実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第34話 夏への道のり〜春季大会開幕〜

5月上旬。

ゴールデンウイークも終わり、季節も本格的に夏へと移り始めたある日。

監督が俺たちに集合をかけた。

 

「みんな集まって〜!!」

 

ザッザッとスパイクでグラウンドを走る音を鳴らしながら野球部全員が集まり、整列して話を聞く。

 

「5月も1週目が過ぎて、もうすぐ春季大会の時期になります。

この春季大会はベスト4に進出すれば夏の予選のシード権が得ることができるという重要な大会です」

「過酷な夏の予選で試合数を減らせるというのは、うちみたいな選手層が薄いチームにとってはありがたいわね…」

「特に投手の負担が減らせるのが大きいよ。

投手の枚数が他のチームに比べて少ないからね」

 

「だからこそ春季大会は絶対に勝ち進みたい!

…ということで、今日からは練習量を増やしていくから覚悟してね〜!!」

 

監督はそう言うとにやりと笑った。

 

「ひえ〜〜っ!?

カンベンして欲しいでやんす〜!!」

「ウルサイわよ、メガネ!

あんたは素振りでもしてなさい!!」

 

…夏に向けての試金石となるであろう春季大会。

そこでいい成績を残すための練習が、この日から連日のように行われるのであった。

 

 

そして、春季大会当日となった。

この地区のチームの姿が会場のいたるところで見受けられる。

その中には聖ジャスミンとの関わりの深い、恋々高校と聖タチバナ学園の面々もいた。

 

「あっ、光輝君!」

 

あおいちゃんがこちらに駆け寄ってくる。

 

「いよいよだね、春季大会!」

「うん、お互いに頑張ろう」

 

と、その言葉に頷いた。

そんな俺を嘲笑うかのように「彼女」は現れた。

 

「相変わらず甘っちょろいこと言ってるわね、ダーリン?」

 

橘 みずき。

タチバナ財閥の後継者であり、所属する野球部ではエースを務める好投手だ。

そういう面はあおいちゃんと共通しているが…

 

「あれ?

あおいさん…いたんですか?

気づかなかったぁ〜!」

「いたよ!

初めからいたよ!」

 

その挑発的な態度のせいで、仲良く笑い合う関係には至っていないのが現状だ。

 

「それはどっちでもいいや…

それより光輝君、聖タチバナのことも忘れないでよね!

うちを舐めてると、私のスクリューできりきり舞いだからね!!」

「うん、警戒しておくよ」

 

「じゃあ光輝君……あと、あおいさんも。

せーぜー頑張ってね〜!」

 

「まあ、最後に勝つのは私なんだけど」と言い残し、みずきちゃんはチームに帰って行った。

 

「…みずきちゃんなりに応援してくれたのかな?」

「悪い子じゃないんだよね…

なのに、何でボクには突っかかってくるんだろう?」

 

そんなことを話していると、「あおい〜?」と彼女を探す声が聞こえてきた。

おそらく高木さんの声だろう。

 

「呼ばれてるから行かなきゃ!」

 

あおいちゃんは俺に別れを告げると、足早に声の方に向かって走り出したのだった。

 

 

抽選の結果、1回戦の対戦相手はパワフル高校に決まった。

パワフル高校はかつて甲子園に出場したことのある中堅校で、バッテリーを中心とした守備力に定評があるチームだ。

エースの松倉は右の本格派で落差のあるカーブとフォークが武器の投手だ。

 

ちなみに、恋々と聖タチバナとはトーナメントを勝ち進まなければ当たらない組み合わせとなった。

彼女たちが順当に勝っていくと、俺たちと対戦する前に2校がぶつかることになる。

 

…だがまずは目の前に戦いに集中しよう。

 

 

 

…試合は両先発が好投し、5回まで両チームとも無得点で試合が進んだ。

 

そして6回の表。

先頭バッターは1番の矢部君。

1打席目は変化球を打ち上げサードフライに倒れていた矢部君だが、この打席ではストライクを取りにくるストレートにタイミングを合わせ、センター前に運ぶ。

そしてすかさず盗塁を決め、ランナー2塁となったところで雅ちゃんが送りバント。

手堅くランナーを進めた。

 

そして俺に打順が回る。

 

「3番 ライト 瀬尾君」

 

俺は1打席目を振り返りながらバッターボックスに向かった。

 

…前の打席では外角のまっすぐを打ってセカンドライナー。

感触は悪くなかったけど上手く打とうとしすぎた。

もっと自然にバットを出さないと…

 

理想のバッティングを頭に浮かべ、バットを何回か振ってから打席に立つ。

 

初球は肩口からストライクになるカーブ。

これに手を出すもののレフト方向へのファウル。

2球目、3球目は外れて、カウント2-1。

そして4球目。

アウトローにまっすぐが決まる。

 

「ストライク!」

 

これで2ストライクと追い込まれた。

 

…相手バッテリーにしてみれば、3塁ランナーが俊足の矢部君である以上、内野ゴロも打たせたくないだろう。

パワフル高校の内野陣の肩を考えれば、よほど強いゴロでない限りは矢部君をホームでアウトにはできない。

外野フライも内野ゴロも嫌な状況のはずだ。

そうなると、俺からは三振を取りたいだろう。

 

ちらりと捕手の方を見る。

 

この捕手は大柄な体格をしている割にはワンバウンドへの対処が早い。

大抵のボールは止めるだろう。

この試合、そんな場面を何回か目にしている。

 

それならば投手も安心して「ワンバウンドになりやすいボール」を投げてくるはずだ。

 

5球目。

松倉がセットポジションからボールを投げる。

彼が投げた球種は、予想した通りの落ちる球…フォークだった。

 

狙い通り!

シャープなスイングでボールを捉えた。

 

「キィィン!!」

 

すくい上げた打球はセンター、バックスクリーンに飛び込むホームランになった。

 

ベースを1周すると、矢部君がホームで出迎えてくれた。

 

「瀬尾君、ナイスバッティングでやんす!」

 

そしてベンチに戻るとジャスミンナインから手荒い祝福を受けた。

 

「よくやったわ!」

「上手く打ったね〜!?

完璧だったよ!」

「さあ、ミヨちゃんも続くッスよ〜!!」

 

そして見事な犠打で俺に繋いでくれた雅ちゃんも、

 

「ホームランを打つなんてね!

これだったら僕のバントはいらなかったかな?」

 

そう言って手を上げた。

そうやっていたずらな笑みを浮かべる彼女とハイタッチを交わし喜びを分かち合う。

 

打線の勢いは止まらず、続く大空さんがレフト線を破るツーベースヒットを打つ。

そして5番の美藤さんは前進した外野の頭を越す打球を放った。

これが相手の守備の乱れを誘い、美藤さんは3塁まで到達した。

その後は夏野さんのスクイズで1点を加え、この回の攻撃は終了。

1イニングで4得点を奪うビックイニングとなった。

 

それからは聖ジャスミンが試合を優位に進める。

先発の太刀川さんは相手に3塁を踏ませぬ好投を続け、8回、左打ちの先頭バッターを打ち取り1アウトを取ったところで降板。

リリーフとして俺がマウンドに上がり、残りのバッターを打ち取ってゲームセット。

試合は4-0で聖ジャスミンの勝利で終わった。

 

「よし!

まずは1回戦突破だね!」

 

太刀川さんが左肩のアイシングをしながら微笑む。

俺もアイシングの準備をしながらそれに答えた。

 

「うん。

やっぱり試合の中盤に点を取れたのが大きかったね。

相手の先発、調子に乗せると手がつけられなくなるタイプだったし」

 

…そう。

パワフル高校は、先に点を取って試合の主導権を握ることができれば、それをひっくり返されるような怖さのない相手だった。

だけどもしあのチームに、ひと振りで試合を決められるような、打線に勢いをつけられるようなスラッガーがいたら…

試合はどうなっていたかわからない。

…まあ今はそんな選手がいなかったことをラッキーと思っておこうか。

 

「オイラの活躍も忘れてもらっちゃ困るでやんす!」

「何っ!?

それを言うなら私だって活躍したぞ!

新フォームを覚えた成果が出ているんだろうな!」

 

矢部君は1番バッターとして、塁に出て盗塁を決めるチャンスメイクの役割を果たした。

バッティングも以前の「打球を転がしているうちに1塁ベースを駆け抜ける」という自身の俊足に頼ったものから、バットを振り抜きクリーンヒットを打つものに変化している。

打順が1番に変わって、打席に立つ回数が増えたことが矢部君の成長を促しているのかもしれない。

 

美藤さんは新しいバッティングフォームを完璧に習得したのだろう、力強い打球が増えてきた。

強い打球が打てるうえに、追い込まれてもノーステップ打法を用いたシャープな打撃で簡単にはアウトにできない。

対戦するピッチャーの気持ちを思うとかわいそうになるくらいだ。

これからの試合、勝利を決める一打をより多く打つのは俺や大空さんではなく、美藤さんなのかもしれない。

 

めざましい成長を遂げた仲間たちの活躍により、聖ジャスミンは春季大会1回戦に勝利した。

しかし、シード権を獲得するための道のりはまだ遠い。

俺たちは改めて気を引き締めるのであった。

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