史徒奪名録   作:ヤン・デ・レェ

22 / 29
22「麦粥」騎士王1

神様、どうかお許しください。私は今日、生まれて初めて人を殺めました。人の命を奪ったのです。私は禁忌を犯しました。ですが、どうか御聞きください。私の言い分をお聞き入れください。私は断じて、望んで奪った訳ではないのです。彼らもまた、私の生きる世界を侵したのです。多くの命を奪ってきたのです。であればこそ、私も望むと望まぬの別なく、彼らの命を奪うほかなかったのです。どうか、お許しください。私に罪を与えるならば、この罪を贖うことを求めるならば、どうか彼らにも相当の報いを。かの蛮族にも、その蛮業に相応しい報いを。どうか、お願い申し上げます。もしも、私の願いが聞き入れられなければ、私だけがこの罪を背負い、この罪への恐怖を、いつ与えられても可笑しくない罰への怯えを、戦ったが故に得た惨めさを、抱いて、抱えて生きて行かねばならぬのです。そんなのは、そんなことは間違っている。私が選んだ訳じゃない。私が望んだわけじゃない。どうか、私がこの場から逃げることを見逃してください。この剣から手を放すことをお許しください。貴方が望まれたような人間に、キリスト者に成れなかった私を。私の惨めさを許し、どうかこの惨めさに泣くことを許してください。果たして、このままブリテンの地が蛮族の手に渡ろうとも、どうか私の事を懲らしめないでください。どうか、この小さな身の上をお許しください。恐ろしさに負けて、戦場から逃げる私を追わないでください。私の翼をもがないでください。素朴な野に咲く命を奪わないでください。この地を守ってください。私に代わり、強い貴方こそが、強さを私達に求める貴方こそが、私に代わり私達を守ってくださいますように。心より、お願い申し上げます。天にまします我らが父よ、あぁ、背中に矢が突き立ちました。私はやはりここまでです。貴方が望まれたのか、コレが貴方の答えなのですか。答えなのですね、蛮族の矢は私に届き、私の剣は蛮族に届かない。私の祈りは天に届かず、ただ私の痛みを、血を、叫びを、ただただ吸い上げるのみ。召し上げるのみ。なるほど、そうか、そうであれば、もう祈ることは無い。さようなら。さようなら。キリスト者が自死できぬ者を指すと言うならば、例え地獄に向かうと言えども、私は自ら泉に身を投げよう。明日を迎えることが無いとしても、せめて最期くらいは自分で選びたい。弱い自分を選び取りたい。生娘のまま死ぬ自分を守りたい。この上で、陵辱されることには耐えられそうもないから。鎧を身に纏ったまま、剣を捨てて、私は目を閉じた。




我は神に仇なす者也。
我は霊長史より英霊を奪いし者也。
我こそは天を堕とし、魂と肉体を救済する者也。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。