実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第21話 地区大会への道

「ゲームセット!」

 

主審のコールがグラウンドに響く。

予選第7回戦が終わる。

結果は6-4で、聖ジャスミン学園の勝利。

これで地区大会への出場が決まった。

 

最後のアウトを奪った俺は、捕手の小鷹さん、そして笑顔を浮かべ次々と駆け寄って来るジャスミンナインとハイタッチを交わす。

 

「やった、やったッス!」

「見たか!

これがアタシたちの実力だよ!」

 

川星さんは飛び上がって喜び、夏野さんは胸の前で拳を握りしめ雄叫びを上げた。

いつも明るくひょうひょうとしている夏野さんだが、勝ち進むにつれ、闘志をみなぎらせる様子が多く見られるようになった。

 

「よくやったぞ〜!」

 

観客席を見ると、1番最初…同好会で活動していた頃とは比べものにならないほどの人たちが、俺たちを応援してくれていた。

この応援が、みんなに活力を与えてくれているのかもしれない。

 

「みんな〜、ちょっと聞いて〜!」

 

俺たちは集合し、揃って監督の方を見た。

 

「地区大会まで進んだけど、まだ終わりじゃないからね!

気を抜かないこと、いいね?」

「はい!!」

 

俺たちは監督の言葉を肝に銘じ、地区大会で待つであろうまだ見ぬ強敵たちに思いを馳せるのであった。

 

 

 

「……ということで、私たちは地区大会まで駒を進めたわけだけど…

地区大会初戦の相手は…帝王実業に決まったわ」

 

帝王実業高校。

あおいちゃんが言っていた、あの強豪校だ。

 

「彼を知りて己を知れば百戦して危うからず…って言うけど、私たちの場合、強い相手に立ち向かうにはまず自分を知らないと。

いくら相手を研究して弱点を見つけても、自分たちに何ができて何ができないのか知っていないと、その分析が無意味になってしまうわ」

 

それはそうだな。

例えば、配球の傾向を分析して「次の1球は確実にカーブをストライクゾーンに入れてくる」とわかっていても、その打者がカーブを打つのが苦手ならヒットを打てる可能性は高くない。

それならば別の狙い、攻め方を用意する必要がある。

 

 

今日はチーム全員揃ってのミーティング。

秋季大会初戦こそコールドで勝利を収めたものの、勝ち進むにつれて守備のミスや粗さの目立つ攻撃など、チームとしての経験値の低さが露呈する場面が増えてきていた。

地区大会進出を決めた一戦でも、ミスが重なり失点したり、攻撃では徹底的に弱点を攻められ凡退するなどして厳しい戦いになっていた。

 

「1人1人の課題を明確にして、そこを見直していかないと…って思うの」

 

小鷹さんの提案にみんなは頷いた。

やはり弱点を克服する必要性を、みんな感じていたのだ。

 

「…私たちの地区はここ以外の、いわゆる「激戦区」と違って目立つ高校がいくつもあるわけじゃない。

だから個人の能力で押し切って勝ち進むことも可能だった」

 

小鷹さんに太刀川さんも続く。

 

「でもその戦い方は、主力が徹底的に研究され、マークされた時には通じない。

だから今すぐ直せなくても、自分で自分の弱点を知って、意識しておくことが必要なんだ」

 

太刀川さんは語りかけるように言った。

打球の処理をバックに託し、打線の援護を信じてマウンドに立つ。

投手というポジションをからチームを見渡している太刀川さんからすると、このチームには課題がまだ山積みなのだろう。

 

「私の場合は肩の弱さとスローイングの精度が課題ね。

いくらヒロがいい投手でも、不運なヒットやバックのエラーは避けられない。

ランナーが出塁する度に盗塁を図られるようじゃ、ピッチャーの足を引っ張ることになる。

…この前の試合でも盗塁を3つも許しちゃったしね」

 

小鷹さんは悔しさをにじませて言った。

確かに前の試合では相手チームの足を活かした攻めが目立っていた。

 

「ミヨちゃんも守備がまだまだ下手で、セーフティバントに対応できないし…

バッティングでも緩急とか大きく曲がる球は苦手ですー…」

「ミヨちゃんだけじゃないッス!

ほむらも、ベースカバーの判断とか、ボテボテの打球の処理に迷いがあるッス。

それに…ほむらは非力で、打撃ではほとんどチームに貢献できてないし…」

「つまりは守備の拙さでランナーを許して、そのランナーに盗塁を決められる。

もしくは、盗塁を防ごうとストレート系の球種を投げさせて、それを打たれる…悪循環ね」

 

…大空さんも川星さんも選手としての経験はまだ浅い。

それでも努力を重ねて目覚ましい成長を遂げている。

小鷹さんだってスローイングの問題点を、配球やチームを鼓舞するキャプテンシーで補っている。

そんな彼女たちが自らの欠点を口にしているのを見るのは…やっぱり辛い。

でもチームとして成長するためには必要なことだ。

 

「…私の場合は、打席での心構えに問題があるだろうな」

「美藤さん…」

「打つのが難しいボールを追いかけて簡単に打ち取られる。

そして、それ以降の打席ではそのボールを意識しすぎて裏をかかれる。

…我ながらバカだと思うよ。

中軸がこれでは打線は機能しない…!」

 

プライドの高い美藤さんが、己の非を認めている。

美藤さんには誰にも真似できない打撃技術がある。

どんなボールでもついていけてしまうからこその失敗だが、あの反省があればもう心配はいらないだろう。

 

「打撃でいうなら僕たちもだよね、ナッチ?」

「うんうん。

もっと強い打球を打てないとピッチャーに怖くないと思われるからね。

筋トレだよ、筋トレ!」

 

守備では文句なしの小山君と夏野さんの2人もさらなる飛躍を目指している。

そして、そんな2人に触発され…

 

「オイラももっと素振りをするでやんす!

自慢の足を活かすためにもバッティングを磨くでやんす!」

 

ジャスミンのスピードスターにも火がついたようだ。

 

「っていうか、今のところ目立ったミスがないのは聖ジャスミンのWエースだけ…ってことになるわね?」

 

「そ、そんなことないよ!」と太刀川さんは否定する。

だが…

 

「そうかなあ…

俺はともかく、太刀川さんに問題点なんてある?」

 

俺は正直な疑問を口にする。

 

「ぜ、全然だよ!

あたしは、もっと長いイニングを投げられるようにならないと…

瀬尾君に負担かけちゃってるし…」

「そんなこと…」

 

…負担をかけている…それは俺も、いや「俺の方が」だろう。

俺は血行障害のせいで投げられる球数に制限がある。

だから試合終盤の短いイニングを投げることしかできないんだ。

これではWエースなんて、とてもじゃないけど言えない。

負担をかけているのは、足を引っ張っているのは…俺だ。

 

「…あんたがどんな爆弾を抱えていようと、このチームはあんたのチームなのよ?

だからあんたは全力で打って、投げて、走る。

それだけでいい。

…それだけで十分よ」

 

俺の表情から気持ちを読み取ったのか、小鷹さんが俺を諭す。

心配をかけてしまったな…

 

「……ありがとう」

 

「……なんだか少し暗くなっちゃったね。

でもマイナス思考はダメだよ?

みんな自分のこと、すごくよくわかってる。

だから大丈夫だよ!

試合やればなんとかなるよ!!

心配なんてまるでないって!!」

 

………!!

 

監督の言葉にみんなが目を丸くしている。

だが次第に「そうだよ!」「なんとかなるッスよ!」とみんなに元気と明るい表情が戻ってくる。

 

監督の本当の魅力は容姿や元気のよさではなく、空手を通じて育まれた優しく素直な人間性なのかもしれない。

 

こうして俺たちは帝王高校との試合に向けて、弱点の克服と相手の研究を進めていった。

 

 

「う〜ん……」

 

部室に唸り声が響く。

1台のテレビが写す映像を、みんなが食い入るように眺める。

 

「これが山口か…」

「このフォークの落差ヤバイよね…」

 

帝王の主力投手である山口 賢。

今俺たちは、彼が登板しているビデオを見て対策を考えているところなのだ。

 

「このフォークを打てないと、山口を攻略することはできないよね…」

「いや…こんな真ん中ストライクからボールゾーンまで落ちるフォーク、追いかけてもヒットにはならないでしょ」

「2ストライクからのフォークは全部見逃す…ってのはどうッスか?」

「う〜ん…

でもそれだと落差の小さいカウント球のフォークを投げられて見逃し三振になるんじゃない?」

 

太刀川さんの疑問、川星さんの提案に小鷹さんは頭を悩ませながら答える。

 

「…う〜ん」

 

となるとストレートか、たまに投げるカーブを狙うか…?

だけどストレートは常時130km/hは超えてるし、カーブは打者の目先を変える時くらいにしか投げないから、狙っても不発に終わる可能性が高い。

 

「やっぱり粘って失投を待つしかないよね?」

「それが現実的ね。

フォークを多投すれば握力も弱くなっていくだろうし、そもそも高校1年生がそんなタフなはずないもの」

 

そんなことを話していると、小鷹さんが何かを思いついたようにニヤリと笑みを浮かべこちらを振り返った。

 

「あんたが恋い焦がれてる、愛しの猪狩守でも試合中にへばるんだからね」

 

冗談まじりにそう言って笑った。

 

い、愛しいかはともかく…

確かに体力的な問題はあるはずだ。

そこを突くしかない。

 

「山口以外の投手は、帝王ほどの強豪校の選手にしては穴が多いし…

とにかく山口を攻略することね」

「うん」

「それしかないね」

 

「その山口の弱点、オイラが見つけたでやんすよ!」

「!!

矢部君ホントに!?」

 

矢部君は「ふっふっふっ」と不敵な笑みを浮かべる。

「…帝王高校の怪物1年、山口 賢。

やつの弱点はこの投球フォームでやんす!」

 

山口のフォームは、いわゆる「マサカリ投法」だ。

右投げの山口の場合は投球に入る際に左足を大きく振り上げ、踏み込むと同時に下にまっすぐ伸ばしていた右腕を大きく回して振り下ろすように投げる。

クセがある投げ方だが、通常よりもボールにより多くの力を伝えることができるフォームだ。

 

「山口が足を上げた時の右手に注目でやんす。

……一時停止!

ほら、ここでやんすよ!」

 

矢部君が画面を指差す。

 

「ああ!

ボールの握りが見える!

挟んでるってことはフォーク…だよね?」

 

再生ボタンを押すと、止まっていた山口が再び動き出す。

そして山口が投じたのは、ストンと落ちる変化球…フォークだった。

 

「おお…!」

「どうでやんすか!

これなら球種の判別ができて打てる確率アップでやんす〜!」

 

顎に手をやり、満足げな矢部君。

しかし川星さんが何かに気づく。

 

「…あれ?」

「どうしたの川星さん?」

「いや…今の1球はボールの握りが見えたんスけど…

次のボールを投げる時は、右手が体に隠れて見えなくなったッスよ?」

「あれれ、でやんす?」

「矢部がじっとりとした目で見るから山口が気づいたんじゃないの〜?」

 

小鷹さんが呆れ顔で言い放つ。

 

「これは録画した映像でやんすよ!!」

矢部君はこれに、怒りと悲しみ、そして戸惑いが混じった表情でツッコミを入れた。

まさに百面相。

顔芸の域に達している。

すぐ横では、それを見た夏野さんがケラケラと笑っていた。

 

 

その後も目を凝らして映像を見続けたところ、ボールの握りが見えるのは毎回ではなく、何十球かに数回であることがわかった。

 

「これじゃ、このやり方は通用しないね」

「うう…でやんす」

「わざわざ見なくても、フォークを投げてくるってわかるカウントでしか握りを見せなかったしね。

大方、決め球を投げるっていうので力んだんでしょ」

「じゃあ、話は振り出しに戻ったってことだね…」

「…まだでやんす。

山口の弱点はもう一つあるでやんす!」

 

「ふ〜ん。

じゃあ言ってみれば?」

 

みんなからは明らかに期待していないであろう返事しか返ってこない。

 

「いや、聞いてあげてよっ!?」

「グスンッ…

オイラの味方は瀬尾君だけでやんすよ〜」

 

矢部君は俺の胸に飛び込んでくる。

……できれば、その汁まみれの顔を拭いてからにして欲しかった。

 

「わかったわかった…

矢部、言ってみなさい」

 

(俺の胸で)涙を拭った矢部君は、気を取り直して話始める。

 

「…あのフォームでは、いくらクイックで投げても隙だらけでやんす。

オイラなら3盗も余裕でやんす!」

「それはそうだけど…

でも、そもそも塁に出るのも難しいんだよ?」

「わかってるでやんす。

だから次の試合ではオイラを1番打者として出場させてもらいたいんでやんす!

チャンスが欲しいでやんす!」

 

…確かに矢部君に出塁のチャンスが多く巡ってくれば、攻略はかなり楽になる。

でも機能してる今の1、2番を動かすのは…

 

「い〜んじゃない?」

「夏野さん?」

「1番 矢部っち、2番 ミヤビンのコンビで…さ!」

「ナッチ…?」

「矢部っちとじゃ、ミヤビンとみたいなコンビネーションは見せられないし…

単純なバットコントロールで言ったらミヤビンの方がアタシより上。

それだったらミヤビンが2番で、アタシは打順を下げた方がいい」

 

「夏野さん……

………うん、そうだね。

矢部君、1番バッターとしてよろしく頼むよ」

「任せるでやんす!

念願のポジションで活躍してみせるでやんす!」

 

ということで矢部君が1番に、小山君が打順を1つ下げて2番に入ることになった。

夏野さんはクリーンアップの後ろ、6番を打つことになり、小鷹さんたち3人はそれぞれ打順を1つ繰り下げることで落ち着いた。

 

「出塁=盗塁」が期待できる矢部君が1番で機能すれば、テクニシャンの夏野さんをチャンスの場面が多く巡ってくるであろう6番に置ける。

これは夏野さんの前後の打者にもいい影響を及ぼすだろう。

打たなければいけないという精神的な負担や相手チームからのマークが分散されるのだから。

なんにせよ、打線の鍵を握るのは矢部君ということになりそうだ。

 

……んっ?

 

夏野さんが川星さんのところに歩いていく。

いつもの夏野さんとは打って変わった、真剣な表情で話を始めた。

 

「ほむほむ…わかってると思うけど、矢部っちが1番に移るってことは、これまで以上にほむほむの打席が重要になるってことだよ?

9番は上位打線に攻撃を繋ぐのが仕事。

出塁することでチャンスを広げられるし、自分がランナーを還して打点を挙げればビッグイニングをつくれるかもしれない」

「わかってるッス!

他のバッターが勝負を避けられて、塁が埋まった状態でほむらの打席が回ってくることもきっとあるはずッス。

そうなればほむらがランナーを綺麗に掃除してやるッスよ!!」

「ああ…ゲッツーで?」

「「タイムリーで」に決まってるッスよ〜!!」

 

ははは…相変わらずのムードメーカーっぷりだな。

 

川星さんの意気込みを軽く流し、笑いに変える夏野さん。

冗談好きな彼女だが、相手によって言葉やリアクションを選んで言っているのだ。

その繊細な感性は野球でも活かされている…と思う。

 

…川星さんはチャンスにメチャクチャ強い。

それは試合でも実証済みだ。

チャンスの場面で彼女がバットを振れば何かが起こる。

そんな期待をしたくなる、意外性のある選手だ。

それに、何気に足も早いんだよな…

競争したら俺も勝てるかわからない。

ラストバッターとしては理想的な選手なのかもしれない。

 

「次の試合はオイラに任せるでやんす!

ジャスミンの秘密兵器!

眠れる獅子であり、なおかつ未完の大器でもある、この矢部 明雄の活躍に乞うご期待でやんす!!」

 

いや、秘密で、眠ってて、未完成なのだとしたらいないも同然なんじゃ……?

 

「ほむらも負けないッス!

ジャスミンが誇る正体不明の謎の女、川星 ほむら…

いざ出陣ッス!!」

 

いやいや…川星さんほどわかりやすい人も珍しいと思うけど。

 

「山口なんてけちょんけちょんでやんす〜!」

「けちょんけちょんッス〜〜!!」

 

2人は「エイエイオー!」 と拳を天に掲げる。

…まあいいや。

流れに乗ってしまえ!

 

「よーし!

俺も頑張るぞ!」

「いいでやんすね瀬尾君!

その意気でやんす!」

「瀬尾君も一緒にやるッス!

せ〜の!」

 

「エイエイオー!

エイエイオー!!

エイエイオー!!!」

 

「…アホね」

「アホだな」

「アホですー」

 

みんなの冷たい視線を横目に3人だけでの「エイエイオー」は続いたのであった。

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