実況パワフルプロ野球 聖ジャスミン学園if   作:大津

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第7話 夕暮れ

 6月初旬。

 俺は小鷹さんを呼び出していた。というのも、太刀川さんが小鷹さんたちと話し合い、和解をしたいと呼びかけても厳しく拒絶されてしまう。

 ならば俺が不和の原因を探ろう、というわけだ。

 

 ☆

 

 ……約束の時間。聖ジャスミン学園グラウンド。

 本日は、ソフトボール部が休養日ということで俺たちがグラウンドを使用させてもらっている。そこに彼女はやって来た。来てくれるように頼んだ時は渋々という態度を隠そうともしなかったが、結局は約束の時間の10分前に到着した。「約束は約束だからね」とのことだった。

 

 ……絶対に根はいい人だと思うんだけどな。何かきっかけさえあれば、わかり合える。そのための今日なんだ。

 

 小鷹さんは腕組みをして、ため息混じりに言う。

 

「……それで一体何の用? 私も暇じゃないんだから、手短にね」

「うん。今日は見て欲しいものがあるんだ」

 

 そう言って、俺はマウンドを指差す。そこには矢部君を相手にボールを投げ込む太刀川さん。ナイスボールでやんす! という矢部君の声が響く。その声に小鷹さんが反応し、「どこがよ……」とつぶやく。

 

「あの捕手やっているメガネは素人?」

「本職は外野手なんだけど、投球練習に付き合えるのが俺か矢部君しかいないから……」

 

 川星さんは一塁手、大空さんは三塁手と一応決まっている。複数のポジションの練習は大きな負担だから、2人には自分のポジションに集中して欲しい。というわけで結果的にそうなるのだ。

 

「だから、わからないのね。

 ヒロは全然本調子じゃない。

 調子がよかったらあの捕手じゃ捕れないもの」

 

 小鷹さんはそう言うと、俺を見据える。

 

「ヒロはいつもあんな調子なの?」

「いつも調子が悪いっていうか、安定しないんだ。

 すごくいい球を投げる時もあれば、制球が定まらなかったり、球に力強さがなかったり……」

「そう……」

 

 小鷹さんは横目で太刀川さんの方を見る。今日小鷹さんを呼んだ目的は、太刀川さんの様子を見てもらうこと。

 ……そして、もう一つ。

 

「太刀川さんがあんなに不安定になったのは、高校生になってからだよね?」

「ええ。ソフトボール部に入部したぐらいからね」

「中学で野球をやっていた頃は?」

「いつだってベストなボールを投げていたわ。

 だからこそ、男子を押しのけてエースに選ばれていた」

「やっぱり。実は中学時代の2人の映像をソフト部の監督に借りて、見てみたんだ。

 その映像では2人共明るい表情をしていた。

 今よりもいいボールを太刀川さんは投げていたんだ」

「それがどうかしたの。

 人は変わる。いつまでも同じままではいられない」

「じゃあ、2人の関係が変わってしまった理由を教えてよ」

「……」

「教えて……!」

 

 俺は小鷹さんの目を見つめる。答えるまで俺が諦めないと思ったのか、観念したかのように話し始めた。

 

「私とヒロがソフト部に入ってすぐに、練習試合があったの。

 お互いに1年だけが出場するって決まっていた。

 ここで結果を出せばいきなりベンチ入りのメンバーに選ばれるかもしれない、そんな試合だった」

 

 ★

 

「ヒロ、どうしたの? 今日は制球が定まってないみたいだけど……」

「……」

「聞いてる!? 集中してよ!」

「う、うん……。ごめん」

「ひょっとして、考えごとでもしてたの?」

「い、いや、そうじゃなくて……」

「ソフト部を代表してマウンドに立ってるのわかってる!? 

 ソフト頑張るって約束したでしょ!」

「……あたしだって本当は……」

「本当は何!? 野球がやりたかったとでも言うの!? 

 ふざけないでよ!!」

「……ッ!!

 そうだよ、野球がやりたいんだよ!!

 だからこの試合、手を抜いて投げればソフト部クビになって自由になれると思ったから、実際そうしてるの!!」

「何よ、それ……」

「だからわざとだよ! わ・ざ・と!」

「──ふざけんなぁあっ!!」

 

 

 ……それから私とヒロは掴み合いの喧嘩になった。そして、その後ヒロはソフト部を去った……。

 

 ★

 

「…………というわけよ」

 

 小鷹さんは話し終えると、肩をすくめて笑った。だから、仲直りなんて出来ないとでも言いたげに。

 

 ずっと一緒にいた2人が、これからも一緒にいるために。1人は本当にやりたいことから目を背けて。1人は自分の思いを押しつけて。

 そうやって一緒にいようとしたけど、やっぱり無理があったんだ。

 そうやって積み重なった思いを、消すことも、ごまかすことも出来ないからぶつけ合うしかなかった。

 

 好きで仲が悪くなったわけじゃない。それなのに。今はもう相手の方からもう一度寄り添ってきているのに。それを遠ざけてしまうなんて。

 

「ずっと一緒にいたい」

 

 それだけが願いだったのに。どうするのが正解なんだろう。……やっぱり、それを決めるのはやっぱり2人なんだ。

 

 ☆

 

 翌日。

 ソフト部の練習終わり。俺は小鷹さんを学園近くの土手に呼び出した。

 これがおそらく最後のチャンスだ。

 多分、小鷹さんは今度も来てくれるだろう。だがそこで待っているのは、俺ではない。

 

 

「ヒロ……!!」

「タカ……」

 

 夕暮れが土手を眩しい照らす。その舞台に立っているのは、太刀川 広巳と小鷹 美麗の2人だけだ。

 

「ヒロ、どうして!?」

「タカ、あたしどうしても伝えたいことがあるんだ」

 

 どちらからともなく歩み寄る。

 

「あたし、ずっと野球をしていたかった。

 でもね、それはタカと一緒にやる野球だったんだ!」

「ヒロ……!」

「でもワガママ言っちゃいけないって思ってた。

 そしたらね、瀬尾君が教えてくれたんだ」

「何を?」

「欲張っていいんだって。

 大切なものがいくつもあるなら、全部欲しがればいいんだよって。

 それでダメって言われたら初めて諦めればいいって」

「そっか……」

「だからあたしの願いを言うね。

 ……もう1度あたしの親友になってください。

 ずっと一緒にいてください。

 それ以外の願いが霞んでしまうくらい、これがあたしの1番大きくて強い願いなんだ」

「ヒロ……ッ!! 私だって本当は……!!」

「タカ!! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 夕暮れの中で伸びる、抱き合う2人の少女の影。その影はいつまでも離れなかった。

 

 ☆

 

 そして、次の日。

 俺は、昨日2人が仲直りできたことを聞いて安堵していた。太刀川さんの小鷹さんと野球がやりたいという願いは叶わないかもしれない。でも……、2人が本当に手に入れたかったものは、取り戻したかったものは、もう揃っているのだから。

 

「ちょっと、何をしんみりしてるのよ!」

 

 突然飛び込んで来た声のする方を向くと、彼女が立っていた。

 ソフト部のホープ。冷静かつ頭脳明晰な捕手。そして、太刀川広巳の唯一無二の親友。

 

「小鷹さん!?」

 

 チームのみんなからも驚きの声が漏れている。

 彼女の手にはキャッチャーミットがあった。

 

「ヒロが寂しいって言うから、仲間になってあげる。

 ソフト部と兼任ってことになるけど、どちらもおろそかにするつもりはないから。

 よろしく!」

 

 こうしてこのチームに不動の正捕手が誕生した。

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