「死ぬがよい。全てを差し出してから死になさい。いえ、違うわね、貴様らは死んだわ。ヱぇ、コレが正解ね。さぁ、速いところ貴様らの財物全てを差し出せ。」
「無い、だと?ハハハハハハッ!!面白い冗談だ、あれだけ教会の連中も王侯の連中も、神の為だとか言って財物を貯め込んでいたじゃないですか!さぁ、さぁ!早い所、出してくださいな?私、急いでるんです。これからこの街丸ごと燃やさなきゃですし、何より、速い所郊外に布陣してるイングランドの方々を叩いておきたいんですよー。お判りいただけてます?」
「あ、お分かりじゃない、じやあ、仕方ありません。ジル、この高貴な方々を細切れにして差し上げてください。あっ、傷口は一一焼灼してくださいね、その方が長持ちしますから。一流の画家が傑作を仕上げる時のように、ゆっくりと丁寧に、逆さ吊りにして爪先から一寸ずつ殺し続けてください。」
「おぉ!流石はジルが育てた子達です!手際が好い!これには主も大変に喜ばれますよ!間違いありません!…で、話す気にはなりました?…あ、そう。」
「はぁ~~…あの、いい加減話してくれませんか?わ・た・し、忙しいんですよ!この街って、吐き気を催す程に教会が多いじゃないですか、あちこちあちこち…あぁぁぁぁぁ!!!!!私を!あのヒトを見下ろすなああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ハァ…ハァ…あ、ごめんなさい。取り乱しました。いえ、教会の高い塔って大嫌いなんですよね。私と、私の大切なヒトを見下すばかりで、クソの役にも立たないのですよ?誰の許しがあってあんなもん立てたのか教えてくださいます?あ、いえ。やっぱりいいです。どうせこれから粉々にしますし。」
「ジル?手始めに其処の、すごく目障りなので焼いてください。え?司教?お偉い聖職者は脂がのっててよく燃えるので、そのままでお願いします。はい、おねがいします。おお、これはいいですね。石造りなのが燃えにくいので玉に瑕ですが、塔が高い分ステンドグラスが弾ける様子も派手で素敵です。芸術点高いですよ。」
「あ、そろそろ話す気になりました?え?悪魔?…は?……どいつも、こいつも、わからず屋さんめ。あの、私さっきもいいましたよね?忙しいんです、これから結納のための資金を用意しなきゃいけないのです。」
「あのヒトには誰よりも幸福に、豊かに暮らして欲しいんです。私と一緒に、沈黙すら心地好いような、そんな生活を保障しなきゃいけないんです。絶対に。そのためにも、私はこれから彼方此方を巡らなきゃならないわけです。新居に丁度よさそうなお城、以外は全部焼かなきゃですし、あ、実は私お城に住んでみたくて…あのヒトは気に入ってくれるかな?ま、飽きたら燃やしますけど。」
「おとと、話が逸れましたがとにかく彼方此方からお金とか物とかを集める必要があるんです。ここは、何て言いました?えぇっと…あぁ、そうでした。オルレアン!オルレアンとか言いましたね、ありがとうジル。ここオルレアンが最初という訳です。」
「…幸先悪いですね。泣いたり叫んだり、罵声を浴びせたりばっかり…ばーっか、ばーっか…ばっかり…がっかりだなぁあ。ねぇ、祈らないんですか?」
「ほら、ほらほらほらほーら!これ、あげますよ?そう、聖書。好きでしょ、あんたら。ほら、お口にだして読みましょう!ほら!読め。読め。読めよ。なんて書いてあるんだ?なんて書いてあるのか、そこに書いてあることは何?ねぇ、人を焼くコトか?王位継承で争うコトか?農民を搾取するコトか?ん?ん?んぅ~????これは、違いますよね?ね?ね?」
「……はやく。はやくしろよ。早くッッ!!!!答えなさいヨおォォォォガアァァ!!!我々の信仰は不純の極みにして曲解の見本市ですってイえぇぇぇぇぇぇ!!!!!間違ってましたと!!謝れよ!未来永劫苦しめよッ!!あのヒトは焼かれたんですよ!焼き殺されたんですよッ?わた、私の、わだじの目の前でッ!!」
「あああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁッッ!!!あのヒトを見捨てて逃げた私自身が憎い!にくいにくいにういにぐいィッ!!!だのにっ…私を逃がしてくれたあのヒトが愛しいのです!そ、そして、私の全てを穢し焼き殺しておきながら、剰え私を持て囃し!崇め!そして尚も彼の死を凌辱する貴様らが憎いッ!!!」
「我が憎悪に有限の天など無いッ!私は要求しているわけではない!聖書も正確に読めぬ蛆虫未満のド腐れド文盲の貴様らには丁度よかろう!私は、わざわざ命じているのだ!地獄に金は持って行けませんよ???ね?ですから、さっさと差し出しなさい!金とか銀とかありますよね?」
「…遅かったですね。どうやらジルが地下室も見つけてくれたようです。流石ですね、ジル。十字架に貼られた金箔から法衣に使われてる金糸まで、根こそぎに致します。さて、ジル、こちらの不信心な方々には、あのヒトの代理として私が天罰を下しましょう。ジルは今日中に街の全ての教会、館を回って来て下さい。罪人は全員、私の下へ。燃え滾る針金で全身をこんがりと焼きながら細切れにしてくれます。」
「明朝、オルレアン郊外のイングランド軍を鎧袖一触に伏し、駆け足でルーアンに向かいます。オルレアンの住民、ですか?いるならば、捨て置きなさい。ただし、それ以外全てを灰に換えるのです。家も家畜も井戸も図書館も教会も館も城も…そして、私とあのヒトを擁護しなかった非人も、です。一人残らず懲罰を下すのです。」
「ジル、私達の旅は始まったばかりです。あのヒトが戻ったらまた、前みたいに軍隊ごっこを楽しみましょうね?」
ジルと呼ばれた男は恍惚の表情で、手を組み祈りを捧げた。骸だけが連なる荒野。跡形もない街一つ分の灰の山だけが残った。
ルーアンの街にて。瓦礫の山。再会。熱く燃え滾る街。崩壊する教会の尖塔。男と女。二人分の影。女は全てに火を放った。全てを焼いた後で、因縁の広場で、彼女は無傷の男を抱きしめた。
「なんと…なんと清清しい。暴力的なまでの清涼感に、思わず酩酊してしまいそうだ。あぁ、またせたな。貴方も、待ちくたびれただろう?そんなことない…か。フフ…そうか、ならイイんだ。あぁ、だが私にとっては余りにも長い苦痛だった。この忌々しいルーアンを跡形もなく粉微塵にするまでに、私は余りにも時間を掛け過ぎたんだ。この地には、燃やし尽くすべきものが余りにも、余りにも多かったから。」
「紙の記録も、記念碑も、
「邪魔。邪魔なの。邪魔だから。余りにも目障りだったから、だからその都度燃やしてしまったの。ごめんなさい、堪え性の無い女だって笑って欲しいわ。でも、そうね、あの衝動にも似た何かに、私は抗えそうもない。今だって、きっと抗えない。」
「特に、あの高い尖塔…私と貴方を、私と貴方を…見下して、見下げて、睥睨して…許せない。偉そうに…許せなかった。」
「教会も、修道院も、見つけた端から燃やしたの。石造りは燃えにくいからイヤね。腹が立ってしようが無いの。ジルから貰った兵士を総動員して、石の一片迄粉々にしてやったわ。今頃農民の石臼にでも変わっているのじゃないかしら?きっとその方が石も喜ぶわね。クソの役にも立たない、高くてギラつくだけの塔に、無駄に使われるよりもずっと。」
「…寂しかった。寂しかったわ。謝りたかった。謝りたかったの。貴方に、赦して欲しかった。貴方以外の、汚らしい何かに赦しを乞うてしまった、過去の私を。貴方以外に、貴方の為に祈ってしまった私を。」
「私の信仰が間違っていたばかりに、私も、貴方も、燃やされたのだから。そう、もや、されたの。熱かったわ。いえ、貴方はきっと、もっとずっと熱かったわよね。痛かったわよね。ごめんなさい。だから、ごめんなさい。貴方の事、私、置いて行っちゃった。痛くて、怖かった。でも、貴方が逃がしてくれて、生きてくれって言われて。私、やっぱり聖女なんかじゃないの。知ってたことだけど。」
「ほんと、バカみたい。いえ、バカだったのね。チヤホヤされて、英雄だって持て囃されて。…結局、貴方が…貴方が…燃えて、燃えてしまったのよね。私?アハ…私なんてね、どうでもいいの。今は、どうでもいいの。ただ、三度目に、ここに来た時。広場に、貴方の…貴方だったものがあって。それで…私、おかしくなってしまったの。」
「う…うヴッ…ぉォエェッ…げ、ご…ぅう…グゅ…うぅ…ごめんなさい。あの時もね、吐いちゃったの。うん、貴方の目の前で。」
「黒くて小さい、コロコロッとした何か。何かしら?そら…肉よね。」
「貴方だったものだって、私、気が付けなかった。それで、立て札を視て、見せしめにされた悪魔って、文字を視てやっと気づいたの。貴方だったもの。ちっちゃくて、臭い肉の塊。どこの部位なのか、わからなくて、でもとにかく、狂ったみたいに泣きながら抱きしめたの。悲しくて。悔しくて。」
「それで、それで…もう、ね、う、恨めしくて。恨めしくて恨めしくて恨めしくて恨めしくて……。」
「あのね、臭いも酷かったのよ。いつもの貴方の匂いとは違うの、本当に、ヒドイ臭い、そう、本当にそうだったの。何にも例えようが無いの。焼き過ぎて丸まって硬くなった肉が腐った臭いもしたけれど、でも、それ以上に…。」
「道行く人が、皆、貴方のカラダに、肉に、貴方に、唾を吐きかけるの、タンとかだけじゃないの、家の奥から壺とか桶を持ってきて、貴方の上に糞尿を捨てていくの、は、ははははははははははッッ!!!」
「ハハ、ハハハ……はーーーーッぅもう、最ッッ低…ドブネズミにも劣る醜悪無比な人型をした何かの放つ悪臭。腐った信徒共の臭い。でも、私ね、貴方を庇ってその汚物を、被る勇気が無かった。今ならあるわ!でも、その時はまだ、その勇気が無かったの。だから、ごめんなさい。いまなら、たとえ酸を浴びせられても、貴方を庇うことが出来るわっ。…だから、どうか、ゆる、して。赦して。」
「もう、嫌なの。胸に抱えることもできないくらい。両手で捧げ持ってしまえる、それしかなかった貴方を、もう二度と見たくないから。もう二度と見ない様に、貴方のことを守らせて。今度は一緒に居させて。」
「間違いは私が正すから。全部、綺麗にするから。汚物は、綺麗にしなきゃ。貴方が汚れてしまうもの。鼻が曲がりそうな悪臭は、私と貴方の敵の死体が放つ腐臭だけで十分だもの。この町も、ジルの話だと一週間もしないで綺麗に出来るらしいから…あ、そうそう、ジルも貴方の帰還を歓迎してくれるみたい。」
「そうね、そうだわっ!このままパリまでいきましょうよ!そう、それがいいわッ!パリでお祝いをするの!」
「何のお祝いかって?それは勿論、私と貴方の為のお祝いよ?また、一緒に。これからはずっと一緒に、ず――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っっっと!軍隊ごっこをするのだから。」
「そう。軍隊ごっこ。使うのは本当の武器。私と貴方を傷つけるすべての敵の肉を引き裂いてしまうための武器だもの。ジルが調達してくれる軍隊で、私と貴方を汚そうとしてくる敵を皆綺麗に浄化するの。色が抜けて。食べ残しの肉が剥がれ落ちて、骨屑の白さだけが残るまで、ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ…って揉み洗いが必要ね。みんな浄化できれば私と貴方の勝ち、みんな浄化できなくても私と貴方の勝ち。飽きて一緒にどこかで静かに暮らすことになっても私と貴方の勝ち。敵の敗け。敵は敗けよ。絶対に負けるの。」
「敗者は全員死刑!死刑!死刑!死刑死刑死刑死刑死刑よッ!!!!!全員まとめて火に焚べてやるッ。奴らの種火でパンを焼きッ!奴らから搾り取った血で葡萄酒を作ってやるッ!私のッ!私のすべてを穢した奴らに掛ける慈悲など無い!奪った分際でまだ愛されようなどとッ!!!!!何たる侮辱か!屈辱か!凌辱かッ!!貴方の死を凌辱する者は何人たりとも許さないッ!!!一人残らず殲滅する!そこに、迷いなど無い!命も財産も!全てを収奪する!あるべき場所へと!熟れた果実を圧搾するようにぺらぺらになるまで徹底的に搾り尽くしてやる!その贅肉塗れの樽腹を三枚おろしにして炙って食ろうてやろう!」
「神に祈れ!居ない神に祈れ!祈ればいい!救いは来ない!私と貴方が焼かれた様にッ!綺麗ごとで済ませてなるものか!私を知る者、知りながら手を差し伸べなかったもの、敢えて見捨てた者、破局に追い込んだもの、火を焚べた野郎べら、その全てをこの手で根絶やしにする。王侯貴族など、関係ない。一農奴から一王侯に至るまで、その全てを貴方の足元に平伏させ、改宗させたのち、熱した針金でじわじわと、四肢を切り飛ばしてから、枯れ枝の如きそっ首をも焼き切ってくれる。奴らの信奉する聖書、押しつけがましく悪趣味なソレ、ソレに、その文の一言一句であろうとも違えた者を一人残らず根絶やしにしてやる。奴らの言う正義の名の下に、神の名の下に理不尽な殺戮を断行する!本望であろうが!」
「………そこまでして、やっと奴らは自らが信奉するその教えとやらの間違いを認めることが出来るだろう。私も、貴方も、とても優しい故に、奴らの言う所の迷える子羊とやらを、終局に導いてやろう。終わらぬことには始まらぬ。黴臭い伝統、古いだけの遺跡、面の皮ばかり厚い聖職者ども、全てまとめて焼却処分だ!」
「数百の街を焼き、数千の教会を焼き、数万の信徒を焼き…ここまでしても未だ、私と貴方に天罰は落ちず。私も貴方も、老いることも無ければ、傷を負うこともない。神のものである死の左右さえも、今や私と貴方の手の中。これ以上、何を神から奪えば好いのだろうな?終末、来るのか、ソレ?」
「アハッ!ワハハハハハハハハッ!愉快!愉快だ!」
「さあ、愛しいヒト。私の全て。私の魂と肉体、その真の主。これからは何に気兼ねすることもなく、悠久の法悦を貪るとしましょう。ね、貴方。」
「天にまします我らが父(笑)には、ちと強めの灸を据えてやる必要があります故。その長々と伸びた鼻っ柱を、瘦せ衰えたガキの細腕を圧し折るように、二度と使い物にならぬ様にしてやると致しましょう。」
「ふふっ…夢にまで見た夫婦の共同作業ですね。まさか、初めてが子作りでも結婚式でもなく、街を焼くことだなんて…ポっ…ヤダ、照れてしまいます…なんて、なんて素敵なんでしょう。情熱的、ですね?うふふ、なんてお顔してるんですか。予想以上?ヱぇ、そうでしょうとも。貴方、もしや私の気持ちの大きさ、見誤りましたね?」
「ドジなとこは変わってなくて安心しました。さあ、行きましょうか。そろそろジルも戻ってくると思います。彼、すごく仕事の手際が好いんです。貴方をこの街で見つけてくれたのも彼ですし。あ、そういえば…ね、ねね、パリで何するか、今のうちに決めておきましょうよ!都会なんて初めてですし、それに、色々買い物もしてみたいですから!ね?」
「お金とか、そういったことはご心配なーく!今の私達、すごーくお金持ちなんですよ?ノルマンディーは豊かな土地でしたし、ん?えぇ、はい、ちょこっと盗賊家業を。あ、でもご安心を、面倒ごとはありませんから。ほら、私、なんか火とかが出せるようになりましたし。すっごく燃えるんです!コレ!ドラゴンみたいでかっこいいですよね?ね?アハハ…百人も千人も変わりありません。だから、大丈夫です。夫婦の共有財産は多いに越したことありません。私の財は全て、貴方の財。そう思って、ぜーんぶ貰ってきましたから。ね?偉いでしょ?えへへ…褒められてしまいました。」
「あ、ジル…来ちゃいましたね。じゃあ、お楽しみは後でに取っておきましょう。え?お楽しみ?…むふ、お楽しみは、お楽しみです。あー、自分の信仰心が篤くて困っちゃいます。だって、聖女とか巫女って、つまりは
「飽きるまで、火を視ましょうよ。気が済むまで。スッキリするまで。」
「この憎しみと憤怒が癒える迄、灰に換えて差し上げましょう。ね?」
女は嬉しそうに旗を振った。焔を纏った気高い旗。宝と奴隷を満載して、彼女の軍勢はパリをも焼き、その歴史そのものを抹消した。
我は神に仇なす者也。
我は霊長史より英霊を奪いし者也。
我こそは天を堕とし、魂と肉体を救済する者也。