とある異界の失速時間《ステールタイム》   作:一途一

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加重限界(オーバーフロー)

7月24日午後3時

 

「こりゃ酷いな…」

 

僕はボロボロに成っている高速バイパスを見た。さっきから様々な攻撃が木山春生から繰り出されている。

対して御坂美琴は押されているようだ。

 

「やっぱり無駄に手ぇ出すもんじゃなかったな~」

 

武器は手元に持っているドライバー一本だけ。逆にこれで攻略するほうが難儀だ。

 

「帰ろっかな…」

 

そして戦いの結末も見届けずにさろうとしたその時、不気味な声が聞こえた。

 

「…?」

 

視界の向こうには、一体の胎児のような化け物が。

 

「あ~、やっぱもう少し居ようかな…」

 

直ぐ様警備員から大量の弾幕を浴びせられる化け物。しかし、一向に怯む様子はなく、寧ろ力を強めているように見える。

 

「どうやって倒すのかねぇ…」

 

下に降りてもう少し様子を伺ってみる。すると、高架下に件の首謀者の顔があった。

 

「うわぁ…犯人野放しかよ…」

 

木山春生は腰から拳銃を取り出し、こめかみに銃口を突きつける。そして引き金を―――

 

「…っ」

 

辺りに指を鳴らす音が小さく響き、全ての動きが止まる。動きを止めている拳銃を手から引き抜き、再び時間を動かし始める。

 

「全く、あんたは最悪のシナリオを引き起こしては居るけどお気に入りだから死んだら困るんだけど。」

「…は?誰だ君。」

「そりゃ見覚え無いに決まってるよ。あんたがこんな事をしなければ接触することも無かった。」

 

奪い取った拳銃を見せひらかしながら話を続ける。

 

「あれって一体何なんだ?あんたが作るんだからきっとAIM拡散力場関連なんだろうけど。」

「勘が鋭いな。」

「あんたの部屋漁ったからね。」

「一体何時やったんだ?私の部屋を見ても面白く無いだろうに。」

「昨日の今日だよ。ていうか人に部屋入られて動揺しないんだ。」

「もう終わりだからな。それぐらいの事では驚かないさ。」

 

淡々と言葉を絆ぐ木山春生。しかしその姿が放つオーラは哀愁そのものだった。

僕は意を決して聞いてみた。

 

「ねぇ、あれ倒す方法ってある?」

「ああ、あるぞ。信用は出来ないだろうが。」

「あるんなら渡してくれないかな。その様子じゃあんたもこの状況を望んでないだろう?」

「そうだな……そうかも知れないな。」

 

少し笑みを零して言う木山春生。彼女はポケットからチップを取り出した。

 

「これも音楽かな?」

「ああ、流せばネットワークが解体される。」

 

確か上に警備員の車両があったな、と上に行こうとすると、木山春生が僕に声を掛けた。

 

「君は…何故私を信じるんだ?」

「どうしてだろうね…勘かな?」

 

脳内の中では木山春生の家で見たとある写真が想起された。きっと悪い人では無いということは、実際に“悪”として生きたことがある僕には一目瞭然だった。

 

「少なくとも僕と違ってあんたは良いやつだ。じゃ。」

 

指を鳴らし、警備員の車へ向かう。鍵が掛かって居たが、拳銃を5発程打ち込んだ所ようやく開いてくれた。

 

「さてと…」

 

電源を点け、渡されたメモリを挿し込んで、再生ボタンを押す。

 

「…あれ?」

 

よく見たら、制限が掛かっているじゃないか。ちくせう、どうすれば良いと。

 

「…ちっ。」

 

時を止め、急いでファイルをコピーする。そしてそのまま学園都市中を駆け巡り、ありとあらゆるスピーカーに音声データを読み込ませた。

 

どれだけ時間が掛かったかは言いたくもない。

 

元の車の中に戻った時、遂に音楽が流れ始めた。

 

音が流れていく、開放されるような。そんな音が。

 

 

…思わず聞き入ってしまった。音楽が止まっていない事を確認し、車の外に出る。

 

高架下ではいつの間にか化け物は駆逐されており、木山春生は警備員に連行されかけていた。状況を見るに、きっと感動的な終わり方をしたのだろう。なんだかいい雰囲気がしている。

 

だが、僕はいい雰囲気とは真逆の状態だ。勿論自業自得だとは思っている。勝手に事件に関わりに行って、姉ちゃんの真似事のように推理をした。正しい行動でないのは明らかだ。

 

「救われないなぁ…」

 

ああ、何か報酬でも…ふと、下を見る。今僕は事実上孤立していて、この都市で生きていく為の協力者が必要だ。

 

「………」

 

無言で木山春生が乗った装甲車を見つめる。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

7月24日午後4時半

 

 

木山春生を乗せた装甲車は何の問題もなく道路を走っていた。

 

だが、突如現れた青年に全てが狂わされた。

 

車内に突然轟音が響いたかと思えば、扉が大きく外れており、それが有った場所には1人の青年が立っていた。

 

黒い服装に身を包んだ、妖しい青年だった。

 

そして直ぐ様応戦しようとしたが、放った弾は総て着弾する前にあらぬ方向に飛んでいき、警備員が負傷はしなかったものの、車体に無数の穴を開けた。

 

少年の口が開く。

 

「これはどうも、警備員の皆さん。ちょっとそこの研究者さん、貰ってくよ。」

 

「は?」

 

 

 

 

時は既に遅かった。チェーンで固く繋がれて居たはずの木山春生は忽然と姿を消しており、黒い服装の青年も居なくなっていた。

 

 

「…一体どういう事なんだ…」

 

 

◆◇◆◇

 

 

意外と装甲者の扉を破るのは簡単だった。中には案の定警備員がちょっとと木山春生がいた。

 

ここは昔…と言っても此処2年位だが、思い出して挨拶をしてみよう。

 

「これはどうも、警備員の皆さん。ちょっとそこの研究者さん、貰ってくよ。」

 

一斉に驚いた顔をして銃弾を放ってくるが、時を止めて銃弾が人に当たらない角度に調整して飛ばしておく。

そして再び時を止め、そこら辺のライフルを拝借して木山春生を拘束している鎖を断っていく。最後にどうにかして引きずり出し、死ぬような思いをしながら管理室跡(我が家)に戻る。

 

考えてみると呆気ないものだ。再び時を進める。木山春生の顔が動き始める。

 

「君は…さっきの。」

「どうも〜。」

「随分と乱暴な事をするじゃないか。」

「車以外傷は付けてないよ。それと…しっかり理由はある。」

「ほう…どういった理由なんだ?」

「まず、僕は能力者じゃない。specホルダーっていう、言うならば似ているようで何か違う物だ。」

 

少し間を置いてまた話し始める。

 

「…そして、一番大事な部分だが、僕はこの世界の人間じゃない。」

「…?随分と話が飛ぶな。」

「しょうがないんだ。とにかく前の世界で、なんやかんやあって死んでしまったんだけど、何故か今僕がこの世界に居るんだ。この超能力のある世界に。これは一種のやり直しのチャンスだ。だからあんたという協力者が必要なんだ。」

木山は少し思案した後、ゆっくり話し始めた。

「私はあの子達を救う必要がある。言っても分からないだろうが、私には限りなく絶望に近い運命があるんだ。君は…私の事をよく調べたのだろう、私としては余りお勧め出来ないのだが。」

「…あんたは昔の僕と多少似通っている部分がある。僕の方がよっぽど酷かったが、あんたの手段は選ばない、というのは僕と同じだ。だから…」

 

しっかりと木山の目を見て話す。

 

「だから、よく表現できないがあんたが必要だ。この先この複雑な世界で生きるためにね。」

 

そして木山は笑った。本人の口からは想像もできないような笑いが出て来た。

 

「はははははっ!いやぁ、久しぶりに柄にも無いことを言ってしまったよ。今日はきっと忘れられない日になる。」

 

「それは…協力してくれる、ってことで良いのかい?」

「ああ、暫くは私の事については進展はないと思うし、極力力に成れるように頑張るよ。」

 

ああ、これが仲間を手に入れた感情なのかな…嬉しさが込み上げてくる。

 

「それは嬉しい。これからどうぞ頼むよ。」

「此方こそ。」

 

 

 

 

 

 

光の筋が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みに、君は此処に住んで居るのかい?」

「家がないからね。ちょっとお借りしてるんだ。」

「これ、2人で住めるのか?私は早速心配になってきたんだが。」

「大丈夫大丈夫。…うん、大丈夫。」

「自信が無くないか?」

「いざとなったら新しい住処を見つけるよ。」

「やっぱり心配だな…」

 

7月24日―――停止

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