「ふはぁ~いい眺め!」
暖かな陽気の中、私は大の字になって寝転がる。背中にはゴツゴツした岩肌を感じるけど、そんなことは気にならないくらいに星空が綺麗だ。頑張って山を登った甲斐があったみたい。 そして何より……
目の前に広がるのは満天の星空。グラデーションのかかった藍色の景色に、色鮮やかな星々が美しく、まるで輝く宝石の海のよう。まるで宇宙にいるような不思議な感覚になる。私は大きく深呼吸をする。風に乗って、かすかに木々がざわめく音も聞こえてきた。ゆっくりと目を閉じて、自然の音を楽しむ。
―――私の名前は橘野乃花。自然の景色が大好きな高校一年生。だって、自然の景色を見ていると心が落ち着くから! でも、友達からは変わった趣味だとよく言われるんだよね……。確かに周りを見てみると、メールのやり取りやカードゲーム・ボードゲームに夢中になっている人がほとんど。自然に興味がある人はあんまりいないかも……。まあ、分かってくれる人もいるから全然かまわないんだけどね!
次に私が大好きなのが、自然の音。だって、こうして目を閉じると色々な音が聞こえるから。鳥や虫の声、川の流れの音、風の音、葉っぱが擦れる音……他にも数え切れないほど沢山ある。そのどれもが心地よく私の耳に響いてくる。この音をずっと聞いていたいな……。
……でも、私が最も好きなのは。
「ののか、お腹見えてるよ」
隣でくつろいでいる女の子、葵ちゃんが私のお腹を見てクスッと笑う。
「……お腹を出しながら寝るのは危険。夜風によってお腹が冷えてしまい、内臓の悪影響につながる」
更に隣にいる少女、文ちゃんも真剣な表情で語り始める。
「……そうじゃなくて~女の子が恥じらいもなくお腹を出して寝てることに問題があるんじゃないかなぁ~」
近くで座っている活発そうな金髪少女、黄菜ちゃんがツッコミを入れる。……うう、みんなして酷い。
「別にいいじゃん! 気持ち良いし、涼しいんだよ?」
「えーっ? それならあたしもやりたい~! 恥じらいとかどうでもいいし~」
「それじゃ、僕もやろうかな?」
「……やるべきではない。内蔵の悪影響は病気にもつながる」
「はいはい分かった~ほら、もう暗くなってきたしさ。そろそろ帰らないとヤバいんじゃないの~」
みんなが好き勝手なことを言い始めたところで、黄菜ちゃんが話を切り上げようとする。すると、他のニ人も帰る準備を始めた。……彼女たちは私のクラスメート。こんなかんじで、色々なところを旅する仲なんだ。
……そう、私が一番好きなのは、仲間たち。ここに居るみんなや、学校の友達たち。他にも家族や先生、クラスメイト、ご近所さんも好きだ。そして、何よりもその仲間たちと過ごした場所が好き!
家の柱には、何個も横線が入った傷跡が残っている。これは私のお母さんが幼稚園の頃からつけていたもので、身長が伸びる度に新しく刻み直しているものなんだ。私も真似して線を刻んでいたなぁ。私達の成長の歴史があの柱に残っているって考えるだけでワクワクするよね!
学校には、思い出の場所がたくさん残っている。体育祭の時には校庭にある桜の木の下でみんなでお弁当を食べた。体育館裏の花壇から見える景色はきれいなことで有名。眠くなった時はみんなでよく屋上で昼寝をしていた。そこからの景色はきれいだったな。……すべて私の大切な宝物だ。
どの学校にもあるような普通の場所だけど、私にとっては特別な場所に感じる。だって、そこにはみんなの思い出が詰まっているから。その記憶一つ一つを大切にしたいんだ。
「ののか、早く行こ?」
「あっ、ごめん。今行く」
ぼんやりとしていたところ、葵ちゃんに声を掛けられた。慌てて立ち上がって、私は仲間の後を追う。
帰り道の途中、私はふと空を見上げる。太陽は既に沈んでしまっており、宝石のような夜空を月が照らしている。まるで、一枚の絵のような光景。ああ、やっぱりこの場所が好き。
……そんなことを思っていた時だった。『ピロピロピロピロ』と、突然携帯電話の着信音が鳴り響く。
「あっ、僕だ」
葵ちゃんが携帯を取り出した。彼女はそのままメールを確認する。
……メールを読んだ後、彼女はしばらく固まった後に急に慌て出した。
そして、私たちに向かってこう言った。
「学校、廃校になっちゃうって……」
私達の学校『星野山学園』は、中高一貫校。つまり、中学校と高校が一緒になっているのだ。でも、少子化の影響で生徒数が減り、今では生徒数が1学年につき16人ほどしか居ない。しかも、年々入学者が減っている。近いうちに生徒がほとんどいなくなってしまうかもしれないという話は聞いていた。しかし、まさか廃校になるとまでは思っていなかった。
あそこには、私たちの思い出が沢山あるというのに……。
「うわぁ~それはマジでヤバイじゃん! せっかく楽しい場所なのに~!」
「……回避する方法を模索するべき」
「なんとかしなきゃ。ののか……」
学校がなくなってしまってイヤなのは私だけではない。この仲間達も同じ気持ちなのだ。みんなで過ごしてきた思い出の場所が無くなるなんて絶対に嫌だ!
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家に帰った後、お母さんにこっぴどく叱られた。当たり前か。夜遅くに山だもんね。入念な準備こそしてきたものの、安全の事を考えるなら山登りに精通しているお父さんを連れていくべきだった。……まあ、同級生だけで山の頂上から夜の景色を見たのは最高の思い出だったけれど。
でも、怒られている最中もずっと頭の中で考えていたことがあったんだ。
―――どうすれば、あの場所を失わず済むのだろう?――――
そして、次の日の朝。いつものように通学路を歩いていると、見慣れた後ろ姿の集団を見つけた。昨日一緒にいた子達だ。
彼女達は私を見つけるなり、すぐに駆け寄ってきた。
「おはよ~のの! ねえ聞いてよ~! ウチらの学校がなくなるのは今年の九月からで~……」
「ちょっと、試してみたいことがあるの」
「ののか、良いアイディア見つけたの?」
「……情報供給求む」
廃校を阻止するための、私の作戦。それを思いついたのは昨日。さっそくそれをみんなに話す。
「この町の良さを、みんなに知ってもらうの!そうすれば、きっと人がやって来て廃校を防げると思うの」
「え~? それじゃ、町おこしをするってこと~?」
私の話を聞いて、みんなは呆れた様子を見せた。確かに、今の話を聞けばそう思うよね。でも、私は諦めるつもりはない。
「この町には他にはない素敵なところがいっぱいあるんだよ! 紹介すれば、きっとたくさんの人に見てもらえるはず」
私は自信満々に言う。すると、みんなは顔を合わせて何かを話し始めた。しばらくした後、みんなは苦い笑いを浮かべながら私の方を見る。
「ののか。町おこしって、具体的にはどんなことをするのかな……?」
「まずは町のことを知ってもらって……そのために……あれ?」
そこまで話したところで言葉が詰まった。考えてなかったわけじゃないけど、具体的に何をするかまではまだ思いついていない。
「……ノープラン?」
「うぐぅ……ごめんなさい」
「大丈夫だよ、ののか。僕達で方法を考えようね」
「……一晩で答えを出すのは難しい」
みんなから優しい言葉を貰ったところで、ちょうど学校に到着した。朝の会が始まるまで、私たちは話し合う事にする。
「……まずは、廃校を阻止するにあたって作戦班と行動班に分かれるのが効率的」
「みんなのそれぞれの長所を生かすってことだね」
「なんだか楽しくなってきたな~」
「……」
みんなで話し合い、私達4人でチーム分けを行うことにした。……なんだか、本格的にプロジェクトが始まった気分だ。
「それじゃ、僕とののかで行動班だね。よろしく、ののか」
「うん、よろしくね」
「あたしたちは作戦班だね~」
「……頑張る」
こうして、私達の廃校阻止大作戦が開始されたのであった。
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そして半年後。私達の学校は見事に廃校を免れ現在絶賛活躍中……という事はなく、私達の努力も虚しく星野山学園は活動を停止した。……つまり、私たちの敗北である。
この半年で、確かに町外から少数の観光客が訪れるようにはなったんだ。町の魅力について調べ上げ、町をPRするために様々な企画を行った私達の努力の結果である。
……しかし、それだけではダメだったんだ。宣伝力が圧倒的に足りなかった。
私達がいくら頑張っても、街がどんなに魅力的でも、上手く宣伝できなければ人は来ない。私達の計画は、失敗に終わったのだ。
私たちは転校を余儀なくされたのだ。