7月20日、午前2時。
「う〜ん…幻想御手って何処で手に入れられるんだろう…」
あれから数時間程経ったが、どうやって幻想御手が手に入れられるのかが一切何処にも載っていなかった。どんな形で、どのような場所にあるのか、さっぱり分からない。色々な掲示板を渡ってみたりもしたが、手掛かりは一切無かった。
「う〜ん…」
深い思考に陥る。ふと時計を見ると、時刻が2時を回っているのに気づいた。
「そろそろブレーカー切りに行かなきゃな。」
前も言ったように、ここはがっつり駅の敷地内で、見つかると確実にお縄に掛かってしまうので駅が始業する時間からはブレーカーを切りに行かなければならないのだ。
ニノマエは外に出てブレーカーを切った。しかし今の時間は日を跨いでいても、まだ街は真っ暗だ。今の時間帯はどこも店は閉まっているだろうし、只ブラブラ歩くというのも僕には合わない。
「そういや手掛かりは足で見つけるんだっけな…」
何か重要な手掛かりは地道に見つけるしか無い、と何処かで聞いたことがある。
「こんな時姉ちゃんがいたらな〜」
IQ200を超える正真正銘の天才、当麻紗綾。僕の姉。彼女にかかればハッキングなり何なりをして幻想御手を見つけられただろう。しかしそれは叶わない。自分自身で見つけないといけないのだ。
ただ、なんにも情報が無いので何処かに行こうと考えても無理だ。幻想御手は一体どういう作用で能力を底上げするんだ?
こういう時姉ちゃんはどうする?どうやって推理するんだ?
「…………!」
「ああ、そうか!」
部屋に戻り、スキルアウトから巻き上げたお金で買ったメモ用紙とボールペンを手に取り、字を書き連ねていく。
『幻想御手』
『能力』
『干渉』
『ネット』
『音楽』
『レベル0』
『ウェブサイト』
7枚のメモ用紙をびりびりに破き、天井に衝き上げる。
僅かな要素とそれを補う想像が脳の中で繋がり合っていく。
答えが―――見えた
「…いただいちゃった。」
◆◇◆◇
同日、午前8時。
あの後、様々な音楽サイトを渡って探してみた所、『Music Link News』というサイトで幻想御手を発見した。何故音楽サイトにそれが有ったのか。それは幻想御手が音楽だったからだ。能力を底上げするものである
「なんだか僕らしくないな…」
きっと今僕は恐ろしいぐらいにキャラ変していただろう。本来はおちゃらけキャラのはずなのに刑事ドラマに出てくるクール系イケm(ryになってしまっていた。
そして、僕はすっかり日の昇った学園都市の中心街を歩いている。やはり通学生が多く、逆行するように歩く僕には時が止めている方が通るのが困難な程だった。何故此処を歩いているのか。それは曲をCDに焼くために電気屋に行くためだ。まさかあのPCにUSBポートがついていないとは思わなかった。そもそもこの科学力の発展した学園都市に空のCDなど売っているのか、という疑問が湧き出て来るが、そこは気にしないでおこう。
暫くして通学生の波も収まりCD屋に辿り着いた。時を止め、店内に入ってCDを探す。30分探した所、店の端に小さく山積みになっているのを見つけた。こんなのほぼ見つけられないだろ、って場所だったからきっと探す人間が居ないんだろうな。勿論勝手に持っていくのは犯罪なのでCD分のお金をレジに置いて出ていった。
再び指を鳴らし時間を進め始める。データを焼く用のCDを買えたのは良いが、今帰ってもブレーカーは上げられないので意味がない。
「何しよっかな〜」
軽く鼻歌を刻みながら街をブラブラと歩いてみる。このぐらいの時間帯になると外に出ている人間は少なく、いるとしたらスキルアウトか
「それにしても、何で僕あんなコトしたんだろーなー」
紙を破って天井に衝き上げることで真実を導き出す当麻紗綾式の推理。何でそれが出来たのかは僕には分からない。姉弟の力と言えばそこで完結してしまいそうだが、もしかしたらこの世界が誕生したことによってついてきた後天的なものかもしれない。事実前の世界ではこんなに長い時間考えることは無かったし、感情のままに動いていた。
成長していると言えばそうなのかもしれない。というか僕はそう信じたい。能力もいいが、自分自身で成長するのは嬉しいことだ。
「……やっぱ帰るか。」
◆◇◆◇
同日、午後11時。
結局僕はあのまま何もせずに一日を過ごす事となった。いつの間にか夜になり、外に出てまたブレーカーを上げる。部屋に戻ってPCを立ち上げる。畝るような音を上げて画面が点く。昨日と同じく『Music Link News』のサイトを開き、幻想御手の曲をCDに焼く。やはりUSBの方が容量も多いのだが、そこはしょうがないだろう。
それにしてもこれは一体誰が作って、どのような目的でばら撒いているんだろう。ただ無能力者のレベルを上げたいだけなら隠れてする必要は無いし、何か裏の目的がある筈だ。曲を聞くだけで能力が手に入るなんて、そんな甘い話ある筈がない。
「…一体何の目的があるんだ?」
さっぱり手掛かりが掴めない。
「う〜〜ん…」
何か知ってる人は居ないのだろうか。学園都市でこの事について深く知っているのは上層部、警備員、風紀委員、研究者ぐらいだろう。
その中で接触したことがあるのは…
「白井黒子…かぁ〜」
◆◇◆◇
7月21日午後2時
この場所は第七学区。学生の多くが住まう学区だ。
「よし、探すとしますか。」
指を鳴らし、時を止める。道路を行き交う車が、空を飛ぶ鳥が、道を通る学生達の姿が、全てが止まる。
奥へ奥へと足を進めていく。裏路地に入り、暫く抜けたところで廃ビルらしき建物を見つけた。近くにはチンピラっぽい人間が2人転がっていた。
「おっ、危険な匂いがするなぁ…」
指を再び鳴らし、時を進める。
「さーて、中に行こぅ…!?」
突如爆音が鳴り響き、眼の前の廃ビルが鉄筋コンクリートの悲鳴を発しながら倒壊していく。
「…まじか。」
すると、粉塵の近くに2人の人影が見えた。
1人は歯が2本ほど欠けてる如何にも悪い人って感じのギョロ目の男で、もう一人のツインテールの少女に引き摺られている。何をどうしたらあんな光景が生まれるんだ。
「…?あれ、ニノマエさんじゃないですの!」
「どうも〜」
「どうも〜じゃないですわよ!一体何処に居たんですの!?まさか本当に時を止められるとか言いませんわよね?」
「そのまさかだよ。ちゃんと自己紹介した筈じゃないかな?僕は時を止めるspecホルダー、
「すぺっくほるだーとかよく分かりませんけれど、どうして此処に居るんですの?」
「ああ、そうそう、それね。これの事について聞こうと思って。」
そう言って持っていた小さめのバッグからCDを取り出す。白井黒子はまさかという風に口を開いた。
「もしかして貴方もこの事件を追っているんですの?」
「まあそうなるね。これの開発者が分かんなくてね。風紀委員である白井さんなら何か分かることがあるかなーって。」
「この前は私の前から堂々と逃げておいてよく言えますわね。わたくしあの後一時間ぐらい探しましたのよ。」
「そんな探す需要あったかな?」
「貴方…その能力がどれだけ貴重か分かっていますの?」
ありえない、という風に話す白井黒子。すると、装備に身を包んだ
「君達、大丈夫か!?」
「僕は通り掛かっただけなので大丈夫ですよ〜」
「わたくしも大丈夫です。」
警備員達にチンピラたちが連れて行かれる。さっき引き摺られていた男は同じ事を永遠と繰り返しており、一種の狂気を感じた。
全ての処理が終わり、帰り始めた白井黒子に僕はついて行く。
「それで、幻想御手についての事なんだけど、何か知らないか?」
「まずは今貴方が幻想御手について知っていることを教えてくださいますの?」
「確かに、情報共有は大事だもんね。」
一息ついて僕は話を始める。
「まず、今分かっているのは音楽によって脳に何らかの影響が及んでいること、開発者は何か裏の目的を持ってこれをばら撒いていること、ぐらいかな。」
「それだけですの?」
「しょうがないだろ、なにせ僕はここの学生じゃないし、情報源もほぼ無いようなもんだから。」
「それは自白と受け取ってもよろしくて?」
「駄目だね。取り敢えず、なにか知っている事はないかな?」
「そうですね…この事件について調べている『
「お~ありがとう。早速訪ねてみるよ。そんで、なんか体ボロボロだけど大丈夫?」
「…できればそれを最初に聞いてほしかったですの。」
「あぁ…ごめん。」
「な、なんで貴方が謝るんですの!?別にわたくしは気にしてませんし?」
「…なら良かった。じゃあ僕は行くよ。」
そして行こうとすると、白井黒子に声を掛けられた。
「そういえば…『すぺっくほるだー』って一体何ですの?」
「うーん、そうだね…」
この力はきっと学園都市ではイレギュラー中のイレギュラーだろう。もし何処かにバレるような事があったら確実に研究所にたらい回しにされる。
「白井さんの持っているような能力が人工的に作られたものだとすると、『spec』は自分自身で覚醒させた物だ。そしてそんな人達の事を『specホルダー』と呼ぶんだ。」
「そうなんですね…ですがわたくしはそんな話一回も聞いたことがありませんの。」
「そりゃあ皆が自分からその存在を隠しているからだよ。specホルダーは個人個人が強力な力を持っているんだ。僕のように時間を止めたり、ね。」
「へぇ…ああ、後もう一つ、ニノマエさんは何でこの事について調べているんですの?聞いた限りspecホルダーは皆が存在を隠しているんですわよね?」
「それは…興味だよ。」
「興味?」
怪訝そうに聞き返してくる白井黒子。
「そう、興味。折角学園都市に居るんだし、一つぐらい思い出を作ろうと思ってね。」
「思い出作りにしてはいささか大変過ぎませんの?」
「それは良いんだよ。取り敢えず、僕は引き続きこの事について調べる。解決できたら解決するよ。そんじゃ。」
ここで話を切り、指を鳴らして時間を止める。妙に白井黒子の顔が心配そうに見えた。
◆◇◆◇
7月24日午前2時
「あれは違う…これも違うな。」
夜、木山春生の部屋を物色している男が居た―――ニノマエだ。研究用に使っているであろう机やその周りを探している。何故この部屋に入れたのか、それは簡単だ。木山春生が来るのを待ち伏せして、扉が開いた瞬間に時を止めるだけ。なんとも簡単な不法侵入だ。
「此処にもないな…」
それより一つ問題がある。……幻想御手について研究した跡が“まったく”見つからないのだ。
「一体何処なんだ〜?」
最後に残しておいた一つの棚。その三段目に共感覚性などの論文が大量にあった。
「何だこれ…『音楽を使用した脳への干渉』?」
「………」
やばっ。確信犯じゃないかこれ。犯人が実は協力者とか発生したとか、困るシナリオ堂々のトップ10なんだが。
「すぅ―――ふぅ。」
深呼吸しろ僕。一旦落ち着いてさっさと物を片付けてここから逃げようじゃないか。
テキパキと物を片付け、そそくさと僕は部屋を出ていった。まあこうなったのはしょうがない。計画を早く立てよう。
…入りかけの木山以外誰も居なくなった部屋、棚から一枚の論文がはみ出ていた。その題名は『音楽を使用した脳への干渉』。
―――ニノマエは知らぬ間にシナリオのトリガーを引いてしまっていたようだ。
7月24日―――継続
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