聖園ミカに憑依した話【本編完結】   作:おとしあな

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触れるもの皆傷つける

 わたしとミカは今でこそすんなり扉の出入りだけで入れ替われるようになったが、中学生くらいまでは条件を付けないとうまく入れ替われなかった。

 

 その条件というのが手首と髪に付けている二つのシュシュ。

 まずミカが白いシュシュを外して手首の黒いシュシュで髪を結ぶ。そうすると扉を通れるようになるからわたしが外に出る。

 こうやって体の主導権をわたしに入れ替えていた。ミカに戻す時は同様に黒いシュシュを外して白いシュシュで髪を結ぶ。

 

 だから手首に結んでいるシュシュは思い入れの深い品だし、なんとなく白がミカの色、黒がわたしの色という認識ができた。

 

 白と黒を両方つけるとどうなるかって?

 それは……まあ、うん。

 

 こうやってシュシュで入れ替わりを制御していた時、ミカもわたしも当然考えたわけだ。

 

 これ、二人とも部屋から出たらどうなるの?

 

 そうしてシュシュをどっちも付けたお団子にすることで、おそるおそるわたしも部屋から出てみたわけなんだけど。

 

「ミカ、出てみたよ? うん、分かってる! え、これもしかして。脳内で会話できてないね? 全部口から出ちゃってるね……。これ人に見られたらマズいかな? よくて変人、悪くてヤバい人って感じじゃない?」

 

 普段脳内で交わしている会話が全て口から出力されてしまったのだ。片方が部屋にいれば問題なく脳内で会話できるのに、どうしてこうなったんだろう。

 

「あはは、これ面白いね! 面白いかな? 面白いよー、ねえせっかくだしこの状態で動いてみようよ。怪我しそうで怖いんだけど。よしじゃあせーので立ち上がろう。はいはい。せーの」

 

 こけた。盛大に。

 右半身と左半身が別々に動くみたいな感覚で、全くもってうまく動けない。もう一回座り直すことも叶わず絨毯の上でもぞもぞして、諦めてそのまま寝転んだ。

 

「いっぺん戻っていい? うん、戻って……」

 

 そうしてなんとか黒いシュシュを外して、わたしは部屋に帰還した。

 

「いやー大失敗!」

「うーん、練習すれば動けるようになるかな?」

「運動会の二人三脚みたいな感じだったね」

「地道に練習しようか」

「そうだね!」

 

 それで今は……うん、まあ、短時間動くくらいならできなくもない。というかそのために片手ずつで銃を撃てるようにしたんだし。ミカもQuis ut Deusを片手で撃ってることがある?

 ……それはミカだから。わたしに同じことを求めないでほしい、切実に。

 SMG片手撃ちはさすがにミカじゃなきゃ無理。わたしだって肉体的には同じスペックだけど……なんでだろうね?

 

 というかミカの体でまともに動くのも最初は大変だったのだ。主に力加減が。

 

 

 

「また割り箸折れた……」

「もっと優しく扱おう……って、昔オトが言ってたことだよ?」

「ぐぬぬ」

 

 確かわたしが表に出て力加減の練習を始めたのは、ミカがそうした方がいいと言ったからだ。

 

「そういえばオトってこの部屋の中だと力加減は思うがままだけど、外だとどうなのかな?」

「え?」

 

 そんなわけで、ミカの体で動いてみると全然うまく動けなかったのだ。

物は力を込めたつもりがなくても壊れるし、銃撃戦なんてもってのほかだろう。たぶん今床に強く踏み込んだら穴が空く。

 

「うん、このままじゃまずいね」

 

 将来的にミカの体でわたしが大立ち回りするかもしれないことを考えると、このままだとだめだ。ミカの体のスペックを一割も発揮できてない気がする。というわけで、まずは手に力を入れすぎない練習を始めたのだ。

 

「もっとこう……壊れ物を扱うように?」

「壊れ物、ガラスとか、半紙とか、そーっと、そーっと……」

 

 ばきり。何本目か分からない割り箸が犠牲になった。割り箸でビーズをつまもうとしているのだが、やっぱり力が入りすぎているらしい。

 

「なんかもっと、壊したくないものを想像してみて」

「壊したくないもの……」

 

 ミカ。間違ってもミカの体を傷つけたくはない。

 

「この割り箸はミカ、この割り箸はミカ……」

「え? 何言ってるの?」

「これはミカ、これはミカ……」

「さすがに怖いよ?」

 

 そうしているうちに、割り箸を壊さずにビーズを全て皿から他の皿に移すことができた。

 

「ミカ……ミカ……できた!」

「ひぃん、オトが壊れた……って、できてる! やったねオト!」

「うん、コツが分かった。周りの物は全てミカだと思えばいいんだ」

「ええ……」

 

 触れる物はみんなミカ法を身につけた後は、驚くほどに力加減というものができるようになった。いつの間にかミカ法を意識しなくても力加減できるようになったので、結局のところ最終的にモノを言うのは慣れだった。

 

 

 

 

 

 

 そうして。

 扉の鍵を外からかける方法を見つけたあとは。

 

 

 

 

 

 

「どうして? どうして扉が開かないの? 開けてよオト、お願い! ねえ、お願い……」

 

 わたしがミカの『お願い』に弱いことを、ミカは覚えていたらしい。思わず鍵を開けてしまいたくなるが、ぐっと堪えて我慢。これもミカを傷つけないため。

 

 わたしはミカを傷つけるもの全てが嫌い。

 

 だから、ミカが傷つかないように閉じ込めた。代わりにわたしが傷つくのは全く構わない。というか、ミカを閉じ込めて体の主導権を無理やり奪うなんて最低なことをやってしまったわたしも大嫌いだ。

 そもそもミカに取り憑いた亡霊であり、寄生虫みたいなわたしだからいなくなるのが正しいし。

 

 エデン条約編の途中からわたしに入れ替わる。そしてミカのやったことの全てをわたしがやったと言えば、きっとわたしのせいになってミカが悪いと考える人はいなくなるはず。そしてあとは原作通りの行動をして最後に退場すれば、ミカは悪いヤツに体を勝手に使われただけのお姫様だ。

 わたしとミカの仲を知る者がいなければこの嘘を見抜かれることはない。ミカがその後なんと言ったって証明する手段がないんだから。

 

 わたしは絶対にミカの味方。ミカにとって良くないと思えばアドバイスはするけれど、本音を言えばミカのことを全部肯定してあげたい。

 

 特にこの状況だと、もしわたしが下手にアドバイスしてエデン条約編からその前にかけてのミカの行いがなくなってしまうと未来がどうなるか全く分からない。ミカが死ぬ可能性も否めない。

 

 だったら原作通りにことを進めるしかない。

 それでもミカに傷ついてほしくない。これがエゴであることは否定しない。わたしもミカもある意味そんなに変わらないから、大筋から逸れることはないはずだ。

 

 だからわたしは、鍵をかけた。

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