実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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1年目
第1話 高校生活の始まり


 4月となり今日は入学式。

 聖ジャスミン学園の体育館へと入る。

 数年前に改修したらしい、真新しい体育館にはクラスごとに人数分のパイプ椅子が並べられている。

 俺が座るのはスポーツ健康・理論科の5組の椅子だ。

 このクラスでは、スポーツを通じての健康管理の方法論、整体師や鍼灸師としての基礎知識、大学や専門学校でスポーツトレーナーの資格を取得することを目標に、試験に合格するための勉強をするなどアスリートを支える裏方を育成するのを目的としている。

 野球とは距離を置いた俺だがなんだかんだ言って、知っていること、出来る事はスポーツに関わることだけしかないからな。

 

『ガヤガヤ……』

 

 式の始まりを目前に、空席の目立っていた体育館にも人が集まりだす。

 

 男子生徒と呼び込もうと、新しい科を開設するなど積極的に取り組んでいる聖ジャスミン学園だが、長年女子校だっただけにやはり、圧倒的に女子生徒が多い。

 

「やっぱり女子が多いな……」

「そうでやんすね。女の子だらけでやんす〜! 秘密の花園でやんす〜! 女の子とキャッキャムフフ……楽しみでやんす〜!」

 

 独り言に対し思わぬ返事。

 聞き覚えのない声、その内容、そして「やんす」? 

 後ろを振り向くと瓶底眼鏡をかけた少年が立っていた。

 

「どうも初めましてでやんす。

 オイラ、矢部(やべ)明雄(あきお)というでやんす」

「あっどうも、瀬尾 光輝です」

「よかったでやんす〜! 

 オイラと同じ、バラ色の青春を求める仲間がいて。

 瀬尾君も女の子だらけの甘い学園生活を送りたくてここに来たんでやんすね?」

 

 ……なんという誤解だ!

 

 周りに聞かれなかっただろうかという俺の心配をよそに「高校生活1日目で友達ができたでやんす〜!」と矢部君は浮かれている。

 そうか、もう友達なのか……。

 矢部君のコミュニケーション能力には敬服するばかりだ。

 

『新入生のみなさんは席に着いてください』

 

 アナウンスが流れると周りの生徒は慌ただしく着席する。

 矢部君も例外ではなく、「また後で……でやんす」と俺に声をかけると自分の席に向かう。

 

 

 順番に校長の話、学園の概要、担任の紹介などが終わり式も終盤に差し掛かる。

 

『新入生代表挨拶、小鷹(こだか)美麗(みれい)

 

「はいっ!!」

 体育館に響き渡るはつらつとした声に、思わず小鷹と呼ばれた生徒を目で追う。

 知的な雰囲気、凛とした瞳が印象的な子だった。

 

「あの子だよね、スポーツ推薦で入学してきたのって?」

「うん、ソフトボール部で中学時代キャプテンだったらしいよ」

 

 見知らぬ女子生徒の会話を聞き納得する。

 確かにキャプテンって感じだな。

 

「柔らかくあたたかな太陽の光に、草花も色づき始めた今日という良き日に……」

 

 新入生代表の挨拶を聞きながら、高校生活に思いを馳せる。

 これからどんなことが待っているのだろうか。

 

 ☆

 

 入学式から数日。

 学校生活にも少しずつ慣れてきた。

 クラスにも馴染みだしたし、話をする相手もできた。

 

「瀬尾君、今日は部活動紹介があるでやんすよ」

「そうだったっけ、どんな部活があるんだろうね?」

「料理部の家庭的な女の子もいいでやんすが、華道部の大和撫子も捨てがたいでやんす〜」

「ははは……」

 

 矢部くんは相変わらずだ。

 自然と乾いた笑いがこぼれた。

 

川星(かわほし)さんはどう思う?」

「ほむらは断然野球ッス! 野球好きとしては当然ッス!」

 

 彼女は川星ほむら。

 長い髪を後ろでふたつに結び、野球帽を後ろかぶりにしている。

 とんでもない野球好きで、スコアの付け方はもちろん、野球規約も覚えているらしい。

 もはや野球好きではなく、野球マニアである。

 彼女がこのクラスを希望したのも、スポーツ関係の仕事に就職したいわけではなく、スポーツの知識があればもっと野球観戦が楽しくなるからという理由である。

 

「とりあえず、行ってみよう」

 

 

 部活動紹介では、3年の部長たちが自分の部活のアピールをしていた。

 元女子高としての名残か、文化系の部活動が盛んなようだ。

 ただ運動部の中でも、ソフトボール部は強豪らしく、全国大会の常連らしい。

 スポーツ推薦の枠があるくらいだし、間違いなく強いのだろう。

 

 

 全ての部活動の発表が終わり、解散になった。

 印象に残った部活についての話から、自然に中学時代の部活に話題が移った。

 

「オイラは野球部だったのでやんす!」

「えっ そうなの?」

「どこの中学でやってたッスか?」

「パワ中でやんす。パワ中の韋駄天と言えばオイラのことででやんすよ!」

「本当ッスか〜?」

 

 川星さんが疑問に思うのも無理はない。

 俺も話を聞くまではそんなイメージを持っていなかったのだから。

 ちなみに川星さんは、野球観戦で忙しく部活どころではなかったらしい。

 

「瀬尾君は何部だったッスか?」

「俺も一応野球部だったよ」

「どこでやっていたんでやんすか? それがいちばん重要でやんす」

「……あかつき中だよ、一応ね」

「あかつき!? 超名門じゃないッスか!! 

 さすがに中学野球まではチェックしきれなかったッス〜! 

 身近にそんな凄い人がいたとは!」

「あの猪狩守とチームメイトだったでやんすね。

 でも、だったら何で聖ジャスミンに?」

「まぁ色々あってね……」

 

 そこからの質問攻めは、曖昧な返答で乗り切った。

 

 ここでも猪狩か……。

 野球を辞めた今でもあいつの影がちらつく。

 いや、影じゃなくて光か……あいつのまぶしいくらいの才能は。

 それをまともに見ることができなくて、俺は目を逸らしたんだ。

 

 でも野球やめた今、もう関係ないさ。

 これでいいんだ、きっと。

 

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