そういう事で、スランプが抜けきっていない可能性が高いです。文量も少ないですし。 by眼花
もしかしたら、原作と口調が違ったり、一人称が違ったりするかもしれません。そういう場合はビシバシ指摘をお願いします。 by鏡
がつがつムシャムシャもぐもぐグチャグチャ。
マナーも何も在りはしないばかりの音を立てながら、アジ・ダハーカはテーブル一つ分の料理を占領して、三つの頭を使って器用に食べていた。
使い魔というのは、基本的に飲み食いする必要が無い。マスターから命を支給され続ける様な状態になるので、飢え死にすることは無い。それ以外の死に方で死のうにも、死ぬにはマスターが契約を破棄するか、はたまたマスターが死ぬかのほぼ二択である。尤も、命は在るので飲み食いしてはならない訳でも無い。食べたら味の意味合いでない方の不味い料理もある訳だが。
『アジ・ダハーカ!別に食べ物は逃げたりしないから、もう少し落ち着いて食べなよ!』
『グルルル……』
ヘカトンケイルから注意を受け、頭を二つ上げ殺気を込めた視線を、自身より巨大な存在に向ける。
が、その間にも上げなかった頭で料理にがっついている辺り、余程食い意地がはっているのだろう。
「……」
ライネスと使い魔達を除く参加者らは、手に料理を持った皿を持ちながら皆それぞれ違うリアクションをしていた。怪獣映画を実体験している気分であることは想像に難くない。
ライネスはそんな周りの状態を見て―――ある二人が、少しそわそわした雰囲気をしていた事に気が付き―――少しだけ笑みを作り、その二人に向けて言った。
「アリサ、すずか。話したい事があるならば、傍に行っても構わないが?」
「……ありがと」
「は、はい」
片や素気なく、片や緊張しながら返事を返し、早足で使い魔達の所へ向かう少女二名―――アリサ・バニングスと月村すずか。
と、その最中、アリサが立ち止ってライネスの方を振り向いて、
「あ、あとでアンタに渡す物があるから、その…か、勝手に帰ったりしたら許さないからね!」
その言葉にライネスは少し笑って、
「ふふ…肝に銘じておこう」
短く返答を返した。それを見たアリサは何かを安心した様な表情になり、体を使い魔達の方へと向け直した。
ライネスはライネスで、いい加減この空気をどうにか打破するべく一人一人に声を掛け始めた。
「…ゴオオォ!」
<…殺ス殺ス殺ス!>
「ホ、ホー!」
<ま、待て!落ち着けタイラント!私は悪気があってあのような行動に出たわけでは―――!>
ヘカトンケイルとアジ・ダハーカからやや離れた場所にて、鳴き声を上げ見るからに殺気立って、それをアモンに向けているタイラントと、念話を使って必死になって謝罪をしているアモンが居た。
そもそも、何故こうなったか。
話は数分前に遡る。床の上に皿を置いて、アジ・ダハーカの近くで料理を食べていたアモンは、料理の置いてあるテーブルからやや距離を取っているタイラントを見つけた。
食欲<睡眠な状態であるタイラントを見かねて、タイラントの前で料理を食べ始めたが、一向にタイラントは料理に興味を示さない。
ここで、アモンがある暴挙に出た。嘴で加えた料理を強引にタイラントの口の中に入れようとしたのだ。
そして、眠っていたタイラントからしてみれば、その行動は自らの至福の時を邪魔する行為以外の何物でも無く…。
「ゴオオオオオォォォ!!!!」
<――――――――――――!!!!>
自らを跳ね飛ばす様な勢いで、その巨体では信じられないほど速くアモンに口を開きながら飛びかかったタイラント。
だがしかし、その顎は、牙は、アモンを捉える事無く空しく閉じた。
―――否、閉じたのは意識を失ってからだった。
「―――!」
<仕方ない…な!>
アモンは身体の左側を前に出し、一方で右側を限界まで後ろに引き―――横から、タイラントの顔目掛けて、太い大蛇の尻尾を叩き付けた。
ズゥウンッと、とてもでは無いが生物の体からは鳴りはしない様な音が響く。タイラントはその一撃を受けて、吹き飛ぶことは無かったが、その場で、床に沈む様に意識を失った。
アモンは、大きさこそ六匹の中に置いては最も小柄だ。しかし、その膂力は『アモン』の名に恥じる事無く、全ての使い魔の中で最も強く、強靭だ。更に、限定的ながら他の使い魔の中でも特に変わった魔術を扱う事が出来る―――マスターであるライネスが使えない程の、だ。
「―――アモン、お前は一体何をしているのかね?」
そして、そんなアモンに一難去ってまた一難。しかも、タイラント以上に怒らせてはいけない相手がアモンに立ちはだかって居た。顔は無表情で、目には怒りの感情が浮かんでいた。
「…ホー」
アモンは何かを諦めたのか、弱弱しく一声を上げてライネスの説教を受けた。アリサがライネスに話しかけていなければ、五分で終わる事は無かっただろう。
<…全く、アモンも何やっとるんだか…むぅ、にしてもこの料理は本当に美味い。レオもそうは思わんかの?>
<殺気を出していない分、まだマシだとも取れるが…。ああ。特にこの魚の揚げた料理は美味い。揚げる前に魚自体に下拵えがしっかりしてあって、一緒についているソースを使わなくても十分に食える。悪い事が在るとしたら、ソースを付けて食えない事と今オレ達が着けてる包帯位だ>
<違いない>
アモンがライネスに説教を受けている最中、そこから少し離れた所でベアードとレオは、互いに料理に対する評価を付けていた。レオはタルタルソースを付けて魚のフライを食べられない事と自身の胴体に巻かれている包帯に不満をこぼし、ベアードもそれに同意していた。前者の理由は、タルタルソースの内容物と言えば察しが着く事だろう。後者は単に慣れていないからだが。
<ふう…レオよ。これを食い終わったら、あの娘らの元へ向かうとしよう>
<ああ…ん?>
使い魔達の中で最も責任感の強いベアードがあの日の惨劇の詫びに行こうと提案し、それに賛同したレオが直後、何かに気が付いたように念話で声を上げる。レオが見ている方をタイラントがつられてみれば、ライネスとアモンを引き離し、アモンに抱き着いている少女らの姿が見えた。そして、ベアードがそちらを見た直後、物静かそうな紫髪の少女―――すずかと視線がかち合った。そして、すずかはアモンから離れて頭を下げ、ベアードとレオの所へと向かってきた。アリサはすずかが先行するのが珍しく思ったが、すずかと同じ様にアモンに頭を下げて、すずかと横並びになるように早歩きしてすずかに着いて行く。
<…いや、その必要性は無くなったか>
<どうやら、その様だのう。しかし…やはり強い子達だ>
<同感だ>
自分の子を見る様な、そんな慈愛に満ちた目でアリサとすずかを見たベアードに、レオは肯定し、彼女らが目の前まで来るのを待っていた。
「いやはや、見苦しい所を見せてしまって申し訳無い」
「気にしないで下さい。…でも、一体何が?」
「ふむ…そうだね。過ぎたお節介と言った所だよ」
忍と恭也はその言葉を聞いて、ああ、と納得の言葉を示した。恐らく、そのお節介焼きとはあのフクロウの頭をした使い魔の事だろうとあたりを付け―――恭也は自らライネスに話しかけた理由を思い出したように、ライネスに聞いた。
「―――ライネスさん。聞きたい事が在ります。…貴方は何かしらの武術を学んでいますか?」
「―――ふむ。では、私が仮にYes、と答えた場合、君はどうしたいかね?」
既に察しが付いているのだろう。先程までとは雰囲気が武人のそれに変わり、心底楽しそうに唇の形を歪め、確認を取るかのようにライネスは尋ねた。
恭也も伝えたい事が既に伝わっている事を見抜き、ライネスに言った。
「俺は―――父さんから継いだ『小太刀二刀御神流』が、貴方という―――吸血鬼という存在に対してどこまで通用するか確かめたい。
だから―――俺は貴方に決闘を申し込みます」
「―――良いだろう。が、君の父親―――ミスター・士郎には話して置いてくれたまえよ。そして、恋人の…忍君…だったかな?君は口出ししない様だが、何故かね?」
「恭也の悪い癖と、これまでの実績で、もう諦めてます…。でも、約束してください。絶対に恭也の命に関わる程の事にはならないようにして下さい。…恭也も分かった?」
「ああ。分かったよ、忍」
「ああ、ライネス・ヴェルバータの名に賭けて、必ず守ろう。尤も、手加減する気は無いがね」
「望むところですよ」
その後、料理の取り合いでヘカトンケイルとアジ・ダハーカがリアル怪獣バトルを繰り広げ、ライネスがとうとう本気で怒り、アモンは目が覚めたタイラントに謝罪をしながら引きずるように強引に運び(タイラントもライネスの怒気に気が付いていた為、文句は言わなかった)、アリサとすずか、恭也と忍、士郎とデビットは結構慣れてきた様で、苦笑い位で済んでいた。
時間は経過して、九時を過ぎた辺り。料理は七割方使い魔達が平らげて―――それでも、三割でも人間からすれば十二分の量は在った―――ライネスも、そろそろ戻るか、と使い魔達を影に入れ、挨拶をして帰ろうとして―――アリサに言われた事を思い出した。
『あ、あとでアンタに渡す物があるから、その…か、勝手に帰ったりしたら許さないからね!』
(…いやはや、物忘れが最近酷くなってきたものだ。体は歳をとらずとも、精神は緩やかに年老いていくものだろうかね?)
「では、時間も時間だ。そろそろ帰らせて頂こう。だが、アリサ。私に渡す物とは一体何なのかね?」
「へ…?―――あ!ちょ、ちょっと待ってなさい!今持ってくるから!」
慌ただしく駆けて部屋を出ていくアリサを見て、「元気な事は良い事だ」と場違いな感想を僅かながらに抱き、デビットに声を掛けられた。
「ライネスさん。これ、受け取ってください」
見れば、手には分厚い何かが入った封筒が握ってあり、ライネスはそれを見てため息を吐いた。目には僅かな怒りと呆れが浮かんでいた。
「私は、金銭の為に彼女らを助けたわけでは無いのだが…」
「でも、さっきの話を聞いた限りだと一文無しだって。それに…」
そこまで言って、何やら悪戯をする様な、幼い子供を思わせる笑みを浮かべながら、区切られた言葉がライネスの耳に届いた。
「―――翠屋のお菓子も買えませんよ?」
「…………………………………本当に、痛い所を付いてくれるね。ミスター・デビット…」
「恐縮ですね。吸血鬼にそういわれるとは」
「褒めてはいないよ」
最後の方は最早呆れながらデビットからお金の入った封筒を受け取り、コートの内ポケットにしまうライネス。月村姉妹も、高町親子も、疲れた様に愛想笑いをしていた。
と、勢いよく部屋のドアが開かれた。アリサが戻ってきたのだ。その白く綺麗で華奢な腕には、折りたたんである白い服の様な物が抱え込まれていた。
「はあ、はあ、はあ……。これよ、これ。あの時、あたしに渡したやつ…」
「―――――――――………これは…」
相当慌てていたのだろう。息も絶え絶えで、息を整え、腕に抱えた白いそれを渡した。それは、かつて服を破かれたアリサの為にライネスが渡した―――ライネスにとっては、本来忘れてすらならない、他者に渡すなど本来彼には出来ない程、とてもとても大切な物―――白色のフードローブだ。
(…本当に、年老いてしまったものだ…。あろう事か、唯一のシェリアからのプレゼントの存在を忘れていたとは…。彼女に、何と詫びれば良いのやら…)
「…Thank you, the young princess.」
「…え?」
彼の住んでいた国の言葉で言った、彼なりの最大限の感謝の言葉。英語を話す事の出来るアリサであっても、余りに不意を突かれたタイミングで外国語を使われたため、何と言われたのか判断できなかった。
ライネスは渡された白いローブをその場でコートの上から羽織り、目元が見えない様にフードを被った。
「…では、私はこれで。見送りは結構だ。失礼するよ」
後ろを向き、歩いて扉に手をかけ、逃げる様に部屋の外へ出た。
扉が閉まった直後にアリサが扉を開いたが、廊下には誰も歩いていなかった。
「…ん?これは…」
ライネスが帰ってしまい、お開きになる直前の事。士郎はライネスが出て行った扉の足元が少し光っていて、気になってその場所を見た。
数滴の、水が落ちていた。
ご指摘等、ビシバシお願いします。
すみません、ミスがあったといいましたが、あれは勘違いでした。なので、修正しておきました