兄に悪役令嬢をやらせたら、とんだ傾国の美女(男)になりまして   作:恵ノ島すず

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第16話

【悪堕ち熱血ヒーロー】ギディオン。

 彼こそが、【人形遣い】ネイサンに次ぐ、二人目の中ボスから聖女サイドに寝返って追加の攻略対象者となる男。

 

 私の素の身体能力では持ち上げることも難しいような大剣を軽々と振り回せる程、身長にも筋肉にも恵まれた戦士らしい戦士。

 派手派手しく赤い髪に、オレンジ色の瞳。

 私よりもよほど炎の化身のような姿を持つ彼は、原作ゲームにおいては、力を求めるあまり悪魔に魅入られ悪堕ちした、元熱血ヒーローだった。

 

 彼が悪堕ちしてしまうきっかけは、冒険者ギルド本部がある街への、火竜の襲撃。

 我らが父カーライル侯爵が、生きた人間の味を覚えさせた火竜を、悪魔の力で能力を増幅させた上でこの街に放つのだ。

 そして、街はほぼ壊滅に近い状態まで追いやられる。あまりに最悪過ぎる。

 

 街でも随一の実力者、剣士のギディオン。

 そんな彼は当然、火竜に立ち向かった。

 しかし彼は剣士。自在に空を飛び上空からあちこちを襲う火竜に、彼の剣は届かない。

 気の合う冒険者仲間を、馴染みの店を、親切にしてくれた店主をその家の子を、冒険者の自分をあたたかく迎えいれてくれた街を、自分の目の前で嘲笑うように蹂躙しつくされた彼は、どうにか生き残りこそしたものの、心に深い傷を負う。

 

『みんな、気の良い奴らだった。大事な仲間だった。大切な街だった。やっと見つけた、俺の居場所だった……! なのに俺は、何一つ護ることができなかった……! もっと、もっと力が欲しい。力が無ければ、何も護ることはできない……!』

 

 変わり果てた街で慟哭する彼に、火竜に憑いていた悪魔がそっと囁くのだ。

 

『力が欲しいか……』と。

 

 いやあまりにもベタ。

 なんて、ゲームプレイ時は笑えたのだけれども。

 この世界に実際に生きるようになってからは、少しも笑うことなどできはしない。

 

 現在一八歳の彼だが、ゲームで一二歳から冒険者として活動していたと明かされていたギディオン。

 その年齢から冒険者にならなくてはいけなかった彼にとって、【やっと見つけた、俺の居場所】が、どれほどの重みだったか。

 

 良い街なんだよ、ここ。

 魔の森との付き合いは大変だけど、みんな強く生きててさ。

 新入りにも親切にして、協力し合って、たまに馬鹿やって、みんなで笑いあって。

 そりゃ護りたいよ、どうにか。

 それが叶わなかったら、力不足を嘆くよ。

 どうしても力が欲しい気持ちになっちゃうよ。

 

 ちなみに二週目以降はギディオンは悪魔の力に頼るのではなく、仲間と力を合わせることを知って聖女様御一行に加入する。

 しかし、希望溢れる聖女一行の中に入ることができても、ゲームの回想シーンにいた、快闊で熱血な希望に満ちた強靭な戦士って感じの火竜襲撃前のギディオンとは全然違ってしまっている。

 常に後悔に苛まれているし、その悲劇を巻き起こした悪魔とカーライル侯爵にとてつもない恨みを抱いている。

 復讐の鬼、悪魔ども絶対滅ぼすマンとでも評そうか。

 いざ復讐をやり遂げた後には、燃え尽き症候群から儚くなってしまうのではというくらい、危うい感じ。

 

 そんなのは、やっぱり嫌だし。

 私自身、この街を全部護りたいし。 

 だいたい、原作知識があるからには『父や悪魔崇拝者どもの目論見なんぞ、片っ端からぶっ潰してあらゆる悲劇を防いでやるわ! きっと、その使命を与えられて、前世の記憶を持った私が今ここにいるのだ!』という気持ちになって当然だろう。

 

 そんなわけで。

 

 火竜の襲撃があったその日、私は後に兄に文句を言われるくらい派手に大活躍して、見事この街に少しの被害も出すことなく、火竜の討伐に成功したのだった。

 当時はこの街に来たばかりの魔法使いでしかなかった私が、ギルド内でのランクを一気に駆け上がるほどの功績。

 火竜の素材も随分高く売れたし、共和国政府から報奨金も出た。

 押し付ける様に与えられた二つ名には閉口したけれど、まあそれは結局ルクレシアスの名に紐づいたものだし良いかと流し、けれど私にもたらされたものがもう一つ。

 

 それがこれ。

 

「ルクレシアス、お前すっごかったな! マジでかっこよかった! バシュッ、バシッ、ドガーンって! なあお前、なんでソロに拘っているんだ? お前が女と一緒だとトラブルになりそうな気はするけど、俺となら良いだろ? 組もうぜ!」

 

 襲撃の三日後、ギルドに顔を出した途端にギディオンに捕まり、二階の食堂でこうして勧誘を受けているというわけだ。

 

 パーティ、二人だとバディだろうか、を、いっしょに組もうじゃないかと。

 剣士と魔法使い、前衛と後衛でちょうど良いじゃないかと。

 追加攻略対象者になれる程の実力者の彼にそう言ってもらえるのはもちろん嬉しいのだが、なにせ私は秘密が多い。

 ゲームの彼はけっこう好きだったが、現実の彼もすぐ信用するというのはさすがに無理。

 

 私はどうしようかな、と悩みながら、曖昧で無難に返してみようと試みる。

 

「……ええと、ギディオンさん、あの日も確か、僕の事、最前線で応援してくれていましたよね。ありがとうございます」

 

 それはもう、ヒーローショーをかぶりつきで見るお子様のように目を輝かせて、はしゃぎにはしゃいで快哉を上げて時に火竜の動きを教えてくれてと、随分応援してくれていた。

 頭を下げた私を、ギディオンは笑い飛ばす。

 

「ははっ、敬語なんて良いって! さん付けもいらない。一応俺の方が先輩かもだけど、実力はお前の方が上なんだから。いやほんと、あの竜には手も足も出なかった。そこそこ強くなった気でいたが、まだまだだなって思ったよ。でも、お前の盾にくらいはなれるつもりだ。荷物持ちだって良い。なあ、俺と組まないか?」

 

「いや、ギディオンさんの評判は聞いてますし、普通にめちゃくちゃ強いって知ってますよ」

 

「敬語。あと俺の事は呼び捨てろ。そんなお上品だから【貴公子】とか言われんだよ、お前。冒険者の中じゃあまりに異質だ」

 

 うぐぅ。

 付けられたばかりの二つ名をさっそく持ち出されて、私はなんだか悔しい気持ちになる。

 異質。そうか異質なのか。薄々そんな気はしていた。改めねば。

 

「ええと、うん、ギディオンの実力は知っているよ。僕、確かに魔法はまあそこそこみたいだけど、身体能力は高くないし。この間の竜はちっとも地上に降りて来なかったから逆に僕にとってはありがたかったけど、それこそこの距離まで来られたら、僕なんて簡単に負けてしまうさ。君にも、竜にも」

 

「ん、確かに、細っこいなルクレシアスは。簡単に吹き飛ばせそうだ。ってことは、やっぱり俺が役に立てるんじゃないか? 欲しいだろ、前衛。俺もお前程の魔法使いとなら、ぜひ組みたいし」

 

 タメ口で言いなおした私の言葉を受けて、ギディオンは改めてそう提案してきた。

 

「んー、わかった。とりあえず仮で組んでみようか。それで森に何回か行ってみて、連携を試そう。実際にやってみたらかみ合わないとかあるかもだし。で、お互いにこれはいけそうだなって思ったら、その時は正式に固定で組もうか」

 

 私がそう返すと、ギディオンはパーッと、太陽みたいな底抜けに明るい笑顔を浮かべ、こちらに手を差し出す。

 

「おう、まずお試しな! 俺だって、森での動きには自信がある。お前の役に立って、お前に俺を認めさせてみせるぜ、相棒!」

 

 相棒呼ばわりは早くないかな。

 

 そう思いながらも、私は彼の大きな手に手を重ね、握手を交わした。

 力つっよいなこいつ。手加減へたくそか。なんて、ちょっと呆れながら。

 

 結論としては、めちゃくちゃかみ合った。

 ギディオンは、ゲーム的に表現するとアタッカー兼タンクみたいな感じで、後衛(私)を護りつつガシガシ敵をなぎ倒して行ってくれるタイプだ。前にいてくれるとめちゃくちゃ戦いやすい。

 索敵は二人で、という感じなのだが、私の魔法のレーダーよりもギディオンの野生の勘の方が反応が早いことがけっこうあったりして、なかなかすごい。

 あれ、なんか今日は歩きやすいしあまり疲れないな、としばらく進んでようやく気付くくらいのさりげなさで、森で前を歩くギディオンは良い道を選び時に作ってくれもした。

 

 彼の優れたところをこのくらい挙げられるようになる頃には、すっかり私も彼のことを相棒と呼ぶようになっていた。

 正式に固定で二人パーティを組んでギルドにもそれで登録し、そのまま現在まで。という感じだ。

 

 まあ、私たちが相棒となった決め手は、もう一つ大きなものがあったのだけれども。

 というのも、うちの相棒は、ちょっとおバカだったのだ。

 お金の計算は苦手だし、算数すらあやしくて物資の管理はなっていないし、ちょっと粗暴というか言葉が悪いせいでいらんトラブル呼び込むし……。

 お試しで行動を共にしている間も、あまりに放っておけなくてあらゆる面でフォローしていたら、ギディオンが『俺もうルクレシアスいないと生きていけねーわ……』なんぞと言い出し、ますます熱烈に相棒にと請われる始末。

 

 するとギディオンがなんだか出来の悪い弟のように思えてしまって、色々頼られてその度に大げさなくらい感謝されるうちに段々なんかちょっとかわいいなこいつなんて思ってしまって。

 ずっと妹をしてきた私は、ちょっと姉ぶれる感じが新鮮で心地よかったりして。

 

 まあそんなこんなで、私とギディオンは相棒という関係になったのであった。

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