると嬉しいですねぇ。私、真っ暗にしないと熟睡できないタイプなんですよ」
「だっ、だって、暗いと怖いんですもん……」
芽生えたのは安らぎだけじゃない――異性と親しくなる事自体、父親以外ではそれこそ小学生の頃くらいしか記憶にないけれど、このまま一緒にいてほしいと、もっと言えば、あまり他の女性を見ないでほしいと思ってしまう男性は、間違いなく彼が初めてだった。
それが何を意味するのか……答えは既に真耶の中で出ていた。
「じゃあ、あの……真っ暗にしても良いのでその、これからは、い、一緒のベッドで――」
――寝て、くれませんか。
暗闇が怖いから。
子どものように臆病な自分の隣で、ずっと手を握ってて欲しいから。
貴方の温もりをもっと強く感じたいから。
まるで男を誘うふしだらな女のようだが、たとえ幻滅されたとしても、それでも何か――彼との特別な『何か』が自分も欲しいのだと本能が訴える。
彼からの返答はない。
当然だ――俯けていた顔を上げた時には既に、前にいるはずの彼の姿はなかったのだから。
「…………ぁれ?」
失望して先に帰ってしまったのか、と一瞬泣きそうになったが、
「ヒャッハー! いーくんゲットだっじぇー!!」
だっじぇー……だっじぇー……と廊下に反響させながら、彼の両足を脇に抱えて連行する天災の背中を発見し、ああ嫌われた訳じゃないんだ……と大きな胸を撫で下ろす真耶。
と同時に、いざ冷静さを取り戻してみれば、男女の一線を越えかねないお願いをしそうになった事実に恥ずかしさが蘇って顔から火が出そうになり、結果的に彼に聞かれなかった幸運を喜ぶ。
今日は――悶々と眠れない夜になる予感がした。
◆ ◆ ◆
「もうわったしは誰にも止めらんねぇぜー! アクセル全開、インド人を右にゃー!!」
「あだだだだだっ」
神妙な面持ち、あるいはちょっとエロい顔の山田先生のお言葉を待っていると、いきなり現れたたばちゃんに見事な手際で拉致られた。
つーか熱っ、背中と後頭部が燃えるように熱いんですが。このままだと目的地に到着する頃にはカチカチ山のタヌキみたいな背中になっちゃうと思うのですが。個人的にはカラシ味噌を使うならレンコン揚げやホタルイカの和え物がベスト。酒に合うのよね、あれ。
「んで、女子会は楽しかったかね、うーちゃんや」
「うん。何と言うかこう……凄かった!」
「凄かったのかー」
両手の指をイソギンチャクみたいにうねうねさせて『凄かった感』を表現するうーちゃん。
ちなみに彼女は並走してるのではなく、仰向けで引き摺られている私の腹にちょこんと行儀良く正座してたりする。拝一刀も思わず二度見しちまうわな、こんな子連れ狼。
「ほい到着!」
とある部屋の前でたばちゃん急ブレーキ。
その反動で後ろに倒れたうーちゃんの石頭が私の股間に玉突き事故。ぐぎゃあ。
「ここが私とくーちゃん達が泊まってる部屋だよん♪ どうせならファミリー皆で寝ようと思っていーくんとうーちゃんを連れて来たのっさ…………あや? どったのいーくん?」
「……とりあえず衛生兵呼んで。ゴールデンがボンバーしちゃってるから」
もしくは美人の女医さん呼んで。歯科衛生士の格好の山田先生でも可。
股間を押さえて蹲る私に、怪訝な顔をする浴衣を着たたばちゃん略してゆかたばちゃん。しかし特に問題ないと判断されたらしく、私の未来創造器官ハングアップ問題は「ま、いっか」の一言であっさり流されてしまった。ああ無情。
その報い、ってな訳じゃあないのだろうが、
「みんなー、パパとうー姉ちゃん来た――もぎゃああああっ!?」
ドアを開けた瞬間、彼女の顔面に枕が直撃した。
たかが寝具と侮るなかれ、一度に十個も食らえばそのダメージは半端じゃない。反対側の壁まで吹き飛ばされて枕に埋もれたゆかたばちゃんがその証左だ。スケキヨの死に様みたいになってる。
枕の回収に出て来たくーちゃんも、悲惨な状態の育ての親を一瞥すると、
「ああすみません束様。枕投げがついつい白熱してしまいまして」
「その割に全部こっちに飛んで来たよね!? 集中砲火だったよね!?」
いえいえまさか、単なる偶然でございますですよ――と黒さが漂う笑みを浮かべながら、私達を部屋に招き入れる長女。デビルーク星の王女みたいな尻尾が生えているように見えたのは、パパの気のせいって事にしておこう。小悪魔枠はデュノア嬢ちゃんだけで十分だ。
「あっ、パパだ!」
「うー姉様ー♪」
比べて、こちらは天使のような笑みを輝かせる三女から十二女。この笑顔を公開したら世界から争いがなくなるんじゃなかろうか。
生徒達は九人で一部屋を使っているが、ベッドではなく十四人分の布団が敷かれたこの大部屋はそれよりもさらに一回り広い。当然ながらオーシャンビューで、洗面所と繋がるドアの向こうには家族用の小規模な露天風呂まである。
「随分と奮発したんだな」
「だってそりゃあ初めての家族旅行だもん、楽しい思い出たっくさん作らないとねん♪」
「私としては部屋よりくー姉や妹達の格好の方が記憶に残りそうなんですが……」
うーちゃんの言う事ももっともだ。
のほほんさんのような動物パジャマ……なのだろう。これから寝るしパジャマなのだろう。
デフォルメされたその生物は、動物界節足動物門、軟甲綱等脚目ウオノエ亜目、スナホリムシ科オオグソクムシ属、学名Bathynomus giganteus――要するにダイオウグソクムシだった。
「ふふふ、ただのパジャマじゃないよ? 防毒防弾防刃は当然として、耐熱耐寒もばっちりだからどんな絶対零度や高温高圧な環境下でも快眠に最適な温度を保つし、圧縮酸素と栄養補給も含めた生命維持システムも完璧! 宇宙空間や噴火口、1万メートルの深海でも爆睡を保証するぜい!」
「それもうパジャマじゃねぇよ」
グソクムシっつーかクマムシだよ。
「わーい」
「わーいわーい」
うーちゃんまでくーちゃんに勧められてもう着てるし。
深海の掃除屋が合わせて十二匹、布団の上を飛んだり跳ねたりぴょこぴょこはしゃぎ回る光景は中々にシュールだ。口っぽい部分からチビちゃん達の顔だけ出てるので余計に。捕食中か?
とりあえず山田先生に別の部屋で寝る事をメールしておく。
「はーいっ、それじゃ皆そろそろ寝るじょ。好きなお布団選んでね」
「じゃあママはパパの隣だねー」
「そだねー、だってママ、いつもパパの名前言ってるもんねー」
「ふぉい!?」
何故か激しく動揺するたばちゃん。
私やうーちゃんは一緒に首を傾げ、事情を知らないらしいくーちゃんもそれに倣う。
さーちゃんが袖を引っ張って屈むよう促し、周りに聞こえるくらい全く潜めてない声量で、私にヒソヒソと説明してくれた。
「パパ、パパ。あのね、ママね、お家で寝てる時ずっとパパの事呼んでるんだよ? お布団の中でカメさんみたいになって『いーくぅん、ハァ、ハァ……』って。あとねー、ビクンッ、ってなって絶対パンツお着替えするの」
「…………」
…………さて。
この状況で私はどんな顔をすりゃ良いのやら。
くーちゃんは冷めた半目だし、うーちゃんは真っ赤だし、家ではハァハァしてビクンッとなってパンツを着替えるらしい当の本人は、両手で顔を隠してカブトムシの幼虫みたいに丸まってるし。
いやはや何とも、無邪気な子どもっておっそろしいね。
「たばちゃん……」
「束様……」
「博士……」
さん、ハイッ。
「「「……子どもが寝てる横で何してるんですか」」」
「ちっ、違う、違うんだよ誤解だよ!? まさか起きて聞かれてるなんて思わなくって――!!」
「つまりそれ以外はお認めになると」
「「「「「ママはエロいなぁ」」」」」
「ホントに意味分かって言ってる!? あうあうあ~!!」
娘達からの容赦ない一斉攻撃に耐え切れなくなったたばちゃんは叫び声を上げると、一番壁際の布団にズボーッと頭から突っ込んで引き籠ってしまった。
からかう相手が先に寝たので流れでお開きとなり、一番目のお姉ちゃんの隣だったり、二番目のお姉ちゃんと同じ布団だったり、数人で身を寄せ合ったりと、自由な場所で就寝の体勢に入る。
消灯直前に見えたのは、ダイオウグソクムシの群れがモゾモゾしてる光景だった。
夢に出そうだなぁオイ。
◆ ◆ ◆
(勝った……計画通り……)
深夜一時。
娘達が寝静まり、想い人もすぐ横で寝息を立てているのを高性能ウサミミで確認し、束は女性にあるまじき悪人面を浮かべた。
ぶっちゃけ計画通りもへったくれもなく、行為の意味まで分からなかったとは言え、娘に一人で慰めているのがバレていたのも完全な想定外であり――あまつさえ彼に知られてしまった。
束のペースだったのは彼とラウラを部屋に連れて来るまでで、それ以降はイレギュラーの連続。
正直、無理矢理にでもネタに走って自分を奮い立たせないと、このまま朝を迎えて美味いご飯を食べて軍用ISを暴走させて妹の専用機の稼働率をチェックするだけ終わって、男女関係の進展的な意味で『何の成果も!! 得られませんでした!!』なんて結果になりかねない。
(なのでこれからいーくんのお布団にお邪魔しようと思うのです、まる)
そしてあわよくば、二人で寝てるところを撮影して一斉送信したい。
音を立てないよう細心の注意を払いながら、川面を潜み進むナイルワニのように、あるいは人類最大の天敵である
ごつごつした手、布の上からでも分かる引き締まった腕、鋼鉄の如く鍛え抜かれた胸板や腹筋は自分が上に乗っても余裕で支えてくれて、男らしさに思わずときめいてしまう。
(うふふふふ~、いーくんの寝顔拝見~♪)
のそりのそり……にゅうっと、カタツムリじみた動きで布団から顔を出すと――目が合った。
「…………」
「…………」
彼の右目が『何しとんじゃオメェ』と雄弁に語り、左目は『うっひょー、チラ見せ浴衣おっぱいプニプニでエロくて最高だぜー!!』と自分の魅力にメロメロになっていて――
「人の心に勝手にアテレコしない」
「……ごめんなしゃい」
素直に謝ると彼はそれ以上何も言わず、胸に乗せた束の頭をやんわりと撫で始めた。
子ども扱いされるのは何だか癪だけど、されるがまま、驚くほど静かに――しかし力強く脈打つ彼の心音を聞いていると、仔猫のように頬をすり寄せてずっと甘えていたくなる。
実の父親に甘やかされた記憶も、叱られた記憶さえ束にはない。だが……何故だろう、不思議な懐かしさを感じる。
本当は人見知りな娘達がすぐ懐いたのも納得だ。
「…………あのですねいーくん。実はいーくんに謝らないといけない事があるのです」
「あるのですか」
「あっちゃうのです」
明日もしかしたら、いや間違いなく、一夏や妹を含めた専用機持ちの中で怪我人が出る。それは一夏か箒か、でなければラウラか別の誰かか、ひょっとすると全員かも知れない。
そうなる原因について、束が犯人だと分かる証拠はない。
だが彼と、聡明な親友は、自分の仕業だとすぐ気付くだろう。
そして…………彼に愛想を尽かされた未来を想像して、背筋が寒くなった。
「……それは、詳しくは話せない事?」
「うん。何が起きちゃうか明日には分かるけど――もうプログラムは動き始めてる。でも悪戯とか暇潰しとかじゃなくて、箒ちゃんのために必要だと思ったからで……その、私、いーくんにだけは嫌われたくないのです……」
「…………」
出るのは弁明にすらなっていない子どもじみた言い訳ばかり。
彼はじっと束の顔を見つめていたが――不意に掛け布団を剥ぎ取ると、束の身体を抱え上げた。
「い、いーくん?」
「…………」
「いーくん、目が怖いよ……?」
お姫様抱っこしたまま、彼は娘達を踏み付けないよう慎重な足運びで束を運ぶ。そして洗面所に着くと、家族風呂へと続くドアを足で器用に開けた。
左右は板壁で遮られていて、真正面には大海原。背後は今しがた入って来たドアと、観葉植物の向こうの窓から自分達が泊まる部屋の中――幼い少女らの愛らしい寝姿が見える。
「きゃっ!?」
まさか、昔のバラエティ番組みたいに熱湯に放り落とす気かと心の準備をする束だったが、彼はあろう事か、浴衣を脱がずに束を抱きかかえた状態で一緒に湯に浸かり始めた。
もう彼のやりたい事が分からない。
「い、今から何するの……?」
「んー……オシオキの先払い?」
「オシオキって――」
「これも取っちまおうな」
「ふぇっ!? だ、ダメだよこれは……!」
抵抗も空しく、頭のウサミミを取られた。
眼鏡やマスクを着けると気が大きくなったり性格が変わる人間が世の中にはいるが、束にとってあのウサミミは『天災・篠ノ之束』に不可欠なアクセサリーなのだ。あれを取られたら自分は顔が濡れたアソパソマソ――ではないが、精神的にはただの『しのののたばね』に逆戻りだ。
ただでさえ、彼の前では素直になってしまうのに。
「あっ、ぃやぁ……」
そうこうしている内に帯を解かれ、それで後ろ手に縛られる。胸を張るような体勢になったため浴衣は着崩れてしまい、自慢の双丘にかろうじて引っ掛かっている状態だ。
「……なんでブラ着けてないんだ?」
「あぅぅ……」
言えない。家で寝る時はいつもショーツしか穿いてないなんて、恥ずかしくて言えない。
さらに彼の帯で目隠しまで施されて、チャパチャパという水音だけが束の感覚を支配した。
束だって年齢相応に18歳未満は購入できない本を持っているし、読んでいる。その中には肢体を拘束されて男に弄ばれるシチュエーションも少なくない、と言うか多い。すごく多い。
常日頃、無能な凡人共を下に見て蔑んでいるからこそ、反対に自分が辱められる状況にある種の憧れを抱いている束。
勿論、そんじょそこらの男に身体を触られるなど気持ち悪いが、相手が彼なら拒む理由はない。
拒まないのではない――拒めない。
「んむぅっ!?」
口の中に彼の指が挿し込まれる。
人差し指と中指がぐにぐにと蠢いて、歯茎や舌を丹念に蹂躙される。たったそれだけの刺激でも視界を封じられているため、想像以上の電流が全身に駆け抜けた。
指の動きに合わせて腰が右に左に動いてしまい、バシャバシャと湯が波打つ。
「んぅ! ふー……ふー……へぇぁ……」
「あんまり騒ぐと、くーちゃん達が起きるかもよ?」
「んんーっ!?」
もし見られちゃったらどうしよう――と焦りが生まれると同時に、背徳的で危険な欲望も芽生え始めている事を自覚して、頭の中がどんどん痺れていく。
湯の熱さなのか、身体の芯が熱くなっているのか、それすらも分からない。
彼が与える甘痒い刺激は口内だけに留まらず、耳は甘噛みされ、首筋には舌が這い上り、腹肉を丁寧に揉みしだかれ、触れるか触れないかの絶妙な加減で脇腹を撫で回される。
加えて――
「ふひゃっ!?」
全く無警戒だった穴にも指を突っ込まれて、乱暴にほじくられる。
(そ、そこ、おヘソなのに――!)
胎児が母体と臍の緒で繋がって栄養を分け与えられている事から分かるように、かつては内臓と直結していた部位であるため、筋肉や脂肪といった防壁がなく、今みたいに奥を突かれると内部にピンポイントに響く。じれったい悦びが際限なく蓄積されてどうにかなってしまいそうだ。
こねくり回されている舌が解放されても、呂律が回らず唾液と熱い息が零れるだけだろう。
これが彼の言う『オシオキ』なのか。
「このまま朝までずっとたばちゃんで遊ぶぞ。パンツをお着替えする暇もないくらいに、な。楽になれるなんて思うなよ?」
「ふっ、ふっ……んぃ!?」
「明日、何が起きるのか、たばちゃんが何をしたいのか。それを問い詰めたりはしないけど、私に謝るような事になるってんなら――先にお前を責めて、焦らして、狂わせて、弄び尽くす」
これから何がどうなっても……たばちゃんを許せるように。
そう耳元で囁いた彼の声は冷え切っていて、だけど優しさも確かに感じる。
身体中まさぐられているのに、胸や女の大事な部分には一切触れない。絶対に触ってくれない。
狂おしいほどに煮えたぎった欲求を満たしてもらえないまま、本当に朝日が昇るまで――娘達が起きる直前まで、精神がおかしくなる寸前まで、身も心もドロドロに溶かされて。
(朝までずっと……いーくんにいじわるされて、
初恋、母性、そしてマグマのような悦び。
誰にも与えられなかった幸せをくれた彼に、束は全てを委ねた。
夜は――まだ長い。
今年最後の一言。
ヘソならセーフだと思ったんや……
次回には続きません。
次の話からいよいよ原作3巻の本番ですぜ奥さん。