翌日。
「……というわけなんだ」
「それで瀬尾君は野球同好会に入ったでやんすね」
「うん。でもまだ人数が全然足りないんだ」
「大変でやんすね〜」
「とりあえず手当たり次第にスカウトしてみようと思うんだけど……」
「闇雲に誘ってもダメでやんす! ある程度目星をつけておいた方がいいでやんすよ。例えば野球経験があるとか、部活動に入っていないとか……」
そう言うと、矢部君はチラチラとこちらを見てくる。もしかして誘って欲しいのかな? ……よし。
「あ〜あ、どこかに一緒に野球をやってくれる、俊足で頼れるナイスガイはいないかな〜」
これでどうだ!!
「しょうがないでやんすね〜。
そこまで言われちゃ放っておけないでやんす。
勘違いしないで欲しいでやんす!
別に仲間になりたいわけじゃないんでやんすよ!
しょうがなくでやんすよ!」
デレた! チョロい、チョロすぎるよ、矢部君!
こうしてメンバーは3人になった。
放課後。これからどうするか3人でミーティングをすることになった。
「とにかくメンバーを増やさないと。
試合どころか、まともに練習も出来ないよね……。
でも、どうすればいいんだろう……」
太刀川さんがつぶやく。だが、いきなり画期的なアイデアが浮かぶはずもない。地道にやっていくしかないという事で意見を出し合う。
「やっぱりスカウトかな。
あとは、メンバー募集のチラシとか、ポスターを作るとか……」
「それなら、オイラに任せるでやんす!
古今東西のロボットアニメのイラストをネットにアップして、一部の人間に評価されている、独特のタッチを見せてやるでやんす!」
俺の言葉に、矢部君が反応し早口でまくしたてる。よほど自信があるようだ。ちなみに、1番描くのが得意なキャラは青色の猫型ロボットらしい。なんだか、不安になってきたな……。
結局、俺と太刀川さんはメンバー集め、矢部君は勧誘ポスター作成と二手に分かれることになった。
「よし手当たり次第にスカウトだ!」
……。
……?
……!
……ダメだ。1人も興味すら持ってくれなかった。
仕方がないので2人で話し合い、今日はもう切り上げて矢部君の様子を見に行くことにした。
「ちょうどいいところでやんす! 今できたところでやんすよ!」
胸を張りながらポスターを見せてくれる。
「!? 」
こ、これは……。
そこにあったのは、用紙をはみ出さんばかりのガンダーロボ(矢部君が好きだと前に言っていたやつだ)のイラスト。そして、そのロボが吹き出しで『野球やろうぜ!!』と言っている。
「なんだこれ……?」
俺と太刀川さんの声が重なる。なんだこの仕上がりは……!?
確かに上手い。ロボットを描くのが得意だと言っていただけのことはある。だがロボットを描けとは言っていない。これでは何が何だかわからない。
「それだけじゃないでやんす! これを見るでやんすよ!」
2枚目もあるのか……。
恐る恐る見ると、少女漫画に出てくるようなメガネのイケメンのイラストが描かれており、そのキャラクターは吹き出しで、
『子猫ちゃん、オイラと一緒に野球をやるでやんす』
と白い歯を覗かせている……。
まさか、これは……。
矢部君の方を見ると、自慢げな顔をしながら親指で自分の顔を指していた。これが矢部君だと……。
「これは、ちょっとやばいんじゃないかな……」
太刀川さんが暗に、こんなものを貼り出すなと警告している。だがそれも虚しく、もうとっくに全校中に貼ってあるでやんすよ、との返答。
これはまずい。ここは元々が伝統のあるお嬢様学校だ。こんなアホなものを貼ったら、生徒指導部の逆鱗に触れること必至である。
と、そこに『もう暗いから、早く帰れよ〜』と生徒指導の先生が見回りに来た。ごめんなさい先生。我々は明日あなたに怒られることになりそうです。
翌朝教室に着くと矢部君が自分の席で落ち込んでいた。
ポスターを描いた者は、生徒指導部で反省文を書いて提出するように言われたらしい。1枚目はともかく2枚目がな……。かわいそうだが、ここの生徒指導部は厳しい。まあ、しょうがないだろう。
放課後になると、矢部君は生徒指導部に直行。俺と太刀川さんは、ポスターを回収するように命じられた。そしてその命令を実行しているうちに朝、昼休み、放課後と1日中の自由時間を消化してしまった。どんだけの数貼ってるんだよ……。
校舎中のポスターをはがし、1階に降りてきたところで、川星さんとばったり会った。その手には例のポスター。
「このポスターのことなんッスけど……」
「あっごめん、それ回収してるんだ」
そう言ってポスターを受け取ろうとした、その時。
「ほむらも一緒に野球にやっていいッスか?」
バサバサバサッ!
驚きのあまり回収したポスターを全て落としてしまった。その横では、太刀川さんがポスターを拾い集めようとあたふたしながら、やはり驚いた顔をしていた。
「本格的にやったことないし、ヘタクソかもッスけど……」
「もちろん、一緒に頑張ろう!」
大ニュースだ! さすがに説教も終わっているだろうし、矢部君のところに報告しに行こう!
☆
「〜〜〜!!」
「〜〜〜!?」
矢部君を見かけ、近づくと誰かと話をしている最中だった。その相手は、頭にフードをかぶった女の子。白地のフードに茶色のドット柄がいくつか付いている。そのフードは布地の一部が出っ張っていて、猫の耳のように見える。
「矢部君、この子は?」
「瀬尾君! それがでやんすね、この子同好会のマネージャーになりたいそうでやんすが……」
「はじめまして〜、ネコりんは、
このポスターに呼ばれて来たのでござるよ〜」
「どういうことでやんす?」
「ポスターに、子猫ちゃん一緒に野球をって書いてあるみゅん!
だからネコりんは来たのです!
ただスポーツはできないからマネージャーにしてくだされ〜」
ポスター作戦は大成功のようだ。だがあのポスターを見て来たのか……。
なんだか不思議、というかすごい子が来たな……。格好は置いておくとしても、まず語尾が全く安定していない。なかなかエキセントリックな第一印象だけど……。でも、今は1人でも多いほうがいい。
「やった! 1日で2人も仲間が増えたよ!」
大収穫の1日に太刀川さんが喜びの声を上げた。……太刀川さん、嬉しそうだな。よかった。
そして、これからのことは明日考えようという事で今日は解散になった。
☆
ここ数日は本当にバタバタしている。それに、やっていることが俺らしくない。俺は人を助けられるような奴じゃないはずだ。
野球のことだってそうだ。もうやらないって決めたはずなのに、勢いとはいえ、また野球をやろうとしている。名門校から離れて気楽になったからか、それとも今はプレッシャーがなくて楽になっているからか。
そうして自分の言動や行動を振り返り、自己嫌悪に陥る。しかし最後に浮かんできたのは彼女の笑顔だった。
……太刀川さん笑ってたな。
それに新しい仲間も増えた。得るものはあったんだ、今はそれでいいか。
……今日はもう寝よう。明日も長くなりそうだ。