難作でした…。次回は今回よりは早目に投稿…出来るかなぁ…やや急いでやってしまったので、少し心配です by眼花
それでは、どうぞ。
四日後の午後二時くらいの事。
ライネスは、部屋の中で悩んでいた。ヘカトンケイルの重さをどうにかする魔術は完成し、その札は既にヘカトンケイルの背に張り付けてある。会場に行く為の車は向こうが用意してくれる―――場所は、海鳴市中央図書館前にしてもらった―――らしい。しかし、その件とはまた別の意味合いで、悩んでいた。
具体的に、そして簡素に説明すると―――
「しまったな…。彼女らの親族が仮に私の事を知っているならば、化け物として殺しに来る可能性も否定できんか…」
―――こういう事である。
ライネスが危惧しているのは、自身が吸血鬼だという事を知って、彼女らの両親が自分を殺しに来る可能性は高い、と言う事だ。もう一つは、殺人犯として、だ。もしかすると、警察が隠れている可能性も否定できない。
しかし―――
「まあいい。それもある意味当たり前だ。向こうがそうだったらと仮定するのは無駄な事、その場でどう扱われるか、それによって対応を変えるとしよう…」
―――ライネスは知らない。
この海鳴に住む、通称『二大お金持ち』の家長は、それぞれ器が大きく、何より、裏の出来事を大分理解している事を。
時間は進んで午後五時くらい。一階の入り口前には、館に残してきた三匹を除けば、全ての使い魔が集まっていた。
「よし…では、お前達。行くとしよう」
ライネスがそう言えば、彼の周囲に居る六匹の使い魔が、―――ベアードとレオは腐敗してしまっている部位に包帯を巻いている―――影に沈んで行くかのようにこの場から消えた。
『わかったよ。それじゃあ皆…外には出ないようにね?』
『■■■■■■■!!』
ヘカトンケイルが頼む様に聞けば、首が落ちんばかりに首を縦に振り、声を上げる名もなき使い魔達。
タイラントの考案した『脅し作戦』にヘカトンケイルは参加しなかった―――ヘカトンケイル曰く、性に合わないそうだ―――が、それでも十二分過ぎる成果は在ったようだ。
ヘカトンケイルは、返答を見て満足そうにうなずき、影の中に入って行った。
午後五時半。図書館前に辿りついたライネスの視界には、一台の大きなリムジンが映っていた。
ライネスが近づくと、リムジンのドアが開き、運転席から執事服を纏った老人が姿を現す。
「I was waiting. They are those who are allowed to act as a house steward of me and the Alisa young lady under exclusive contract and who is called Samezima. It is indifferent at Mr. Reines -- it is -- do ??
(お待ちしておりました。私、アリサお嬢様の専属執事をさせて頂いております、鮫島という者です。ライネス様で相違ないですね?)」
「Oh, I am the Reines Bellbart. I'm sorry as he has been kept waiting. Japanese may be used if it talks with it.
(ああ、私がライネス・ヴェルバータだ。待たせてしまった様ですまない。それと、話すなら日本語で構わないよ)」
「御気に為さらず…失礼ですが、何処で日本語を?」
「独学だ…確認したいのだが、この様な服装で大丈夫だろうか?」
「何と、左様ですか。服装の事なら、大丈夫でしょう。気にすることはありません」
英語を交えた―――見方を変えれば主従関係にも見えなくはない二人の会話は打ち切られ、鮫島が「さっ、お乗りください」とライネスにリムジンに乗る様に促す。ライネスは「ありがとう」とだけ言って、リムジンに乗り込んだ。
リムジンの中では、メイド服を着た女性が何人か居たが、ライネスは特に話しかける事も無く、無言のまま、静かに座っていた。
…何名かのメイドは、実は話しかけたかった様なのだが、場の空気を読んだのか、或いは―――鮫島に余程客人相手に粗相が無いようにと言われたのか―――話しかける事などしなかった。
約三十分後。鮫島が運転するリムジンは何事も無く目的地に到着した。
「到着しました。此処が、バニングス家にございます」
「すまない。降りて、直に見ても構わんかね?」
「構いませんが…お冷えに為らない様お気を付けて」
「心遣い、感謝するよ」
門の前でリムジンが停止し、ライネスは車から降りて、大きな屋敷を見た。彼の住んでいる館よりもやや大きく、綺麗な屋敷だった。庭は、時期が時期だというのに青々とした芝生が敷き詰められていた。
―――ふむ。やはり、十三人が住むためにはこれ位の大きさは必要になるか…?
と、一人未来の可能性に考えを巡らせていたライネスの視界に、玄関が開き、そこから親子らしき二人が現れた。
片や父親らしき、ライネスと殆ど変らない背丈の、しかし肌の色や肉付きから健康そうな事が十全に伝わる、白色のスーツに身を包んだ、少し長めの金髪をオールバックにした―――しかしまあ、そのオールバックと顔立ちが若干ミスマッチングである―――若い男。
片や、その娘であろう、見覚えのある少女。半年ほど前に気まぐれに眺めていたら、偶然その場面を目撃して、それを実行した人物らに腹が立った事から、なし崩し的に助けた事になった二人の少女の一人。
「―――初めまして。僕は、デビット・バニングスという者です。この度は、僕の娘―――アリサを助けて頂き、感謝しています」
「素直に受け取らせて貰おうとしよう。態々来てくれた事に礼を言おう。既に彼女から聞いて居るかもしれないが、私の名はライネス。ライネス・ヴェルバータだ。君も久ぶりだね?」
「久しぶり…です。…えぇ……と、その…」
顔を赤らめ、急にしおらしい反応をするアリサにライネスは何処か違和感を感じた。そしてすぐに気が付いた。かつて話した時、四日前に話した時は自分に「~です」と言う話方をしなかった。デビットも温かい目で見守りながら小声で「ほら、アリサ」と促す。
十数秒もじもじして、意を決した様に顔を上げ、ライネスに話した。
「…あ、あの時はありがとうございました。…あ、後で渡したいものがあるから…そ、それと、私にはアリサって名前が有るんだから、そう呼びなさ…呼んで…下さい」
「…無理に敬語を使おうとしなくても構わないがね?その事については失礼。ふむ…そうだね、では、アリサと」
アリサが顔を更に赤くし首を縦に振るのを確認して、ライネスは笑いながら頭を軽く撫で―――ある意味、この場で彼の行動を左右することを確認した。
「では…アリサ。君は、私と彼らの事を両親には?」
「その事ですが、私と鮫島は既に説明を受けています。俄かには信じがたいですが…」
「…成程…ふむ。私が言うのもあれだが、そろそろ中に上がらせてもらっても構わないかね?このまま立ち話というのも何ではあるし、恐らく私が最後なのだろう?」
「…あ、そうでしたね」
一瞬だけ考える様な素振りを見せ、割と尤もな理由でライネスは話を切り上げた。デビットも賛同し、そのままバニングス親子の後ろを歩く形でライネスは玄関に向かって行った。
「ここで行います。他の皆さんは既に来てらっしゃるので」
二人の後を着いて行き、大きめの扉の前に立ち、デビットは扉を押して開けた。ライネスが中を覗くと、中には五人程既に居た。内二人に見覚えがあった。もう一人の助けた少女―――月村すずか。
もう一人は―――少女達と再会する前に行った喫茶店『翠屋』のマスターだ。
ライネスは驚きこそしたが、デビットが友人として呼んだのかもしれない、と思考を打ち切った。
部屋自体の大きさが相当あり、ヘカトンケイルが真っ直ぐ立っても問題無い程の高さはある。広さも言わずもがな、だ。
そんな部屋の中央辺りに大きな長方形のテーブルのそれぞれに席が割り振られており、近くの席の者と談笑をしていた。やや離れたテーブルには沢山の料理があった。
デビットが入って来たことに気が付くと、揃って静かになった。視線は、自然とライネスに集中した。
「えー、皆さん。お集まり頂き、本当にありがとうございます。今日はバニングス家主催の食事会をお楽しみくださいませ。それでは、ご自由にどうぞ―――」
簡素にそれだけ言って、開幕した食事会。「もっと何か言ってくれても良かったのでは?現に、周りも私にどう対応すればいいのか分からなくなってしまっているだろうに」、と思ったライネスであったが、それを口にする事は意味の無い事だろうと口をつぐんだ。
デビットがそう言い終えた直後、ライネスの予想を裏切る様に最初に動いたのは―――
「ラ、ライネスさん」
「ああ、君か。すずか。どうしたのかね?」
―――月村すずかであった。
尤も、行き成り下の名前で呼ばれた事に驚いたのか、先程のアリサとはまた違う顔をしていたが、すぐに戻り、ライネスにそのまま言葉を続けた。
「あ、あの時は助けて貰って、ありがとうございました」
「ふふっ…何、あれは私が勝手にやっただけの事。気にする必要は在るまいよ」
「はっ、はい。でも、本当にありがとうございました」
礼儀正しく頭を下げて、敬意を持って対応するすずか。そんな彼女を見て、ライネスは念のためアリサにした質問を彼女にもする事にした。
「すずか。確認したいのだが…私の事は―――あの時の事は、この場に居る全員が知っていると考えても?」
「え…?あ、はい。ここに居る全員、ライネスさんの事を知っています」
「…ふむ、そうか。ありがとう」
それだけ確認し、ライネスはすずかの頭を何度か撫で、自ら翠屋のマスターの方へと向かおうとして―――ある男女に呼び止められた。
「ライネスさん…であってますよね?私は、すずかの姉の、月村忍と言います。この度は妹のすずかをありがとうございました」
「俺は高町恭也と言います。恋人の―――忍の妹を助けてもらって、本当にありがとうございました」
すずかの姉である忍と、その恋人たる高町恭也に、だ。すずかと同じく頭を下げ、きちっと礼を述べる。そんな恭也に対して、ライネスは重心の動きから、何かしらの武術を心得ている事を看破した。同時に、恭也の方も同じ様な事を看破していた。
それはさておき、ライネスはそんな事が意外な事として映った。何故ならば―――
「ああ…一つ、君達に問いたいのだが?」
「どうなさったんですか?」
「ここに居る者は全員、アリサと・すずかから、あの時彼女らが目の当たりした惨状を―――私が行った事を、それと、私の事も、知っているのだろう?ならば何故こうも当たり前の様に接してくるのかね?」
「……そう、ですね…」
恭也は言葉を選ぶ様に口を閉ざし、忍は、「んー」と考えだして、数秒の内に答えが出た。
先に口を開いたのは、忍だった。
「ライネスさん。逆に聞きますが、例え貴方が吸血鬼という人知を超える存在だったとしても、私達が礼を言わない理由にはなりませんよね?」
それに続いて、恭也も口を開いた。
「忍の言う通りです。それに、ここに居る殆どの人間は裏の事もある程度把握しています。―――けど、そういうのを差し引いても、この町は甘いというか、優しい人間が多いんですよ」
「けど、俺はそれ程甘くは無いと思いますけどね」と、最後に付け加える様に言った恭也の言葉に「恭也、そういう事は言わないの」と少し機嫌を崩したような様子である忍が答える。そんな様子を目の前で見ていたライネスは早めに離れ様として―――離れる直前に、言い放った。
「…そうか。いや、疑うような事を聞いてすまなかったね。では、馬に蹴られぬ内にこの場を後にさせてもらおう」
「「ぶっ!?」」
ライネスの言った、ある種の爆弾発言に咽る恋人ペアを尻目にライネスは今度こそ翠屋のマスターの元へと向かう。
三十歩歩かぬ内に翠屋のマスターの目の前に辿り着いた。
マスターは柔和な笑みを浮かべ、ライネスも同じく笑みを顔に作った。
「いやー、吃驚しましたよ。翠屋であったお客さんと、まさかこんな所で会うなんて…」
「いやはや全くだ…まさかこの様な形で再び会う事に為ろうとは、思いもしなかったよ…そういえば、まだ名を聞いて居なかった。私はライネス。ライネス・ヴェルバータだ。君の名は?」
「僕は高町士郎と言います」
こんな感じで、数分ほど談笑していたのだが、それを中断せざるを得なくなった。何故なら―――
『…ねえ、マスター。ボク達の存在、完全に忘れてたでしょ?』
―――ライネスの足元より、奇妙な―――不出来な合唱のような声が響いて来たのだ。士郎どころか、この場に居る人間は全員ライネスの方を見た。
「…いや、すまないね。談笑に夢中になる余り、すっかり忘れていた。―――ミスター・デビット。彼らを呼ぶが、構わないだろう?」
「え、ええ。構いませんが…一体どこに」
デビットは戸惑いながらもライネスの確認を承諾し、ライネスは士郎に距離を取るようにと促した。士郎はそれに従い、距離を離す。
「…よし。出て来て問題あるまいよ」
『ふー…漸くだよ。ほら、タイラント起きて!』
ライネスの影が膨張したかと思うと、まずそこから何十本もの腕を持った、六メートル程の巨人―――ヘカトンケイルが現れる。続いて出てきたのは梟の頭に狼の体、大蛇の尻尾を持った使い魔―――アモンが飛ぶ様に現れ、宙返りを決めて綺麗に着地した。
三番目に現れたのは、巨大なワニ―――タイラントだ。這う様に移動しながら、影の上から距離を取った。四場目は包帯を巻いたライオンと熊―――レオとベアード。ほぼ同時に二匹が現れた。やはりというか、包帯を巻いている為か、違和感を感じる様ではあったが、すぐに影の上から退いた。
最後は何と茶色と灰色の鱗を持った、三つ首のドラゴン―――アジ・ダハーカ。巨大な蝙蝠の如き翼をはためかせ、ゆっくりと床に降り立った。
『んー…いやー、真っ直ぐ立てるって本当に良いね』
伸びながらそう行ったヘカトンケイルを、或いは他の使い魔達を見て、ライネスを覗いてこの場に居る全員が唖然、呆然としていた。中には、一周回ってすぐに正気を取り戻した者も居たが―――
「ふふふっ…では、改まって食事会と洒落込ませていただこう」
―――ライネスがそう言って、各自のリアクションを見て楽しみながら、改まって、全員揃っての食事会の開会を宣言した。
誤字・脱字等、ご報告をよろしくお願いします。あと、幻眼魔の方もよろしくお願いします。by眼花
ここはこうした方が良い・ここが矛盾している等のご指摘があればよろしくお願いします。by鏡
2012.12.25 ご指摘があった点の修正を行いました。また、修正に伴って、前後編に分けさせて頂きました。