兄に悪役令嬢をやらせたら、とんだ傾国の美女(男)になりまして   作:恵ノ島すず

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第12話

死体性愛(ネクロフィリア)半歩手前の人形遣い】ネイサン。

 原作乙女ゲームにおける彼は、八年前に喪った幼馴染マリリンに執着し、その死体に似せた【人形(ゴーレム)】を使役し聖女一行の敵として立ちはだかる存在だった。

 ゲームでのネイサンの目的は、『マリリンを生き返らせる』こと。マリリンと同じ姿の人形をつくり、それに死者(マリリン)の魂を降ろそうとしていたわけだ。

 そのためになら悪魔に魂を売ったってとかまわないというスタンスだっため、一週目は悪魔崇拝者の派閥に属し敵となり、二週目以降は序盤に改心させ味方に引き込むことが可能。

 

 原作乙女ゲームにはRPG要素が組み込まれているのだが、周回を楽にするための措置なのだろう。

 寝返らせることが可能な中ボスは二名。

 これにレベルがほぼカンストしているのに一週目はずっと後方腕組み師匠面をしていてまともに戦闘に参加してくれない【知的好奇心のままに旅するエルフ】リンランディア、一週目からレベルを引き継いだ聖女ヒロインアンジェラを加えた四人を戦闘に出すと、全てのボス戦が作業で終わる。

 道中のザコ敵が出なくなるスキルも、終盤レベルの聖女なら使うことができる。

 そのため、RPG要素にあまり邪魔されずサクサク周回できるというわけだ。

 

 ボス戦を作業にすることができる程度の中ボス、絶対に欲しい。どうにか味方に引き込みたい。

 それに、ゲームで聖女に救われたといっても、『聖女の力でマリリンの魂と短時間だけだが会話が叶い、ネイサンがマリリンの死を受け入れ、彼女の魂を聖女が昇天させてあげる』というストーリーだったのだ。

 次(ヒロインとの恋愛)に行くにはそれしかないのだろうけど、ちょっと、いやだいぶ切ない。

 ゲームプレイ時には、マリリンを生き返らせることはできないものかと歯噛みしたものだ。

 この世界に転生してみて、いや、そもそも死なせないようにすることができるかも、と気が付いたのでやることにした。

 

 そんなわけで、私は、八年前に、そもそものマリリンの死という悲劇を防ぐべく、この村へとやって来たのであった。

 

 ゲームにおける悲劇は、冬。

 流行り病をこじらせ寝込むネイサン少年のために、幼馴染のマリリンが山へと薬草を探しに行き、運悪く吹雪に見舞われホワイトアウトで道を見失ってしまい村に戻れず凍死するという流れだった。

 その死体を見て、ネイサン少年は気づいてしまうのだ。

 ずっと妹のようなものとしか思っていなかったマリリンは、なんて美しい子だったのだろうと。

 

 マリリンを喪って初めて気が付いた彼女への恋情、自分のために八歳の少女マリリンが一人で山に挑む程だった彼女からの深い愛情、そんな彼女が死んでしまったのだという喪失感、自分のせいでという罪悪感。

 それを一気に抱え込むこととなるネイサン少年、当時一二歳。

 死体性愛(ネクロフィリア)半歩手前ともなろうというものだ。

 

 いけない。

 幼馴染の死体に似せた、八歳の少女そっくりの人形を量産しては『こんなのはマリリンじゃない。彼女はもっと美しい。本物の彼女の礎となるべく失敗作は派手に散れ』とか言って自爆特攻上等の戦闘人形として使い潰すようなやべー男を、この世に爆誕させてはいけない。

 ここで死体性愛(ネクロフィリア)半歩手前がなぜ死体性愛(ネクロフィリア)半歩手前かという説明をしよう。

 彼はついぞ『これこそがマリリンである!』という人形を生み出すことはなかったがあったらそれと結婚でもしていたのだろうなぁという勢いで、マリリンへの愛と埋葬されるまでの彼女がいかに美しかったかをゲームで語っていたのである。

 とはいえさすがに土葬された彼女の死体を掘り起こしはしなかったらしいので、『死体性愛(ネクロフィリア)だー!』とは言わないでやっても良い。

 ただし、彼が人形(ゴーレム)作成に使った土は、マリリンが眠る墓場のそれなんだそうだ。本物マリリンの死体は土に還ったわけで、それを使うというのは割とギリギリな気がする。

 総合して、死体性愛(ネクロフィリア)半歩手前というわけだ。うん、なかなかヤバイ。

 

 八年前、冬、新月の夜、まもなく年が変わるかという頃。

 これらのキーワードから、その日を割り出した私は、その少し前にこの村へとやって来た。

 ちゃんと雪が降っていない日中に件の薬草を採取し、きちんと薬に仕上げストック。

 さっくりとネイサン少年含む村人みんなを治し、そもそもマリリンが山に行く理由を無くした、までは良かったのだけれども。

 

「あなた、あなた危ないわ! ネイサンがいなかったらときめいてたとこよ! それで、私みたいな田舎娘なんてちょっと遊んですぐにポイっとすてるんでしょう!」

「おいお前、マリリンに近づくんじゃねーよ!」

 

 少女マリリン(八歳)と少年ネイサン(一二歳)に、こうして謂れのない理由から、めちゃくちゃ嫌われる羽目に陥っていた。

 吹雪の翌々日、ケヤキの大樹の根元で雪遊びをしている二人を見つけ、話しかけた途端にこれである。

 

 おかしいな。私、この子たちを助けてあげたはずなんだけど。

 

 屋敷を抜け出すにあたって目立たない服を用意してもらったら、乳母の子のおさがりというのが男の子の服だった。

 屋敷にはルクレシア(を演じてくれている兄)がいることだし、男の子という体でいこうなんて安直なことを考えたのだけど、こうもマリリンちゃん狙いの悪徳貴族みたいな扱いを受けるなんて……。

 

「うーん、どうしてそうも警戒するの? 僕、特に悪いことはしていないと思うのだけれど……」

 

 ニコ、と友好的な笑みを浮かべて彼女たちの誤解を解こうと挑むも、なぜかマリリンはネイサンの背に隠れてしまう。

 

「それ! 正にそれよ! その上品で柔らかな態度とお綺麗なお顔よ! 危ないわ! こわいわ!」

 

「そういうのに女は弱いって知っててやってるだろ! マリリンを誘惑するんじゃねぇ! こいつは俺と結婚するんだよ!」

 

「えっ、ネイサン、それって……!」

 

 なんだこれ。

 こいつら、人を勝手に当て馬にしてくっつこうとしている。

 いやまあ、原作ゲームでもちょうどネイサンは自分のマリリンへの想いが恋愛感情だったと気づく時期らしいけれども。

 

「……っ! ああそうだよ。俺はお前のことが好きだ、マリリン! 妹みたいなもんとしか思ってないなんて、なんか恥ずかしくてそう言ってただけなんだよ! こんな男について都会になんか行かないでくれ! この村で、俺と結婚しよう!」

 

「嬉しい……! 私も、ネイサンのことが好き……! ずっとずっと大好きだったの……! うん、絶対結婚しようね!」

 

 熱く誓って、ぎゅう、と抱擁を交わした二人。

 収まるべきところに収まったなという感じで非常にめでたいのだが、そのきっかけがよくわからん私への言いがかりという部分だけ納得いかない。

 まあ良いや。これで少しは話を聞いてくれるだろう。

 ぱちぱちと祝福の拍手をしつつ、私は改めて二人に声をかける。

 

「おめでとう。うん、良かったね。あの、落ち着いたところで言わせてもらうと、僕、別に二人の間に割って入ろうなんて思ってなかったし思ってないからね」

 

「……じゃあ、なんでわざわざ、お前みたいなキレイなのが、こんな田舎の村に来たんだよ」

 

「そうよそうよ。お薬もタダで配って回って、あなた、いったい何が狙いなんだーって、村人みんなにめちゃくちゃうたがわれてるのよ。すごくキレイな子どもで恩人なんて、油断する要素しかなくて逆にあやしいわ」

 

「そうだそうだ。お前変に大人っぽいし、実は子どもに化けたバケモノで、子どもたちを食ってやろうとしてるんじゃないかとかまで言われてるんだからな! 奴隷商人の手先じゃないかって言ってるやつもいるし」

 

 もう絶対に離れないぞ! とばかりに固く互いを抱きしめ合いながら、じとりとこちらを睨みつけて、ネイサンとマリリンはそう主張してきた。

 

 なるほど。言われて見れば、あやしいか。

 服を多少変えたくらいではごまかせないくらい、私はこぎれいなようだから。

 親の仕事の手伝いに割と荒っぽい遊びにと村を元気に駆け回っている子どもらと、屋敷の奥深くに隠れ住むように生きている私(と兄)とでは、肌も爪も髪も何もかもが違う。

 いきなり村にやって来た子ども、それもどうやら貴族かなにかの子どもっぽい、やったことは村人に恩義を押し付けるような行為。

 

 狙いは何だ、と問われるのも当然か。

 

 私は慎重に言葉を選びながら、どうにか言い訳をひねり出す。

「うーん、なんでかと言えば、先行投資、みたいな。なんていうか、この村に、すごく才能のある子がいるっていう、予言? みたいなものがあったんだよね」

 

「才能? ……やっぱりマリリン狙いか! こいつは、どこにもやらないからな!」

 

「えっ、マリリンちゃん!? いや、どっちかというとネイサンくんのはず、なんだけど……」

 

 苛烈な反応を見せたネイサンに、私は戸惑いつつそう返すと、あちらも戸惑った表情で首を捻る。

 

「……俺? 俺は、少しの土の魔法しか使えないぞ」

 

「でもネイサンはね、その少しの部分の操作がすっごい上手いの! 私がウサギとか猫とかお願いすると、土なのに本物そっくりの動物さんの形にしてくれるんだから!」

 

 ネイサンの自信なさげな言葉に、誇らしげな自慢げなマリリンの声が重なった。

 それ。それだよ。人形遣いの素質あるよ君。それを極めたら人間と見まごう程のゴーレムを作れるようになるんだよ。

 

「うん、それそれ! ネイサンくんはね、絶対に将来すごいことができるようになるから! 君には才能があるんだ! あの、魔法のことなら僕ちょっと詳しいんだよ。必要なら色々教えるしなんか道具がいるとかなら用意するし、報酬は絶対払うから、君の力を、僕に貸して欲しい……!」

 

「……俺は、マリリンやこの村からは、絶対に離れないからな。俺たちの仲を引き裂こうとするなら、一切協力しない。金がもらえるなら、まあ、マリリンとの将来のために、その話を受けてやっても良い。一応恩があるし、金払いが良さそうだしな、あんた」

 

「うんうん、もっちろん! 約束は守るよ!」

 

 まだちょっと警戒されつつも、こうして未来の中ボスの協力のとっかかりを得た私は、この時非常に浮かれていたのだけれども。

 ネイサン少年は『将来すごいことができるようになる』だの『才能がある』だのと言われ、ちょっぴり浮かれていたらしく。

 彼を口説き落とした私のことを、マリリンはこの後とてもしつこく警戒することになる。

 

 才能と聞いてすぐにマリリン狙いかと反応をされるほどの才を、確かに彼女は持っていた。

 精霊に好かれやすくそれを見る目も持っていた彼女は、後に精霊使いとして開花。

 ネイサンの作った人形にマリリンの使役する精霊を憑依させることで、自立し複雑な行動を行える【人形】が出来上がるのだった。

 

 なのに。

 この時の警戒から、私はむしろネイサンに近寄るなという警戒をマリリンからされ続け、兄の侍女を頼むために自分と兄の性別を明かす段階になっても、ネイサンには私が女であると明かすことを禁じられることになる。

 

 そう、マリリンは私たち双子の本当の性別を知っている。

 精霊は自分の主であるマリリンに人形を通して見聞きした事を伝えるだろうしということで、彼女にはいち早く打ち明けたのだ。侍女役の人形には、兄の性別を隠す手伝いをしてもらう予定だったし。

 なのに、前述の警戒心と『マリリンに近づく男(だとネイサンは思っている(ルーシー)のこと)に対しネイサンが嫉妬してくれるのが嬉しいから』という理由から、私に男としてのふるまいを強いているのだ。

 まあ秘密を知る人が一人でも少ないに越したことはないから、良いんだけどね。

 

 ただ、割れ鍋に綴じ蓋、ヤンデレにヤンデレだなぁとは思う。

 片やマリリンが死ねば死体性愛(ネクロフィリア)半歩手前まで行く男、片や自分から目を離させないためには手段を選ばない女。どっちもこわい。

 

 そういえば、マリリンだって八歳にして愛するネイサンのためと単独で山に挑むような、とても愛情が重い子だったな……。

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