リプリチャイルド協定
それは、火星で設立された法律だ。
具体的に言えば、リプリチャイルドして産まれた子供は、そのオリジナルとは違うという事を明記した法だ。
オリジナルと違うから、モノとして扱われる…ではない。
オリジナルではない、つまり…別の個人である、故に人権と生存権、幸福を追求する権利を有する人である。
それが大前提の法律であり、これを犯したり、間違って解釈した場合は、重罪となる厳しい法でもある。
でも、考え方は正しい。
産まれた命は、命なのだ。
モノではない。
当然の事だ。
では、なぜ…こんな法律が生まれたのだろうか?
そもそも、リプリチャイルドが生した経緯は、データストームとして人の記憶をメモリーできる事から始まった。
死んでしまった個体の記憶をメモリーデータストームとして抽出して、それを新たに創造した個体の肉体へ転送する。
つまり、スレッタがエリクトの新たな肉体になる…という事はリプリチャイルドして当然の事だった。
だが、火星では、それは…最大の汚点であり間違いとされた。
それは二十年前のメルカーバの事件に端を発している。
メルカーバの事件によって火星は…前世紀、火星入植時代の建造物が破壊されて、メルカーバの圧倒的な生産システムによって新創造された。
その世界を管理するのは、メルカーバの内にいる一億二千万人のメモリーデータストーム体達から生まれた意識だ。
メルカーバというシステムによる、システムの完全支配が火星で行われた。
だが…それは、それを否定する人々によって阻止された。
メルカーバは、Yデータという特殊なプログラムによって封印、太陽系の何処かに飛ばされて封印された。
火星の人々は、自分達がやった事を思い知らされた。
その一億二千万人のメモリーデータストーム体達の…リプリチャイルドを誕生させて、それを新たな人間として火星では育てている。
激減した人口の当て馬もあっただろう。
だが、それは…自分達がやった事に対する償いとして…。
それでも、メルカーバの中にある怨念の塊は、今でも息づいている。
Yデータによって封印はされているが…。
◇◇◇◇◇
オデッセウス学園のMS格納庫では、GUDAMケラノスとギアントの調整をするラウノとデュオ、その二機の橋渡しブリッジにいるティアナが
「今日の決闘の場所は、前回とは違う場所だから気をつけてね」
ラウノが場所の確認をして
「え? オデッセウス学園の上にある衛星施設の周辺なの?」
ティアナが
「ええ…宇宙での戦いになるわ」
ラウノがデュオに
「広い空間だと、圧倒的に多数が強いけど…」
デュオがのんきに
「問題ない、勝てるぞ」
ティアナが
「どこからその自信が来るのよ…」
デュオが
「アイツら…安い挑発に乗ってきている。そういう場合は、勝ちが確定している。今回は、ラウノとオレにティアの三人で操縦して決闘するぞ」
ティアナが
「ええ…でも私…ケラノスには」
デュオが
「こっちのギアントに、オレと一緒に乗るんだ。問題ない」
ラウノが心配げに
「本当に大丈夫かなぁ…」
デュオが
「大丈夫、大丈夫。向こうの大佐さんは、今頃、頭を抱えているんじゃないか?」
◇◇◇◇◇
ブシードがGUDAMアフェドの十機が並ぶ前で
「良いか、今回の作戦は、戦闘ではなく…決闘というルールに則って行われる。それを重々承知で…」
アレウスの隊員十名の内、ブシードも合わせて四人の男性陣以外、六人の女性陣の顔が険しい。
ブシードが
「いいか、落ち着いて…」
アレウスの女性陣の空気が鋭い。
これは、何を言っても火に油を注ぐだけ。
ブシードが溜息を漏らして
「とにかく、決闘のルールを守れ。以上だ」
隊員達がブシードに敬礼する。
ブシードが
「すこし席を外す。開始まで各々の調節を命じる」
と、ブシードが通信室へ行き、火星統一連合へ通信を開く。
通信相手は…
「フリディット将軍」
フリディットだ。
フリディットが冷静に
「どうしたんだね。緊急に通信を開くなんて…」
ブシードがウソ偽りなく
「ゾルダスの挑発に…仕官達の半分が当てられて…結果は、悲惨な事になるかもしれません」
フリディットは慌てる事なく冷静に
「そうか…いくら能力は高くても…まだまだ若いからな。仕方ない。敗北したらしたで、構わない。次の交渉に持ち込むだけだ。勝敗の結果で、君達に責任を取らせるつもりはない」
ブシードが頭を下げ
「ありがとうございます」
フリディットが
「ゾルダスは…こちらに…」
ブシードが難しい顔で
「誠に申し上げにくいのですが…」
フリディットが
「そうか…分かった。なら…あの計画を続けるしかないな」
ブシードが真剣な顔で
「よろしいのですか?」
フリディットは淡々と
「二十年だ。それしか維持できなかった。所詮、我々はその程度の手腕しかなかった。そういう事だ」
ブシードが
「了解しました」
フリディットが
「では、そういう手筈で進めるから、後はよろしくな。まあ、反乱者は出るだろうが…問題はない」
ブシードはフリディット将軍との通信を終えて、静かに目を閉じて立ち上がり
「これも…時代だ」
と、アレウスの隊員達がいる場所へ戻る。
◇◇◇◇◇
ラウノとティアナにデュオの三人は、GUDAMケラノスとギアントが合体した状態で出撃する。
上昇するGUDAMケラノス・ギアント状態。
ギアントのバックパックから膨大な赤いフレアを放って音速を突破して宇宙へ向かう。
それに続くように火星統一連合のGUDAMアフェド達十機編隊が併走する。
その上昇中に決闘の口上が始まる。
決闘の見届け人は、オデッセウス学園の理事長エルノラだ。
「ええ…と、スレッタ」
と、車椅子のエルノラが隣にいる娘スレッタに
「ごめんなさい。やっぱり私…」
スレッタは微笑み
「じゃあ、私がやるよ」
スレッタが決闘の口上を始める。
「では、決闘の宣言を行います。両者! 名乗りを」
ラウノが
「LP051、ラウノ・ユーテル」
ティアナが
「LS032、ティアナ・テュール」
デュオが食事をしながら
「ああ、モグ、ああ…デュオ・ゼルウス。以下略」
ティアナは操縦席にいて、ラウノがいる操縦席の後ろ、デュオはティアナの隣に即席に作ったパイロット席で両手に食べ物を持ち食事している。
「ずずずずず」
と、デュオは余裕で飲み物のカップのストローを吸う。
それにスレッタは呆れ笑みをしてしまう。
完全に観客状態だ。
そんな食べ物の音がしながら相手の火星統一連合のアレウスが
「こちらは、火星統一連合。第七宇宙部隊、アレウス」
と、ブシードが答える。
ブシードが答えるつつ、他のアレウスの女性陣を見ると全員の顔が鬼のように険しくなる。
更にデュオが
「考古学の授業に出るような男女の廃れた価値観を持つヤツに、負ける訳がないだろう」
アレウスの女性陣の顔が更に険しくなって修羅になる。
ブシードは挑発に乗ってしまい冷静な判断が出来ない彼女達に頭を抱える。
スレッタが引きつり笑みで
「双方、魂の代償をリーブラに」
デュオが
「オレ達は、現状の死守で」
ブシードが
「そちらが持っているYデータを…」
そこへ、ヘレナが入り込み
「ゾルダスに、謝罪を要求する! そして…母さんと会って貰う」
スレッタが
「だそうですけど…」
デュオが
「問題ない、まあ…ムリだろうけど」
ヘレナの握る操縦桿がメキメキと音を立てる。
激怒しているのが分かる。
スレッタが
「では、双方の成立を確認。決闘は、多数の対戦で行います。場所は、宇宙域の第24戦術区域、決闘の承認をします」
そして、スレッタが
「両者、向顔」
全員が同時に言う。
「勝敗はモビルスーツの性能で決まらず…操縦者のワザのみで決まらず…ただ、結果のみが真実」
スレッタが手を叩き合わせて
「フィックス・リリース」
決闘の全員が目的の宇宙域の第24戦術区域へ到達した。
その瞬間、デュオが後頭部に腕組み枕をして
「所詮、戦いなんて質、量、技で決まるんだけどな」
それが少し嫌みに…。
その頃、ミオリネはエリクトを使って情報通信室で
「絶対に! アイツがシャディクだって証拠を掴むのよ!」
と、エリクトと同調して、イオスに関するデータを洗いざらい検索していた。
エリクトは呆れ気味に
「ぼくも巻き込まないでよ」
ミオリネがエリクトが入っているキーホルダーを握り
「なんか、文句ある!」
と、怒り笑みを見せる。
エリクトが
「はい、すいませんでした」
そして、同時刻に実働部隊エリシアの宇宙戦艦にいる情報室で、イオスがシステムと自分を繋いで調べモノをしている。
そこへ、ノディアが来て
「イオス、早くしないと…決闘が」
イオスが頭部と繋いだバイザーを荒く外して
「マズい事になった!」
ノディアが困惑で
「どうしたの?」
イオスが慌て気味に
「オックスアースの残党が、地球へ向かっている痕跡を見つけた!」
決闘が始まる。
GUDAMアフェドの十機編隊が三つのチームに分散する。
ブシードが
「いいか! 相手は、あのゾルダスだ! 警戒して」
勝手に六人の女性陣が先行した。
「あの、バカ…」とブシードが頭を抱えた。
デュオ達、GUDAMケラノスのギアント状態は
「来た」
と、ラウノが
ティアナが
「本当に先行してきた」
デュオが
「だろう。アイツら…挑発に乗って頭が回っていない」
ラウノが
「じゃあ、ティア、予定通り」
ティアナが頷き
「ええ、機体の操縦はラウノで」
ラウノが
「攻撃はティアナで」
GUDAMケラノス・ギアントは膨大なフレアを後部から放って先行するGUDAMアフェド達へ向かう。
GUDAMケラノス・ギアントは、バックパックにある無線兵器の盾達を放出。八つの無線で飛んでいく盾兵器達が動く。
そして、ギアントのバックパックから誘導レーザー砲を放つ。
無数のレーザー砲が曲がってGUDAMアフェド達の部隊へ到達する。
それを流石に避けるGUDAMアフェド達。
それは予定通りの行動で、そこへ無線兵器の盾達が備わっているガトリングレーザー砲を打ち込む。
あっという間にGUDAMアフェド達の編隊が散らされる。
散ったGUDAMアフェドへ、ケラノスが両手に持つ重力砲を発射する。
深緑色の重力波の攻撃に、GUDAMアフェド達は重力推進を乱されてしまう。
その様子にブシードが
「全く…」
呆れる。
本来のアレウス部隊の強さは、個々の操縦能力もそうだが、統制が取れた動きにある。
どんな状況でも冷静に動ける事が勝利に繋がるし、ミスも無くす。
なのに、アレウスの女性陣は冷静さを失って統制が消えた。
理由は分からないでもない。
火星には、男女を結びつける婚姻制度がない。
子供は、全員…政府や統治機構による保護と福祉が入り、それによって育てられる。
それは、メルカーバがもたらした遺産の力によるモノでもあった。
過去の火星大戦で人口が激減したのを補う為に、リプリチャイルドや婚姻に縛られない、全体福祉による育児と教育、社会システムが構築された。
その副産物として、昔にあった男女の恋愛による婚姻制度が消えた。
それは自由で素晴らしい事に…思えた。
だが、それは…人類にとっても新たな不幸の始まりでしか無い。
深い繋がりによって結び合う普遍の消失でもあった。
近年、火星ではそれを復古させようとする動きがあるが…それに至っていない。
社会は、男女平等で、育児と教育、社会福祉と医療の潤沢は良い事だろう。
だが、それは人としての男女、父母、血筋と、家族の結びつきという、今まで人類が人口を、人の繋がりを維持していた普遍性の喪失へも繋がった。
その普遍性を戻そうとする女性達は多い。
男性は、男女平等の今で十分…と。
西暦に男女平等という運動が叫ばれて、叶った先には、男女と父母の普遍性を戻そうとするのが動きが女性から起こるとは、皮肉な事でもあった。
連続するGUDAMケラノス・ギアントの連続攻撃をかいくぐって、一機のGUDAMアフェドが現れる。
「落ちろーーーーー」
ヘレナのGUDAMアフェドだ。
GUDAMアフェドが右手にビームソードを握り、GUDAMケラノス・ギアントのブレードを狙う。
だが、凄まじい逆噴射でGUDAMケラノス・ギアントは避けた次に、GUDAMケラノスの両手にある重力砲の連射を浴びる。
「ああああ!」
連続攻撃を浴びるヘレナのGUDAMアフェド
そこへ、GUDAMケラノス・ギアントが飛び込み、GUDAMケラノスは両手の重力砲をビームソードに変えてGUDAMアフェドの頭部を切り捨てる。
その後、無線兵器の盾達がGUDAMアフェドの両手足をガトリングレーザー砲で粉砕する。
「ヘレナーーーー」
と、仲間のGUDAMアフェドが来るも、それに無線兵器の盾達が攻撃を放ち攪乱
そこへ巨体のGUDAMケラノス・ギアントが飛び込み、GUDAMケラノス・ギアントの左右からGUDAMギアントの手が伸びて、その手の指先に幾つものレーザー砲の口が開いて、通過するGUDAMアフェド達の四肢を破壊する。
六機のGUDAMアフェド達が四肢を粉砕されて宇宙域に浮かぶ。
それにブシードが
「だから…クソ…」
部下の一人が
「大佐…どうすれば…」
ブシードが厳しい顔で
「編隊を立て直す。オレ達だけでやるぞ!」
残り四機のGUDAMアフェドがGUDAMケラノス・ギアントへ向かう。
残り四機のGUDAMアフェドにGUDAMケラノス・ギアントの操縦席にいるラウノが
「本当に、勝っちゃった…」
ティアナが
「ええ…ウソみたい。アレウスよね」
デュオが
「な、勝てるって」
と、のんきに飲み物のストローを口にする。
ラウノが
「ティアナ、残りの四機へ向かうよ」
ティアナが
「えええ」
デュオが
「残りは、挑発に乗らなかった連中だ。本来の力だろう。気をつけろ」
「うん」「はい」とティアナとラウノが答える。
だが、デュオとラウノが上を見上げて
「マズい!」
と、デュオが叫ぶ。
ラウノが突然、逆噴射してGUDAMケラノス・ギアントを後退させた。
GUDAMケラノス・ギアントが後退したそこに、艦隊砲のレーザー砲が走る。
ブシード達も回避運動をする。
ティアナが
「ラウノ、どうしたの?」
デュオが
「アレは…」
艦隊砲のレーザー砲が来た方向がズームされる。
そこには、二隻の宇宙戦艦とMS部隊、四機のデューン・スポーンが迫っている。
その部隊が見に待っているエンブレムは、オックスアースの残党だ。
オックスアースの残党の司令、ソロモンが自軍の宇宙戦艦で
「狙いは、あの巨大な機体だ!」
オックスアースの残党がラウノ達を狙って現れた。