とある異界の失速時間《ステールタイム》   作:一途一

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幕間『キヤマとニノマエ』

8月1日

あの事件から数日、僕たちは大変な状況に直面していた。

 

「あ゛っつい…」

 

昼は部屋の中に日差しが煌々と照り付け、夜は湿った暑さが扉の隙間から流れ込んでくる。

 

本格的に夏が訪れてからずっとこのザマだ。

 

部屋はなんとか二人入れるような大きさはあるが、如何せん狭い。

 

「ニノマエ君、やはりエアコンが必要だ。馬鹿みたいに暑いぞ。」

「分かってるけど…どうやって付けるんだ?」

「諸々の配線は任せろ。君はエアコンを買って来るだけでいい。」

「買って来るだけって…あの記事見た?とても表立って活動出来ないんだけど。」

 

輸送中の装甲車が襲撃された事を大々的に打ち出している新聞の記事を思い出す。

僕の身元が無いからって事件に集まっている世間の目を此方に向ける気だ。

指名手配犯に成っていないのが唯一の救いか。

 

「そこは時を止めれば良いだろう。」

「……」

 

時を止め、前回CDを買った家電量販店からエアコンを掻っ攫ってくる。

 

「…あんたは悪いことは嫌いそうだから黙ってたんだが。」

「確かに普段の私ならこんな事は言わないだろうが、ここは非常事態だ。私達の命を優先するしかあるまい。」

 

木山はエアコンを見て言った。

 

「そうだな…確かにこのままじゃ僕たちは両方焼売の如く焼かれて蒸されてただろうね。」

 

「…で、室外機はどうしたんだ?」

 

 

 

「…ん?」

 

 

◆◇◆◇

 

8月5日午後11時

 

 

「ちょっと外出る?」

 

この街の大半を占めている良い子が寝静まったであろうこの時間、僕はこんな提案をした。

パソコンとにらめっこをしていた木山が振り返った。

 

「私はともかく君は外に出て大丈夫なのか?というかやることがあんまり無い気がするんだが。」

「いやいや、最近外に出ずに数日間ここに引き篭もりっ放しだろ?だから気分転換にでもと思ったんだけど。」

 

木山は少し思案顔をして、すぐに立ち上がった。

「確かにな、こんなに部屋に引き籠もってばかりでは体が腐ってしまうというものだな。よし、準備しよう。」

 

そして木山は着ていたシャツを脱ぎ始め…

 

「何回着替える時はカーテンを閉めてくれって言ったら分かるんだ!」

「む、済まない。」

 

 

同日同時、45分。

 

さっきと余り変わらないじゃないか、という格好の木山と僕は深夜の町並みを歩いていた。

 

「やはり夜だけあって人通りが少ないな。」

「散歩するだけでも気分は変わるもんだよ。」

 

「確かにな…んんっ、」

少し背伸びをしながら木山は言った。思春期にはいささか刺激的なポーズである。

 

「おぉう…眼福眼福。」

「何か言ったか?」

「いや、なんにも。」

「そうか、なら良いのだが。」

 

時計を見ると十二時を廻ろうとしている。夜はまだこれからだ。

 

…言っておくが木山を誘った理由に“そういうの”は決して含まれていない。決して。

 

暫く歩いていると自販機を見つけた。頼まれた緑茶と、自分用のコーラを買う。

 

緑茶の控えめな開封音とコーラの弾けるような開封音が混ざる。

 

「中々に今の生活は刺激的だよ。まさかこの学園都市にあのような場所がまだ存在するとは。」

「あそこも冬頃になったら閉鎖するんだよ。別の操車場を新たに作るとか。」

「私達もゆっくりはしていられない、という事か。」

「いいや、きっと起こるシナリオは向こうからやってくる。真偽の判らない噂はこの街では常に絶えないし、僕たちはそれを見極める最前線の位置に居る。『抗えない運命』のようにね。」

「確かに、そうだな…」

 

冷えたコーラの水滴がアスファルトの上に落ち、小さな染みをポツポツと作っていく。

 

「そろそろ散歩は終わりにして、管理室に戻ろうか。」

「ああ。」

 

 

静かな夜、二人の足音のみが平和な路地に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 




木山春生:優しいお姉さん(笑)暑いとシャツを脱ぎ始めるので注意。今後活躍する。多分

ニノマエ:自称最強のspecホルダー。体と頭脳は成長する余地があるが、能力は一生進化しない。

白井黒子:ニノマエという存在を知っている数少ない人間。好意?知らんなそんなの。
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