実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第64話 甲子園 2回戦 VS流星高校 ④ 彼女達の為のボール

中盤戦に差し掛かった流星との甲子園2回戦。

5回裏の攻撃を三者凡退で終えた聖ジャスミンは6回表、流星の攻撃を迎えていた。

 

(…これでどうかな?)

(いや、ここはこっちの方がいいよ)

 

2アウトを奪い、あとアウト1つで攻守交代となる場面。

バッターを2ストライクと追い込んだところで太刀川さんとサイン交換を()わす。

 

『シュッ……グググ!』

そして選択した球種、スクリューボールが強振したバットの下を(くぐ)りミットに収まった。

 

『ストライク!バッターアウト!チェンジ!』

 

「よし!」

「ナイスボールだよ、太刀川さん!」

「そっちこそだよ!

上手くバッターの狙いを外したね!」

 

先程のバッターは狙い球をまっすぐ一本に絞り、鋭いスイングを見せていた。

このバッター心理なら変化球で攻めたい。

しかしシュートは球速がストレートに近く詰まらせたとしても強いスイングでヒットゾーンに運ばれる可能性があった。

ならば遅いボールを、という事でカーブとスクリューの二択となったのだが、ここはこの試合で最も投球数の少なかったスクリューで三振を奪いにいったのだ。

…正直、今日の太刀川さんのボールならどれを選んでも大怪我はしないだろうが、流星には足がある分、念入りに抑えにいったのだ。

 

「これであたしは降板だね。

でももうちょっと投げたかったな〜。

瀬尾君とのバッテリーは新鮮で面白かったし!」

「俺も勉強になったよ。

太刀川さんや夏野さんをリードしてみて、いかに試合の流れを読むのが難しいか身に染みて感じた」

 

「じゃあその学んだ事を慣れ親しんだマウンドで活かしなさい?」

小鷹さんは外野手用のグラブをベンチに置くと、見慣れたキャッチャーミットを手に取って言った。

 

「…うん、活かしてみせるよ!

この経験は無駄にしない!」

 

「この様子なら安心だね」

太刀川さんはこちらを見てそう言うと、笑顔を浮かべた。

 

 

『キィィン!』

 

2アウト1塁で矢部君が放った打球に観客席は盛り上がりを見せる。

しかしそれを流星の中堅手が捕球した事で歓声はため息に変わった。

 

『惜しい当たりでしたがセンターフライで3アウト。

ヒットで出塁した先頭の小鷹さんをホームに還す事は出来ませんでした!』

 

『タタッ!』

小鷹さんはリードを取っていたアンツーカー付近から駆け足でベンチに戻って来ると、テキパキと防具を身につけていく。

そしてあっという間に準備を終えると左手にはめたキャッチャーミットをパチンと打ち鳴らしてこちらに発破をかけた。

 

「さあ行くわよ瀬尾!

お待ちかねのマウンドでアンタのピッチングを見せつけてやりなさい!」

 

『聖ジャスミン学園、守備の交代をお知らせします。

ピッチャーの太刀川さんがレフト。

レフトの小鷹さんがキャッチャー。

キャッチャーの瀬尾君がピッチャー、以上に代わります』

 

『ワァーッ!!』

 

『継投策でリードを守ってきた聖ジャスミン、いよいよキャプテンの瀬尾君がマウンドに上がります。

さあ、瀬尾君は初戦と同様に試合を無失点で締める事が出来るのか?

彼のピッチングに注目しましょう!』

 

「……」

ロジンバックから粉が舞う中、打席に入る相手バッターに視線を向ける。

バッターは前の打席に比べて気負いのない表情でバットを構えこちらを見据える。

そして相手のベンチからは「打てるぞ!」と活気ある声が飛んでいる。

 

やはり、前の回まで投げていた太刀川さんが好投をしていただけに流星ベンチからすれば『ピッチャーが代わってくれてラッキー』というところなのだろう。

それだけ彼女のボール、特にストレートは走っていた。

 

継投をするにあたっては『リリーフで出てくる投手が前の投手と同じタイプで尚且つ力が劣っていないか』という事に注意しなくてはいけない。

速球派から変化球投手へのスイッチならバッターの目線も変わって投手単位での緩急があるため効果的だ。

だが同じストレートが武器の投手で、後から出てくる投手の方がボールに威力がないとなるとバッターからすれば単純に『ピッチャーの力が落ちて打ちやすくなった』という状況を作ってしまう事になる。

 

ここで安易にストレートを投げると、太刀川さんに比べて素直な球筋の俺のまっすぐは簡単に打ち返されかねない。

 

『スッ…』

そして小鷹さんが初球のサインを出す。

彼女もその雰囲気を感じ取ったのか、出されたのはストレートのサインではなかった。

俺はこれに頷き、目一杯に腕を振るう。

 

『シュッ……グググッ!』

指先から離れたボールはストレートに比べて遥かに遅い球速で打者に向かうと手元で大きく沈んでいった。

バッターは初球から強いスイングを見せたものの、予期せぬ落差にバットは空を切った。

小鷹さんはミットを縦に構えてこれを捕球する。

 

『ストライク!』

『バッター、初球を空振りで1ストライク!

瀬尾君、1球目から得意球であるチェンジアップを投げ込んできました!』

 

「……っ!!」

 

予選大会で各校の主砲を抑える原動力となったチェンジアップ。

この球種は甲子園でも尚…いや、今までよりも更に威力を増していた。

正真正銘の『宝刀』となったこの球は、俺の立場すら変える事となった。

 

 

 

 

「OK!ナイスボールよ!」

 

瀬尾のやつ、ヒロに感化されたのか、それともあの子の球を自身で受けたのが良かったのか。

腕の振りが強く、速くなってる。

ストレートより腕を振ってる感覚すらあるわ。

 

それに、私の配球の意図も理解してた。

そうじゃなきゃ初球でここまで『見せつける』ような全力のチェンジアップは投げないはず。

球種は私が指定したけど、後は自分の判断。

ヒロとのピッチングスタイルの違いを印象付けるために1番いい球を投げたきた。

 

「……」

雪国高校との試合では点差もあったし、失投のリスクを冒してまで投げる必要はないとストレートとスプリット中心の配球にした。

それが逆にチェンジアップを温存し、バッターの頭からこの球種を消す事になったのかもしれない。

 

…この試合では血行障害を持つ瀬尾が3イニングを投げるためにスプリットとチェンジアップを使い分けながらイニングを進めていこうと思っていたけど…。

 

このチェンジアップなら小細工は要らないわ!

負担も少なく効果は絶大…なら使わない手はないわよね!

 

2球目は低めのシュート。

ストレートに近い球速で小さく曲がる球にバッターは手を出すもファウル。

これで2ストライク。

 

…追い込んだ。

ならもう一丁いくわよ、瀬尾っ!!

 

瀬尾はコクリと頷くと力感ある腕の振りからボールを投げ込んだ。

そしてその球はブレーキを効かせながらベース板付近まで来ると、打者のスイングを嘲笑(あざわら)うかのように私が構えたミットに向かって急降下した。

 

『ストライク!バッターアウト!』

『三振〜!

チェンジアップで空振りの三振を奪いました!

今日はこの球が冴えています!』

 

「よし!」

 

…これはいけるわ!

このチェンジアップのキレならアンタは…。

 

────ドクターKになれるっ!!

 

そしてここから瀬尾の奪三振ショーが始まった。

 

 

 

 

7回1アウトからのアウト2つも三振で奪い、7回表を三連続三振で終えた。

裏の攻撃を無得点でチェンジとなった後も、好投は続く。

 

『ストライク!バッターアウト!』

『ストライク!バッターアウトォ!』

『ストライーク!バッタァーアウトォォ!!』

 

『何と瀬尾君、8回も三者連続三振を奪いました〜!

リリーフエースの右腕が(うな)りを上げています!』

 

「ナイスピー!

これで前の回から合わせて6連続奪三振だよ、瀬尾君!」

「ずっち〜な〜!

私やヒロぴーが完全に引き立て役じゃんか〜!

あんなに頑張ったのに〜!」

 

先発のマウンドを踏んだ夏野さん、そこからバトンを受け中盤を抑え込んだ太刀川さんがベンチに戻る俺に声をかけてくれる。

太刀川さんの賞賛。

字面だけ見るとからかっているだけように思えるが、本質は太刀川さんの言葉と同様の意味である、夏野さん流のユーモアに思わず笑みが浮かぶ。

 

普段なら「気を抜くんじゃないわよ!あと1イニング抑えなきゃいけないんだからね!」と喝を入れてくるはずの小鷹さんはこの回の先頭打者として打席に立っている。

 

そして変化球で内野ゴロに打ち取られるとベンチに帰って来る。

 

「ドンマイ、小鷹さん。今のはしょうがないよ。

今の内に食い込んでくる変化球はここまであまり投げてなかったから」

「瀬尾…アンタ、三振を取りまくって浮かれてると思ったら意外と落ち着いてるわね?」

 

…そりゃ、いつも口酸っぱく怒られてるからね。

自然に聞こえてくるんだよ、君の声が。

 

 

そうしている内に後続が打ち取られ攻撃が終わる。

そして試合は9回の表…ラストイニングとなる。

 

「さあ、あと1イニングよ。

気を引き締めていきましょう!」

「うん!」

 

俺と小鷹さんのバッテリーは短く言葉を交わすとグラウンドへと向かった。

 

 

 

 

…流星高校は2番からの好打順。

しかしここでも小鷹さんのリードが冴えた。

スプリットを続け2ストライクと追い込んだところで投げ込んだのは、

これまでとは一転してストレート。

これが外角に決まり見逃し三振。

 

そして3番、クリーンアップの一角を迎えた場面ではスライダー、シュートの横の変化でカウントを整え、ボールになるスプリットを振らせた。

空振り三振。

 

「よし!!」

 

『マウンド上の瀬尾君もボルテージが上がっております!

これで連続奪三振は8連続まで伸びました!!』

 

…これであと1人。

4番バッターが打席に入る。

小鷹さんはここでカウント球にストレートを要求する。

ここまでは変化球でカウントを整える事が多かったが、8連続で三振を取っているからといって配球がワンパターンにならないあたり、小鷹さんは冷静にグラウンドを見渡しているのだと感じ、こちらも程よく落ち着いた。

 

初球のストレートはバックネットへのファウル。

タイミングは合っているが押し勝っている。

 

2球目はボールになるスライダー。

続く3球目に選んだシュートも逆のコースに外れ、カウント2ボール1ストライク。

 

俺は右手で拳を作ったり開いたりして感覚を確かめる。

…よし、問題はなさそうだ。

 

最後に親指で人差し指と中指の先を擦るようにして確認を終えると、小鷹さんに『大丈夫』と合図を送り、彼女が出したサインに頷いた。

 

選んだのはインハイのストレート。

これで空振りを奪いカウント2-2。

 

『あと1つだぞー!』

『頑張れー!』

 

客席から歓声が飛んでいるのが分かった。

しかしそれはただの音としてしか耳に届かない。

それもやけに小さな音としてしか。

 

その代わりバックを守るみんなの声や、ミットを叩きながらあと1球だとこちらを鼓舞しようとする小鷹さんの声は鮮明に聞こえた。

 

大丈夫。落ち着いている。

こうなればもう心配はいらないと、胸が安心感に満たされていくのが分かった。

 

「…いくぞ」

小さな声で呟く。

そして5球目、決め球を投げ込んだ。

バッターは強振でこれを打ち返そうとするも打球は前に飛ぶ事はなかった。

 

『…ストライク!バッターアウトッ!ゲームセットッ!!』

 

『チェンジアップだぁ〜っ!!

空振り三振でゲームセット!

瀬尾君、見事9者連続奪三振達成〜っ!!

甲子園の歴史に残る快投を見せましたぁぁっ!!』

 

「や、やった…?」

 

「やったでやんすー!

凄いでやんすよー、瀬尾君!」

「お前は江夏かー!?

よくやったッスよ、キャプテン!!」

「…今日だけは褒めてあげる。

よくやったわ…感動した」

 

「えっ!?」

みんなが祝福してくれるのは想定内だったが、小鷹さんの思わぬ言葉にすっとんきょうな声を上げてしまった。

 

「な、何よ、その反応は!?

…言っとくけど、こんな事言うの今日だけなんだからねっ!?」

 

 

こうして流星高校との試合は序盤のリードを守り切り5-2で聖ジャスミン学園の勝利となった。

 

 

 

 

『カシャカシャ!』

眩いカメラのフラッシュの中、数多のマイクがこちらに向けられる。

 

『9連続三振を達成した気持ちはいかがですか』

 

「えっと…まずはチームが勝てた事が1番です。

そもそも大空さんの勝ち越しホームランがなければ勝てなかった訳なので…。

三振に関してはこんなに多く取れるとは思っていなかったので自分でも驚いています」

 

『甲子園という舞台で慣れないキャッチャーを務めた気持ちは』

 

「はい、ピッチャーのみんなに助けてもらいながら何とか…という感じです。

改めて本職のキャッチャーの凄さを肌で感じました」

 

試合後のインタビュー。

これで2度目の経験だがまだ慣れない。

視線は泳ぎ、話そうにも緊張で上手く舌が回らない。

強豪校の選手はこれに堂々と答えるのだから大したものだ。

 

『あー…こちらも質問よろしいですか?』

 

「は、はい。何でしょ…って、ええっ!?」

 

声の方に視線を向けるとそこには見知った、よく似た顔の男性が2人いた。

 

「大畠さん!?それに恵二さんも!?

どうしたんですか!?」

 

そこにいたのは野球誌の記者である双子の兄、大畠 耕一さんと、フリーの記者をしている弟の恵二さんだった。

この2人とはとある出来事の際に知り合った。

兄弟揃って野球に精通した人物だ。

 

「ええ、お久しぶりです、瀬尾さん。

私、今年の甲子園の記事の担当になりまして」

「こっちも今年の甲子園に密着しろって仕事が来てな。

…おめでとさん。ナイスピッチングだった」

「ど、どうも」

「さあ、世間話はこれくらいで…。

周りの目もありますので…」

 

「じゃあ早速質問を」と恵二さんが質問を投げかけてきた。

 

「今日はいつもの陣容とは違う中での試合でした。

特に試合開始時のバッテリーは2人共が本職ではなかった。

そんな状況で機動力が武器の流星高校という難しい相手との対戦でしたが、試合を通して感じた事を教えて下さい」

 

俺は試合の内容を思い返しながら言葉を紡ぐ。

顔見知りの人が相手だからか、知らない記者からの質問よりは幾らかリラックスをして答える事が出来そうだ。

 

「…今日は普段はセカンドを守っている夏野さんが先発投手、エースの太刀川さんも慣れないリリーフとしての登板で、小鷹さんも捕手を含め3つのポジションを守りました。

僕自身は相手の機動力に少しでも対抗しようという事で慣れない捕手として出場しましたが、正直捕手としてはバッテリーを組んだ2人に助けられてばかりでした。

それでもピッチャーとしては3イニングを抑える事が出来たので少しは貢献出来たかな、とほっとしています」

 

ありがとうございました、と恵二さんが質問を終える。

そして最後の質問者として大畠さんが口を開いた。

 

『パワフル・ベースボール社の大畠です。

今日の試合では見事なピッチングでした。

特にチェンジアップが効果的だったと思うのですが』

 

「はい。普段から決め球にしているボールですが、今日はいつも以上にいい球を投げられたと思います」

 

大畠さんの言葉に頷きながら答える。

すると大畠さんは、チェンジアップの精度が試合を重ねる毎に上がっているように思えるが何か理由があるのかと尋ねてきた。

 

理由か…。

リリースの仕方、握り、スピンの量。それに腕の振り。

技術的な理由は何個か挙げられたし、単純に練習を重ねた成果だと言う事も出来た。

しかし、そうは言いたくはなかった。

だから本当に思っている事をそのまま口に出した。

 

「チームの…聖ジャスミンのみんなのアドバイスや応援、協力があったからこそ、甲子園に出る相手にも通用するボールになったと思います。

このチームでなければ投げられなかった球です。

僕がどこか別のチームにいたら、練習を積んでもきっと投げられなかった。

大好きなこのチームだから…彼女達がいたからこそ投げられた、()()()()()()()()()なんだと思います」

 

『……ありがとうございました』

 

…さすがにクサ過ぎただろうか?

後悔こそないものの若干の恥ずかしさを感じていると、質問を終えたばかり大畠さんの隣で恵二さんが『ニヤリ』と笑っているのが見えた。

 

「あは、あははは…」

俺は会場が何とも言えない空気となった中、それを誤魔化す為の苦笑いを浮かべながら時が過ぎるのを待ったのであった…。

 

 

 

 

…翌日。

俺は日課である早朝のランニングを終え、宿泊施設に戻っていた。

そして入り口が見えてきたというところで、聞き馴染みのある声が飛び込んできた。

 

「ちょっと〜っ!何よこれっ!?

アンタ、昨日のインタビューで何言ったのよっ!!?」

「えっ、どういう事っ!?」

「これ!見なさいよ!」

 

小鷹さんが携帯を突きつける。

その画面には、

 

『愛の結晶!

大好きな彼女達と創り上げた()()()()()()()()!!』

 

…と書かれていた。

 

「…………。

はぁっ!?」

 

ジャスミンボール…!?何だそれっ!?

いや、それはいい。

それよりも問題なのは…。

 

「愛の結晶!?

大好きな彼女達…っ!?

そんな事言った覚えないぞっ!!?」

 

確かにクサい事を言ったという自覚はある。

ただあの言葉はチーム愛を語ったもので、この記事のタイトルから受けるような、男女のあれこれを感じさせる意味合いはなかったはずだ!

 

「『女子選手をまとめるキャプテンが投じる伝家の宝刀。

それはまさしく彼女達との心の重なりが生んだ『宝物』なのだろう』

……だってさ」

 

俺が記事の内容に狼狽(ろうばい)していると、知らない間にこちらに合流していた太刀川さんがその記事の締めの部分を読み上げた。

 

「た、太刀川さん!?他のみんなも!」

 

太刀川さんの背後には聖ジャスミンのメンバーが勢揃いしていた。

矢部君やマネージャーの猫塚さん、そして三ツ沢監督までもが。

 

「キャプテンはホントにタラシでござるな〜!

これが絶滅危惧種の無自覚ジゴロってやつかにゃ〜?写メ写メ♪」

 

「猫塚さん…」

俺は青白い顔、死んだ目のままで携帯から発せられたフラッシュを浴びる。

「笑って!」や「ピースをして欲しいみゅん」といったリクエストの声が聞こえるがさすがにそれに応える元気はなかった。

 

「あのね…瀬尾君?

野球はチームプレイだから、みんなと仲良くするのはいい事なんだけど…。

こういう軟派なのは…どうかと思うよ?」

 

か、監督までっ!?

俺は普段からそんなに疑われるような言動をしているというのかっ!?

 

「ち、違うんです!これは…」

 

チームのみんなを見回すと、俺と目を逸らすように(うつむ)き、気まずそうに頬を赤らめている。

 

「なっ…!えっ…?」

 

これはいけない!

せっかくチームの状態が上向きになっているというのに、これで関係がギクシャクしては元も子もない。

 

「だ、誰がこんな記事を?」

「文・大畠 恵二って書いてあるにゃー」

「〜っ!?

あの人は〜〜っ!!?」

 

週刊誌のライター時代の経験を活かして読者を()きつけるようなタイトルを付けたのか…!

自分の経験をフル動員して記事を書きやがったっ!!

内容自体はまともな、それどころかいい事が書いてあるのにタイトルで台無しだ!

 

いや、タイトルで引き込んで質の高い文を読ませるという、作戦としては大成功なのだろうが…。

俺だけとんでもない状況になってないか…?

 

と、その時、現状を打破すべく勇気ある者が動いた。

 

「ちょっと待つでやんす!」

 

「や、矢部君…!」

さすが親友!助け船を出してくれるんだ!

 

「瀬尾君の『()()()()()()()()』の練習に1番付き合ったのはオイラでやんす!

だからあの球はオイラと瀬尾君の友情の結晶!

他の人間の出る幕はないでやんす!

分かったら引っ込むでやんす!

この泥棒猫!女狐!でやん…ぶっ!!?」

 

饒舌(じょうぜつ)にまくし立てていた矢部君の顔に、小鷹さんの右ストレートが叩きこまれた。

しかも頬や顎(それでも十分アレだが)ではなく顔のど真ん中、鼻先と眼鏡の間に。

 

「キュ〜…でやんす…」

矢部君はそのまま仰向けに倒れていった。

そして…

 

「次は瀬尾…アンタよ」

 

と、次なる犠牲者である俺の名前が呼ばれた。

 

「う、うわぁっ!?」

「こらぁ!待てぇ〜っ!!」

 

まさか甲子園に来てまでこんな事になるとは!

だが逃げ切ってみせるっ!!

 

この思いとは裏腹に足はもつれ、瞬く間に小鷹さんに追いつかれる。

…しまった!!

気合を入れてランニングをし過ぎたんだっ!?

 

『ガシッ!』

小鷹さんに肩を掴まれ「つぅかまぁえたぁ〜」と耳元で(ささや)かれる。

 

「ちょ、ちょっと待って……!?

ギャーーッ!!」

 

 

…こうして望まぬ形で名前を付けられたチェンジアップ…『ジャスミンボール』は俺の代名詞となっていくのであった。

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