聖園ミカに憑依した話【本編完結】   作:おとしあな

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前話後書きにちょっと加筆しました(7/30)。ご覧になっていない方はぜひ。


夏らしいこと全部!

 夏は暑い。部屋は涼しい。

 これが何を意味するかというと、体の主導権の壮絶な押し付け合いである。

 

「ねっ、せっかく友達できたんだし、今日はオトが学校行こうよ」

「いーやーだー。今日はミカの番でしょ。だって今日ティーパーティーの集まりあるじゃん」

「学校行くまでの間でいいから」

「やだ外出たくない」

「私だって出たくない」

「暑いじゃん」

「暑いよ」

 

 365日いつでも適温で快適な部屋に比べると、外はあまりに暑過ぎるのだ。交代制で外に出られるようになったからこその体の主導権問題という、ある意味贅沢な話である。

 そしてわたしたちはどうするかというと、仁義なき争いで決着をつけるのだ。

 

「「さいしょはグー、じゃんけん」」

 

 ぽん。

 わたしがグー。ミカはチョキ。勝った。

 

「よっしゃ!」

「やだー出たくないー暑いー……」

「ほらミカ早く準備しないと遅刻するよ」

「うぅ……ダメ?」

「ダメ」

「しかたないか……」

 

 勝負は時に残酷である。泣く泣く部屋を出たミカの朝の支度を涼しい部屋で悠々と見守る。

 日焼け止めに日傘とアームカバーという完全防護でミカは扇風機を片手に家を出た。この時期は日差しもきついしちょっと油断しただけであっという間に日焼けしてしまう。わざと焼くのならまだしも、油断でミカの白い肌が焼けてしまうのはあまりにもったいない。

 どこまでも抜けるような青空に入道雲が浮かんでいた。セミの音がどこからか聞こえる。

 

「セミかー……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

 ミカミカミカミカミカ……。

 くだらないことを考えるのはやめよう。

 

 

 

 

 

 

 授業が全て終わった放課後、三人揃ったティーパーティーの定例会議はどうやら今日は議題が少なかったらしくあっさりと終わった。今のホストであるセイアが締めの挨拶をする。

 

「それでは今日はここでお開きだ。いいかな? ナギサ、ミカ」

「ええ、構いません」

「はいはーい! 二人に提案があるよ」

「ふむ、聞かせてくれたまえ」

 

 ミカはもったいぶってコホンと咳払いをした。

 

「これはティーパーティーの業務に全く関係がない話なんだけど……オトに『夏』を体験させたいの!」

 

 え、わたし? 夏? どういうこと?

 

「具体的には?」

「じゃーん、これ見てこれ見て」

「花火大会のチラシ……?」

「みんなでこれに行こうよー! 屋台とか回って、花火見て、他にも海で遊んだり、なんか他にも夏っぽいことたくさんしたいんだ、オトとナギちゃんとセイアちゃんと!」

「ですが私たちには仕事が……、それに政治的にもティーパーティーのメンバーで遊ぶというのは……」

「私としても行きたいのは山々だが……」

「仕事なら頑張って終わらせればいいでしょ! ついでに私たちは、ティーパーティーじゃなくて友達として行くから問題ナシ! それに、実は……もうホテル、取っちゃった」

「え?」

「花火大会の会場近くの、海辺のホテル! この時期ならまだスイートルームが空いてて……六泊七日!」

「おばか!」

 

 いっけね、ティーパーティーの会合中はなるべく外に出ないようにしていたのに思わず口を挟んじゃった。いや、でも、スイートルーム……わたしになんの相談もなく……その金はどこから……財布の紐……来月の請求……うっ。

 

「え? オトーっ! 返事してよーっ!」

「一体何が起きてるんでしょうか?」

「おおかたこのことを把握していなくて、ミカの財布の紐の緩さに卒倒したとかそんなところじゃないか」

「それで……二人はどうかな。一緒に行って……くれる?」

「はぁ……仕事、頑張りますよ」

「ふむ、一週間分前倒しか」

「……いいの?」

「ええ、こうなったらもう全力で楽しみましょう」

「海辺のリゾートに花火大会、いいじゃないか。夏の休暇の使い方としては最高だ」

「二人とも、ありがとう!」

 

 ふぅ、なんとか意識を取り戻した。

 もう取ってしまったホテルはしょうがない。こうなりゃヤケだ。わたしもサポートして仕事を全力でこなそう。

 

「ところでどうしてわたしに内緒で?」

「えっと、サプライズの方が嬉しいかなって」

「……嬉しいよ、ありがとう」

「えへへ」

「たーだーし! 次から何か高額な買い物をする時はまずわたしに相談すること!」

「はーい……その、高額ってどれくらいから?」

「その辺もあとできっちりお勉強しようか」

「……はーい」

 

 

 

 

 

 

 そうしてひと夏の海辺の休暇が決まったわたしたちは、ショッピングモールへ水着を買いに来ていた。夏場の水着売り場は想像以上に混雑していて、トリニティ生もゲヘナ生もごった返していたが、どちらもティーパーティー三人の姿を見るなり距離を取るので奇妙な距離感の中で水着を物色することになった。

 なおミカは気に留めてすらいないようだったが。

 

「ねえねえ、このピンクと水色の水着か白黒の水着かどっちがいいかな? 間を取って紫でもいいよね。いっそ全部買っちゃう?」

「わたしは正直どれでもいい」

「えーっ、せっかくオトの水着なんだからちゃんと選ばなきゃ!」

「強いて言うならパステルカラーがいいかな。あと日焼けしたくないし上着欲しいかも」

 

 そうして長い試着の末、薄ピンクのリボンとフリルが付いた水色のワンピースタイプの水着と、黒いラッシュガードをミカは気に入ったようだった。水着がワンピースタイプなので、背中の翼のための穴を開ける加工を店員さんにお願いして、後日配達にしてもらう。

 ナギサとセイアはわたしたちが水着を選ぶ間に自分たちの分を買い終わったらしく、律儀に店の前で待ってくれていた。

 

「お待たせ、二人とも。待っててくれてありがとう」

「本当に待ったよ」

「お気に召す水着は見つかったようですね」

「うん、二人はどんなの選んだの?」

「海に行くまで内緒です」

「ふむ、じゃあ私もそうしよう」

「そっか、それなら二人の水着姿を楽しみにしていようかな」

 

 喋りながらショッピングモールを歩く。ちなみに今外に出ているのはわたしである。水着選びは二人でやったが、今はミカが「せっかくだから」とわたしを外に出したのだ。

 

「この後どうしようか?」

「お茶でもします?」

「何か他に買う物はあっただろうか……」

「あれ、なんか変な音しない?」

 

 異音が聞こえてなんだか落ち着かない。なんとも言えない違和感に周りを見渡すと、店内を巡回するロボットの様子がおかしい。ホルスターに手をかけ観察していると、他のフロアから悲鳴が聞こえてきた。

 

「今の悲鳴は……っ」

 

 じきに暴走するロボットに追われた生徒たちが必死にこちらへ逃げてきた。たまたまこちらが入り口に近かったからだが、そのおかげで状況が大体分かった。

 

「ロボットが暴走して客を襲ってるみたい。ナギサちゃんとセイアちゃんは避難してて。特にセイアちゃん」

「いえ、私も牽制くらいはできますので」

「私も支援するよ。幸い、今日の体調は安定しているからね」

「……危ないと感じたらすぐ逃げてね」

 

 こちらへ大挙して押し寄せる生徒たちを追ってくるロボットのメインカメラへ向けて発砲する。あのタイプのロボットならメインカメラが壊れれば生徒たちを認識できなくなるだろう。それになるべく壊すパーツは少ないほうがいいだろうし。

 

「オト、追加で三体来るよ〜っ!」

「気づいてる、ありがとう。撃つよ」

 

 なんかこれ、埒があかなくないか。隊長機を探して停止させに行くのが一番早い気がしてきた。

 

「二人とも、わたしは隊長機を止めに行く。今度こそ二人とも避難して。……それとも、ついてくる?」

「ふふ、答えは分かってるんでしょう?」

「私たちもついていくよ。最後まで見届けるさ」

「はぁ、しょうがない。じゃあ行くよ!」

 

 ロボットと人の波を逆流して駆け出す。そしてたどり着いた先では、補習授業部とゲヘナの風紀委員と百鬼夜行の生徒とアビドスの対策委員会がロボットと交戦中だった。

 

「うわっ、ゲヘナの風紀委員! まあいいや助太刀します!」

 

 いやこれ知ってる! どこかで見たことある!

 

「貴女たちはティーパーティー? どうしてここに」

「いいから今はロボットの暴走を止めますよ」

「……はい」

 

 風紀委員のアコと流れで共闘する。隊長機と交戦するアビドスのホシノを援護するために周囲のロボットを牽制していると、無事倒したらしくロボットたちの動きが止まった。

 

「急にここに現れた時は驚きましたが、まあ助かりました……ありがとうございます」

「うん、どういたしまして」

 

 アコと話していると、さっきまでアビドスの面々と話していたヒナがこちらへやってきた。生で見る風紀委員長かわいいな。ちっちゃい。

 

「貴女が『オト』?」

「……ええ、そうです。お初にお目にかかります、聖園オトと申します。……かくいうあなたはゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナさんでしょうか?」

「ええ、私が空崎ヒナ。……そう、貴女、すっかり牙を抜かれたのね。報告で聞いていたトリニティの裏切り者とはまるで別人みたい」

「……ふふ、おかげさまで。こうやって人助けするくらいには丸くなった自信はありますが?」

「そう。とにかく、助力ありがとう」

「どういたしまして」

 

 和やかにヒナとの会話を終えると、ナギサが補習授業部と話しているのが目に入った。ちなみにセイアは柱の影で座って休んでいる。戦闘で負担がかかっただろうしそのまま休んでいてほしい。

 

「ナギサ様、奇遇ですね」

「ええ。あなたがたはどうしてここに?」

「私たちは映画を見にきたんです! ナギサ様こそティーパーティーの皆様お揃いでお買い物ですか?」

「ええ、その通りです。まあティーパーティーというよりは、私的な友人同士として来ているのではあるのですが」

「わあ、そうなんですね。……あ、ミカ様、こんにちは……いえ、あれ、もしかして」

「うん、あれはミカじゃない」

「はい正解です、わたしはオト。久しぶりですね、補習授業部。……そんなに怯えなくてもいいじゃないですか、取って食いやしませんよ」

「オトさん……」

 

 ナギサがたしなめるような視線を送ってくるが一旦スルーすることにする。正直どう接していいのかわからなくて、その結果あの時みたいな喋り方になってむしろビビらせている自信はある。

 

「はぁ……補習授業部のみなさん、あの時は急に交戦して迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。とにかく、今はもうあんなことはしないので。許せとは言いませんが、ミカの体を借りて同じ学園に通うくらいは目をつぶってくれませんか?」

「私達に敵対する気がないなら私は構わない」

「謝ってるし、まあそれなら私は別に……」

「ミカさんがいいならそれで構いません。ふふ、憑依してするのはどんな気持ちなんでしょうね?」

「するって……?」

「エッチなのは駄目! 死刑! ティーパーティーの前でナニ言ってるのよ!?」

「あはは……その、私は、オトさんにどんな事情があったかはわかりませんが……今こうして助けてくれたオトさんを、私は信じます」

「……ありがとうございます」

 

 補習授業部いい子達すぎないか? こんなわたしのことを簡単に信じるなんて言っちゃって……。

 でもまあ、この子達の信頼を裏切らないような行動をしないといけないな。

 

 

 

 

 

 

「まさかロボットが襲ってくるなんてビックリだよ。オトが無傷でよかった」

「ミカのサポートのおかげだよ。なんだかんだわたし的とミカ以外との戦闘の経験ほとんどないし」

「私は大したことしてないよ。……なんというか、オトのことを知ってくれる子が増えてくれてよかった」

「?」

「オトがいい子なこと、本当はみんなに伝えたいんだけどなぁ」

「……ダメだよ、ミカ」

「うん。……最近のオト、ダメって言ってばっかり」

「えっと、それは……ごめん」

「もー。……水着に合う髪型私に考えさせてくれないと許さないんだから」

「もちろんお願いするよ」

「……海、楽しみ?」

「……うん!」

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