実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第55話 ターゲット

「イヤだあーーっ!!

降ろしてくれーーーっ!!」

 

俺は叫びながら車の座席上でジタバタともがく。

その俺の身体はシートベルトで固定されていた。

…何重もの外付けのシートベルトで物理的に。

 

シートベルトをしないのはもちろんルール違反だが、し過ぎるのにも何か罰則はないのだろうか。

これでは()巻きにされているのと変わらない。

座席にはしっかり座らせて貰えているので安全ではあるが…。

さて、安全って…何だっけ?

…って言ってる場合か!?

 

「何よ、リムジンに乗ってるっていうのに。

いい記念になったでしょ?」

「そういう問題じゃないよ!

そのリムジンはどこに行こうとしてるのさ!?」

 

L字の座席の窓側でバタついている俺を、奥のシートに深く腰掛けた

みずきちゃんは片肘をつきながら(文字通り)見下ろす。

そして溜め息混じりに答えた。

 

「何回も言わせないでよ。

写真週刊誌の編集部を襲撃しに出版社までむかってるんじゃない」

 

「ノ、NO〜〜っ!!

それはNOだよ、みずきちゃん!

降ろして、俺を降ろしてくれーーっ!!」

「降りたいって…」

 

みずきちゃんは座席の窓から外をちらっと眺めた。

目線の先にある車窓からの景色は右から左へとすごい速度で流れていく。

 

「こんな高速道路の真ん中で降りたら死ぬわよ?」

「NO〜〜〜っ!!?」

 

そして彼女は「どうせ死ぬなら社会的に死ぬか身体的に死ぬか選びなさい」と、どこぞのデスゲームのゲームマスターかのような選択肢を突きつけてきた。

 

…どっちにしろ死んでるじゃないかっ!?

なんだその死が確定したルートはっ!!

 

「運良く生き残れたら私が一生面倒見てあげる!

アンタがブタ箱から出てきたらドカタでも何でもやって食わせてやるわよ!」

 

とみずきちゃんは鼻息を荒くする。

…あれ、俺は捕まる前提なの?

 

「……大丈夫ですか?」

 

俺の横でお行儀よく座っていた大畠さんが心配そうにこちらの様子を(うかが)う。

この人は特に抵抗なく車に乗り込んでいたが…。

みずきちゃんがやる時は本当にやる、恐ろしい人間である事を分かっているのだろうか?

もし騙されているのなら…。

 

この疑問は直後の会話を聞いて粉々に打ち砕かれる。

 

「オジサン、準備はいい?」

「はい…。

当時の資料を見ると、事件を起こした大物芸能人は、

『「ぶち殺すぞ、この野郎!」と叫びながら粉末消火器を噴射し、週刊誌の編集長及び編集部員に室内に置かれていた雨傘や拳で殴打したり蹴ったりした』

…とあります」

 

…という事で、と大畠さんは足元の荷物を指し示す。

そこには大量のビニール傘と消火器が並んでいた。

 

「やる気満々だ!?」

 

思ってたのと違うぞこの人!?

意外と武闘派なのか!?

 

俺の驚きを見てか大畠さんは、

 

「あはは…まあ一応ですよ、一応」

 

と静かに笑った。

…もう笑ってても、何してても怖いんだが。

 

「安心しなさい。

今回の計画はその襲撃事件よりはスマートに進む予定だから。

本当にその荷物は念のためのものよ」

 

でも一応消火器は持って行きなさいね、とみずきちゃんは大畠さんに声をかける。

大畠さんは返事とともに消火器を一本手元に引き寄せ取っ手を握った。

 

…本当にどうなるんだ?

そもそも、だ。

なぜ大畠さんはこんな犯罪まがい(というか実行したら間違いなく犯罪)の計画に協力するのだろう?

この人にメリットはないはずだ。

 

「大畠さん…いいんですか?」

「ええ、もちろんですよ」

 

予想外の即答。迷いはないようだ。

大畠さんは「だってそうでしょう」と続ける。

 

「ここで私が行かなくてどうするんですか。

行かなければ瀬尾君、君への謝罪が嘘になってしまう」

 

そして、どこか遠くを見るような目で呟いた。

 

間違っているものを処罰する事は、力のある人ならおそらく誰にでも出来るでしょう。

でも()()事が出来るのは現状…私だけなのですから、と。

 

 

そして出版社の社屋に到着した。

…到着してしまった。

 

「こ、このビルがそうなの!?」

なかなかの大きさのビル。

首都圏でこの規模、さらに出版社の社屋である事も考えればセキュリティもしっかりしているだろう。

まさか…入るところから騒動を起こす気なのか?

 

…と心配していたのだが。

 

 

「すいません、取材の約束をしているのですけど…」

 

『ああ、お話は聞いております。

どうぞ、お入り下さい』

 

みずきちゃんが受付に話をすると驚く程あっさりと中に入る事が出来た。

そしてそのままエレベーターへ乗り込む。

 

大畠さんは「これを使わずに済んでよかった」と手に持った大きな黒いカバンのジッパーを少し開け、消火器の赤色を少しだけ覗かせた。

カバンの中身は消火器1本だけ…カバンの中身史上最もアホな中身ではあるが、その使用目的を知っている身からすると笑えない。

 

「そのまま今日1日使わないで行きましょうね…」と苦笑する事しか出来なかった。

 

…それにしても。

 

「何でこんなにすんなり入れたんだ?」

「言った通りよ。

取材の約束をしているの」

「どういう事?」

「編集部に用があるって言ったって、とりあえずは編集部のある階まで行かないといけないでしょ?

まさか1階から順に攻め落とす訳にもいかないし」

「ま、まあ、それはそうだね」

「だから取材の約束をしておいて簡単に入れるように準備しておいたのよ」

「そっか…。

襲撃するっていうのは冗談だったのか、よかった…」

 

そんな安堵も「何言ってるの、どうにもならなくなったら実力行使よ?」という言葉でかき消される。

みずきちゃんは「そのための人材もいるじゃない」と親指で大畠さんを指している。

大畠さんは照れくさそうにペコリと頭を下げた。

いや…あなたも少し抵抗して下さいよ…。

 

…と、ここで頭に当然の疑問が浮かぶ。

約束していた取材って…一体何の取材なんだ?

 

「ああ、それ?気になっちゃう感じ?」

 

みずきちゃんはニヤリと笑う。

そして耳を疑う言葉を発した。

 

「今日していた約束ってのはね…。

()()()()()()()()()()()()()()()の取材よっ!!」

 

そう言うとみずきちゃんは「フフーン♪」と胸を張った。

 

「は……?」

タチバナ財閥の癒着ぅぅ〜〜っ!!?

 

「ちょ、ちょっと待って!

それってどういう事なの!?

まさか本当に……?」

「バカ!本当なワケないでしょ?

本当の話だったら素直に話すワケないじゃない」

 

「そ、そっか…!そうだよね!」

ん…あれ?そうなの?

 

何だか一瞬きな臭い話になったが…とりあえずそちらにはフタをする事にした。

 

「じゃあ事実じゃないって事だよね?」

「そーよ?」

 

返事が軽い…。

自分の家の一大事のはずなんだけど…。

 

「そもそも取材を受けるって話があったの?」

「ん?ないわよ、そんなの。

言ったでしょ、今日のために準備したって」

 

「そ、それじゃあ…まさか」

 

みずきちゃんはイタズラな笑みを浮かべてこちらを見ている。

俺の目にはうっすらと悪魔の角と尻尾が見えているように見えた。

 

「そう…。

私が()()()()をこの出版社…週刊誌の編集部にだけ()()()()()()()のよ!」

「そ、それ大丈夫なの…?」

 

「うーん…」

彼女はアゴに手を当てしばらく考えを巡らせる。

そして返ってきた答えは…。

 

「…あっ!?」

「えっ?」

「大丈夫じゃ…ないかも」

「ええっ!?」

「今日は急きょ学校建設の件で国の役人との打ち合わせが入ったって言ってたかも…」

「じゃあ今頃…!?」

 

 

「今日はありがとうございました」

「はっはっは、こちらこそ!

未来ある若者のためにお互い頑張りましょうぞ!」

 

タチバナ財閥総帥(そうすい)であり聖タチバナ学園理事長でもある橘 源之助(げんのすけ)は、役人との会談を終え、側近と共に見送りへと向かう。

そして…。

 

『…ガチャ』

扉を開けるとそこには…。

 

『あっ!来たぞ!』

『橘さん、学校建設に際して特別な便宜(べんぎ)をしてもらえるよう働きかけたというのは本当ですか?』

『金銭の授受(じゅじゅ)があったというのは?』

『今日もそういった話をしていたんじゃないんですか?』

 

「な、何だ貴様らは!?

何の根拠があってそんな事を…」

『証拠は挙がってるんですよ!

アンタの身内からね!』

 

「…何の話をしとるんじゃ貴様ら!!

────そこに直れーーっ!!!」

 

『ひ、ひぃ〜!』

週刊誌の記者はあまりの迫力に震え上がる。

 

しかし源之助の怒りは収まらず、怒声は辺り一帯に響き渡ったという…。

 

 

「まあ、しょうがないか」

 

みずきちゃんはあっさりと自身の祖父を切り捨てると、

 

「編集部が記者を総動員して取材をしに行ってるおかげで手間が省けるわ。

余計なやつがいると横槍を入れられるかもしれないし。

もちろん()()()()()だけは残っているように細工はしてあるけど…」

 

編集長も出版社の定例会でいないからやりたい放題よ、とみずきちゃんは笑った。

 

「いや、やりたい放題ではないからね?

それが目的なら本当に犯罪者集団になっちゃうからね?」

 

『ピンポーン!』

 

俺のツッコミへの返事のようにエレベーターの到着音が鳴る。

…たから違うって。

 

「さ、行くわよ」

俺達はエレベーターから降り、編集部へと向かう。

そしてしばらく歩くと『編集部』と書かれたプレートが目に入った。

 

「ここね…」

開け放たれた空間にデスクが並び、その上に所狭しと資料や荷物が置かれている。

出入口のラックにはこの編集部が出版している雑誌が並べられていた。

みずきちゃんは俺の家族の事が書かれた問題の号に目を落とすと冷ややかな視線を送った。

そして室内へと足を踏み入れる。

 

「失礼します。

お約束していた橘ですけど」

 

この呼びかけに、軽薄な印象を受ける声が返事をした。

「はいはーい、ちょっとお待ち下さーい」

 

そして無精髭を生やし、深いシワと大きなクマのある男が姿を現わす。

しかしそれよりも印象的だったのは…。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どうも私、インタビュアーとして指名頂きました。

()()と申します」

 

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