実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第35話 春季大会〜ベスト4を目指して〜

「ストライク!

バッターアウト!

ゲームセット!!」

 

「よしっ!!」

「やったでやんすー!!」

 

春季大会2回戦。

恐怖高校との対戦は4-2で聖ジャスミン学園が勝利した。

あと1つ勝ってベスト4に残ることができれば夏の大会でのシード権を勝ち取ることができる。

 

「さあ、あと1つだよ!

気を抜かずにいこう!!」

 

三ツ沢監督の号令が響き、それを聞いたジャスミンナインはしっかりと頷くのであった。

 

 

2回戦の全試合が終了。

ベスト8が出揃った。

そこには恋々高校と聖タチバナ学園の名前もあった。

 

「あおいちゃんとみずきちゃんたちも勝ち残ったみたいだね」

「さすがね…

まあ、あの2校なら勝ち進んでもおかしくないか」

 

勝ち残るのが当然といった口調であの2チームを讃える小鷹さん。

 

投手力が重要な高校野球において、チームにレベルの高いピッチャーがいることの優位性を一番よく知っているのは捕手である彼女なのだ。

そんな小鷹さんにとって、あの2チームが勝ったという事実は、驚くほどのことでもなかったのだろう。

 

「それはそれとして…次にうちと当たるのはどこの高校なんでやんすか?」

 

矢部君はトーナメント表を見つめながらそうつぶやいた。

 

「ちょっと待つでござるよ!

え〜っと…どれどれ?」

 

猫塚さんが試合結果をもとに対戦相手を導き出す。

 

「っ!!

わかったにょろ!

次にうちと当たるのは、かぶ高校ですのん!

かぶ高校はここまでの試合すべてをコールドゲームで勝ち進んできた強打のチームみたいにゃー!!」

 

相変わらず語尾が安定しない猫塚さん。

それでも彼女の焦ったような口調から、かぶ高校が強敵であることは理解できる。

 

「かぶ高校…聞いたことあるよ。

今年、1年生の聖徳(しょうとく)って選手が入って4番に座ってから、練習試合でも連戦連勝だって」

 

そう雅ちゃんが説明すると、矢部君の口からは「はぁ…」というため息が漏れた。

 

「また面倒な相手でやんすねぇ…」

「でもトーナメントの反対のブロックよりはマシだと思うッスよ?

あっちのブロックには毎年甲子園に出場してる強豪がいるんスから」

「そうだね…

うちがそこと当たるとしたら決勝だけど、ベスト4に入った時点で2勝分のシード権は得られるから少しは気が楽だよね」

 

川星さんの言葉に太刀川さんはそう言って頷いた。

確かにトーナメントの反対側にいるチームは俺たち以上に苦しい戦いを強いられていることだろう。

その強豪校に加え、恋々に聖タチバナ、そして…

 

俺は広げられたトーナメント表に書かれている、ある高校の名前を見つめた。

 

…そよ風高校。

そして、チームのエースである阿畑さん。

あの人には底知れない「何か」があるような気がする。

それなのに話題に上がらない、誰もあのチームを気にも留めていないという違和感。

この先の戦いに思いを馳せれば馳せるほどに、そんな感覚を覚えるのであった。

 

 

そして、3回戦当日となった。

 

対戦相手のかぶ高校の選手は体が大きく、当たれば飛ばしそうなバッターが揃っていた。

 

「これは慎重に投げないとな…」

「ええ、手痛い一発を食らいたくなければね」

 

小鷹さんは視線を太刀川さんに向けた。

そして、彼女の胸をミットでポンと叩いた。

 

「ヒロ、とにかく低め低めを攻めていくわよ」

「うん、わかってるよ。

低め中心に投げてゴロを打たせる。

シングルヒットならOK、次のバッターを併殺打に打ち取ればいい…でしょ?」

 

太刀川さんの冷静な受け答えに小鷹さんは「フッ」と微笑む。

 

「準備はできているようね。

じゃあ…いくわよ!」

 

バッテリーを中心にジャスミンナインが守備位置に散る。

 

『1回表、かぶ高校の攻撃…』

 

バッターが打席に立ち、小鷹さんがサインを出す。

そして試合が始まった。

 

 

イニングは進む。

太刀川さんはコーナーを丁寧に突くピッチングで5回を無失点。

ヒットを打たれても連打は許さず、ランナーがたまって主軸を迎えるような場面は作らない。

こちらも援護をしたいところだが、相手バッテリーの変化球中心の配球に苦しみ、チャンスを作ってもあと1本が出ない状況が続いていた。

 

『スリーアウト!チェンジ!』

 

雅ちゃんが内に曲がるスライダーに詰まらされ内野ゴロに打ち取られる。

この回も無得点。

試合は意外にも投手戦にもつれ込んでいた。

 

「打ちごろの球だと思ったんだけどな…」

 

雅ちゃんはそうつぶやきながらグラブを手に取った。

太刀川さんはそんな彼女に声をかける。

 

「ミヤビン、切り替えていこう?

点を取られなければ負けはないんだから!

…ね?」

「…うん!」

 

そして太刀川さんはマウンドへ駆けていく。

 

6回表、4番の聖徳が右打席に立つ。

この1年生スラッガーをバッテリーはどう攻めるか…

 

1球目。

外角、ストライクからボールに曲がるスクリュー。

聖徳はこれに手を出しファウル。

1ストライク。

 

2球目。

外角へのストレート。

きわどいコースながらストライクとなったこの球にバッターは反応を示さない。

これで2ストライク。

 

さっきはボール気味でも強引に手を出してきたのに…

何か狙いがあるのだろうか?

 

3球目は様子見にボールになるインハイへのストレートを投げた。

聖徳はこれも見送る。

 

そして4球目。

バッテリーは外角、ボールゾーンに逃げるシュートを選択した。

手を出して凡打なら儲け物、見逃しても次の球で仕留める。

そんな配球だった。

 

聖徳は、左足を大きく踏み込むとボールに逃げるシュートを打ちに行く。

普通なら凡打になるコース。

だが聖徳の腕は思ったよりも伸びて、この球を真芯で捉えた。

 

『キィンッ!』

 

打球はライト方向へ。

ジャストタイミングで打ったわけではないが、芯で捉えた分打球は伸びていく。

そしてその勢いは衰えることなく、そのままライトスタンドに飛び込んだ。

 

かぶ高校ベンチがワッと沸く。

先制点を、4番バッターのホームランによって与えてしまった。

 

「…あいつはどちらかのコースに狙いを定めていたんじゃなくて、変化球を打とうと考えていたのね。

だからストレートに反応を見せなかったんだわ。

それなのに変化球を選んでしまった…

ごめんヒロ、私の配球ミスだわ…」

「いや、ボール球をあそこまで運ばれたらしょうがないよ。

あれは相手を褒めるしかない。

それより次のバッターを抑えることを考えよう?」

「…そうね。

このまま相手打線を乗せるわけにはいかないものね」

 

ジャスミンバッテリーは後続の打者をセカンドゴロと連続三振に打ち取り、この回の失点を1点で抑えた。

 

そして6回の裏。

聖ジャスミン、1点を追う攻撃。

先頭バッターである俺は打席へと向かう。

 

…相手ピッチャーは右横手投げの軟投派。

変化球中心の配球で攻めてくる。

 

初球は外角へのスライダー。

これが決まって1ストライク。

 

そして2球目。

外角へのカーブ。

手を出したがタイミングが合わずファウル。

変化球を続けてきた。

 

…この投手はここまで、クリーンアップのバッターを2ストライクと追い込んだ直後、ボールゾーンにまっすぐを投げてきている。

おそらく次も…

 

『ボール!』

 

読み通り内角にまっすぐを投げてきた。

 

今ので内角を意識させて外で勝負か…?

 

4球目。

勝負球は予想通り、外角への変化球…スライダーだった。

 

これに逆らわず、ライト方向へ流し打つ。

 

『キィィン!』

 

ライト線を破った打球は転々と転がる。

右翼手からの送球がカットマンに届くころには余裕で二塁を陥れていた。

スタンディングダブル。

 

今のはいい感じで打てたな…

日頃の取り組みの成果が出ているのだろうか、バッティングについては好調が続いている。

 

そして、今度はうちの4番に打席が回る。

 

『4番 サード 大空さん』

 

大空さんに対しての初球。

変化球の投げ損ないが真ん中にきた。

彼女はそれを見逃さず、バットを振り抜いた。

 

打球は左中間を抜けるタイムリーツーベースヒットとなった。

これで1対1の同点。

4番に取られた点は4番が取り返す。

そう言わんばかりの見事なバッティングだった。

 

この失点に動揺したのか、ここから相手投手の制球が乱れ始める。

5番の美藤さん、6番の夏野さんに連続四球を与える。

 

未だノーアウトで、満塁の場面。

ここで打席に立つのは7番の小鷹さん。

ボールが先行し、カウント2ボール0ストライク。

そしてストライクを取りにきた甘い変化球を打ち返す。

これが犠牲フライとなり3塁ランナーが生還。

2塁ランナーの美藤さんも相手守備の隙を見逃さず3塁へと進塁した。

 

打順はピッチャーの太刀川さんに回る。

好投を見せるピッチングに加え、バッティングでも今日ヒットを放っている。

 

そんな太刀川さんは初球、外角へのスライダーを流し打ち。

これが1、2塁間を抜けるタイムリーヒットとなる。

 

前言撤回。

ピッチャーで下位打線に座る彼女がこれほどのバッティングをしているのだから、3番の俺がただヒットを打って「いい感じ」などと満足していてはいけない。

そう思わされるほどに見事なヒットだった。

 

ラストバッターの川星さんの打順となった。

小柄な川星さんに長打はないと考えたのか、外野は前進してくる。

かぶ高校バッテリーはこの場面で今までとは一転、ストレート中心の攻めを見せる。

 

初球、外角のストレートでストライクを取ると、2球目もス

トレートを続け2ストライクと追い込んだ。

 

続く3球目。

外角へのカーブ。

川星さんはこれを見送りボール。

 

そして4球目。

勝負球は内角高めへのストレート。

力勝負を挑んできた。

 

「甘く…見るなッスよ!!」

 

しかし彼女のスイングはそれを上回る。

短く持ったバットをコンパクトに振り抜き、彼女のその小さな身体に似合わぬ打球を飛ばした。

 

これがレフトの頭を越える走者一掃のツーベースとなった。

この回だけで5点を奪う猛攻となった。

 

 

『ゲームセット!』

「ありがとうございました!!」

 

試合は2-6で聖ジャスミンの勝利。

太刀川さんが6回2/3まで投げ、ランナーを許し4番の聖徳に打順が回ったところで俺がマウンドに上がった。

 

……が、チェンジアップの落ちが甘かったところを叩かれタイムリーを許してしまった。

その後は抑えたものの、リリーフとして致命的な「ウイニングショットの精度の低さ」を露呈する試合となった。

 

「太刀川さん、ごめん…

4番に打たれてランナーをホームまで還しちゃって…」

 

太刀川さんにそう謝ると彼女は「今日はよく謝られる日だなぁ」と笑った。

 

「たまにはそういう日もあるよ。

それにいつも助けてもらってるんだから、あまり気にしないで。

……ね?」

 

この言葉にはいつも救われている。

俺がリリーフで出て打たれたとしても、彼女が俺を責めたことは一度としてない。

それでいて俺を気遣ってくれるのだから本当に頭が下がる。

そんな彼女はバッティングでもタイムリーを含む3安打を放つ活躍で、投打の主役となった。

 

「センスはあると思っていたけど、今日の打撃は見事だったね」

「うん、バッティングは嫌いじゃないし、中学の頃は野手として試合に出てたこともあるから…

たまには打たないとね」

「この調子なら打順を上げた方がいいかもしれないわね?」

「いやいや、たまたまだって!

今の楽に打てる打順でいいよ!」

 

 

そこに聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 

「おお、お前ら調子いいみたいやなー!」

「…阿畑さん!

お久しぶりです!」

「うちも3回戦勝ち抜いたで!」

「そうなんですか?」

「おう。

これでベスト4が出揃ったな。

そよ風高校にお前ら聖ジャスミン、恋々高校…あとは下馬評通りの強さを見せた西強高校の4校や」

「恋々も勝ち進んだんですか!?」

「何や、知らんかったんか…

目の前の勝負に集中しすぎとちゃうか?

恋々が聖タチバナとの接戦をモノにして3回戦突破や。

両チームの先発が好投してな、見応えあったで〜!」

「そうですか…」

「特に恋々の女子選手の早川!

あいつのシンカーはオモロイな。

磨けば光るで、あれは」

 

阿畑さんはわざとらしくため息をつくと「それに比べて…」と続けた。

 

「お前のピッチングは何やねん!

決め球が決め球になってへんやないか!

あんなピッチングしとったらこの先通用せえへんで?」

「…はい」

「精進せえよ。

次の試合、お前らの対戦相手はワイらそよ風高校や。

楽しみにしとくからな〜」

 

阿畑さんはそう言い残すと去って行った。

 

「あれが瀬尾君の言ってた阿畑さん?」

「…何だか胡散臭いわね」

 

聖ジャスミンが誇る女性バッテリーがこちらに対して冷ややかな視線を送る。

 

「い、いや、見た目はそうかもしれないけど実力は確かだよ。

ここまで勝ち残っているのがその証拠じゃないか!」

 

「瀬尾君は純粋だからね〜…」

「あんた…前々から思ってたけど、簡単に人を信用しすぎよ?

悪い人に騙されるタイプなのかもね…」

 

う〜ん…

俺は阿畑さんに、何か、秘めた力みたいなものを感じるんだけどな…

 

 

聖ジャスミンは3回戦を突破し、シード権を得た。

続く4回戦、戦う相手は阿畑さん率いるそよ風高校だ…!

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