聖園ミカに憑依した話【本編完結】   作:おとしあな

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時系列バラバラで進めて行くと思います。これはトリニティ入学後、エデン条約前くらいのほのぼの話。


デートしよ?お願いお願い!

「オト! ねぇねぇ、右のと左のだったらどっちがいい?」

 

 服屋さんで、右手と左手にそれぞれワンピースを持って鏡の前に立つミカがわたしに尋ねた。当然口には出しておらず、いわゆる脳内会話ってやつだけど。

 

「右、かな。ミカの可愛い雰囲気に合ってる」

「ふふっ、実は私もそう思ってたんだ。やっぱりオトは分かってるね〜」

 

 ふんふん、と頷いてミカが言う。とりあえずわたしは右手のワンピースをこの部屋に出してクローゼットにしまった。

 

「あ、でもオトが着るなら左かも」

「わたし?」

「ちょっと着てみてよ。今からそっちに行くね」

 

 言われるがままこの部屋に左手のワンピースも出現させる。今着ている服を脱いでワンピースを着るが、チャックが背中側にあってうまく閉められない。チャックと格闘しているうちに扉の開く音がしてミカが入ってきた。

 

「ミカ、ちょっと手伝って」

「はーい」

 

 ミカの柔らかな指が背中をつーっと這ってこそばゆい。

 

「ひゃあっ、ちょっとミカ、遊んでないでチャック閉めてよ」

「てへっ、オトの背中を見てたらつい……」

 

 なんとかワンピースを着て鏡の前に立った。普段ミカが選ばないようなグレーと黒を基調にしたチェックのワンピースは、意外なことにわたしに似合っていた。

 

「やっぱり私の見立ては正しかったね。オトに似合うと思ったんだ〜」

「姿、変わらないのに?」

「全然違うよ! 確かに見た目は一緒だけど、醸し出される雰囲気が!」

「そういうものかぁ」

「そういうものだよ」

 

 腕組みで深く頷いたミカは、「じゃあ両方買ってくるね」と笑顔で扉から出ていった。

 ミカもわたしもこの部屋にいる間は、体のミカの意識は無くなるか、ギリギリ受け答えはできるくらいの薄さになる。だから今ミカはフィッティングルームの椅子に座ってここに来ていたわけだ。立ちっぱなしだと危ないからね。

 にしても、わたしが着るならもうこの部屋にあの服は出しちゃったから買う必要はないんだけど。

 

「ミカ、左手のワンピースまで買う必要ある?」

「あるよ!」

「あるのかぁ」

 

 そうして帰宅してわたしの部屋に来たミカは開口一番、「明日はオトとデートします!」とわたしに抱きついて言った。

 突飛な発言に疑問符を浮かべることしかできないので「どういうこと?」と尋ねる。

 

「明日はオトが外に出て、今日買った服を着て甘いもの食べたりショッピングしたりしようよ! それにそれに、オトが行きたい場所にも行きたいな、どこでも! 私はそれをここから見つつ、オトといーっぱいお喋りしたい!」

「え、でもほらわたしが外に出たら『わたし』のことバレるかもしれないし」

「そんなの平気だって〜、誰も気づかないよ。それに、オトならバレないようにできるでしょ?」

「謎の信頼感だね?」

「とーにーかーく! 明日デートしよ? お願いお願い!」

 

 必殺☆超至近距離上目遣い首傾げうるうる瞳ミカファイナルを食らったわたしはひとたまりもなく、「わかったから……」と呟くしかないのであった。

 

 そうして翌日。

 朝から扉を開けてわたしが表に出て、朝の支度をする。朝ごはんは……トーストでいっか。

 

「あ! いいなーラピュタトースト」

「一口食べる?」

「いいの!?」

「もちろん」

 

 一瞬意識を部屋に戻して、ミカがトーストを食べたのを見て扉から出る。

 

「美味しい〜! ありがとう!」

「どういたしまして、お気に召したようでよかった」

 

 トーストを食べ切り洗い物をして、チャックと格闘しつつ昨日の服になんとか着替える。それからメイクにヘアセット。

 ミカと同一人物とバレないようにしなきゃだから、いつもよりファンデは両頬にしっかり。ハイライトとシェーディングで顔の骨格を誤魔化して、チークはブラウン……いやベージュにしよう。アイシャドウはブラウンでいっか。アイラインをちょい斜め上向きに引いてタレ目を少し大人っぽく。ビューラーでまつ毛をあげて、マスカラをスッと塗る。これで上向きまつ毛の出来上がり。普段は使ってないリップとなると……。

 

「ミカ、このリップって使っていいやつ?」

「どれでも好きに使っていいよ!」

 

 ピンクベージュのリップを塗って、メイク終わり! 正直なところ既に疲れた。

 しかし恐ろしいのはまだヘアセットが残っているところである。女の子は朝の支度に時間がかかるのだ。

 ひとまとめにした髪をシニヨンにして、左手首に付けていた黒いシュシュでまとめた。普段ミカがつけている白いシュシュを右手首に付ける。髪を下ろしていないだけで割と印象は変わるはず。

 あとは帽子と伊達眼鏡をかけて家を出よう。一応鏡の前でチェックしておくか。

 

「ミカ、おかしくない?」

「バッチリだよ☆ それにしても、本当に普段の私とは別人だね!」

「それならよし」

 

 ガンラックのQuis ut Deus……じゃなくてわたしの愛銃、二丁拳銃のTu es InnocensとSpe Noctisを下げて家のドアを開けた。なんでこの名前か……って、ミカのガチャバナーを見てとしか言えないかな。ネーミングセンスが皆無だから仕方ない。

 

 とりあえず、まず向かうのは駅前のベンチ。

 

「お待たせ。待った?」

「ううん! 今来たところ!」

 

 ミカ、ノリノリだなあ。いやノってくれると思ったから言ったんだけど。

 

「じゃ、まずは駅前のカフェからかな。プリンパフェが美味しいらしいよ」

「プリンパフェ……もしかして、行くカフェ調べてくれたの?」

「ま、一応ね。一通りプランは組んであるから楽しんでくれるといいな、わたしのおひ……大切で大好きな、たった一人のわたしのミカ」

 

 あっぶね、誤魔化せたかな今の。

 お姫様ってミカのことを呼ぶのは先生だけ。わたしが呼んじゃったら特別感が薄れるからね、感謝してよ先生。

 わたしがいなくなった後のミカを本当は嫌だけど託す以上、先生はミカを世界で一番お姫様として扱うべきだ。まだ見ぬ先生への貸しを作りつつカフェへ向かう。

 そんなわたしは、部屋の中でミカが顔から火が出そうなくらいに顔を真っ赤に染めて、「わーお……オトったらいつそんな口説き文句覚えたのかな」なんて小声で呟いたことに気づかないのだった。

 

 注文したプリンパフェを一口一口交代で食べる。

 

「美味しい……」

「オト、はい、あーん」

 

 ミカが手を動かして口元までパフェのプリンとホイップが乗ったスプーンを近づける。わたしはそこで交代して、「あーん」と呟きながらスプーンの上のプリンを頬張る。

 

「はい、お返し。あーん」

 

 そこで交代して、ミカがプリンパフェをぱくりと食べる。とんでもなく時間がかかっているのは承知だが、これはデートなので店員さんと外の行列には悪いが諦めてくれ。

 

「ふぅ、ごちそうさま」

「おいしかった〜、いやぁこのお店は当たりだね! また来ようねオト!」

「はいはい、機会があったらね」

 

 次に向かうのはショッピングモールの映画館。これはわたしのチョイスだ。

 

「映画? 何見るの?」

「これだよ」

 

 最近公開されたアニメ映画で、魔女に塔の上に閉じ込められたお姫様が盗賊と出会って外に出て、最後は結ばれる物語。ちなみにわたしは似たような話を前世で見たことがある。

 

「え、これ私が見たかった映画だ! いいの!?」

「うん、わたしも見たかったから。ポップコーンと飲み物はいる?」

「ポップコーンはいいかな、今はお腹いっぱい! 飲み物は……オレンジジュースにしようかな」

「はーい」

 

 オレンジジュースと乳酸菌飲料の二本を片手でトレイに乗せて、一人で入場する様子はちょっと変かもしれないけれど、喉乾きがちな人ということで。

 

「よかった……」

「うん……」

「劇中音楽よかった……!」

「あとで部屋でデュエットする?」

「うん」

 

 前見たのとはちょっと違うような気もしたし、全く同じだったような気もした。まあ間違いなく劇中音楽は素晴らしい。わたしがミカ以外で好きなものの一つに音楽がある。歌も楽器もなんでも好き。

 

 最後に行くのは雑貨屋さん。

 ミカに似合いそうなアクセサリーを探すつもりだ。

 

「うーん、これとか? それともこれとか?」

「私はオトが選んでくれたアクセサリーなら何でも嬉しいよ!」

 

 困った。何でもいいよが一番困るなんて、昔から言われていることだろうに。

 とりあえず自分用はこの、八分音符のあしらわれた黒色に少し薄青がかったピンかな。しかしミカならなんでも似合ってしまいそうで、本当に難しい。花柄は絶対似合うだろうがすでに似たのが家にある。星はそれこそミカって感じだが、ここにあるのはちょっと違う気がする。ハート……はベタすぎてなんかやだ。

 

「オト。オト……? ねえ聞いてる?」

「あ、ごめんねミカ。どうしたの?」

「私、オトとお揃いのピンが欲しい!」

「わかった」

 

 即決で同じ物を二個カゴに突っ込もう……として、やめた。一つを棚に戻して、色違いの薄ピンクがかった白い音符のピンをカゴに入れる。

 

「色違い。わたしがこの白いやつで、ミカが黒いほう……どうかな?」

「わぁ……! うん、いいと思う。すっごく素敵!」

 

 ミカに黒はあまり馴染みがないが、恥ずかしながらこれはちょっとした独占欲によるモノだ。なぜかわたしとミカは、ヘイローの色が違うのである。ミカのヘイローは説明しなくてもわかると思うが、真ん中の星がピンクで青みがかった光を放っていて、周りに小さな白い星が散っている。対照的にわたしのヘイローは真ん中の星が青色でピンクがかった光を放ち、黒い星が瞬いているのだ。

 ミカがその意図に気付いたかは分からないが、ミカがわたしの色を身に纏ってくれたら、それはなんだかすごく嬉しい。

 

 せっかくなのでお会計を済ませたあとの、白いピンを付けてみる。鏡を覗き込むと、ミカが興奮したように話し始めた。

 

「オト、それすっごく似合ってる! ふふっ、とっても可愛いよ! 私の色を付けたオト……私のオト」

 

 ばれてーら。まあいいんだ、ミカが黒い方を付けてくれるなら。ちょっと恥ずかしくなりながら店を後にする。

 

「あれ? もしかしてオト照れてる? ねえ照れてる? ふふ、オトったらかーわいい。私も大好きだよ、オト」

「……うぅ」

 

 ほら、ここぞとばかりにからかってくる。ベンチに座って、ちょっと部屋に戻るか。ミカを鏡の前に立たせて、わたしはミカの後ろに立ってさっき買った黒いピンで前髪を止める。

 

「ほら、ミカ。動かないで」

「う、うん」

「はい、できた。わたしのミカ、世界で一番可愛いよ」

 

 ミカに黒いピンは不思議とよく似合っていた。独占欲が満たされて、愛しいが溢れてくる。「愛してる」と耳元で囁くと、ミカは顔を真っ赤にしてぺたんと鏡の前で座り込んだ。

 

「まったく、ミカってば真っ赤になっちゃって。可愛いんだから」

「……っ、誰のせいだと思ってるの……」

 

 いつまでもベンチに座り込むわけにもいかないので、ミカが再起動するのを見計らって部屋を出る。

 

 

 ……?

 なにかおかしい。

 

 部屋を出た瞬間、強烈な違和感に襲われた。銃に手をかけながら周囲を警戒する。

 

「動くな! 両手を上げて武器を捨てろ!」

 

 一、二、三、四……五人組のチンピラが、ショッピングモールの往来で武器を抜きながら周りの客を脅していた。

 

「ひっ……! いったい何が目的ですか? お金ですか?」

「金もそうだがここの商品をいただきに来たんだよ! 撃たれたくなきゃさっさと出しな!」

 

 勇敢な店員さんがチンピラに問いかけると、チンピラはこれまたベタな動機を語ってくれちゃった。

 

「ミカ、これどうする?」

「どうするもなにも、こっちに気付いてないうちにオトは逃げて。オトが怪我したら大変」

「そうだね、目立ちたくないしここは他の人に任せようか」

 

 見本の服一揃いなんかが入ったショーウィンドウが割られて辺りにガラスが散らばる。これ、踏まずに離れられるかな。

 抜き足差し足でその場から離れようとすると、店員さんが銃を頭に向けられて人質に取られているのが目に入った。そのせいで一瞬動きが固まって、ガラスを踏み抜いてパキリと高い音が鳴ってしまった。

 

「やっちゃった……!」

「ええいこうなりゃ、頑張れオト! 先制だー☆」

 

 即座にホルスターから銃を抜き、店員さんを人質に取ったチンピラの頭めがけて撃つ。よし当たった。射撃の練習は暇な時間を利用して部屋で散々的を相手にやってきたから、命中率には自信がある。近い奴から次、その次と順々に四人片付けて、残り一人……に撃たれる前に、倒れたチンピラとまだいるチンピラに片手ずつ銃を向ける。

 

「コイツらと同じ目に合わされたくなかったら、コイツら連れてさっさとと逃げたらどうですか?」

「お前……っ! くそっ!」

 

 やけっぱちに銃を乱射しようとするものだから、足元に転がるチンピラを遮蔽物代わりにして、躊躇したところで撃ち込んで終わり。

 

「あの、ありがとうございます!」

「いえいえ、急ぎなのでわたしは帰りますね。あとは警備員さんに任せます、すみません」

「いえ、助けて下さってありがとうございました! お礼にこれ、持っていってください!」

 

 店員さんに顔を覚えられる前に帰ろう……と思ったのだが、紙袋いっぱいの服やらアクセやらを手土産に持たされてしまった。

 

「はぁ、一件落着」

「お土産いっぱいもらっちゃったね!」

「まあ、誰も怪我がなくてよかったよ」

「そうだね!」

 

 しれっと怪我の範疇にチンピラを含まなかったが、それはそれ、これはこれ。

 

 帰りながら何の気なしに頬を拭うと、乾いた血がぱらぱらと手に付いた。

 

「あれ?」

 

 手鏡を取り出して見る。頬に、さっきの銃弾が掠ったのか小さな擦り傷ができていた。もう血はすっかり乾いているし、触らなきゃ痛くない程度だけど。

 

「あれ? もしかしてさっきのチンピラ、わたしのミカの頬に傷を付けた?」

 

 ありえない、許さない。よりによって顔に。

 戻ってヘイローが砕けるまで銃弾を撃ち込んでやろうか。

 

「……え? オト怪我したの? 大丈夫!? さっきのチンピラ……! 絶対に許さない。私が相手すればよかった。ごめんねオト、痛くない?」

 

 ショッピングモールの方に足を向けそうになった瞬間に、ミカの声が耳に入った。

 

「……ごめん、ミカ。ミカの大切な体に、傷、付けちゃった……」

「そんなの構わない! オトが痛くないかだけ教えて?」

「触ると痛い、くらい。本当にごめんなさい、ミカ……」

「オトは謝らないで! 悪いのはあのチンピラ」

「……うん。次見かけたら仕留めるから、安心して」

「もう、オトはそんな危ないことしなくていいよ。私に任せて」

「そんなことさせられないよ」

 

 チンピラたちの預かり知らぬところで命の危機が始まりつつある。ま、どうでもいいけど。

 

 公園に寄りベンチに座って、頬に薬を塗り絆創膏を貼り終わると、ミカが言った。

 

「この話、終わり! せっかくのデートなんだから、最後に甘いモノでも買って帰ろ?」

「そうだね。そうしよっか」

 

 箱入りドーナツを買って帰る。二人で分けて食べるとしても体は一つなのを忘れていて、ちょっと買い過ぎてしまった。カロリーオーバー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉は開かない。いつからこの部屋でこうやって座っているんだろう。

 

「どうしてこうなっちゃったのかなぁ」

 

 大きな窓のある部屋で、聖園ミカはいつかのように体育座りでしゃくり上げていた。

 

「オト、戻ってきてよ……」

 

 その手には、いつか買った黒い音符のピン。自分じゃうまく付けられなくて、あの日みたいな自分にはなれなくて。

 

「私がアリウスと仲良くしたいなんて思ったから? セイアちゃんが死んじゃったと思い込んだから? トリニティのこと、裏切ったから?」

 

 答えるものは誰もいない。

 

「オトがそんなことする必要ないのに。悪い子なのは私なのに。なんでオトが……」

 

 窓の外には、牢獄が広がっていた。それはつまりオトが投獄されているということで。ミカのやったことの全責任を背負って一人で傷ついているということで。

 

「ごめんなさい……」

 

 ミカにはもう、謝ることしかできない。

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