星野アイを都合良く助けたかっただけ   作:サザンドラ

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タイトル
ハンブレッダーズ「名前」より

書く時聞いてたの
同上
ラックライフ「名前を呼ぶよ」
back number「僕の名前を」
Dr.Flower「ココロの行先」「バスに乗って」


名前

 ああ、もう朝かという気付きとそういえば今日なんか予定があったよなあと、思い出したのは配信時間十二時間を過ぎ、やっているMOBA系のゲームにイラつきを隠せなくなって来た頃だった。

 何故、MOBAなぞやっているのかといえば、であるが……FPSの方でランクを一先ず目標としていたところまで上げ終えた俺に、七日さんが声をかけて来たのである。

 

『あと一人でカスタム人数集まるんだけど、良かったら来ないか』

 

 あまり詳しくないから教えてくれるかと聞けば、二つ返事で頷いてくれたため、今回の夜更かしカスタムの参加したわけなのだが……

 ここは眠くなっても簡単にはやめれない地獄のカスタムであった。

 昼過ぎから予定があるからそろそろ……と言って抜けようとする人を捕まえ「逃げんの?」と言う売り言葉から始まり「やってやらあ!」と無茶をし始め、そして全員が全員「誰か自分より先に抜けろ」と思いつつも自分からは抜けない。

 

 抜けたやつは負け、という謎の勝負意識が芽生え、眠い癖に無茶をしてゲームをする。そして、長時間配信慣れした一部の性格の悪い奴らによるいやらしいプレイングと煽りによって、ただでさえボロボロの精神をさらに壊される。

 

 現実に阿鼻叫喚地獄があったとしたら、間違いなくここである。

 

 ちなみに七日さんはその一部の性格の悪い奴ら側なので、ニッコニコである。地獄への誘い方が巧妙過ぎるだろこの人。

 

 とはいえ、配信をしているとこういった類の地獄はままある。

 この苦しみに満ちた状況こそが、ある種のエンタメなのだ。

 

「……ああうっざ! 何すか相手のあのキャラ! ドットダメージいやらし過ぎでしょ!」

「まあ、七日さんの使うキャラだからなあ……は? なんでそこ攻撃通せるんだよ、キモ。初心者に全力出して気持ちよくなってんじゃねーよ、キモメガネザルがよ」

「いや、俺も大概だけどピアスさんのそれは流石にドカスじゃない?」

 

 いや、ドカスではないだろ。いじめられてるの俺たちの方だし、どっちかというと向こうがドカスだ。

 イライラしながら、攻撃された地点を離れてファームすることにして、キャラクターを操作していると仲間の一人が思い出したように言った。

 

「そういや、ピアスさんってよくあの件燃えなかったすよね」

「あ? あの件?」

「ほら、例の星野アイと踊ったやつです」

 

 ああ、アレね。

 

「ちょ、それ聞いて大丈夫なんか? 配信中だぞ」

 

 どう答えたものかと考えていると、なんか別のやつからストップが入るが、別に問題はない。

 それについては、イベント日に視聴者と話をして結論が出ている。

 

「話しても大丈夫。大した話でもないしな」

「え、そうなんすか?」

「おう。アレ、燃えなかった理由はいくつかあんだが……運営が上手かったってのが一つ、まあ一番は俺の視聴者とかFPSそのもののファンが、俺の無様な姿を見て喜ぶ変態だったからなんだが」

「ああ、なるほど」

 

 なるほどではないが、などと思いつつ、話を続ける。

 

「あとは星野さん本人のファンたちも、アイドルとしての『アイ』を久しぶりに観れたのが嬉しかったらしいぞ」

 

 まあ一部の例外というか、アンチの界隈ではそれをネタに俺が叩かれたり星野が叩かれたりしているが、そんなのは何やってもあるし気にすることじゃない。

 あと、俺はスペシャルゲストが誰か知らなかったから無罪だし。悪いとしたら主催・運営だが、そこは流石というか「プログラムを見た星野アイさんが自分で提案してくれた」という方に逃げたから、そっちも燃えることはなかった。

 一般向けに発表されていたプログラムでは、ステージ出演の部分についての詳細が上手いこと隠されていたのも手伝って、むしろ結構好印象らしい。

 

「まあつまり、日頃の行いが良かったから燃えなかったってところだな」

「日頃の行いのことを言うんだったら、逆に燃えているのでは……?」

「はい、ライン越えましたー。お前、収録あるからって寝れると思うなよ」

「やっべ……えっと、どうにかなりません? やばいんですって。マジで大事な収録なんでコンディション最悪で行きたくないっす!」

「あーあ、この試合終わったら上手いこと先抜けして寝やすくしてやろうと思ったのになあ! 四時間は寝れたろうになあ! 残念、いやあ残念だ!」

「そんなあ」

 

 なんてやり取りがあったその試合は、やはりというか俺たちの負けで終わった。

 全体の通話チャンネルに戻ると、クソイラつく煽りをされたが、一先ず経験者が多いチームであることを思い出させるために口を開く。

 

「初心者狩りで気持ち良くなってると、友達無くすぜ七日さん」

「……いなくなったから、お前呼んだんだよ! 無様堕ち性癖持ちの異常リスナーが多いお前を!」

「最低じゃない? 謝れよ、うちのリスナーに」

 

 かわいいかわいいうちのリスナーを異常リスナー呼ばわりとか、酷くない? 事実だけど。というか、なんならリスナーたちはイライラしてる俺を見て喜んでるし、七日さんに感謝してるけど。

 庇う必要なくない? こいつら。

 

「んで、どうすんのまだやんの?」

「やるでしょ」

 

 そうだそうだ、と勝った側の向こうからは七日さんに同調する声が聞こえる。

 

「んじゃあ、新しく一人探してくれ。俺はそろそろ用意しなきゃだから、抜ける」

「用意? なんか用事あんの?」

「これから私用で来客がある。部屋汚いから掃除して、飯食って風呂入りたい。今抜けても割と時間ギリ」

「あー……マジかあ」

「マジ」

 

 俺がそう言い切るとじゃあまあ仕方がないか、という雰囲気が全体で出始める。こればっかりは、私用とはいえガチの予定だし逃げるとかそういう話じゃないので、なんとも言えないというわけである。

 

「昼から予定ある人も居んだし、この辺りで解散でもいいんじゃね?」

「そうだなあ、みんなはそれで良さそう?」

 

 普通に眠かった人などもいるため、その提案は当然の如く受け入れられて、そこで今回のMOBAカスタムは解散となった。

 通話チャンネルを抜けた俺は、配信を終える前にいつも通り一服。

 すると「予定大丈夫なん?」というコメントが見えたので、ニヤッと嫌らしい笑顔を浮かべる。

 

「実は予定昼からなんだよ。部屋の掃除とか昨日までに終わらせてるし、割りと気安い友達だからギリまで寝ててもいけるし、なんなら玄関開けといて勝手に入って貰うことも出来る」

 

 そう言い切ってから、ふうと煙を吐き出して続けた。

 

「どうしようもない事情に見せかけて場の空気を解散に持っていっただけだ。そうすりゃ「逃げた」ことにはならないし、円満にゲームをやめられる。つまり俺の一人勝ちってことだな」

 

 ガッハッハ、と笑っていると「こーれ、ドカスです」というコメントをされるが、望み通りの展開になって気分がいいので許せてしまう。

 続いて「友達って俺らが知ってる人か?」や「配信者か?」というコメントがあった。

 

「まあ俗に言う旧友ってやつだ。中学時代からの」

 

 視聴者が知ってるかどうかについてはあえて言及を避けた。

 嘘はいつかバレるし、ここで何も言わなければ後で知られてもいくらでも弁明のしようはあるだろう。

 今でもコメント欄では「お前そんな友達いたのか」だの「女か?」だの好き勝手言われているので、

 

「お前らに優しくすんのをやめようかなと思います」

 

 と、言えばコメ欄は「ピアスが俺らに優しかったことなんてない」とか「もっと優しくして」とか「ぱぱ〜、だこちて〜」とか面倒臭いことを言い出した。

 つーか最後、バケモノいなかった?

 ……とにもかくにも、そこで話が別方向へと逸れて行ったので、そこを区切りとして配信を終了させた。

 

「ねっむ……」

 

 そういや起きてからもう三十時間ぐらいだ。癒しの力……はやめておこう。あんまり使うもんでもない。

 しかしそうすると、これは流石に眠らないとな。頭の回転ゴミだし、上の空で会話なんかするのは星野に悪い。

 一応、まだ七時だしショートスリーパー気味だから、今から眠れば雑に見積もって十一時には目も覚めるだろう。

 まあ、万が一があるので、玄関の鍵は空けておいて、念のためショートメッセージで星野に連絡して……と、そこまでやって寝室に辿り着いて、ベッドの上で横になった。

 

 我ことながらよほど疲れていたのか、いつもならここで少々スマホで漫画を読んだりするのだが、そんなことをする気も起きず、ふわふわとした意識は次第に制御を失ってどこへともなく落ちていく。

 

 暗転し始めた意識の中で、すぐに返信が来たような気がするのだが、残念なことに俺はそれを見ることはなかった。

 

*

 

 夢を見ていた。

 この世界に生まれてからというもの長らく見ていなかったが、それは間違いなく夢だと確信出来るものだった。

 

 変わり映えのしなかった前世の高校時代。その日常と顔がよく見えない友人たち。

 

 今生とさほど変わりない容姿の俺。

 

 きっとこれだけだったのなら、違和感なんてなかった。

 なんてことはない。少なくとも、俺は前世の自分がしていた他者評価に依存し続ける生き方を嫌ってこそはいるが、そこで得た人間関係やその人生そのものを嫌いだと思ったことはないからだ。

 

 むしろ、気に入ってすらいたんだと思う。

 

 頑張れば頑張っただけ愛してもらえるし、誰かを愛せば、その愛に応えて貰える。

 それそのものが嫌な人間なんてきっといない。

 

 そんな人生だったから、突然の終わりは気に入らなかったし、だからこそ、こちらで生まれて以来、あの日までは不貞腐れたように誰とも関らず生きていたのだろう。

 

 そんな普通ならきっと夢だとすら気づかない、気づきたくもないような幸せな夢。

 

 それが夢だと気がついたのは、そこにはいないはずの人物が居たからだ。

 

 夢の中には星野が居た。

 

 一人で教室の机に座り、退屈そうな顔で窓の外を眺めている彼女は酷く寂しそうで、その夢の「俺」は彼女に声をかけようとした。

 

 けれども「俺」は、彼女の名前を呼ぶことが出来なかった。

 話しかければ、きっと俺たちは仲良く話が出来ると知っているはずなのに。わかっているのに。

 

 どうしてかその名前を呼ぶことは酷く難しかった。

 

*

 

「ね、起きて」

 

 冷たい空気と柔らかい声に、薄らと意識が浮上するのを感じる。

 しかして、未だに体は起きたがらずふわふわとした意識は二度寝を敢行しようと、また沈み始めていた。

 

「起きてってば」

 

 誰かに布団が剥がされた気がして、どこへともなく手を伸ばす。

 

「わっ、ちょっと!」

 

 ちょうど良く何か……細い円柱状のものが掴めたので、引っ張ってみるとぽすりと軽い音がして、布団の上に何かが落ちたのだと理解する。

 ただそれを確認するのも億劫で、未だ握りぱなしの少しひんやりとして気持ちがいいものを自分の方へと引き寄せる。

 どうやら布団ではないらしい。なんだろうこれは。

 

 そう考えたところでふわりいい香りがして、急速に意識が覚醒していき、慌てて目を開く。

 

「あ、おはよ、来栖くん」

「……」

 

 目を開くと、そこには顔を耳まで赤くした星野がいた。

 なるほど。だとすると、俺が握っているのは……視線を自分の手元に向けて、ため息を吐く。

 やはり彼女の腕であった。

 

*

 

「マジですまん。寝惚けてたとはいえ、とんでもないことをした」

「あはは、だからいいって。そんなに謝らないでよ」

 

 食卓を挟んで頭を下げると、星野は困ったように眉根を下げながらそう言う。

 

「驚きはしたけど、別に嫌じゃなかったし」

「いや、そこは嫌がって?」

「なんで?」

 

 いや、なんでってなんだよ。

 

「いや、ほら、友人とはいえ異性だし。嫌がるっつーか、お互いにいい歳だし、あそこまで近い距離は拒絶するのが当然というか」

「そっか、そういうものなんだ」

 

 納得はいかないけどとりあえず理解はした、みたいな調子で頷かれても不安しかないんだけど。

 俺は俺でなんでこんなに一生懸命になって説明してんだ?

 一先ず起きてすぐ、落ち着くためだけに淹れたコーヒーを飲んで、話題を逸らす方向を探す。

 

「そういや、飯ってもう食ったか?」

「ううん。一緒に食べようと思ってたから、何も。どうする? キッチン借りてもいいなら、何か作るけど」

「ありがたいが、そういうことなら俺が作るわ」

 

 普段、家事と仕事で大変だろうし。

 と、そんなことを思っていると意外そうな顔で、星野はこちらを見た。

 

「料理出来るの?」

「ああ、まあ一人暮らし長いしな」

 

 前世で六年、今生で十三年は独身生活をしているわけだし。

 

「でも普段は外食したり配達頼んでるよね?」

「あのな……配信してる時はそうだが、配信外では結構料理してんだぞ」

 

 稼いではいるが、前世の貧乏性的な部分が未だに残っているので家計面での良し悪しを考える傾向は未だにある。

 人気商売だし、いつ落ち目になるかなんてわからんから、貯金はなるべくしておきたいしな。

 

「ま、そういうわけだから任せな。簡単なものだけど、ちゃちゃっと作っちまうから」

 

 そう言いながら立ち上がって、キッチンへと向かう。

 冷蔵庫の中にある材料を考えて、昼にちょうど良さそうなものを考える。

 料理を人に振る舞うのが久しぶりだから、俺は少しだけ気分が良くなっていた。

 

*

 

 カルボナーラと野菜スープという簡単な昼食を終えて、一息吐く。

 我ながら良く出来たと思うのだが、星野の反応は芳しくなかった。

 曰く、美味しかったのだが納得できないのだという。

 

「毎日料理してる私より手際が良くて、美味しいのが許せないなあ」

「それ言われてどう反応すりゃいいんだよ」

 

 俺は星野の作ったものを食べたことないし……

 つーか、カルボナーラなんて誰が作っても同じようなものが出来上がるだろ。

 

「アクアとルビーが美味いって言ってんだったら良くないか?」

「それはそうだけど……うーん……」

 

 何が違うのかなあ、と一人でうんうん考えている星野にため息を吐いて、俺は皿を片付け始める。

 

「あ、手伝うよ」

「じゃあ、スープの皿頼むわ」

「うん」

 

 二人で皿を持ってキッチンへと向かい、流しにそれを置いた。

 そこで星野がキッチンに置いてある炊飯器に気がついた。

 

「これ、保温になってるけど、大丈夫なの?」

「炊いたの昨日の昼だから、今パックに詰めて冷凍しちまえば大丈夫だ」

「じゃあやっちゃいなよ、私お皿洗うからさ」

「いいのか?」

 

 そう聞くと彼女は頷いて、スポンジを手に取って慣れた様子で皿を洗い始めたので、それに甘えることにして炊飯器からパックに米を移動していく。

 そのまま作業をしていると、皿を洗っている星野がチラリとこちらを横目で見てから口を開いた。

 

「ご飯があったのに、どうしてカルボナーラにしたの?」

「だってお前白米苦手じゃん」

 

 何気なくそう答えると、星野は目を丸くする。

 

「なんで知ってるの? まだ言ってないのに」

「……あー、そういやそうか」

 

 別に知っていることを隠してたわけじゃないが、言う機会もなかったしなあ。

 厳密に言えば原作知識ではあるのだが、正直、彼女と出会った時点ではすっかり忘れていた。中学時代の給食の時、実際の様子を見て、やけに食い辛そうにしているなと思って、それでようやく思い出した。

 これは俺が彼女のことで原作ありきではなくて自分で気がついたことでもあって……まあ、なんだ。結構ちゃんと覚えてる。

 

「ほら、中学時代の給食の時、食い辛そうにしてただろ。それ、覚えてたんだよ」

 

 だから、原作知識由来のもので唯一彼女に嘘を吐かないで済む部分だ。あんまり本人は詳細を話したくないだろうが。

 

「……」

 

 俺にとってあの気づきは、割と大切な記憶ではあるんだが、対する星野はと言えばなんとも言えないような表情をしていた。

 しかしまあ、そうだよな。

 自分の弱味を一方的に握られていたようなものだし、そういう顔にもなるか、と納得し、謝るために口を開こうとした時だった。

 

「えっと……?」

 

 星野は急に俺の腰に手を回して、脇腹に顔を埋めて来た。

 

「どうした?」

「わかんない」

 

 いやわかんないって……

 

「なんだ、急に甘えたくなったのか?」

「たぶんそう。部分的にそう」

 

 アキネーターかな?

 様子のおかしな星野に苦笑する。

 ちょっと作業をするのに邪魔臭いが、まあ別に支障はない。冷凍庫上の方についてる冷蔵庫でよかったな、と思いながら引っ付いて離れない星野を連れて、作業を終わらせる。

 皿はすでに洗い終えていた。やはり二児の母は強い。

 まあ、現状母性とは程遠い子供帰りを果たしているわけであるが……

 

「星野、いつまでその状態でいるつもりだ?」

「……もうちょっと」

「ソファの方行くけど、大丈夫そうか?」

「段差とかあったら教えて?」

 

 顔を押し付けているため、くぐもった声でそう要求する星野に苦笑しつつ「はいはい」と返事をして位置を調整して後ろに回った彼女を連れて、ソファへと向かう。

 絵面、ケンタウロスみたいだなこれ。

 ソファまで辿り着くと、そこで星野はようやく離れてくれ、二人並んでそこに腰を落ち着けた。

 

「やりたいゲームとかあるか? マリパとかアソビ大全とかあるけど」

「んー……ペルソナか、あとはメガテンかなあ。パーティーゲームってあんまり得意じゃないんだよね」

「どっちも完全お一人様ゲームじゃねえか」

「いいじゃん、昔はそうやって遊んでたし」

 

 まあ確かにそうだが……

 

「じゃあペルソナ5かメガテン5で、最高難易度の裏ボス相手に何手勝ち出来るかで競うか。だいぶ運要素あるけど」

「いいね、それ。面白そう。じゃあ、負けた方は勝った方の言うことを一つ聞くっていうのはどう?」

「はは、そうするか。常識的な範囲でな」

「うん、常識的な範囲で」

 

 そうしてそれから三時間ほど、ああでもないこうでもないと言いながら、星野の希望で二人でメガテン5の裏ボス戦をした。

 途中、良いところで人修羅の混沌の理を食い、星野がガチ目に炊いていて、その様子が珍しかったし、本当におかしかったから大笑いしていると、それに怒った星野の鬼の追い上げによって、僅か一手差で俺が負けた。

 悔しかったのでこっそり撮っていた動画を「【悲報】星野アイ、ゲームにキレる」という題名で双子に送ってやったのだが……

 

「もう、何もあの子たちに送ることないじゃん」

 

 そんな意地悪をしたからだろう。

 星野は俺の膝を枕代わりに寝転がってスマホを見ながら、すっかり拗ねてしまっていた。

 

「いやだってあんなんアイツらだって見たかっただろうしなあ」

 

 実際は面白いから送っただけなのだが、そう言い訳染みた事を言えば、星野はスマホから視線を逸らし目つきを鋭くして俺を見た。

 

「ドカス」

「ちょっと星野さん、お口が悪いですわよ?」

「一生懸命になってる人を笑い物にするなんて、ドカスで十分だと思いまーす」

 

 いやまあ間違ったことは言っちゃいないが、そこまで言うことでもなくない? あと、あんまり言い過ぎたら俺みたいに癖になるからちょっと心配。

 さっきとかゲームに対して結構真面目にキレてたし。

 

「あんまり汚い言葉を使うのはやめなさい。つーか、昔そんな口悪くなかっただろ。どうした?」

「……来栖くんのせい」

「えぇ……」

 

 あんまりな言い草に困惑していると、星野は頬を膨らませる。

 

「だって、来栖くん昔から口悪かったし。ずっと話してたら影響されちゃうのもしょうがないよ」

「いや、それは仕方ないと思うが、ドカスは違くない?」

 

 どっちかというと配信のネタだろそれ。

 

「私もリスナーの一人だから、それぐらい言ってもいいでしょ?」

「はいはい……」

 

 まあ、別にここでしか出さないんだろうしいいか。

 そもそも言う人間とか使いどころで火力が違うしな。星野のドカスは割とファン層からは、有り難がられそうだ。

 絵面を想像して結構ギャップでウケそうなどと考えながら、未だプンプンしながらテレビの方に顔を向けている彼女へ謝罪を口にすることにした。

 

「悪かったよ。どうしたら許してくれる? 何でも聞いてやるから言ってくれ」

 

 星野はチラリと横目でこちらを見てそれから目を逸らして、

 

「どうせ、それで何でも言うこと聞く権利使わせる気でしょ」

「まあ、その気がないと言えば嘘になるが、望むなら二回でも三回でも聞いてやるよ」

 

 我ながら甘いとは思いつつ、そんなことを言うと星野は仰向けになって俺の顔を見つめて来た。

 吸い込まれそうなほどに黒く、夜空に浮かぶ星のように綺麗な瞳と目があって少し動揺したが、悟られないように俺も負けじとその目を見つめ返した。

 

「名前」

「あ?」

「下の名前で呼び合いたい」

「なんだその付き合いたての高校生みたいな要求」

 

 今時、中学生でもそんなこと一々聞かないだろと呆れていると、星野は真剣な顔で言った。

 

「だってこうでもしないと、私も来栖くんもお互いの名前なんて呼べないよ」

「……そりゃあな」

 

 なんなら、そうしてくれと言われても難しいし、向こうだってそうだろう。

 名字で呼び慣れてしまったから? 違う。

 気恥ずかしいから? 違う。

 

 呼び方ってのは大事なもんで、最初から下で名前を呼ぶ時ってのは予め関係性が決定されている時だけだ。

 お互いがこの先どういう関係になるかわからなかったり、相手と距離を取ったりしたい時、人は相手の名字を呼ぶか、もしくはかつての彼女がそうしていたようにそもそも名前を覚えない。

 

 名前の呼び方が変わるということは、関係性が変わるということだ。

 

 そう考えると一度は間違いなく、俺と星野の関係性は変わっている。そのことは彼女が俺の名字を正しく呼んでいることからも明らかだろう。

 

 では、今回のそれにどんな意味があるのか。

 

 星野が俺に何を求めているのか。どうあって欲しいと考えているのか。

 正直、俺にはわからない。

 

「難しい?」

 

 見透かしたように星野は俺にそう言った。

 

「ああ……」

 

 きっとどんな魔法を使うことより、それは難しい。

 むしろ「メギドラオン」を使えるようになれとかそういう無茶振りの方が楽なぐらいだった。

 わからないことは恐ろしいことだから。名前を呼ぶ、ただそれだけのことで起こる変化が、俺は……

 

「イヤ?」

「……そういうわけじゃねえよ」

「じゃあさ、呼んでみて?」

「……」

 

 言葉に困り、黙る俺の頬に星野の小さな手が伸びる。

 それから彼女はさらりと優しく俺の髪を撫でた。

 

「ね、前に君はどんな時でも私の味方だって言ったよね」

「ああ……」

 

 頷くと彼女はふわりと微笑んで俺の頬を撫でる。

 

「私もどんな時だって、どんなところにいたって君の味方だよ。だから、そんなに怖がらないで欲しいな」

 

 そうか。やっぱりわかってしまうのか。

 

 俺はこの期に及んで、彼女と自分が精神的に深く結びつくことを恐れていた。

 

 人が怖い。人の想いが怖い。

 誰かの心に触れることが恐ろしくて仕方がない。

 そんな人には決して見せて来なかった臆病な俺を星野は見抜いていて、その上で彼女はそう言ってくれている。

 

 ため息を吐いて、それから小さく口を開いた。

 

「……アイ」

「うん、何かな綾時くん」

「ごめん」

「ふふ、いいよ」

 

 嬉しそうに目を細めて星野は両手で、俺の顔を優しく包んだ。

 

「ねえ、綾時くん」

「なんだ」

「私は君のことを理解したいよ」

 

 それで、と彼女は続ける。

 

「いつか綾時くんの心に触れたい」

 

 そう言われて、自分の顔が熱くなるのを感じる。

 顔を逸らしたいが、頬に触れている彼女の手を無理矢理振り解く気も起きず、少し下を向いて表情を隠す程度の些細な抵抗をした。

 

「……きっと幻滅するぞ」

「あはは、そうかもね。でも幻滅してもそれと同じぐらい、ううん、もっと大切だって思えるような気がするんだ。だって誰よりも正直な君の心はきっと誰よりも優しいから」

「……勝手にすりゃいい」

「元々そのつもりだよ。ご存知の通り、私は我儘だからねー」

「あと暴露趣味もあるだろ」

「あ、バレた?」

 

 バレたもクソもあるか。双子のために自分から言うことはしないまでも、俺との関係隠す気なんてはなからないこと知ってんだよ。

 こちとら転生者様だぞ。

 

「お前が嘘吐きなのも、我儘なのも、秘密主義の癖に暴露趣味なのも、自信家なのに変なところで臆病なことも知ってる」

「あはは、綾時くん私のこと好き過ぎじゃない?」

「うっせ」

 

 今度こそ俺がそっぽを向こうとすると、顔をグッと固定される。

 

「ふふ、変な顔」

「お前のせいだけど?」

 

 もうなんなのこの子。恥ずかしいんだけど、色々と。そろそろ逃してくれません?

 妙に青臭い空気に、俺がメンタル的にしんどくなっていると星野は「ね、綾時くん」とまた俺の名前を呼んだ。

 

「んだよ」

「……私ね、自分が嘘を吐いてることにも気がつけないぐらい嘘吐きだけど、さっきのは嘘じゃないって言えるよ」

 

 そんなこと、聞くまでもなく分かっている。

 そう思いつつも、口から出たのは「そうかよ」というぶっきらぼうな返事だ。

 それに星野は強気に笑む。

 

「うん、そう。だからさ」

 

 彼女は体を起こして、俺の耳元で囁いた。

 

━━私、結構本気だからね




Q.女装が許された理由
A.無様堕ちとか言っているが、無茶振りされたことが明らかで、本人が全力なため好印象だったため。ただ憧れの存在が無様女装堕ちして興奮してた人はそこそこ多いので、視聴者層が終わってる。

Q.アイさん依存してる?
A.依存というより感情の爆発

Q.友達で良くない?
A.今回でどっちにハンドル切ってもいいようにしましたが、私は「愛」の話を書きたいので、このままハンドルを切らなければ友情からはどっかではみ出るかと。

Q.これが友達の距離感?
A.普通は違いますが、私の性癖に恋人じゃないのにめちゃくちゃ距離の近い男女というものがありまして、友達のはずなのに恋人にしかやらない甘え方をしてるのに非常に興奮するので、そういう書き方をしてます(早口) 欲望で生きてんだよ。許せ、サスケ。

作業に使ってる曲はその話の雰囲気に合うものというか、こういう話だよなってのを選んでますが、青臭い曲が好きなので心情を合わせなかったり、結構適当に選んで聞いてる時もあります。

追伸
日間ランキング5位。感謝します。
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