8月15日 午後7時
今日は珍しく僕が出掛けていた。理由は簡単、食糧不足だ。元々はコンビニのご飯などで済ませていたのだが、それではバランスが悪い、と木山に言われたため買い出しに行ったのだ。
流石に前回のような出来事が続くとは思っていないので、特に警戒もせず買い物をしてきた。途中で変な空間移動の能力者と鉢合わせたりもしたが、いい感じに撒いて来た。」
因みに僕のこの世界での知識はアニメ一話分しか無い。
組織の仕事で忙しくて…けいおん!!しか見れなかったんだよ!!!
一アニオタとしてこの作品は見るべきだと思ったのだが、どうにもタイミングが許してくれなかったのだ。結局フィギュアを数体所持するのみとなってしまった。
ところで、今大量に買った食料品のせいで手が千切れそうなのだが。荷物を持ってみたら予想以上に重くて、能力を発動するトリガーである指パッチンが出来なかった。
おまけに何を間違えたのか卵を袋の一番下に置いてしまった。ここで下ろせば確実に卵が割れて今日の夕飯はスクランブルエッグ一直線だ。
「あぁ〜荷物多すぎ大杉漣、なんちゃって。」
自信の腕にこれでもかと食い込んでくる持ち手を時折ずらしながら歩いていると、1人の少女を見つけた。
特徴的な髪型に、何より常盤台の制服。御坂美琴本人であるかと思ったが…
「なんか違うなぁ〜」
頭に謎のゴーグルをしているし、何より目が光を帯びていない。いや、そう見えるだけなのかもしれないが。それに、御坂美琴なら持ち歩かないであろう楽器ケースも背負っている。
そういえば、最近風の噂で御坂美琴がサバゲーを街なかでしている、と言う物を聞いたことがある。その類の噂がまたもや本当なのか?まだ幻想御手事件から一ヶ月も経っていないんだが。
…ここは取り敢えず話しかけてみよう。
まずは第一印象が大事だ。相手を刺激しないように…そっと話しかけてみる―――違うな。これ立てこもり犯にする話しかけ方だ。
「こんにちは、お嬢さん。突然で済まないんだけど僕と一緒にお話しない?」
あ、駄目だわこれ。今までちゃんとした話の掛け方をしてこなかったせいで文言が完全に誘拐犯のそれになってしまった。
ゴーグルを掛けた御坂美琴っぽい少女は振り返り、不思議なものを見るような目をしながら口を開いた。
「貴方は一体誰でしょうか?とミサカは正体不明の青年に疑問を投げかけます。」
おお、ご丁寧に今自分がしている動作の状況まで教えてくれた。
「いんや、ちょっと気になっただけだよ。最近街なかで御坂美琴がサバゲーしてるっていう噂をよく聞くからね。もしかしたら、と思って。」
「さばげー、ですかとミサカは聞き慣れない言葉に疑問を呈します。」
「サバイバルゲームの略だよ。」
「そうですか、とミサカは略称の意味を知り少しスッキリしました。」
少し口調は気になるが、割とフレンドリーな事に少しびっくりした。名前はミサカで良いのだろうか?自分で言ってるんだし。
「そんで、ミサカさんは一体何なんだ?御坂美琴のクローンとか?」
「はい。」
あっ。あっさり言っちゃって良いタイプの事なのか。
「一体誰が作ったんだ?」
「機密事項です。」
そうだもんね、人間のクローンだもんね。バレたら確実に社会問題へ突き進んじゃうもんね。
ふと服の下らへんを見てみると、ゲコ太の缶バッジがついていることに気づいた。
「この缶バッジは?御坂美琴から貰ったのかい?」
「はい、お姉さまからもらいましたとミサカは改めて素体のお子様センスに絶望します。」
やっぱり御坂美琴から貰ったのか。
「じゃあ最後に〜…その楽器入れの中、何が入ってるんだ?」
御坂美琴は楽器なんて弾く様子が想像出来ないし、ミサカが急に楽器に目覚めたとでも言うのか?それは可怪しい。
「機密事項です。」
「だよね〜」
絶対中に銃とか入ってるやつだ。中を確認してみてもいいが、分かり切っているような物だ。一体何をするのかなんて僕は知ったこっちゃない。
お礼に自分用に買ってきたうまい棒2本の内一本をあげた。コーンポタージュ味だ。因みに僕はやさいサラダ味。
渡したらすぐに袋を開けて食べ始めた。本人は好奇心の塊のようだ。
「…美味しいです。先程食べたアイスや紅茶と違い、菓子ならではの食感とコーンポタージュの風味がマッチしてとても美味しいです。とミサカはこのお菓子を絶賛します。」
どうやらベタ褒めのようだ。今度出会うことがあったらまた買ってこようかな。
ふと時計の時刻を見ると意外にも時間が経っていた。そろそろ帰らないと袋の中身の冷凍品がとんでもないことになりそうだ。
「やばっ、そろそろ帰らないと。話してくれてありがと。」
「いえいえ、とミサカはうまい棒というお菓子の美味しさを再び楽しみながら答えます。」
「…ん?」
なに。何故か2本目を食べ始めて居るぞ。こいつ、一本では飽き足らず2本目をしらっと食べ始めやがった。一体いつ盗られたんだ。
「…いつか2本目の借りは返してもらうぞ。」
「…善処します、とミサカは曖昧な答えを返します。」
「―――…まあ良いや。」
踵を返して操車場の管理室に向かう。大きめの道から細い路地に入って数分、いつものボロいコンクリ部屋が見えた。
それにしても、なんとも不思議である。クローンと言うだけであそこまで性格が変わるものなのか。
◆◇◆◇
8月15日 午後8時58分
先日またもや例の家電量販店から貰ってきた(大嘘)冷蔵庫の中に食材を入れる。こんなに電力を使って大丈夫なのか、と聞いてみたがどうやら電力会社のサーバーをハッキングしてここの使用電力量だけ計測出来ないようにしてあるらしい。僕にはさっぱりだ。
木山には感謝しか無い。僕の生活の6割は木山に支えられている、と言っても過言ではない。因みにコンロはIWATANIだ。偉大なりIWATANIカセットコンロ。
冷蔵庫に大量の食材を入れ終わり、ここからは僕のフリータイムだ。因みに今日、木山は元の家に忘れ物をしたとかで此処にはいない。外に出ても大丈夫なのか、と聞いたが、木山は大丈夫と言っていた。大丈夫かな…
椅子に腰掛け、先日買った漫画雑誌を開く。この世界の漫画やアニメも面白いものばかりだ。早くこのコンクリ部屋生活から普通の部屋生活にグレードアップしたい。
「……」
外から微かに銃声が聞こえる。僕は何回も銃の音を聞いたことがあるから間違いない。大分遠いが、この時間帯は静かな上にこの建物自体が防音性皆無なので聞くことが出来る。
「………お゛ぉぅう!?!?!?」
耳を澄ませていると、急に劈くような爆音が鳴り響いた。思わず叫んでしまったじゃないか。
「これはやばいな…一体何が起こってるんだ。」
外では爆炎が確認できる。急いで部屋の中から出て奥の様子を見てみる。あれは…
「あ、
爆炎が邪魔で良く見えない。一体誰が居るんだ?
目をもっと凝らしてみる。ぼんやりとしているが、あれは常磐台の制服だ。それに、服の下ら辺に缶バッジがついている。
まさか……いやいや、あり得ない。こんなのはあってはいけない。起きてはいけないんだ。
「嘘だ…」
無情に時は進む。明らかに一方通行の方が格上なのは分かっている。それに、ミサカはクローンである。本体ほどの力が無いのは明白だ。
これは一方的な戦いであるのは明らかだ。それに深夜であるのにこんな事をしているのが許せない。近所迷惑だ。
「さっさと止めてもらうか…」
少しずつ隠れるようにして相手の場所に向かっていく。少しずつ、少しずつ……しかし攻撃の音が止み、断末魔が聞こえてきて何かが飛んできて、隠れている車両の向かいに転げ落ちた。
それは、なんとも言い難い。しかし、そうとしか言えないような形をしていた。
「足…!」
瞬間、不気味な軋みを上げてディーゼル機関車が持ち上げられる。思わず飛び出してしまったその先には、落ちている缶バッジを必死に拾おうとしている足をもぎ取られたミサカの姿が。
だが、一方通行は躊躇しない。奥の橋の高さを超えるんじゃないだろうかという高さまで機関車を浮かび上がらせる。
そして、漸く缶バッジを拾ったミサカの元に列車が落とされ―――
「全く。このアニメこんなに暗い話だったのか。しかし、これも現実に起こっている。そして今ミサカさんを救けられるのは僕しか居ない。」
しかし一方通行が此処まで悪いやつだったとは…なにか事情があるのかもしれないが、この笑みではその可能性さえも消えそうだ。
「ちょっと、流石にまぢ許せないかな。」
ふつふつと怒りが湧き上がってくる。しかし、今突っ込んでいっても確実に勝てるかと言えば勝てない確率が大きい。なにせ学園都市最強。どんな技を使ってくるか判らないのに手を出すのはアウトだ。
今は目の前のミサカを救けなければならない。ミサカは運ぶ事ができる。そして、後は運ぶ医者だ。…たしか、木山の知り合いに凄腕のカエル顔の医者が居るらしい。
そうと決まれば行動するしか無い。活動する世界が変わったことによってガチガチに固まったミサカを持ち上げ、爆速で病院へと向かう。
今気づいたが、このまま時を動かせばミサカは確実に失血死してしまう。…しょうがない。時を動かして一回止血するしか無い。着ていた黒色のシャツを脱ぎ、破いて紐状にする。時を動かすのは少しの間だけだ。
時が動き始める。
機関車が、
一方通行が、
他の妹達が。
急に違う場所に居ることに気づいたミサカは少し驚愕するが、すぐに足の痛みに意識を奪われた。
「……ッッ!!!」
「待て、止血するから。痛いのは少しの間だけだ。すぐに病院に着く。」
服で作った紐で足を縛り、未だに止まらない血を見てすぐに動く。
「ほら、ちょっとおんぶするぞ。」
「何故貴方が居るんです、とミサカは疑問を呈します。」
「良いから、早く行くぞ。」
ミサカをおんぶし、再び時を止める。そして僕は再び走り始める。
「こんなんじゃ無い筈なんだけどな〜、僕の人生。」
またもや起こった事件に心底辟易する。
◆◇◆◇
暫く走り、漸く病院についた。病院中を走り回っていると、運良くとある診察室の中にカエル顔の医者を見つけた。
時を再び進め始め、カエル顔の医者に話しかける。
「すまない、彼女を治してやってくれないか!」
カエル顔の医者は心底びっくりした顔で此方を見る。
「え、いったい急に現れてどうしたんだね?。」
「良いから、早くしてくれ!命の危機だ。」
カエル顔の医者は片足のないミサカを見るとすぐに行動に移した。カエル顔の医者はミサカを抱えて扉に手を掛けた。
「君は少し此処で待ってるんだね?暫く時間が掛るかもしれない。」
「ああ。分かった。」
…あれから三時間、廊下の外は暫く慌ただしかった。
そりゃあ突然足をもぎ取られた御坂美琴らしき人物が運ばれてきたとなると必然だろう。
廊下で座って待っていると先程のカエル顔の医者が話しかけてきた。
「彼女の命に別状はないね?全く、突然現れたりして。君は一体誰なんだね?」
どうやら命に問題は無いらしい。それにしても、随分と変わった喋り方をする医者だ。
「只のしがない一般人だよ。それ以上でもそれ以下でも無い。……生活水準はそれ以下かも。」
あのボロいコンクリの建物が頭に浮かぶ。戦闘の余波で吹き飛ばされたりしてたら発狂物だ。
カエル顔の医者が此方を覗き込む。
「それにしても、随分と処置は早く終わったんだけどまるで彼女の足、現場からすぐ此処に持ってきたような具合だったね?まるで…時を止めたようだね?」
なんだコイツ、僕のspecを看破しかけてきた。冷や汗が止まらない。さっさと此処を退散したくなってきた。
「まあ、冗談は此処ぐらいにしておいて。彼女はここで預からせてもらうよ。治る頃には連絡したいんだけどね?連絡先はあるかな。」
「あぁ、連絡先ね。ちょっと待って…はいこれ。メールアドレスだけど良いかな?」
「構わないよ。それじゃ、彼女の病室に案内しようかね?」
カエル顔の医者について行く。今は眠っているらしいが、今夜はここに留まっておこう。木山とは結局会ってないし、どうしたものか。
…まぁミサカを救けられたのだしここは良しとしよう。
「…ぁあ、眠ッ…」
◆◇◆◇
俺は確かに電車であの人形を潰した筈だァ。しかしなんだァ?血が少しも飛び散ってねェ。
「チッ、一体何だってんだよォ…」
畜生、胸糞悪ィ。オマケにオリジナルまで来やがったァ。
「面倒くさいったらありゃしねェ。」
◆◇◆◇
8月15日午後12時
明かりのついていないコンクリ部屋、そこに帰ってきたのは木山であった。
「少し警備員を撒くのに手間取ってしまった…って。あれ、ニノマエ君は居ないのか。エアコンも点けっぱなしじゃないか。」
冷蔵庫の中身は大量に入っているが、パソコンの電源は点けっぱなしで、どうにも慌てて飛び出して行ったようにしか見えない。
「全く…あの子もまだ子供ということなのか?」
知らない内にニノマエのシナリオに巻き込まれていることを木山はまだ知らない。
「…久しぶりにビールでも呑もうか。」
カシュッ…と小気味の良い開封音がコンクリの部屋に響いた。
8月15日―――停止
9982号生存ルートです。まあ気付かれてももう一体作ればいいだけだし大丈夫だね!
次回は遅くなります。