吸血鬼と魔法少女たち ※連載停止   作:眼鏡花

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 ども、眼鏡花の片割れ、眼花です。活動報告見て下さった方は知っているとは思いますが、スランプってました。すみません、本当に。
 なんか、どうしても違和感が拭えません。読者の方々で意見がある方、よろしくお願いいたします。
 …流石に、そろそろストーリーちゃんと進めないとなあ…


夢の続き。悪報。

バニングス家の食事会会場の扉を出た直後に体を霧に変え、夜の支配者たる吸血鬼がまるでそれを恐れる人の子の如く、夜月に怯える様に廃ビルにライネスは帰ってきた。使い魔は影から脱出し―――ヘカトンケイルは少し落ち込んでいたが―――ライネスの様子を一目見て唖然とした。

 まるで、今にも泣きそうな位、追い詰められた、自責に駆られた表情をしていたのだ。

 

『…マスター、本当に大丈夫?さっき…えっと、アリサちゃん、だよね?からローブを返してもらってからずっとその調子だよ?』

 

「……ああ…大丈夫だ」

 

 ヘカトンケイルの質問に、フードで顔を隠したままライネスは生返事を返すだけで終わる。何があったかは知らないけど、これは本当に重症だなぁ…、とヘカトンケイルは口に出さずとも内心そう思わざるを得なかった。

 少なくとも、ヘカトンケイル自身が生まれて三百年。あのような表情をしたライネスを見た事は一度も無かった。使い魔達の中で、最も付き合いの長いベアードは何となく察したようである。

 

「…すまない、お前達。少し、一人にさせてくれ………」

 

 幽鬼の如く、ふらふらと、ゆらゆらと。身に着けているローブの端の部分を弱弱しく握りしめながら、ライネスは寝室へと移動した。

 

 使い魔達は少し不審に思ったものの、マスターたるライネスの言葉に逆らう訳にもいかず、見張りに戻って行った。

 なお、完全な余談であるがタイラント発案の『脅し作戦』による脱走した使い魔の数は0であった。再度繰り返すが、完全な余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――……またか…出来れば、今は見たく無かった…

 

 ベッドに潜り込んだライネスは、気が付けば何時ぞやの夢で見た一昔前の映画館の様な場所に居た。服装も同じく、だ。

 

―――……

 

 疲れた眼で白黒の砂嵐が映るスクリーンを見た。五秒経って変化は無かったが、十秒後には綺麗な映像が映し出されていた。

 映像に映っていたのは、血で塗られた部屋から出る直前、鏡で自らの姿を見た―――否、見ようとしていた、ライネスの姿であった。直後に、自らの足元を見て、不安気な表情を絶望へと格上げした。

 

―――…今でこそ影は在る物の、鏡には私の姿は映らない。鏡に映る世界をこの世の対比として考えるならば、確かに吸血鬼は生死の境界線に立つ存在やもしれないな…

 

 一人、考え事を誰に聞かせると言う事でも無く、自らに言い聞かせるようにぽつぽつと語り出すライネス。

 吸血鬼という存在は、日の光に弱い。一説には『人の道を外れたものだから、日の下を歩けない』からとされている。しかし、ライネスの場合はどうなのだろうか?

 

人の道を外れたのではなく―――外された者。

 

 しかし、そんな存在である彼を日の光は一度、彼を殺そうとした。偶然だったが、容赦なく、差別なく、気味が悪くなるほど当たり前のように。それ以降、何百年もの歳月を影の下で生きるうちに、日の光を完全にとは言えずとも、ある程度克服することに成功した。

 

―――あの時の…太陽の下を再び歩けた時の感動は、今でも忘れられない

 

 尤も、痛みは有るので好き好んで日の下を歩くほど、ライネスは被虐主義者でも無い。

 はあ、とため息を吐いた直後に、再び映像が砂嵐に変わった。映像が復活するのに三十秒ほど時間がかかったが、今のライネスには些細な問題である。

 

最早判別不能の肉塊となった自らの両親と、執事であるガドの亡骸を纏めて、家の庭先に掘った三つの穴に埋めた。

 

―――思えば、何故墓標の類を立てなかったのやら。父様と母様、ガドへの墓参りに行こうにも、もう場所すら分からない………そういえば、知らない筈だった魔術の知識に、当初は頭が着いて行かなかったな…

 

 そして、その知識の中から彼は今の自らの存在の事を知った。ライネスはその日以降、両親を、執事を殺し、自らを吸血鬼へと変えた男に復讐する事を誓ったのだ。血を吸わないのは自身という存在(吸血鬼)への反発の意味と、上記した男への細やかな復讐の一環である。

 

 

 

 

映像が飛ぶ。空は雲に覆われ場所は変わって森の中にて、ライネスはとある熊―――の亡骸と対面していた。

熊の亡骸は片腕の皮が腐りきって、しかしそれでいて筋肉には全く腐敗した跡が無かった。右目は恐らく鳥に啄まれたのだろう、中途半端に目であった部分の欠片が目の周囲にこべり付いていて、余りに痛々しかった。ライネスはこの亡骸を見た当初、恐怖心や嫌悪感よりも先だって、「本当に死んでいるのか?」という疑問が湧いたことを思い出して、思わず苦笑した。

 

―――そして私はこの日、初めて魔術を使った…

 

 その魔術というのは―――契約の魔術。自然死していた動物の魂に、命が欲しいかと契約を持ちかけ、それを死んだ動物の魂が受け入れれば、ライネスにとっては使い魔として、使い魔達からすれば存命の為に働き続ける魔術。

 

『な―――汝には二度目の生を与えよう。汝は我が身を守る事を対価とせよ。誓いに応じるならば、その霊魂、再び己が肉体に宿れ―――!』

 

 結果は―――成功した。熊の亡骸は片目を開け、二本の後足でしっかりと立ち上がった。

 ライネスは熊の亡骸であった、今は『生きている』使い魔の熊に『ベアード』と名を付けた。ベアードはライネスの匂いを少し嗅ぎ、『グオウ!』と猛々しい鳴き声を上げた。

 

 

 

 

直後―――知識に無い事が起こった。それは契約に不備があったりして失敗した訳では無い。寧ろ―――これを失敗と呼んでは、余りにも馬鹿馬鹿しい。言わば、デメリットだけを帳消しにして、メリットだけしか残らない様な―――そんな生温いレベルでは無い事が、今のライネスからしても余りにも奇妙で不可解で、奇跡的な事が起こった。

 

ベアードの、皮膚の腐り落ちた右前脚。その露出している筋肉を、内側から食い破るように、刺々しい形状の白色の何かがどんどん生えていった。全身から右前脚に比べ、刺々しいと言うよりは、分厚く平な形状の、同じく白色の何かが生え―――最終的に、ベアードは全身を白い鎧の様な外見となった。右前脚だけはまるでモーニングスター、或いは狼牙棒の如く、それそのものが武器と化していた。

 

 ベアード自身、自らの変化には驚いているようだったが、再びベアードが『グオウ』と声を上げると、体中から生えた白いそれ―――骨が逆再生の様にベアードの中に入り込んでいって、元の姿に戻った。更に奇妙な事に、ベアードの全身には傷一つ無かった。

 

『…今のは…魔術…?』

 

 ライネスはこの時、全身に少し重くなる程度の疲れがある事に気が付いたが、それもすぐに無くなった。

 この時、咄嗟に魔術関連の知識を頭の中から探してみたが、『亡骸に自らの命を分け与え、二度目の生を与え、僕として従事させる』という様な記述しか無かった。

 

『…まあ、些細な事だ。改めて、よろしく頼むぞ、ベアード?』

 

『―――グオウ!』

 

 ベアードの頭をゆっくりと撫でながら、ライネスは改めて名を呼んだ。ベアードは嬉しそうな顔をしながら、一度鳴いた。

 

―――今考えてみれば、ベアードはあの場で私を殺すなり何なりすれば、厄介な事に巻き込まれずに済んだのかもしれない…か

 

 そこまでライネスは考えて、スクリーンの映像が砂嵐に包まれた。今回は、映像が復活するのは早かった。

 

―――…………

 

 その映像を見た途端、ライネスの眉間に皺が寄った。まるで、思い出したくも無いような物を見たと言わんばかりに。

映像に映っている場所は何処かの森。太陽が昇っている間は、この時はまだ動き回ることが出来なかった為避暑地ならぬ避光地として扱っていたのだ。

眉間に皺が寄った原因は唯一つ。映像に映っている人物―――ライネスを吸血鬼に変えた、あの男が映っていたのだ。

 

 

 

 

『おやおや!おやおやおやおや!!!久しぶりですね!青年!実に二十年振りと言った所でしょうか!!何と久しい!どうですか、人間の限界を超越した存在となった感想―――』

 

『―――死ね!』

 

 最後まで言い切る前に、ライネスは男に全力で殴り掛かった。それも、魔術を使って身体能力を底上げした上で。

 しかし、男はひらりと落ち葉が風に舞う様に簡単に避け、無防備になったライネスの背を―――軽く叩いた。

 

『…グ!?アアアアァァァァァ!?』

 

 瞬間、背から全身へと伝わる―――叩くような、斬るような、刺すような、裂くような、潰すような、噛み付くような、捩じり切るような、この世のありとあらゆる痛みを混ぜ合わせたような―――混沌とした激痛。そんな類の物が、ライネスを襲った。

 

 ライネスは、映像の中の自分の背に光る錬金術の魔法陣がある事に気が付いた。それも、内容を言ってしまえば、『作り変える』系統の物だ。

 それともう一つ。ルーン文字が刻まれていた。『EOLH』、『JARA』と。

 

―――………まさか、な

 

『グオオオ!!!』

 

『ほほう、使い魔を使役しているのですか!確かに吸血鬼には相性の良い存在でしょう!!ですが―――役不足だ』

 

 男の声色が急に変わった。狂気に染まりきっていると感じさせる甲高い声から、冷静で知的で中性的な声に。

 ズン、と。柔らかい物に重い物が落ちた様な音が鳴った。

男が飛び掛かるように襲い掛かってきたベアードの首を、爪先で蹴り上げた音だ。

ベアードは力なく、飛び掛かった勢いを殺せぬまま、地面を滑るように転げた。

 

『青年―――いや、幼き吸血鬼。君は疑問に思わなかったか?何故、二十年も経ったのにも関わらず、私の姿が一切変わっていないのか』

 

『ッ!?まさ…グゥッ!!』

 

『つまりそういう事だ。―――ああ、そうだ。二つ程伝え忘れていた』

 

 僅かに否定するそぶりの欠片すら見せずに男は淡々と、平坦な調子で言葉を続ける。

 

『まず一つは、私の名だ。私の名はレーダ。レーダ・ヴェルバータ。名はともかく苗字(ファミリーネーム)の方は覚えて置くと良い。その痛みに耐えながら、それが出来るのならば、ね』

 

『グッ…ゥ……ヴェ…ル……バータ…』

 

 ライネスの発した言葉に男―――レーダは『ほう』とだけ言って、ライネスに対する評価を上げた。意識が残っているとは、思いもしていなかったからだ。

 

『成程。これは予想以上だ。そして、もう一つの伝え損ねた事。これが君にとって最も重要な事になるだろう。頭の中央にでも据えておけ』

 

 しかし、それでも。あくまでレーダは淡々と語る。淡々と、平坦に。感情を挟む必要は無いとばかりに。

 

『君には“完全な吸血鬼になれるかもしれない”とは言ったが、どうやら失敗してしまったらしい。死にたくなければ…そうだな。君には全て語っても無駄だろう。二百年だ。その間に私を殺してみせろ』

 

『……初めから…その…心算だ!』

 

『ふん。いい返事だ。―――それではそれでは、それではぁあは!またどこかで御会いしましょう!!その時は、私を殺し足り得る存在になっているかどうか、見極めさせていただきましょう!!!では、また何時か!!!!』

 

 狂気的な声を上げて、レーダは空気に溶けてしまったのかの様に、初めからライネスの目の前に居なかったかのように、消えていた。

 

 徐々に暗くなり行くスクリーンに、再びレーダの狂気的な声が一帯に響き渡り、それと同時にライネスの視界も徐々に黒一色となった。

 

 

 

 

「…む……」

 

 僅かに窓から日の光が寝室に入る中、ライネスは起きた。前回と違う点を挙げれば、寝室に六匹の使い魔達が居なかった事と――――シグナム達が来ているらしき事だった。

 

『……マスタ…寝……!!』

 

「だ……主……倒れ……っ!!」

 

「私…たの…」

 

 

 

「…急ぐとしよう」

 

 寝起きから面倒な事になりそうだ、と内心思いながらライネスは壁に刺さっているナイフの柄に掛けてある真っ黒のロングコートを取り、羽織った。そして―――

 

「―――無論、これも忘れずに、ね」

 

 抱きながら寝ていた、それ―――見方を変えれば白いマントにも見える―――フードローブをコートの上から更に羽織り、声の聞こえる方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「無理な話だというのは分かっているが、頼む。ライネスに会わせてくれ。私達の主の危機なんだ…頼む」

 

「私からも頼む。まだ一度も顔を合わせた事は無いが、信用に値する人物という事はシグナムから聞いている。この通りだ」

 

 シグナムともう一人、白髪褐色肌で頭に犬―――というよりは、狼であろう耳を生やし、シグナムより少し年上に見える筋骨隆々とした青年―――ザフィーラはヘカトンケイルに頼み込んでいた。

 

『だから……マスターが三日も寝ちゃってて、ボク達使い魔の中でも過激派みたいなのが君達が何かしたんじゃないかって勘違いしてるんだよ。だから、悪いけど今は少し待―――』

 

「ふむ、成程。―――ヘカトンケイル、その使い魔達には私が『その様な事は全く無い』と言っていたと伝えて置いてくれんかね?」

 

『―――てて……マスター!』

 

 ヘカトンケイルが足元を見ると、やはり、死人のような青白い肌に、肩額を隠す程度に、それ以外の部分は肩に掛かるくらいの銀髪をした男―――自らのマスターたるライネスが居た。

 

「どうも、ここ最近『悪夢』とでも言うべきものに悩まされていてね。それを見る時はどうも、寝込んでしまうようだ。それで?シグナム、それと―――」

 

「自己紹介が遅れた。私の名はザフィーラ。ヴォルゲンリッター『盾の守護獣』だ」

 

「ああ、すまないね。ではシグナム、ザフィーラ。一体何があったのかね?」

 

 苦笑いしながら、シグナムとザフィーラにライネスは問う。それに対して、シグナムとザフィーラは共に苦々しい表情をして、語った。

 

「我らヴォルゲンリッターの主…貴殿はもう知っているな?」

 

「ああ。一度、既に顔を合わせているが…何かあったのかね?」

 

「主が―――」

 

 ザフィーラの言葉を引き継ぐように、シグナムが語り、一度言葉を区切った。そして、ライネスにその言葉を伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

「私達の主が、倒れたんだ…」

 




 誤字脱字、また、ここはこうした方が良い等あれば、よろしくお願いいたします。
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