その前夜に…
砂漠を三つのMSが疾走する。
背面と脚部にあるブースターを噴射して、砂漠を爆走するMS
「551、441、331、現着」
無機質な音声が三機のMSに響く。
441に乗るマシンナーのゾルダス(デュオ)がMSを目標の建物へ向ける。
そこは、火星のMSにエネルギーを無線送信する施設だ。
その無線送信する施設から、巨大なMSが現れる。
施設を守るMSがミサイルやガトリング砲撃を放つ。
その攻撃を回避するゾルダスが乗るMSと仲間のMS達。
爆音と震動が火星の大地を響かせる。
ゾルダスが自身のMSに装備する両手ガトリングを発射する。
それに続いて仲間のMSもミサイルや砲撃を発射する。
そして、551のMSが施設防護の巨大MSの多段レーザー砲に襲われて大破する。
551の操縦者は、数年前に死亡している。
そのMSを動かすのは、操縦者の生体データをアップデートしたデータストームだ。
ゾルダスと331は、まだ…生体を残している。
だが、
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
331は息が…戦闘を続ければ続けるほど、データストームに呑み込まれる。
アーマードという肉体を強化補助するナノマシンの中でも戦闘に特化したマシンナーのナノマシンには、パーメットによるデータストームを使った特注のシステムが組み込まれて、MSと操縦者のシンクロを最大限まで加速させる。
その加速によるデータストーム汚染の結果、データストームに呑み込まれて死ぬ。
331が
「ゾルダス…お前は…最後まで」
と、言葉を残してデータストームに呑み込まれて、その寸前に特攻する。
全身を破壊されながらの特攻により、施設防護の巨大MSが破壊される。
それでも施設の防衛システムは生きている。
激しいミサイルと砲撃の中をゾルダスのMSが駆け抜けて施設内へ侵入、巨大なエネルギー送電塔と、その動力を攻撃、施設は大爆発する。
その爆発から、ゾルダスが乗ったMSだけが飛び出して遠くへ転がる。
ゾルダスはハッチを開放して外へ出る。
爆発炎上する施設を睨むゾルダスの通信に
「任務終了」
生き残ったゾルダスは回収され、死んだ仲間は…死後もデータストームの中に入った生体データがリサイクルされる。
これがゾルダス達、アーマードのマシンナーの生き方だ。
マシンナーとなった者に生死は必要ない。死ねばデータストームへアップデートされ、その生体データが、MSにあるデータストームAGI…人工知能へ入れられて活用される。
このデータストーム兵士のお陰で、火星では前線で戦う兵士が格段に減った。
人道的だ。合理的だ。犠牲が少なくて済む。イノベーションだ…と。
必要なデータストーム兵士を生産してMSに乗せて戦わせればいい。
これが火星の常識だ。
ゾルダス達のようなデータストーム親和適正が高い男性達をアーマードのマシンナーへ登用する法律があり、それが拡大解釈と過剰適合を繰り返して…
その結果は戦争の長期化、データストーム兵士の過剰生産、全ての汚い仕事はデータストーム兵士と、アーマードのマシンナーに押し付けて成り立つ。
機械と機械にされた人間の地獄が続いていた。
だが、それも…メルカーバが登場した事によって最悪な結末を迎えた。
そのメルカーバのコアに乗る操縦者として、ゾルダスが選ばれて…その結果。
火星は長きに渡るデータストーム兵士を使った戦争に終止符を打った。
ゾルダスは、それによって火星の魔王と呼ばれた。
二十年後には、その戦争を第二次火星大戦と…
火星の魔王というコードネームで隠された男、デュオ・ゼルウスは…
◇◇◇◇◇
デュオは頭を抱えていた。
デュオがいる場所は、地球のオデッセウス学園だ。その校舎の屋上で外が一望できるテラスにいた。
地球で様々な技術者を育成する十代の若者が通う学校で、デュオは頭を悩んでいた。
「どうして、そうなった…」
と、デュオは呆れる。
ティアナ・テュールは、決闘を持ち出した。
「はぁ…」
デュオは溜息ばかり漏らす。
そこへ「あの…」とラウノが来た。
「ああ…どうしたんだ?」
と、デュオは来たラウノに尋ねる。
ラウノが
「決闘について色々と聞かないんですか? ゾフィアさんとノディアさん、決闘の経験があるスレッタ教官に色々と教わっているようですが…」
デュオが訝しい顔で
「いや…GUDAMの性能だって殺傷しないように制限されるし、強制的にコクピットへの攻撃を回避させられるプログラムも入るし、何を聞く必要があるんだ?」
ラウノが苦笑いで
「勝利条件とか…」
デュオが
「コクピットを狙わないで、相手のGUDAMを戦闘続行不能にすれば問題ないだろう」
ラウノが不安げに
「そんなに簡単に戦えるんですか?」
デュオが
「そりゃあ…二十年前の、あの大戦で…」
ラウノがハッとして
「そう…でしたね。アーマードのマシンナーですよね。デュオさんは…年齢を考えれば…」
デュオが
「もしかして、実戦経験が…」
ラウノは頷き
「はい。シミュレーションを少しだけで…」
デュオがその場から動き
「分かった。二日後だからな。対戦シミュレーションだが、つき合うよ」
ラウノがそれに続き
「お願いします」
こうして、ラウノとデュオのシミュレーション内ので訓練が始まった。
GUDAMケラノスとGUDAMギアントを通信で繋いで、二人は操縦室の仮想空間で戦う。
所詮、データ内での模擬戦だ。
その結果は…
「ああ…全然、勝てない」
と、ラウノは操縦席で頭を抱える。
デュオが通信でラウノに
「いや、あそこまで動ければ上出来だろう」
ラウノが操縦席で手を合わせて不安げに
「でも…私…勝たないと…。そうでないと、このケラノスも回収されて…」
デュオが
「すまんな。あの時…強制的に繋いだ結果…」
ラウノが膝を抱えて
「デュオさんのGUDAMギアントだって母さんが作った機体です。だから…」
デュオは微笑み
「守りたいのか…」
ラウノはデュオの通信画面を見つめて
「デュオさんは、どうやって母さんと出会ってGUDAMギアントに乗り込む事に?」
デュオは頭を掻きつつ面倒な顔で
「色々と話すと長くなるから、端折って言えば、オレは…脱走兵に近い退役軍人みたいな扱いで、木星のメタン鉱脈を採掘する採取MSの操縦者として暮らしていたプラントで、ラウノの母親が…GUDAMギアントを作り、そこへ火星統一連合の部隊が来て混乱、その最中にユーテル博士と出会い、ラウノを守ってくれって、頼まれたのさ」
ラウノが驚きの顔で
「私を…ですか? どうして?」
デュオは首を傾げて
「分からん。でも、守ってくれ…と。その為にこのGUDAMギアントを渡された」
ラウノが困惑で
「母さんは…なぜ…デュオさんを…どうして、私を?」
デュオが頭を掻きながら
「オレがアーマードのマシンナーであるのはユーテル博士も知っていたし、そういう意味では護衛の傭兵には向いている。理由は…なんであれ。母親のユーテル博士はお前が心配だって事だ」
ラウノがデュオの顔がある画面を悲しく不安げに
「母さんの所在は?」
デュオは首を横に振り
「すまん。わからん。だが…そんな柔な人じゃあない。生きているはずだ。母親を信じてやれ」
ラウノは頷き「はい」と答えた。
その後、二人は仮想空間の模擬戦を続けた。
◇◇◇◇◇
ティアナが通信で祖父でありテュール・グループの会長のデュオン会長と通信で話をしている。
無論、高度に暗号化された通信だ。
祖父デュオン会長が映る画面を前にティアナが
「ラウノ・ユーテルが…メルカーバの起動キー」
通信の祖父デュオン会長は頷き
「そうだ。しかも…完全な…だ」
「どういう意味なのでしょうか? お爺様…」
と、ティアナが尋ねる。
デュオン会長は
「二十年前、メルカーバには、膨大な数のマシンナーの生体データが収められたルグスムーンという生体データの巨大装置と、それを依り代とするゾルダスという、その時まで生き残った最後のマシンナーによってメルカーバを起動させた結果、暴走した。故にメルカーバは封印される事になった。その暴走するメルカーバを完全制御するキーが、ラウノ・ユーテルなのだ」
ティアナが驚きで
「あの子が…」
デュオン会長は渋い顔で
「偶然なのだろう。ラウノ・ユーテルが小さい頃に反乱を起こした火星統一連合の兵士達の戦闘に巻き込まれて、それを救出したのはゾルダスだった。そのゾルダスは…重傷のラウノ・ユーテルを救う為に自らのアーマードを分け与えた。その結果、ラウノ・ユーテルもメルカーバの起動キーと、そのメルカーバの完全制御する資質を獲得した」
ティアナが不安げな顔で
「どのくらいの適正値なのですか?」
デュオン会長が
「300だ」
ティアナが驚きの顔で
「完全適合ですか…」
デュオン会長は頷き
「そうだ。これは、我々がYデータを得た事で分かった事でもある」
ティアナが悩んでいるとデュオン会長が
「ティアナ、我々はあのメルカーバの悲劇を繰り返すつもりはない。ラウノ・ユーテルとGUDAMギアントにあるYデータ、守ってくれるか? 無論、お前が望む平和利用に使うをワシは応援したい」
ティアナが頷き
「お爺様、必ずやり遂げて見せます」
デュオン会長が難しい顔で
「本当は、お前を守る為に地球に送り出したのに、本当にすまない」
ティアナが微笑み
「別に構いません。私はディオン・テュールの孫娘ですから。それと…」
ディオン会長が
「なんだ?」
ティアナがイタズラな笑みで
「お爺様が心配になって、偶に…そうGUDAMケラノスで火星のプラントに帰ってきても…」
デュオン会長は溜息を漏らして笑み
「分かった。その当たりはティアナの好きにしなさい。だが、連絡はくれよ」
ティアナが嬉しそうに
「はい、分かってます。お爺様」
◇◇◇◇◇
ティアナは祖父との会話を終えてラウノとデュオを探していると、端末にある位置情報で二人がMS格納庫にいるのが分かり、向かう。
大凡、何をしているのか…分かってもいる。
ティアナが格納庫へ来ると、予想通り二人は互いのGUDAMを通信で繋げて仮想空間の模擬戦をしていた。
ティアナがラウノの操縦席に繋がるタラップを上がって
「調子はどう?」
と、空いているケラノスの操縦席を見る。
ラウノは
「デュオさん、ちょっと休憩で」
通信でデュオが
「ああ…良いだろう」
ラウノは操縦席から立ち上がって
「ぜんぜん、デュオさんに勝てません」
ティアナは扉に背を預けて
「実戦経験豊富なアーマードのマシンナーなんでしょう。アンタ…ラウノは、戦闘経験なんて…」
ラウノは笑み
「MSやケラノスは、たくさん、操縦して来ましたけど。戦闘は…全く」
ラウノの隣にティアナが座って
「決闘に負けたって、アタシが口八丁で何とかしてやるわよ」
ラウノはティアナに
「そんなのダメです。ちゃんと勝ちますから」
ティアナが微笑み
「分かってる。期待してるわ」
「はい」とラウノは答えた。
そんな二人の会話をしているMSの足下にスレッタが来ていた。
ゾフィアとノディアに決闘の説明を終えて、同じくラウノ達に説明に来たのだが…微笑んでしまう。
ティアナとラウノが楽しげに話している様子は…
「スレッタ、両者に説明は終わった」
と、ミオリネが来た。
スレッタが
「ミオリネ…」
ミオリネがケラノスから話し声が聞こえて
「あそこにいるの?」
スレッタが
「今は、ダメですよ。二人が大切に話し合っているので…もう少し後で…」
ミオリネが肩をすくめて
「分かった」
スレッタが
「ラウノちゃんとティアナちゃん、二人を見ていると…昔の私達みたいで」
ミオリネが
「ティアナ・テュールの母親は、私のお母さんの妹なの」
スレッタが驚きで
「そ、そうなんですか! 初耳です」
ミオリネが
「血筋としては、私も火星のテュール・グループの会長の血を引いているけど。あんまり繋がりがなかったから…身近ではないわね」
スレッタが微笑み
「それを知ると、ますます、なんか二人が…私達みたいで…」
ミオリネも微笑み
「そう、まあ、いいわ。スレッタが楽しそうならそれで…」
◇◇◇◇◇
火星の実験実働部隊エリシアに儲けられた学園の部屋でイオスが
「今後の決闘に関しての事だが…」
と、ゾフィアとノディアにガジタールの三人を前に
「勝っても負けてもどっちでも良い…と通達が来た」
ゾフィアとノディアが戸惑いの顔で、ゾフィアが
「なんで? あの機体、GUDAMギアントとYデータの回収が重要なんでしょう?」
ノディアが
「勝っても負けてもどっちでも良いって…ずいぶん、投げやりなんですね」
イオスが
「我々がYデータを入手しても、それを使えるキーの人物がいなければ…ただのゴミだ」
ガジタールが
「つまり、キーになる人物が手に入らないなら…」
イオスが
「どの道、無用の長物だ」
ゾフィアが
「じゃあ、そのキーになる人物って誰?」
ノディアが鋭い顔で
「まさか、デュオ・ゼルウス…が」
イオスが頷き
「その通りだ」
ゾフィアが
「じゃあ、ソイツも一緒にふん縛ってもいいから連れて」
ガジタールが
「やめておけ、死ぬぞ」
イオスが
「デュオ・ゼルウス、元メルカーバの生体起動キーであり、アーマードのマシンナーの中で生き残った最強のマシンナー、ゾルダス。その肉体のアーマード融合率は90%以上だ」
ノディアが顔を引きつらせて
「重機ですか? それ…全身の生体細胞とアーマードが融合している金属生命体って事でしょう」
ゾフィアがおどけ気味に
「殴ったら腕折れそう」
イオスが自分の手を見ると
「正直、全身がアーマードであるオレでも勝てる気がしない」
と、呟いた後、顔から全身に巡って電子回路のような光の筋が走る。
イオスは、全身がナノマシンで構築された人工人類だ。
ゾフィアが
「じゃあ、どうするの? 今後は…」
イオスが
「とにかくだ。決闘という手段で物事を決められるという状況を作り出して、そこからは…」
ゾフィアが
「色々と面倒事ばかりですね」
イオスがメガネを押さえて
「仕方ない。それが生きて行くって事だ。そういう事だから各人、頭に入れて置いてくれ」
「うーす」とゾフィア
ノディアとガジタールは無言で頷いた。