1年と6ヶ月前のあの日、大学1年生だった私はSAOに囚われた。
はじまりの街の中央広場で行われたデスゲームを開始するチュートリアルでの茅場晶彦の一言。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
.........この言葉を聞き私は『前世』の事を思い出した。正確にいえば思い出したというよりは前世の知識だけが突如流れ込んできたようなものだ。前世の自分は何をやっていたのか性別すら思い出せない。突如大量に流れ込んでくる知識の多さに翻弄され、茅場晶彦の突然のデスゲームの宣言。私はその場に頭を抱えてうずくまり、パニックを引き起こした。
現実を受け入れきれず一週間、はじまりの街の一室に閉じこもった。その1週間で何とか気持ちの整理をつけることに成功し、己の能力で生き残るする事を決めた。今思い返すと、たった1週間で気持ちの整理ができたのは、『前世の知識』により多少精神が安定していたのかも知れない。
この《ソードアート・オンライン》は2年後には《黒の剣士キリト》によってクリアされる。だが、原作通りに進むなんて誰も保証していない。何が起こるのか分からないのだ。ただひたすら街に閉じこもり続けるのは得策ではない。《モンスターが街に入ってこない》というルールがすぐになくなるかもしれない。
私は意を決して街の外へと飛び出していった。
前世の知識にあるよって黒幕がかわかる。だからどうしたというのだ。ここでは無意味だ。むしろ最悪の事態を引き起こしてしまうかもしれない。
死ぬのが怖い。私は攻略組として生き残っていく自信はない。これは夢なんかじゃない、現実だ。ボスと戦う勇気なんて到底出てきそうにない。この世界で死ねば―――
私は本当に死ぬのだ。
ボス戦には参加しなくとも、攻略後の階層情報を提供することにより、中堅層プレイヤーを支援することはできるかもしれない。
―――逃げの選択肢を選んでいるのは自覚はある。だが並大抵のことでは変えることはできないだろう。死にたくない。
圏内から飛び出す前、私は真っ先に《隠蔽》取得した。まだ、正面から相手をするのが恐ろしかったのかもしれない。《隠蔽》を発動させ、姿を隠しフレンジーボアを後ろから《両手斧》で奇襲する。この戦法を1日中行い続けた。
ホルンカでのリトルネペントのような《隠蔽》が効かないmobは極力戦闘を避け1体1の戦いに誘い込み倒していった。
こんな戦いでは限界がある。対策と種類を増やさないといけない。
そうだ、mobに囲まれたときのために《軽業》は取ろう。
武器が壊されたときやソードスキルの連携のために《体術》を取ろう。
逃げるためや奇襲のために《疾走》を取ろう。
遠くからも戦えるよう《投剣》を取ろう。
私はこれから取得していくスキルを決めていった。手段が多いことに越したことはないからね。あらかじめシュミレーションしていかなければ。
デスゲーム開始から2週間ほどたったある日前世の知識で気がついたことがあった。自分の容姿である。
プレイヤーネーム《komachi》
生き残ることに精一杯だったためか気づくのが遅れた。前世の知識にある『東方project』の小野塚小町と自分の名前が同じであり、リアルの容姿がそっくりだったのである。おまけに自分の口調まで一緒ときた。
町を歩いていると、男性プレイヤー達がジロジロこちらを見てくる。その視線がほとんど女性への好奇心の目ばかりだ。
このSAOでは女性プレイヤーはごく少数だ。ハラスメント行為をされる恐れがある。一応ハラスメントコードというものに守られてており、異性がハラスメント行為を受けそうになった場合、警告が出現、okボタンを押すと相手を牢獄エリアに強制転移させることができる。だがこれは、論理コードの解除で消すことが可能であり自分の手を操作されてしまう恐れもある。
女性プレイヤーの私は警戒してしすぎることはないからね。人目で分からないようにしよう。
よって私は容姿をフードつきケープで隠すことにした。嬉しいことに、《隠蔽》スキルの《隠蔽率》ボーナスが付き奇襲が行いやすくなった。
これからの2年間戦い続けなくてはならない。
「まずは戦闘に慣れなくては」と内心決意した私は圏外へと飛び出した。
そうして戦い続けて1年と6ヶ月たった現在。私は.........
攻略最前線《第60層》にて元気に大鎌を振りかぶっています。.....なんでや。
「あたいはどうしてこうなったんだろうね。ねぇ?ラビィ?」
私は肩に乗っている使い魔の《ラグー・ラビット》に呟いた。