実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第24話 VS帝王実業高校 ③

「3アウト、チェンジ!」

 

6回表。

この回は2番からの好打順だったものの、ジャスミン打線は山口を捉えきれず三者凡退。

 

しかしこちらも一歩も引かない。

変化球を低めに集め、8番から始まる下位打線を3人で片付ける。

 

『ナイスピッチング!!』

『負けんなよ、聖ジャスミン!

応援してるぞ〜!!』

 

野太い声援が客席から飛び込んでくる。

目を向けると、キャップを被りボーダーのシャツを着た、古くからの高校野球ファンであろう中年の男性が、俺たちのことを応援してくれていた。

 

「ふっふっふ…観客もすっかりオイラたちの虜でやんすね…!」

「矢部君…」

「やっぱり人間というのは、なんだかんだで弱い方を応援したくなる生き物なのでやんす!

移ろいやすいのでやんす…!」

 

遠い目でスタンドを見渡す矢部君。

すると、そんな矢部君の前に小鷹さんが現れる。

 

「そうね…、きっと矢部の惨めで、みすぼらしい姿が観客の同情を買ったのね…!」

 

その言葉をきっかけに、矢部君がみんなにイジられ始めた。

 

「やっぱり矢部君のダメさは一級品だねー!」

「ほむらも前々から可哀想だなって思ってたッス!」

「ねこりんは今の矢部君のままでも…歯を食いしばればギリ大丈夫でござるよ〜!

紙一重ですけどな〜!」

 

「ひ、ひどいでやんす…

…あっ!」

矢部君は、この一連の様子を遠巻きに見ていた小山君を見つけ、助けを求める。

 

「小山く〜ん!

みんながひどいんでやんすよ〜!」

「ま、まあ、しょうがないんじゃないかな?

……事実だし」

 

「ぐふっ…!!」

 

矢部君はトドメを刺されたようだ。

 

「さあ、スッキリしたところで…

次の攻撃はちーちゃんからよ!

この回こそ追加点を取りましょう!」

 

小鷹さんがそう仕切り直す。

仕切り直すも何も、小鷹さんが始めたことなのだが…それは言わないお約束だ。

 

「矢部の死は無駄にしないぞ!」

美藤さんは意気込んで打席に入る。

 

「いや、死んでないよ!?

ブルーになってるだけだから!!」

 

「そうだよね、矢部君!」

俺が振り返ると、矢部君は灰になっていた。

有名なボクシング漫画のラストシーンのように、真っ白な灰に。

 

「色が…青から白に変わったわね……!!」

「そこじゃないよ、夏野さん!!」

 

シュールなボケをかます夏野さんにツッコミを入れたところで、小鷹さんから声をかけられる。

 

「はい、そこの2人。

漫才が終わったら、さっさと応援しなさ〜い!

ナッチは早くネクストに行きなさい!」

「は〜い」

 

さすがにこの一言は看過できない。

「漫才って…

小鷹さん、俺は…」

 

「な・に・か・し・ら?」

小鷹さんは鬼の形相でこちらを睨む。

 

小鷹さんがこうなった時の返事は決まっている。

「何でもないです……」

 

だめだ…このチームにはボケが多すぎる…!

ユーモアが有り余ってる!!

 

 

俺たちがそんなことをしている間にも、美藤さんは奮闘していた。

追い込まれて3球粘ってからの8球目。

 

「ふっ!!」

美藤さんは快音を響せる。

 

甘いストレートをセンター前に運んで、ノーアウトランナー1塁。

 

「よ〜し、いくわよ〜!」

続く夏野さんはネクストバッターズサークルを出ると、バットをブンブンと振りながら気合を入れた。

 

 

打席に立った夏野さんに山口が投じた初球。

カウント球のストレート。

 

「ほいっと!」

夏野さんはバットを寝かせ、そのボールを転がした。

セーフティバント。

打球はサードの前へ。

 

打席に入る前に夏野さんが見せた、思い切りバットを振る姿から、強い打球を想定していたのだろうか。

定位置より僅かに後ろで守っていたサードはボールを慌てて捕球し、ボールを1塁に送る。

 

「アウト!」

バッターランナーはアウトになったものの、ランナーは2塁へ。

 

「1塁は間に合わないかぁ〜」

ベンチに戻ってきた夏野さんはそう頭をかく。

サードの打球へのチャージが緩かったので、間に合うかとも思ったが…肩の強さでアウトを取られた。

 

 

「7番 キャッチャー 小鷹さん」

得点圏にランナーを置いて、打席を迎える小鷹さん。

次のバッターが疲労でマウンドを降りている太刀川さんだけに、自分の打席で決めたいという思いが強いのだろう。

キリッとした表情で打席に入る。

 

しかし帝王バッテリーはまともに勝負をしてこない。

ボール球を振らせようと何球か誘っていたが、乗ってこないと見ると早々に勝負を避けた。

 

塁が埋まり、1アウトランナー1・2塁。

 

チャンスの場面だったが、8番の太刀川さんは高めの速球に力負けしてキャッチャーへのファウルフライに倒れた。

 

「まだチャンスは終わってないぞ!

頑張れ、ほむほむ!」

「勝負強さには定評のある、オイラまで繋ぐでやんすよ〜!」

 

声援を背に、「ほむほむ」こと川星さんが打席に向かう。

今日は山口の前にノーヒット。

でもチャンスの場面での川星さんは一味違う。

タイムリーを期待したい。

 

初球。

山口の投げたストレートに対し、川星さんは思いきりバットを振った。

 

「チッ!!」

バットがボールにかする。

 

「いいよ川星さん、その調子!」

「負けてないよー、頑張れー!!」

 

川星さんはバットを握り直し、もう一度構える。

そんな彼女に、山口はストレートを続けてきた。

 

ブンッ!

バットにボールが当たらない。

しかし先ほどよりタイミングが合ってきている。

 

…力関係で上回っている相手に遊び球はないだろう。

まっすぐで押してくるか?

それとも、変化球で空振りを取りにくるか?

 

3球目。

山口が投じたのはおそらくフォーク。

しかしボールが抜けきらず、高めのボールゾーンへの失投になる。

 

川星さんはこのボールをコンパクトに振り抜いた。

「カキン!」

打球はピッチャー返しになる。

山口はこの当たりをなんとかグラブに収めようとするが、勢いに負け、後方にボールはこぼれた。

 

内野安打になる。

誰もがそう思った、その時だった。

セカンドの蛇島が猛然とダッシュ、ボールを素手で掴み取った。

そしてそのままステップを踏まずに1塁に送球する。

 

「…アウトォォ!!」

ワァァーー!!

きわどいタイミングだったが惜しくもアウト。

蛇島のプレイに場内は大いに沸いた。

 

「ごめんなさいッス…

チャンスだったのに…」

暗い表情でベンチに戻ってきた川星さんの頭を、美藤さんがそっと撫でた。

「惜しかった。

いい当たりだったぞ」

 

「…ホントにね。

あれは蛇島にしてやられたわ」

1塁ランナーだった小鷹さんはヘルメットを外しながらため息をつく。

そして小さくつぶやいた。

「いい流れがあのプレイで引き戻されたかもね」

 

 

あの蛇島のファインプレイ以降、投手戦が続く。

瀬尾は6、7、8回とランナーを出しながらも、粘り強いピッチングで後続のバッターを抑える。

山口もあの守備で立ち直ったのか、淡々と打者を打ち取り続けていった。

 

「3アウト、チェンジ!」

9回表、聖ジャスミンの攻撃。

俺たちはこの回も三者凡退。

山口は7回以降、付け入る隙のない完璧なピッチングでジャスミン打線を抑えていく。

 

「…9回裏、あと1イニング抑えれば俺たちの勝ちだ。

……頑張ろうみんな!!」

「おぉーー!!」

 

みんながそれぞれの守備位置に散っていく。

少し遅れてマウンドに向かおうとすると、俺を待っていたのか、太刀川さんと小鷹さんが声をかけてくる。

 

「瀬尾君…大丈夫?

球数、かなり多くなってるけど…」

 

太刀川さんはそう言って、俺の右手、指先の方に視線を移す。

彼女の憂いを帯びた瞳を見て、血行障害のことを心配してくれていることがわかった。

 

「大丈夫だよ。

特に問題はないよ…ね?」

そうやって小鷹さんに目配せをする。

彼女を不安にさせるようなことを言わないでくれ、と。

 

「そうね。

ヒロ…、心配はいらないわ。

今日の瀬尾は絶好調よ。

っていうか、大会を通じて点を取られてない投手を心配する必要なんてないでしょ?」

俺の気持ちを酌んでくれたのか、小鷹さんはそう言い切った。

 

「…そうだよね!

瀬尾君、あとアウト3つだよ!

頑張ろう!!」

太刀川さんはそう言ってレフトのボジションへと走っていく。

マウンドを降りた時に比べ、元気が出てきたように見える。

それとも、最後の力を振り絞っているのだろうか。

 

 

「ああ言ってたけど…あんたホントに大丈夫なのね?」

 

太刀川さんの方を見ていた俺に、小鷹さんが念を押すように尋ねてきた。

 

「…今の時点では問題ないよ。

でも球数的にはいつ影響が出てもおかしくない…って感じかな。

だけどうちにはもう控え投手はいない。

だから、いけるところまでいってみるよ」

「そう…なら、もうひと踏ん張りしましょう!

気合よ、気合!」

 

小鷹さんが防具をカチャカチャと揺らしながらホームベースの方に向かう。

俺は手を握りしめたり、開いたりを繰り返す。

マウンドに着くとロジンバックを手に取り、指先にすべり止めをつけて馴染ませた。

 

「プレイ!」

9回裏、帝王実業の攻撃。

先頭バッターは4番の蛇島。

 

蛇島への初球。

選択したのは外角へのスライダー。

ストライクからボールになるこの変化球を蛇島は悠然と見送る。

 

…誘いには乗らないか。

4点リードされて迎えた最終回の先頭バッターだけに、じっくりとボールを見てくるつもりなのだろう。

 

小鷹さんはミットを内角に構えた。

彼女が要求したのはまっすぐ。

この球でまずはストライクを取る。

蛇島には積極的に打ちにくる気がない…とすれば、速いストレートならばとっさの対応は難しいはずだ。

手を出してきたとしても痛打はされない。

 

シュッ!

内角に投じたストレート。

蛇島はそのボールを捉え、狙い澄ましたように打球を左中間に運んだ。

 

「くそっ!」

読みが外れた…?

いや、蛇島は変化球打ちの上手い打者だ。

変化球ならカットできるという自信があったから、ストレートに狙いを定めていたのだろうか。

初球のスライダーをあっさり見送ったのも、たとえきわどいコースへの球をストライクと判定され、ストライク先行の不利なカウントになったとしても問題ないと判断したからなのかもしれない。

 

ツーベースヒットを打たれ、ノーアウトランナー2塁。

続くバッターは5番の綾部。

左打者の綾部に引っ張られてゴロを打たれるとランナーは3塁に進んでしまう。

できればランナーを進めずアウトを取りたい。

 

1球目は外角へのシュート。

しかしこれが真ん中よりに抜けた。

綾部はこのボールをレフトに弾き返す。

ワンバウンドした打球を太刀川さんが捕球した。

打球が強かったのが幸いして、ランナーはホームまでは還って来られなかった。

 

ピンチは広がりノーアウト1・3塁。

 

6番上川に対しては低めの変化球を続け2ストライクと追い込む。

そしてボールを1球挟んでの4球目。

小鷹さんのミットにボールを投げ込む。

 

ブンッ!

 

投げたのは高めへの全力のストレート。

上川のバットは空を切った。

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

やっと1アウト。

…あとアウト2つ。

 

 

次の7番バッターはパワーはあるが打撃が粗い。

変化球を低めに集めて打たせて取る。

 

ミットを構える。

出したサインはスプリット。

今日瀬尾が投げたボールのうち、最もコントロールが安定しているスプリットで攻める。

 

瀬尾がセットポジションからボールを投げた。

しかし瀬尾の手から離れたボールは私の構えたミットではなく、バッターの胸元に向かう。

 

「痛っ!」

 

失投がバッターにぶつかった。

デッドボール。

バットがグラウンドに置かれ、バッターが1塁に向かう。

 

これで満塁…ホームランで同点ね…

 

まずいわね…瀬尾のコントロールが乱れてきてる。

リミットがもう来たの…?

 

「タイム!」

 

マウンドに駆け寄る。

そして瀬尾に声をかけた。

 

「あんた…大丈夫なの?

指の痺れは問題ない?」

 

瀬尾は右手の指先を見つめる。

そして、しばらくしてから目線をこちらに移した。

 

「まだ平気だよ。

本当に限界が来たら、その時は…自分からマウンドを降りる。

だから小鷹さん、もう少しだけ我慢して?

そして、俺を導いてくれないかな」

「…わかった。

でも我慢なんてしない。

今のあんたの「最高」を引き出してやるから、だから安心してなさい!」

 

瀬尾の口元に、小さく笑みが浮かぶ。

私がなんとかしてみせる。

だからあとアウト2つ、踏ん張って…!

 

8番の浦野に対してはチェンジアップを軸にしたリードでセカンドフライに打ち取った。

でも負担が軽いはずのチェンジアップを投げていても、ボールにばらつきが出ている。

…次のバッターで終わらせなきゃ。

 

9番の嶺が打席に入る。

初球、外角へのストレート。

これを見逃し1ストライク。

 

2球目。

内角、ボールになるスライダー。

嶺は全く食いついてこない。

 

だったら…

3球目に私が要求したのは内角のボールからストライクに入るシュート。

私の目論見通り、内角への警戒が弱かった嶺はこのボールを見逃し、2ストライクと追い込むことができた。

 

そして勝負球となる4球目。

私のサインに瀬尾も頷いた。

 

シュッ!

 

瀬尾が投じたのは、ウイニングショットのチェンジアップ。

コースは外角低め、落差も大きい。

瀬尾は最高のボールをこの土壇場で投じた。

 

しかし…

 

キィィン!

嶺のバットはこのボールを真芯で捉えた。

打球はグングン伸びる。

 

失投ではない。

この球で打ち取るための布石も打った。

普通なら打たれるはずのないボールだった。

 

でもこの場面、このタイミングでその球が打たれた。

不細工なアッパー気味のスイング。

その軌道にボールが乗ってしまった。

こんなのは事故よ…!!

最悪の…まぐれ当りよ……!!

 

そして打球はバックスクリーンに飛び込んだ。

同点の満塁ホームラン。

バッターがダイヤモンドを一周してホームに戻って来る。

 

でも私はそれよりも、マウンド上で崩れ落ちる瀬尾の姿が、私が導いてあげることのできなかった投手の姿が。

目に焼きついて離れなかった。

 

 

あの満塁ホームランから先は思い出したくない。

連打を浴びて、再び満塁となったところで俺はマウンドを降りた。

俺の指はもう限界だった。

 

太刀川さんがマウンドに戻ってきて、俺はレフトに入った。

「あたしに任せて」と俺の肩に手を置く太刀川さん。

彼女から託されたものを、俺は守りきれなかった。

 

サヨナラのピンチで迎えたのは4番の蛇島。

俺は打者一巡を許したのだ。

 

帝王で一番危険なバッターに太刀川さんは勝負を挑んだ。

しかし疲労が限界に達していた太刀川さんのボールにはいつものキレがない。

蛇島はそれを逃さなかった。

 

カァン!

…快音が響き、打球は無情にもスタンドに運ばれた。

サヨナラ満塁ホームラン。

 

小鷹さんは膝を地面につけてうなだれる。

太刀川さんは呆然と立ち尽くしていた。

 

俺のせいだ。

この光景が目の前に広がったのは、俺の力不足が原因なんだ。

 

勝利を逃した。

みんなの健闘を台無しにした。

こんな俺を必死に引っ張ってくれたキャッチャーに応えることが出来ず、限界まで力を振り絞ったエースに……

俺を救ってくれた女の子に、無用な傷を負わせた…責任を押しつけた。

俺は彼女たちに…何も返せなかった。

 

…この光景を忘れるな。

刻み込め、焼きつけろ……!!

そして肝に銘じるんだ。

俺の失敗が彼女たちの未来を変えてしまうということを。

 

もう…もう二度と、こんなことにならないように。

 

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